イギリスで、クリスマスに次いで重要な行事といえばイースター(復活祭)。イースターについては、以前もこちらの記事でご紹介しましたが、イエス・キリストが、十字架にかけられた三日後に復活したことを祝うもので、「春分の日のあとの最初の満月から数えて最初の日曜日」がイースターサンデーと呼ばれます。今年は4月4日がその日で、グッドフライデーと呼ばれる金曜日からバンクホリデーと呼ばれる5日(月)までの間がイースターホリデーの連休でした。
その規制緩和のおかげで、イースターには、屋外であれば二世帯六人までが会合することが可能となりました。そのため、多くの人々が久しぶりに家族や友人との再会を楽しみました。イースターサンデーには、我が家の両隣からは、お昼前からバーベキューの匂いが漂い、人々の笑い声が聞こえてきました。会合が許可されたとはいえ、「屋外で」という条件付きなので、晴天だったのは幸いです。それまで人々が我慢してきたことへのご褒美のように、当日は一日中青空という、格好のバーベキュー日和でした。
まさに待ちに待った春の訪れといえた今年のイースター。今回はそのイースターにまつわるお菓子をご紹介したいと思います。
現在では、一年中スーパーのベーカリーコーナーで売られているほど一般的なものですが、伝統的にはグッド・フライデーに食べる習慣だったそうです。一説には、この習慣はハートフォードシャーにあるセント・オールバンズ大聖堂が起源だと言われています。大聖堂によれば、トーマス・ロクリフという修道士が、1361年のグッド・フライデーに、貧しい人々にパンを分け与えたのが始まりだといいます。またセント・オールバンズ大聖堂では、現在でも、できるだけオリジナルに近い形のレシピでホットクロスバンズが作られていて、大聖堂にあるアボット・キッチン・カフェでの販売もしています。
一方で、イギリスの食文化歴史家として有名なアニー・グレイさんは、現在のようにイーストを使って膨らませるタイプの「クロス・バンズ」がイースターと関係づけられたのは17世紀だとしています。
また、18世紀には、クロス・バンズを売っているロンドンのチェルシー・バン・ハウスに、グッド・フライデーの早朝から人々が殺到しすぎて大騒動が起こったという記録が残っているそうです。騒ぎを避けるために翌年のイースターにはバンズの販売を停止したというほど人気だったそうです。
200年以上前から人々をそれほど熱狂させたパン菓子ですから、今、一年中ホット・クロス・バンズが売られているのもうなずけます。
では、シムネル・ケーキがなぜ母の日に関係しているかというと、かつて、上流階級のお屋敷に奉公に出ていた女性たちが、イースター前のマザリング・サンデーに休暇を許され、実家へ帰る際にこのケーキを焼いて持って帰りました。それをイースターに食べたので「シムネル・ケーキ=イースターのお菓子」というイメージになっているのです。
こちらもドライフルーツがたくさん入ったケーキで、現在はマジパンを上面にかぶせ、その上にやはりマジパンで作った小さな玉が飾られています。この飾りはイースターを象徴する卵の代わりともいわれます。数は11個というのが決まりなのですが、これはキリストの12人の使徒から裏切者のユダを除いた数なのです。
名前の「シムネル」については、食品用語事典や食文化史の書物などによると、「simila」というのが語源で、古代ローマでの小麦粉という意味で使われていた言葉からきているのではないかということです。
イースターの1ヶ月くらい前になると、チョコレートで出来たイースター・エッグの棚の隣に、イースター・ビスケットが、こちらもうず高く積み上げられていました。
カランツと呼ばれる小粒の干し葡萄が混ざっていて、砂糖がかかっています。食べてみると、バターがしっかり効いていて、レモンの風味がほんのり薫るサクサクとした歯応え。紅茶に合うのはいうまでもありません。
イースター・ビスケットはイングランド南西部サマセット地方が発祥といわれていますが(ロンドンのスーパーではほとんど見かけたことがなかったのはそのせいでしょうか)、夫の実家があるデヴォンでも作られてきたようで、我が家では義母から教えてもらった夫のおばあちゃんのレシピで作っています。
義母のレシピにはレモンの皮を入れるのですが、シナモンを入れたり、製菓用のミックス・スパイスを使った作り方もあります。また『Traditional Foods in Britain』という書物では「カシア・オイル」を数滴加えるという記述がでてきます。カシアとは学名Cinnamomum cassia、別名チャイニーズ・シナモンとも呼ばれる中国原産の常緑高木。日本で「ニッキ」として使われているのはこの木の根の皮で、カシア・オイルは葉を水蒸気蒸留した精油です。特にブリストル周辺でこのオイルを使って作られていると記載されています。キリストが十字架にかけられた後に体を清めるために使われたものだから、イースターのシンボル的に使われているという文献はありましたが、なぜブリストル近辺でだけカシア・オイルが使われるかの理由は不明です。
