日本では消費税率引き上げの時期をめぐって議論が続いているが、世界に目を向けてみると、実に多種多様な税金が存在している。単純に税収を目的として課せられるものから、なんらかの抑制効果を期待したものまである。多くはその国の情勢を反映しているから、眺めているだけでも面白い。
例えばブルガリアでは未婚率を下げることを目的として、独身者に「独身税」を課しているし、ドイツで日曜日に店を営業する場合は「営業税」を支払わなければならない。中国にはなんと、お月見に欠かせない「月餅」にかかる税金もあるのだとか。
その内容は文字通り、砂糖が大量に含まれている飲料に対して課税されるというもの。具体的な課税品目や税率については今夏にも決定される見込みだが、基本的には砂糖入り炭酸飲料を対象としており、100mlあたりの含有量によって段階的に税率が設定される。これにより、1リットルあたり18〜24ペンス(29〜38円)程度の値上げになるとみられている。
この決定には、子供たちの食育を長年推進してきたイギリスの人気シェフ、ジェイミー・オリバー氏も歓迎を表明しており、「子供の健康にとって、非常に大きな出来事」とBBCのインタビューに答えている。同氏は加工食品やジャンクフードにあふれていたイギリスの学校給食を変えようと大々的なキャンペーンを行い、親たちの意識をオーガニックフードに引きつけたカリスマでもある。こうしたカリスマの発言が、砂糖税に対する注目をさらに集めたことは想像に難くない。
世界保健機関(WHO)によると、BMI値が25以上ならば太りぎみ、30以上になると肥満とされている。この基準でいくと、イギリス人の24.9%は肥満とされ、世界でも19番目に肥満人口が多い国になるのだとか。また、2015年にイギリス公衆衛生局が発表した報告書によると、4〜5歳の子どもの10%、10〜11歳の子供の19%が肥満とされており、肥満人口が増えていることは社会問題ともなっている。
これは全くの個人的な体験であるが、5年ほど前に少しだけロンドンでホームステイしていたことがある。ホストファミリーは育ち盛りの中学生を抱える一般家庭だったが、それにもかかわらず冷蔵庫に肉や野菜などの生鮮食品が常に一切入っておらず、非常に驚いた経験がある。
もちろん、イギリス中の全ての家庭がこうだと言うつもりはない。イギリスで初の狂牛病症例が発見された1989年以降、普段何気なく食べているものが自身の健康に大きな影響を与えることが認識され、人々は安全な食へ高い関心を寄せるようになった。とりわけオーガニックフードへの関心は強く、一般のスーパーマーケットでもオーガニック食材のコーナがあったり、イーストロンドンにはオーガニックフードを使用したレストランが増えていたりするという一面もある。
しかし一方で、安全な食を意識しないという人々も一定数存在しており、フライドチキンやハンバーガーなどのファーストフードしか食べない偏食の人も多いと聞く。こうした経験を思い起こしてみると、この肥満人口の割合はあながち的外れではないのかもと思えてしまう。
また、国全体ではないものの、アメリカ・カリフォルニア州のバークレー市でも2015年から「ソーダ税」が導入されている。こちらは市外に出てしまえば税金はかからず、また市民の所得も高いことからそれほどの効果がないとされているが、肥満人口の抑制を目的としていることは変わりない。
そして実は、日本でも同様の税金導入が検討されたことがある。2035年までに日本を健康先進国とすることを目標とする厚生労働省の有識者会議「保険医療2035策定懇談会」が、2015年6月にまとめた提言書には「砂糖税」の文字があったという。ただ、これは誰による提言なのかや、どのような経緯で提言に盛り込まれたかが不明で、まだまだ実現には程遠い内容である。しかし、日本での導入の可能性を示唆するもので、まったくの「珍税扱い」でいられないことがおわかりいただけるのではないだろうか。
イギリスで2018年に導入される砂糖税が、本当に肥満人口を抑制するのかどうかはまだわからない。メキシコで導入されている「ソーダ税」は、同じように砂糖がたくさん入っているオレンジジュースの消費量を増やしただけとする調査もあり、その効果のほどはまだまだ議論の余地を残している。
しかし今後、多くの肥満人口を抱える先進国を中心に「砂糖税」の導入が進むことは十分にありえる話である。「イギリスのタバコは高い」日本からの出張者がそんなふうにぼやく姿をよく見かけるが、近い将来、砂糖入り炭酸飲料についても同じように言われる日が来るのかもしれない。
例えばブルガリアでは未婚率を下げることを目的として、独身者に「独身税」を課しているし、ドイツで日曜日に店を営業する場合は「営業税」を支払わなければならない。中国にはなんと、お月見に欠かせない「月餅」にかかる税金もあるのだとか。
2018年にイギリスで導入決定、砂糖税は「珍税」か?
