ロンドンで生活する私にとって、いま絶対的に必要なもの。それは、カフェ!カフェ!カフェ!
ロックダウン下にあっても持ち帰り営業はしているのだが、私がカフェを訪れる理由の8割はオフィス利用なので、テーブル席につくことができないこの数ヵ月は、本当に辛い。私にとってカフェは環境に変化を持たせるための仕事場であり、コーヒーを片手に世界をぼぉっと眺める休憩所であり、刺激をもらう社会的な場であり、人と交流するコミュニティであり、取材先である。もちろん、インスピレーションだってたくさんもらう。
いま、この全てを奪われている状況であると言えば、ストレスの度合いも分かるというもの。私にとって病のワクチンがあるとしたら、それは間違いなくカフェなのだと思う。そしてコミュニティとしての飲食店がいかに人間生活に必要なものであるかをひしひしと実感している毎日でもある。
しかしサマータイムで日も長くなり、暖かさを増しているロンドンでは、ようやく4月12日から飲食店の屋外スペースが再オープンする予定。その日に向け、各店とも修繕を急ぎ、サプライヤーとの絆を深めながらお客さんを迎え入れるための準備に大忙しだ。
そこで今回は、前祝いも含めて外スペースが魅力的なとっておきのロンドン・カフェ5つをご紹介! 春夏にロンドンに来たら、ロンドナーと一緒にその存在を大いに楽しんでもらいたい。
現在のところ移動を制限されているロンドンっ子たちが渇望しているもの。それは自然との接点を取り戻すことかもしれない。そして散歩の際の休憩に使える気持ちの良いカフェ。その両方が合体した素敵なカフェが、都会の緑地ラッセル・スクエアの角地にあるCaffe Tropeaだ。1981年の創業以来、今も家族経営を続けるオーナーさんはイタリア系のポール・トロペアさん。トロペアの「T」をデザインしたロゴにはウィリアム・モリスを思わせるボタニカルなパターンがあしらわれていて、ブルームズベリー・グループやアーツ&クラフツ運動など当時の文化的風潮との関わりが深いラッセル・スクエアならではのデザインだと納得してしまう。
カウンターにはカンノーロやヘーゼルナッツ・ビスケット、ティラミスなどのイタリア菓子、パニーニやフォカッチャ・サンドなどの軽食がズラリと並び、試せ試せと魅了してくる。おすすめはホウレン草とチーズをたっぷり挟んだスピナッチ・パイ! 野菜不足が一気に解消されそうなホウレン草の量と塩気のあるサクサクのパンが何とも言えない美味しさなのだ。建物も内装もシンプルな直線ラインが目立ち、洗練されたモダニズムの香りが漂う。目の前に広がる緑を眺めつつ、ロンドン大学の学舎を背景に穏やかな時間を過ごしたい最高立地のカフェ。
テムズ川南岸のヴォクソール周辺がここのところ目覚ましい進化を遂げているのだが、昔ながらの趣を残すエリアも健在。その対比を楽しめるのも周辺散策をおすすめする理由だ。そして散策途中に立ち寄っていただきたいのが、庶民の緑地「ヴォクソール・プレジャー・ガーデン」の一画に佇むヴィクトリアン・パブを再利用したティールーム、ティー・ハウス・シアター。その昔、17世紀後半から19世紀半ばにかけてこの辺りは貴族たちが舞台を設置し、イベントなどを催して楽しんだ美しい緑地だった。ティールームはその歴史を知る俳優のハル・イガルデンさんが2011年に創業。ハルさんはここで折に触れてシアター・イベントや音楽ライブを催したりと、地元コミュニティに貢献している。
ハウスブレンドはアッサムとセイロンをブレンドしたブレックファストのほかにも2種があり、その他にも約30種の充実したティー・メニューを用意。お茶には可愛らしいティーコージーが必ずついてきてほっこりさせられるのもいい。紅茶のお供にはぜひ、たくさんの種類があるマーブル・ケーキを。天気のいい日はフロント・パティオで日向ぼっこするのもよし、あるいは持ち帰りにして公園内に座るのもよし。ともかく視界には緑しか入らないとっておきのティールームなのである。タイムアウト誌から3年連続で「Love London Awards」を受賞した地元スター。
ピカデリー・サーカスから歩いてすぐの裏通りに、外スペース付きの小さなカフェがあるのをご存知だろうか。大通りから横にそれ、アーチを潜るとカーキ、ゴールド、ダークグレーの渋い色使いに痺れる小さな隠れ家エスプレッソ・バー「ハーゲン」が見えてくる。つい昨年までチェルシーのキングス・ロード沿いに1号店があるきりだったデンマーク生まれのブランドだ。ロックダウンでなければ店の前に広がる石畳のペイブメントにゆったりと座れる安楽椅子が並べられていて、買い物の合間に一息つくのにおあつらえ向きの「シークレット・シート」となっている。天気のいい日にここに座るのは本当に最高なのだ。