由来はたどれなかったとはいえ、今年もカシア・オイル入りのイースター・ビスケットをいただきました。強めのシナモン風味は香りもよく、こちらもやはり紅茶がすすむお菓子です。
快晴のイースターサンデーには、青空にもスマイルマークが。
現在もロックダウン中のイングランドでは、イースターを前に、若干の規制緩和が行われました(英国内ではイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドと各エリアによってルールが異なります)。それは、新型コロナウィルスのワクチン接種の効果がでていると判断されれば、少しずつ規制が緩和されていくという政策(ロードマップ)にのっとっています。 その規制緩和のおかげで、イースターには、屋外であれば二世帯六人までが会合することが可能となりました。そのため、多くの人々が久しぶりに家族や友人との再会を楽しみました。イースターサンデーには、我が家の両隣からは、お昼前からバーベキューの匂いが漂い、人々の笑い声が聞こえてきました。会合が許可されたとはいえ、「屋外で」という条件付きなので、晴天だったのは幸いです。それまで人々が我慢してきたことへのご褒美のように、当日は一日中青空という、格好のバーベキュー日和でした。
まさに待ちに待った春の訪れといえた今年のイースター。今回はそのイースターにまつわるお菓子をご紹介したいと思います。
ホット・クロス・バンズ
パンの上に十字の模様がついた「ホット・クロス・バンズ」は、ほんのりスパイスが効いていて、干しぶどうや柑橘類の砂糖漬けを刻んだものが入っているパン菓子です。 ふっくらした姿に十字の模様が特徴的なのがホット・クロス・バンズ。
ホームメイドであれば、オーブンから出してすぐの焼き立てが一番おいしいですが、市販のものなら横半分にスライスして、トーストしてからいただくのがおすすめ。イギリスの人たちはバターをたっぷりつけて食べています。現在では、一年中スーパーのベーカリーコーナーで売られているほど一般的なものですが、伝統的にはグッド・フライデーに食べる習慣だったそうです。一説には、この習慣はハートフォードシャーにあるセント・オールバンズ大聖堂が起源だと言われています。大聖堂によれば、トーマス・ロクリフという修道士が、1361年のグッド・フライデーに、貧しい人々にパンを分け与えたのが始まりだといいます。またセント・オールバンズ大聖堂では、現在でも、できるだけオリジナルに近い形のレシピでホットクロスバンズが作られていて、大聖堂にあるアボット・キッチン・カフェでの販売もしています。
今年は、ブルーベリー味、チョコレート味などをはじめ、ホット・クロス・バンズのバリエーションがたくさん登場した。
ホット・クロス・バンズは十字の模様が特徴と書きましたが、通常、この模様は小麦粉を水で溶いたペーストを絞り出してパンの上に描かれています。ただ、アボット・キッチン・カフェのホット・クロス・バンズ(オールバンバン)はナイフで十字に切り込みを入れてあるだけです。というのも、こちらの方が元々の作り方なのだそうです。 一方で、イギリスの食文化歴史家として有名なアニー・グレイさんは、現在のようにイーストを使って膨らませるタイプの「クロス・バンズ」がイースターと関係づけられたのは17世紀だとしています。
また、18世紀には、クロス・バンズを売っているロンドンのチェルシー・バン・ハウスに、グッド・フライデーの早朝から人々が殺到しすぎて大騒動が起こったという記録が残っているそうです。騒ぎを避けるために翌年のイースターにはバンズの販売を停止したというほど人気だったそうです。
200年以上前から人々をそれほど熱狂させたパン菓子ですから、今、一年中ホット・クロス・バンズが売られているのもうなずけます。
シムネル・ケーキ
イースターに食べるケーキとして知られているのが「シムネル・ケーキ」です。 シムネルケーキには小さなひよこのおもちゃや、卵形のチョコレートをデコレーションすることも。
