親戚や友人との間で、今年のクリスマスについて語るとき、必ずといっていいほど、こういった言葉が聞かれます。
年頭には思いもよらなかった新型ウィルスの広がり。それによって、ロックダウンが起こった今年は、誰にとってもさまざまな意味で特別な一年となりました。
イギリスでは一旦、解除になったものの、11月から今月の初頭まで、二度目の外出規制が行われました。その後の政府の発表では、クリスマスについては規制緩和がされ、三世帯までであれば家族や友人と集まることが認められています。
イギリス人にとってクリスマスは、普段ですら日本のお正月かそれ以上とも言えるほどの一大イベントです。今年は特に、ロックダウンでずっと会えなかった家族に再会するという人もいて、より特別なクリスマスとなりそうです。
そんな、イギリスの人々にとって一年でももっとも大切なクリスマス。今回は、この時期に欠かせない、イギリス伝統のスイーツをご紹介したいと思います。
クリスマスプディング
イギリス好き読者の皆さんなら、ご存知の方も多いのではないでしょうか。見た目は真っ黒で、お椀をひっくり返したような形のお菓子がクリスマスプディングです。材料に使われているのは、大量のドライ・フルーツにナッツ類とパン粉、スーイットと呼ばれる牛脂とほんの少しの小麦粉です。それにプラスして、スパイスや柑橘類の皮と黒ビールとラム酒、卵を混ぜ、「プディングボウル」という器に入れて、蒸して作られます。
クリスマスプディングの歴史は15世紀前半までさかのぼります。当時は特にクリスマス用の食べ物ではありませんでした。「プラム・ポタージュ」と呼ばれたその中身は、牛や羊の肉を刻んだものがメイン。それに玉ねぎ、ドライ・フルーツ、パン粉を混ぜて、ワインやスパイスで味付けされていました。現在のレシピに近いものになったのは19世紀近くといわれ、当時は大砲の玉のような真ん丸だったそうです。そこから半球型へと形が変わっていき、このころになると材料は現在と似たようなものが使われるようになってきました。
クリスマスプディングを食べる時には、あらためて蒸して温めますが、最近ではスーパーで買ってきたクリスマスプディングを電子レンジで温めて食べる家庭が多くなっています。
このプディングは、クリスマス当日の5週間前から仕込むのが習わしです。イギリスでは12月25日からさかのぼって4週間前の日曜日からがアドべント期間となります。そしてその1週間前の日曜日は「ステア・アップ・サンデー(かき混ぜる日曜日)」と呼ばれ、この日がクリスマス・プディングを作る日なのです。昔はプディングの材料をかき混ぜる時に、指輪や旧6ペンス硬貨、指貫などを入れたのだといいます。そしてクリスマス当日、食べたプディングの中から出てきたもので翌年の運勢を占ったそうです。
食べるときには、温かいカスタードソースや、ダブルクリームをたっぷりかけて食べるのがイギリス流です。
▼今年のステア・アップ・サンデーには、イギリス王室のツイッターアカウントでも、その作り方が紹介されていました。
🥄 Today is #StirupSunday: traditionally the day when home cooks ‘stir up’ their Christmas pudding mixture.
— The Royal Family (@RoyalFamily) November 22, 2020
This year, chefs in the Royal kitchens have shared their recipe for a traditional Christmas pudding.
We hope that some of you enjoy making it in your own homes. pic.twitter.com/BNepTPJD6a
クリスマスケーキ
クリスマスプディングの陰に隠れてしまっている感もありますが、クリスマスケーキもちゃんと存在しています。といっても、イギリスのクリスマスケーキは、日本のような、ふわふわのスポンジに生クリームたっぷり、というものではありません。材料はクリスマスプディングにそっくり。どっしりとしたフルーツケーキです。そのフルーツケーキの上に、マジパン、砂糖でできたアイシングという二重のコーティングがされています。
クリスマスケーキ作りで肝心なのが「フィード(feed)」と呼ばれる行為。これは、ブランデーやラムなどをケーキに染み込ませる作業です。これをクリスマス前までに2週間に一回くらいの割合で行います。フィーディングするのは、ケーキをしっとりさせるためと、風味をよくするため、そして長期保存のためと言われています。
伝統的にはこのケーキは、クリスマス当日ではなく、公現祭(エピファニー)と呼ばれる1月6日に食べられていたものだそうです。公現祭とは、東方の三博士がイエス・キリストに礼拝した日をいい、クリスマスのお祝いの最後の日ということで、このケーキを食べていたようです。
子供たちが幼い時には、義母の作ったクリスマスケーキをデコレーションするのがクリスマスの楽しみのひとつになっていました。
スパイスの入ったケーキをオーブンで焼いていると、クリスマスの香りがキッチン中に広がって、オーブンのおかげであたたまった部屋の空気と同じように、気持ちまでほかほかしてきます。窓の外はグレイでしぶしぶと雨が降っていても、その時ばかりは人々の気持ちもほがらかになっていきます。だからこそ、こんなに早い時期からケーキを焼いて、クリスマスの準備を始めるのではないかと思ってしまうくらいです。▼イングランドの歴史的建造物を保護する目的で設立された組織「イングリッシュ・ヘリテッジ(English Heritage)」のYoutubeチャンネルでは、ヴィクトリア時代のクリスマスケーキの作り方が紹介されています。
ミンスパイ
こちらも、ドライフルーツが主役のお菓子です。直径約5~7センチの小さなタルトは、サクサクした生地に「ミンスミート」と呼ばれる刻んだドライフルーツ、柑橘類の皮の砂糖漬けやリンゴ、スパイスなどで作られたがフィリングが入っています。11月になると、スーパーには箱入りの出来合いミンス・パイと並んで、ミンスミートの瓶詰めがたくさん並んでいます。このミンスミートを使えば、手軽にミンスパイが作れるのです。
私が初めてミンスミートという名前を見た時には、ひき肉が混ざっているのかと思いました。というのも、イギリスでミンスミートといえば普通はひき肉のことを指すからです。
でも、ミンス・パイには肉類は入っていません。とはいえ、歴史をさかのぼると、クリスマスプディングと同様に、かつては刻んだ肉がドライフルーツとともにパイの中に入っていたといいます。それが19世紀にはその中から肉は消え、今のような中身になったようです。
ミンスパイはサンタクロースの好物とも言われます。クリスマスイブの夜には、子供たちはサンタさんのためにミンスパイと、トナカイのために人参を置いておくのがイギリスの伝統です。
現代のミンスパイは丸型ですが、かつては楕円形をしていました。これは赤子のイエス・キリストが眠るゆりかごの形を模したものだったそうです。ミンスパイについては、いくつか言い伝えがあります。
1、クリスマスシーズンに初めてミンスパイを食べるときには願いごとをする。
2、ミンスパイを食べるときは喋らずに静かに食べる。
3、ミンスパイはナイフで切ってはいけない(フォークでならOK)。
今では守っている人は少ないかもしれません。でも、こうした迷信(?)は子供向けの絵本などにも書かれているので、これからもイギリスに住む人々の間で受け継がれていくのかもしれませんね。
今年は誰にとっても思いもよらぬ一年となりましたが、どうぞみなさま、あたたかくして素敵なクリスマスをお過ごしください。
マクギネス真美
英国在住20年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。
音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。
ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』にてコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。
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