「ホワイトスワン」と名付けられたナッティなエスプレッソ・ブレンドと一緒にいただきたいのは、北欧のオープン・サンド風アボカド・トースト。シード入りの健康的なブラウン・ブレッドをカリッカリにトーストして、栄養たっぷりのアボとシードをのせていただく現代的スナック。また暑い日にはアップルやオレンジをベースにしたノンアルコールのデンマーク産スペシャル・ドリンクを冷やしてどうぞ。冬はスパイスが香るそのドリンクにジンジャー・ショットを加えてホットでいただくのが通の飲み方だ。
ロンドンの元祖アルチザン・コーヒー焙煎所、モンマス・コーヒーの上階にあるフラットで育ったというジャック・コールマンさんが2010年に創業したブランド。幼い頃から本物のコーヒーの薫陶を受けてしまったジャックさんの将来は、すでにその頃から決定されていたのかも。現在はウォータールー駅の裏手にあるレトロな商店街に店を構え、今では稀少となった1950年製ウィーン生まれの焙煎機で少量ずつ丁寧にアラビカ・コーヒーをローストしている。
下町情緒あふれる通りに呼応するかのようにレトロ感を大切にデザインされたお店の魅力は、裏手に人知れず息づいている小さなガーデン・パティオ抜きには語れない。ここは燦々と輝く太陽を楽しむよりも、木漏れ日の差し込む午後、コーヒーを飲みながらゆっくりお気に入りの本に目を通していく……そんな過ごし方が似合うとっておきの空間なのだ。小腹がすいているときは、スタッフォードシャー名物のオート麦のパンケーキをぜひ。見た目はそば粉のガレットに似ているけど、もっと素朴な味わいを楽しむことができる。そしてそれは、コールマンのコーヒーと同じように繰り返し試してみたくなる味。
メディア系ロンドナーたちが多く暮らす北ロンドンのヴィレッジに佇む大人気カフェ。ここはロンドン・コーヒーショップ賞、ロンドン・トップ3エッグ・ブランチをはじめ数々の賞を受賞し、2015年にはタイムアウト誌の「Love London Awards」を授かった実力派でもある。人気の理由は、第一に手作りマーケットのような味わいのあるヴィンテージ・テーマのインテリア。とことん落ち着ける空間では、ついつい手が伸びてしまう陶芸家のマグカップなどクラフト作品も扱う。次に飲み物や食事のクオリティ。コーヒーはあくまでも香り高く、地中海風のヘルシーな食事メニューはオリジナリティにあふれ、地元の人にも大人気なのだ。
私のおすすめはグリルしたナスと一緒にいただくファラフェルのバーガー。自家製フムスもついて食べ応えがあり、ヨーグルト・ソースとの相性も抜群。また小さなテラコッタのポットで焼かれるユニークなパンやマフィンはフレーバーの組み合わせも複数あり、ブランチにも午後のおやつにも重宝する。奥には光降り注ぐテラス席と小さなガーデンがあり、晴れた日には大賑わい。ここはロンドナーたちがゆっくりと週末ブランチをいただきながら、友人や家族とたわいのない会話で過ごす、ロンドンのベスト・カフェの一つなのだ。
ロンドンでは働くスタイルも少しずつ変化してきていて、特に若いクリエイティブ層は新しいタイプのコワーキング・スペースを創り上げることに熱心だ。東ロンドンはそんな元気のいい施設が多く、例えば2019年にオープンしたこちらの「Hackney Downs Studios」は、200名のアーティストがインスピレーションをシェアすることができる現代的スペース。クリエイター同士が密に交流すれば、それだけで作品作りへの刺激になりそう。そしてそこには、食に対するこだわりも厳然とある。
その集合スタジオのたっぷりとした敷地の一画にあるカフェが、ブランズウィック・イースト。お皿にのる全ての料理をゼロから手作りするという理念のもと、オーストラリア人オーナーさんならではのヘルシーな、そしてレストランばりの美しいプレゼンテーションで人々の心をつかんでいる。さらにここはベイクハウスでもあり、倉庫のような広い店内ではオーガニック小麦やライ麦を使ったサワードゥ・ブレッドやケーキたちが毎日焼かれ、アーティストたちの心を満たしているのだ。スタジオ全体の広い敷地では彼らが関わるさまざまなイベントも開催され、専任カフェとしてブランズウィック・イーストも大忙し。暖かい季節になるとお店のフロント・パティオは大勢で賑わい、コミュニティの理念実現に一役買っている。
・・・・・・・・
さて、いかがだっただろうか。当たり前だけど、カフェは都会のオアシス。人々の心を潤すコミュニティの中心なのだと、これを書きながら改めて思った。J・K・ローリングさんがハリー・ポッターをカフェで創り出したように、カフェは世界にも通じている。
ビバ、カフェ文化!
