エールビールとパブ文化は切っても切れない関係です。詩人で英文学者の西脇順三郎も「ビールの歴史は英国の大衆の歴史と一致している」と指摘しています。今回はエールビールとパブ文化、イギリスとスコットランドのビールの歴史についてお話しします。
ビールという言葉はゲルマン語のベオレ、つまり穀物からきたといわれています。これが現在のビールの語源と言われています。
また、ローマ時代のケルト人は自分たちの言葉でビールのことをアルーとかエウルといっていたようです。「植物のしぼり汁」の意味で、苦味や渋味をもつ植物を加えた飲料を指していたといわれ「エール」の語源と考えられています。
今飲まれているクリアでホップの効いたビールが飲まれるようになったのは11世紀後半からですが、太古の昔からビールは人々と密接に関わってきました。
9世紀頃になると「エール・ハウス」という自家製エール(ビール)を売る居酒屋のような店が広がります。都市の発展につれて、12世紀にはビール専業醸造家が現れ、修道院でのビールの醸造も一層盛んになり、ビールの存在が一般の人々に浸透していきます。
この頃のイギリスのビールはホップの代わりに「グルート」と呼ばれるハーブやスパイスを添加するのが主流でした。イギリスでホップが使われ始めたのは15世紀で、当時はホップを添加したものを「ビール」、グルートを使用したものを「エール」と区別していました。ホップを使ったビールが普及した17世紀以降はエールにもホップを使う醸造者も増えました。
1630年頃にバートン・オン・トレントという町から「ペールエール」が誕生します。1722年には、2種類のブラウンエールとペールエールをブレンドした「エンタイア」というポータービールが大ヒットします。ロンドンの青果市場の荷運び人(ポーター)達が好んで飲んだため「エンタイア」という正式名よりも「ポーター」の名で世間に広がっていきました。その後ポーターはアイルランドに渡り1778年にギネス社からローストとホップの強い「スタウト」が誕生します。
19世紀になるとペールエールがビールの主流になり、衰退するポーターの代わりに、スタウトが人気を得るようになります。
パブとは、「パブリックハウス」の略。飲み屋というよりも社交場のような場所です。
パブという略称が文献に現われたのは1865年ですが、11世紀に中世の都市の発展と旅行者の増加により「イン」と呼ばれる宿泊宿が街道沿いに発展します。この「イン」と「エール・ハウス」は今日のパブの前身と言えます。
この他、今日でもその名を残す「タバーン」というものがあります。現在のパブとの明確な区別は難しいのですが「タバーン」(TAVERN)はラテン語の居酒屋(タベルナ)の意味であり、英国のパブの大半が料理の提供はランチタイムのみという営業形態をとっていることから、料理の有無で区別するという考え方もあります。
ちなみに「イン」(INN)はアングロ・サクソン語で宿屋の意味です。
「イン」、「エール・ハウス」、「タバーン」は時代とともに交ざり合いやがて今日のような人々の集う場所「パブ」が誕生しました。
イングリッシュ・ペールエール バートン・オン・トレントで生まれた黄金色から銅色の中濃色ビール。フルーティな香りと苦味が特徴です。
インディア・ペールエール(IPA) イギリスから支配地のインドへ船でビールを輸送していた18世紀末頃、暑く長い船旅での腐敗防止のため大量にホップを入れた結果、香りや苦味が際立ったビールが生まれました。それがインディア・ペールエール。強いホップの苦味が特徴です。
ブラウンエール ニューキャッスルで生まれた茶色のビール。アルコール度数も4.0~5.5度と比較的低め。ペールエールの苦味に対抗して作られたこともあり、ホップの苦味は弱く、モルトの風味がはっきりしています。
ポーター 18世紀初めにロンドンで人気のあったブレンドビール「スリースレッド」をお手本にして作ったビール。荷運びする人(ポーター)に人気があるビールだったためこの名前になったといわれます。ホップの苦味が若干強く、モルトの甘味が感じられます。
スコッチ・エール スコットランドのエディンバラでつくられるアルコール度数6.2〜8.0度と高めのビール。やや強めの苦味とカラメル風な甘味があります。ベルギービールに対抗して作られたもの。
スコティッシュ・エール スコットランドで伝統的に作られているビール。アルコール度数は3.0〜5.0度。ホップの苦味は弱く、飲み疲れないビール。
バーレイワイン バーレイ(大麦)で作るワインのようなフルーティーで芳醇なビールという意味。アルコール度数は7.5〜12度と高め。長期間熟成するタイプのため、黄金色から暗褐色のしっかりした味わい。
作られているエールビールとイギリスの地図を見比べて面白いのは、スコットランドやイングランド北部など北に行くほど甘く、モルティなエールビールが多く、イングランド南部寄りではホップの効いた苦味のあるエールビールが多いということです。これは諸説ありますが、ポップの生産地がイギリスの南にあるためだと言われています。
一言にエールと言っても奥深いのがイギリスのエールビールです。
初夏のイギリス、宵のうちのパブで、カウンターに持たれながら、窓から頬に触れる日照時間の長い太陽の暖かさを感じながら、パイントグラスになみなみ注がれたエールビールを飲む。ここは天国に近いな。そう思いながら、イギリス人の人柄や歴史を身近に感じることができたような気分になります。
イギリスを肌で感じることのできる、素晴らしいパブとエールの世界をぜひ!