前述のような「珍税」はどの国にも、そしていつの時代にも見られるものだが、この度イギリスでも「砂糖税」なるものの導入が決定されたという。これは2016年3月16日に財務相ジョージ・オズボーンが発表した予算案に組み込まれていたことから明らかになったもので、イギリスでは2018年の導入を目指している。その内容は文字通り、砂糖が大量に含まれている飲料に対して課税されるというもの。具体的な課税品目や税率については今夏にも決定される見込みだが、基本的には砂糖入り炭酸飲料を対象としており、100mlあたりの含有量によって段階的に税率が設定される。これにより、1リットルあたり18〜24ペンス(29〜38円)程度の値上げになるとみられている。
この決定には、子供たちの食育を長年推進してきたイギリスの人気シェフ、ジェイミー・オリバー氏も歓迎を表明しており、「子供の健康にとって、非常に大きな出来事」とBBCのインタビューに答えている。同氏は加工食品やジャンクフードにあふれていたイギリスの学校給食を変えようと大々的なキャンペーンを行い、親たちの意識をオーガニックフードに引きつけたカリスマでもある。こうしたカリスマの発言が、砂糖税に対する注目をさらに集めたことは想像に難くない。
砂糖税の導入が、肥満人口を抑制する
この「砂糖税」は「Sin Tax(悪行税)」と呼ばれるものの一種。法的には認められているが、体への影響を考えると控えたほうがいい品目に課税し、自発的な抑制を促すものだ。タバコや酒に課せられる税金もそれにあたる。そして砂糖、とりわけ砂糖入りの炭酸飲料に税金をかける目的は、肥満人口の抑制にある。世界保健機関(WHO)によると、BMI値が25以上ならば太りぎみ、30以上になると肥満とされている。この基準でいくと、イギリス人の24.9%は肥満とされ、世界でも19番目に肥満人口が多い国になるのだとか。また、2015年にイギリス公衆衛生局が発表した報告書によると、4〜5歳の子どもの10%、10〜11歳の子供の19%が肥満とされており、肥満人口が増えていることは社会問題ともなっている。
これは全くの個人的な体験であるが、5年ほど前に少しだけロンドンでホームステイしていたことがある。ホストファミリーは育ち盛りの中学生を抱える一般家庭だったが、それにもかかわらず冷蔵庫に肉や野菜などの生鮮食品が常に一切入っておらず、非常に驚いた経験がある。
もちろん、イギリス中の全ての家庭がこうだと言うつもりはない。イギリスで初の狂牛病症例が発見された1989年以降、普段何気なく食べているものが自身の健康に大きな影響を与えることが認識され、人々は安全な食へ高い関心を寄せるようになった。とりわけオーガニックフードへの関心は強く、一般のスーパーマーケットでもオーガニック食材のコーナがあったり、イーストロンドンにはオーガニックフードを使用したレストランが増えていたりするという一面もある。
しかし一方で、安全な食を意識しないという人々も一定数存在しており、フライドチキンやハンバーガーなどのファーストフードしか食べない偏食の人も多いと聞く。こうした経験を思い起こしてみると、この肥満人口の割合はあながち的外れではないのかもと思えてしまう。
世界中で導入が進む「罪」の税、日本での導入もありうる?
実は、この「砂糖税」が導入されるのはイギリスが世界で初めてではない。先に書いた世界保健機関の調査によると人口の32.8%が肥満とされ、世界で最も肥満人口が多いとされるメキシコでは、すでに同様の「ソーダ税」が2014年1月から導入され、一定の効果を上げていると評価されている。また、国全体ではないものの、アメリカ・カリフォルニア州のバークレー市でも2015年から「ソーダ税」が導入されている。こちらは市外に出てしまえば税金はかからず、また市民の所得も高いことからそれほどの効果がないとされているが、肥満人口の抑制を目的としていることは変わりない。
そして実は、日本でも同様の税金導入が検討されたことがある。2035年までに日本を健康先進国とすることを目標とする厚生労働省の有識者会議「保険医療2035策定懇談会」が、2015年6月にまとめた提言書には「砂糖税」の文字があったという。ただ、これは誰による提言なのかや、どのような経緯で提言に盛り込まれたかが不明で、まだまだ実現には程遠い内容である。しかし、日本での導入の可能性を示唆するもので、まったくの「珍税扱い」でいられないことがおわかりいただけるのではないだろうか。
イギリスで2018年に導入される砂糖税が、本当に肥満人口を抑制するのかどうかはまだわからない。メキシコで導入されている「ソーダ税」は、同じように砂糖がたくさん入っているオレンジジュースの消費量を増やしただけとする調査もあり、その効果のほどはまだまだ議論の余地を残している。
しかし今後、多くの肥満人口を抱える先進国を中心に「砂糖税」の導入が進むことは十分にありえる話である。「イギリスのタバコは高い」日本からの出張者がそんなふうにぼやく姿をよく見かけるが、近い将来、砂糖入り炭酸飲料についても同じように言われる日が来るのかもしれない。