ロックダウン下にあっても持ち帰り営業はしているのだが、私がカフェを訪れる理由の8割はオフィス利用なので、テーブル席につくことができないこの数ヵ月は、本当に辛い。私にとってカフェは環境に変化を持たせるための仕事場であり、コーヒーを片手に世界をぼぉっと眺める休憩所であり、刺激をもらう社会的な場であり、人と交流するコミュニティであり、取材先である。もちろん、インスピレーションだってたくさんもらう。
いま、この全てを奪われている状況であると言えば、ストレスの度合いも分かるというもの。私にとって病のワクチンがあるとしたら、それは間違いなくカフェなのだと思う。そしてコミュニティとしての飲食店がいかに人間生活に必要なものであるかをひしひしと実感している毎日でもある。
しかしサマータイムで日も長くなり、暖かさを増しているロンドンでは、ようやく4月12日から飲食店の屋外スペースが再オープンする予定。その日に向け、各店とも修繕を急ぎ、サプライヤーとの絆を深めながらお客さんを迎え入れるための準備に大忙しだ。
そこで今回は、前祝いも含めて外スペースが魅力的なとっておきのロンドン・カフェ5つをご紹介! 春夏にロンドンに来たら、ロンドナーと一緒にその存在を大いに楽しんでもらいたい。
1. Caffe Tropea カフェ・トロペア
モダニズム薫る公園カフェRussell Square, London WC1B 5EH
http://caffetropea.london
2. Tea House Theatre ティー・ハウス・シアター
紅茶にこだわる、ゆる系ティールーム139 Vauxhall Walk, London SE11 5HL
http://www.teahousetheatre.co.uk/
3. Hagen Mayfair ハーゲン メイフェア店
ロンドンのど真ん中のプレミアム隠れ家シート!27-29 Swallow Street, London W1B 4DE
https://www.thehagenproject.com
4. The Coleman Coffee Roasters コールマン・コーヒー・ロースターズ
郷愁そそるパティオと下町風情20 Lower Marsh, London SE1 7RJ
http://www.colemancoffee.com/
5. The Haberdashery Crouch End ハバダッシェリー クラウチ・エンド
ローカルに愛されるベスト・カフェ6. Brunswick East ブランズウィック・イースト
クリエイターが集うコワーキング・カフェ・・・・・・・・
さて、いかがだっただろうか。当たり前だけど、カフェは都会のオアシス。人々の心を潤すコミュニティの中心なのだと、これを書きながら改めて思った。J・K・ローリングさんがハリー・ポッターをカフェで創り出したように、カフェは世界にも通じている。
ビバ、カフェ文化!
江國まゆ
ロンドンを拠点にするライター、編集者。東京の出版社勤務を経て1998年渡英。英系広告代理店にて主に日本語翻訳媒体の編集・コピーライティングに9年携わった後、2009年からフリーランス。趣味の食べ歩きブログが人気となり『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房)を出版。2014年にロンドン・イギリス情報を発信するウェブマガジン「あぶそる〜とロンドン」を創刊し、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活について模索する日々。