ビールの歴史
ビールの歴史は古く、紀元前8000〜4000年のメソポタミアのシュメール文明まで遡ります。また、紀元前3000年頃のエジプトでもビールは人々の間で広く飲用されていました。肥沃なナイル河畔で収穫される大麦を原料につくられたのです。紀元前1700年代半ばに制定された初めての成文法『ハムラビ法典』にもビールにかかわる法律の記述があります。ビールという言葉はゲルマン語のベオレ、つまり穀物からきたといわれています。これが現在のビールの語源と言われています。
また、ローマ時代のケルト人は自分たちの言葉でビールのことをアルーとかエウルといっていたようです。「植物のしぼり汁」の意味で、苦味や渋味をもつ植物を加えた飲料を指していたといわれ「エール」の語源と考えられています。
今飲まれているクリアでホップの効いたビールが飲まれるようになったのは11世紀後半からですが、太古の昔からビールは人々と密接に関わってきました。
イギリスのビールの歴史
イギリスにビールが伝わったのは紀元前1世紀ごろです。6世紀の終わり頃にはローマ教皇グレゴリウス1世が布教を目的に修道院と共にビールを醸造し始めたことからイギリス中に広がりました。9世紀頃になると「エール・ハウス」という自家製エール(ビール)を売る居酒屋のような店が広がります。都市の発展につれて、12世紀にはビール専業醸造家が現れ、修道院でのビールの醸造も一層盛んになり、ビールの存在が一般の人々に浸透していきます。
この頃のイギリスのビールはホップの代わりに「グルート」と呼ばれるハーブやスパイスを添加するのが主流でした。イギリスでホップが使われ始めたのは15世紀で、当時はホップを添加したものを「ビール」、グルートを使用したものを「エール」と区別していました。ホップを使ったビールが普及した17世紀以降はエールにもホップを使う醸造者も増えました。
1630年頃にバートン・オン・トレントという町から「ペールエール」が誕生します。1722年には、2種類のブラウンエールとペールエールをブレンドした「エンタイア」というポータービールが大ヒットします。ロンドンの青果市場の荷運び人(ポーター)達が好んで飲んだため「エンタイア」という正式名よりも「ポーター」の名で世間に広がっていきました。その後ポーターはアイルランドに渡り1778年にギネス社からローストとホップの強い「スタウト」が誕生します。
19世紀になるとペールエールがビールの主流になり、衰退するポーターの代わりに、スタウトが人気を得るようになります。
パブの歴史
イングランドやスコットランド、アイルランドでは、ビールをパブで飲む習慣が根づいています。「パブ」とはどんな場所なんでしょうか?パブとは、「パブリックハウス」の略。飲み屋というよりも社交場のような場所です。
パブという略称が文献に現われたのは1865年ですが、11世紀に中世の都市の発展と旅行者の増加により「イン」と呼ばれる宿泊宿が街道沿いに発展します。この「イン」と「エール・ハウス」は今日のパブの前身と言えます。
この他、今日でもその名を残す「タバーン」というものがあります。現在のパブとの明確な区別は難しいのですが「タバーン」(TAVERN)はラテン語の居酒屋(タベルナ)の意味であり、英国のパブの大半が料理の提供はランチタイムのみという営業形態をとっていることから、料理の有無で区別するという考え方もあります。
ちなみに「イン」(INN)はアングロ・サクソン語で宿屋の意味です。
「イン」、「エール・ハウス」、「タバーン」は時代とともに交ざり合いやがて今日のような人々の集う場所「パブ」が誕生しました。
イギリスの代表的なエールビールのスタイル
イギリスのビールといえば、エールビールが主流です。エールとは、下面発酵より高めの温度で発酵する香り高いビールのこと。下面発酵で作られる爽快な香りのラガーと違った華やかな香りが特徴です。香りを楽しむためには、少し高めの9度から常温くらいが適温といわれています。ここではイングランドとスコットランドのビールをご紹介します。 アルコール度数の高いエールビールから甘みのある飲みやすいエールビールまで様々なものが作られています。
作られているエールビールとイギリスの地図を見比べて面白いのは、スコットランドやイングランド北部など北に行くほど甘く、モルティなエールビールが多く、イングランド南部寄りではホップの効いた苦味のあるエールビールが多いということです。これは諸説ありますが、ポップの生産地がイギリスの南にあるためだと言われています。
一言にエールと言っても奥深いのがイギリスのエールビールです。
初夏のイギリス、宵のうちのパブで、カウンターに持たれながら、窓から頬に触れる日照時間の長い太陽の暖かさを感じながら、パイントグラスになみなみ注がれたエールビールを飲む。ここは天国に近いな。そう思いながら、イギリス人の人柄や歴史を身近に感じることができたような気分になります。
イギリスを肌で感じることのできる、素晴らしいパブとエールの世界をぜひ!
湯浅 雄大
1988年東京都生まれ。京都にてバーテンダー修行を積んだ後、赤坂、代官山、中目黒のバーにてチーフバーテンダーを歴任。スコットランド文化とスコッチウイスキーに惹かれ、ギター片手にスコットランドの蒸溜所を巡りはじめる。2019年、約1ヶ月間のスコットランド旅からの帰国後『株式会社Valve』を創設し、代官山にてスコティッシュパブ『valve daikanyama』をオープン。2021年10月に『株式会社valve works』を設立し、ビールを中心にClassicをテーマにした一流のプロダクト造りに尽力している。
https://valvedaikanyama.com/