日本の母の日は5月の第2日曜と決まっていますが、イギリスの母の日は、イースターの3週間前の日曜となっています。日本人にとっては(イギリス人にとっても?)ややこしいのですが、前述のように、イースターは毎年日にちが変わります。そのため、母の日もそれに合わせて毎年違う日となります。では、シムネル・ケーキがなぜ母の日に関係しているかというと、かつて、上流階級のお屋敷に奉公に出ていた女性たちが、イースター前のマザリング・サンデーに休暇を許され、実家へ帰る際にこのケーキを焼いて持って帰りました。それをイースターに食べたので「シムネル・ケーキ=イースターのお菓子」というイメージになっているのです。
こちらもドライフルーツがたくさん入ったケーキで、現在はマジパンを上面にかぶせ、その上にやはりマジパンで作った小さな玉が飾られています。この飾りはイースターを象徴する卵の代わりともいわれます。数は11個というのが決まりなのですが、これはキリストの12人の使徒から裏切者のユダを除いた数なのです。
名前の「シムネル」については、食品用語事典や食文化史の書物などによると、「simila」というのが語源で、古代ローマでの小麦粉という意味で使われていた言葉からきているのではないかということです。
イースター・ビスケット
「イースター・ビスケット」という名前は知っていましたが、スーパーで山積みされているのを見たのは、イングランド南西部のブリストルという街に引っ越してきてからでした。イースターの1ヶ月くらい前になると、チョコレートで出来たイースター・エッグの棚の隣に、イースター・ビスケットが、こちらもうず高く積み上げられていました。
イースター・ビスケットを作る際、カシア・オイルが手に入るようであれば、レモンの皮の代わりに数滴混ぜて。
普通のビスケットに比べると、面積は2倍ほど。家で測ってみたら直径8センチもありました。カランツと呼ばれる小粒の干し葡萄が混ざっていて、砂糖がかかっています。食べてみると、バターがしっかり効いていて、レモンの風味がほんのり薫るサクサクとした歯応え。紅茶に合うのはいうまでもありません。
イースター・ビスケットはイングランド南西部サマセット地方が発祥といわれていますが(ロンドンのスーパーではほとんど見かけたことがなかったのはそのせいでしょうか)、夫の実家があるデヴォンでも作られてきたようで、我が家では義母から教えてもらった夫のおばあちゃんのレシピで作っています。
義母のレシピにはレモンの皮を入れるのですが、シナモンを入れたり、製菓用のミックス・スパイスを使った作り方もあります。また『Traditional Foods in Britain』という書物では「カシア・オイル」を数滴加えるという記述がでてきます。カシアとは学名Cinnamomum cassia、別名チャイニーズ・シナモンとも呼ばれる中国原産の常緑高木。日本で「ニッキ」として使われているのはこの木の根の皮で、カシア・オイルは葉を水蒸気蒸留した精油です。特にブリストル周辺でこのオイルを使って作られていると記載されています。キリストが十字架にかけられた後に体を清めるために使われたものだから、イースターのシンボル的に使われているという文献はありましたが、なぜブリストル近辺でだけカシア・オイルが使われるかの理由は不明です。
由来はたどれなかったとはいえ、今年もカシア・オイル入りのイースター・ビスケットをいただきました。強めのシナモン風味は香りもよく、こちらもやはり紅茶がすすむお菓子です。
イースター・ビスケットの作り方
材料:
小麦粉… 226g
バター… 113g
グラニュー糖(微粒子)… 113g+振りかける分少々
干しぶどう(あればカランツ) …56g
すりおろしたレモンの皮… 1個分
卵… 1/2個(生地が固過ぎる場合には様子を見て分量を増やす)
作り方:
1、ボウルに小麦粉とバターを入れ、ぽろぽろのそぼろ状態になるように指先で混ぜる。
2、1にグラニュー糖、レモンの皮、干しぶどうを入れてよく混ぜる。
3、2に溶きほぐした卵を加えてよくこねて、ひとまとまりにする。
4、3を6ミリほどの厚さにのばして、直径8センチの菊型で抜く。
5、180℃に予熱したオーブンで約15~20分焼く。
6、表面が黄金色になったら焼き上がり。上からグラニュー糖を振りかけて。
マクギネス真美
英国在住20年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。
音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。
ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』にてコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。
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