2回に分けてお送りする今回の「製造方法と変種について」の製造方法編です。
前回、前々回と紅茶の「アールグレイ」と「三大銘茶」についてお話しましたが、そもそも紅茶とはなんでしょうか?
少し専門的な話になってしまうため、2回に分けてお送りする今回の「製造方法と変種について」。
この知識をおさえておくとより紅茶についてより深みを感じられるようになると思いますので是非おつきあい下さい。
ご存知の方もいらっしゃるかも知れませんが、実は、紅茶だけでなく緑茶や烏龍茶などもツバキ科の常緑樹、茶の木(学名:カメリア・シネンシス)の葉を加工したもので同じ植物の葉から作られています。
緑が鮮やかな茶畑
では、なにが紅茶とその他のお茶で違うかといえば、製造方法と発酵の度合いです。
茶は、カットした後のりんごが茶色く変色するのと同じような現象で、茶の葉に最初から含まれている酸化酵素の働きによって酸化されていきます(酸化発酵)。
そして、原則的にこの酸化発酵を全くさせない茶が緑茶(不発酵茶)、途中で発酵を止めたお茶が烏龍茶(半発酵茶)、しっかり発酵させたお茶が紅茶(強発酵茶)となります。
この、紅茶の代表的な製造方法は、萎凋(いちょう)※1→揉捻(じゅうねん)※2→発酵※3→乾燥※4の順で行われています。詳細は下記注釈をご覧下さい。
イギリスのお土産の定番、フォートナム&メイソンの紅茶。写真はROYAL BLENDとEARL GREY CLASSIC。
上の写真にあるEARL GREY CLASSICのティーバッグを開けてみたところ。
このような製造過程を経て作られたものが紅茶だといわれ、国際規格による定義(ISO-3720)にも「飲料として消費するための茶を作るのに適していると知られている品種、すなわち学名カメリア・シネンシス(Camellia Sinensis)の二つの変種に限り、それらの葉、つぼみ(芽)、および柔らかい茎を原料として、酸化発酵と乾燥という工程を通して製造されたもの」と書かれています。
ここに書かれている二つの変種については次回8月20日にお届けします。
酸化発酵の度合いによって緑茶のように清々しくフレッシュな味わいを感じられるものから紅茶のように適度な渋みと重厚感のある深みのある味わいへ、茶葉自体の色も深い緑色(緑茶)から強い赤褐色(紅茶)へと大きな味の変化を生むお茶。
紅茶、緑茶、烏龍茶どのお茶を飲んでいてもこのお茶のダイナミズムを感じられたら素敵ですね。
※1:萎凋
摘み採った生葉の総重量の約77%は水分(残り約23%は固形分)です。萎凋は、次の揉む工程で作業をやりやすくするため、生葉に含まれている水分の30~40%蒸発します。この結果、生葉の総重量は60~65%に減少します。
従来は、摘み採った生葉を網や麻布でできた萎凋棚に広げて、15~20時間、日陰干しにする「自然萎凋」でしたが、今ではほとんどの場合、萎凋槽を使い、8~10時間、大量の温風を送ってしおれさせる「人工萎凋」が行われています。
萎凋の程度は、葉がしおれた状態で握りしめたときに弾力性がなく、握力をゆるめても塊が解けず、茶葉に指の痕が残る程度で、甘涼しいリンゴのようなフルーティーな香りがするといった状態が目安となっています。
※2:揉捻
茶葉に撚れを与えて、茶葉の細胞組織を破壊し、葉の中の酸化酵素を含んだ成分を外部に絞り出し、空気に触れさせて酸化発酵を促して形を整える作業です。
揉捻発酵時間は45~90分。押さえ蓋で茶葉を強く圧迫しながら揉むので、酸化発酵が進み過ぎるため、発酵を抑える目的で玉解機にかけ、冷却して再び揉む作業を繰り返します。「揉捻→冷却」の作業を繰り返し行っている間に、茶葉は60~70%程度酸化発酵されるので、揉捻にも発酵の段階が含まれると考えられています。
※3:発酵
室温25~26度、湿度90%の発酵室に、厚み4~5cm程度に広げ、2~3時間放置します。この段階で、緑色だった葉が鮮やかな赤銅色になり、紅茶としての芳香を漂わせ始めます。しかし、最近では、揉捻中に温度・湿度を与えて発酵を調整する方法も採用されています。
発酵しすぎると、紅茶の命である香気やアロマが台無しになってしまい、水色も黒っぽくなります。酸化発酵の程度は、茶葉が変化していく状況に応じた「香り」や「色」で判断し、適度な段階で次の工程に移して、酸化発酵を完全に止めなければなりません。
※4:乾燥
発酵終了時の茶葉の水分は約60%です。引き続き化学変化が起こるため、乾燥機に入れ、100度前後の高温熱風で酸化酵素の活性を止め、水分3~5%まで乾燥させます。
野上富巨
紅茶のカフェ「nt(ニト)」店主。幼い頃から紅茶が好きで、様々な飲食業を経て2013年3月紅茶のカフェ「nt(ニト)」を東京西荻窪で開業。日本紅茶協会認定ティーアドバイザー。