イギリスの人たちが、夏の終わりから約4ヶ月にもわたって準備をし、家族一同が勢揃いしてお祝いしたクリスマスの喧騒。1月6日の十二夜(公現祭)を過ぎて、静けさを取り戻した日々の暮らし。そんなとき、冷蔵庫の中に見つけたのが、クリスマスの食卓の名残り。たくさんのピクルス類の瓶詰めです。
イギリスでは食料を保存するために、塩漬けや酢漬けにする方法が古くから利用されてきました。こうした漬物(Pickles)は、家庭で手作りする人は昔ほど多くないとはいえ、スーパーにはたくさんの種類が並んでいます。
これらは、コールドミート(ローストターキーやローストビーフの残り、ハムなど)やチーズに合わせることが多く、日々の食卓はもちろんのことですが、特にクリスマスのテーブルには欠かせないものとなっています。我が家でもクリスマスのためにいくつか購入して、チーズボードの横に並べたり、コールドミートをいただくときに横に添えたりしましたが、義父母を含めた6人家族では食べきれなかった分が、まだ少し冷蔵庫のすみに残っていたというわけです。
もともとかなりバラエティに富んだピクルスを味わうことのできるイギリスですが、最近では瓶詰めのKIMCHI(韓国や日本で売られているキムチとはお味は少々異なります)もスーパーに並ぶようになり、イギリスの人たちのピクルス好きはとどまるところを知らないようです。
今日はそのいくつかをご紹介したいと思います。
玉ねぎのサイズは色々ありますが、シルバースキンと呼ばれる種類のものは、小ぶりで、日本のらっきょうに似ているとも言えなくありません。わたしは日本のカレールーを使ったカレーを食べるときには、日本の食事をなつかしんで、このシルバースキン・ピックルド・オニオンを合わせることもあります(子どもたちはいやがって食べませんが。笑)。
また、1950年代ごろからイギリス内のパブでは「プラウマンズ・ランチ」と呼ばれる、パンとチーズ数種と(ときにはハムやポーク・パイなど)レタスやトマトなどの生野菜をワンプレートにのせたものに、このピックルド・オニオンを添えたものがメニューにのぼるようになりました。「プラウ(Plough)」は農場を耕すための工具なので、プラウマンとは、つまり農夫のこと。従ってプラウマンズ・ランチは、農夫の昼食というわけですが、これが人気となったのは、1960年代にチーズの販促キャンペーンとして「プラウマンズ・ランチ」をパブで食べることを大々的に宣伝したためと言われています。
「なんちゃってらっきょう」として重宝する一品。イギリスのブランド、サルソンズは現在ミツカン(Mizkan Euro)の経営下に収まっている。
キュウリはピクルスの中でも歴史的にももっとも古いもののひとつではないかと言われているようです。ガーキンは小さいキュウリのことを言いますが、イギリスで普段生食用に売られているキュウリは、太さも長さも日本のキュウリの2倍はあるサイズ。なので、ガーキンのようなキュウリは生食用に売られていることはほとんどありません(最近、一部スーパーで小さめのキュウリが販売されるようになってきましたが)。
ガーキンは、サンドイッチはもちろん、ハンバーガーなどにもよく合わせて食べられています。
小指サイズくらいのガーキンもあるが、少し大きめのものは、サンドウィッチにすぐ挟めるように、スライスして瓶詰めにされたものもある。
ただ、見た目がどろっとしていて初めて見たときは抵抗がある方もいるかもしれません。わたしもずっと食べず嫌いでいたのですが、友人の家で手作りのものをいただいて、はじめてピッカリリのおいしさを知りました(その時のエピソードはこちらのコラムをどうぞ)。
少し手間はかかりますが、手作りしてみるのもおすすめです。
鮮やかな黄色に驚くが、お皿に彩りを与えてくれる効果もある。手作りするときには、自分の好きな野菜を入れて作ることもできるので、残り物の野菜をまとめてピッカリリにしてしまうのもおすすめ。
実際に食べてみると、まさに想像した通りの「すっぱいゆで卵」です。とくに白身の部分はかなり酸っぱさを感じますが、このまま食べるよりも、サラダに入れたりすれば、違和感なくいただけます。試してみてはいませんが、タルタルソースを作るのにも良さそうな気がします。
冷蔵庫がなかった時代に、タンパク質を補給できる卵を長期保存するためにピクルスにするのは、よいアイディアだったのでしょう。それにしても、最初にゆで卵をピクルスにした人は勇気があるというか、創意工夫の能力に溢れていたのでは、という気もします。
見た目は固茹で卵とまったく変わりなし。味もかなり酸味が強いが、クセはないので、卵好きの人にはこのままでもおすすめ。今回生まれて初めて食べたイギリス人の夫も「意外にいける」と驚いていた。
ビートルートは栄養価が高いということで、最近は特にスーパーフードとして注目が集まっている。ビートルートは生で食べるとearthy(土の香り)な味がして、それが苦手という人もいるが、ピクルスになっていると食べやすい。
このピクルスが登場したのは1922年で、スタフォードシャー州ブランストン村のクロース&ブラックウェル社から生み出されました。甘さと酸っぱさが絶妙に調和した味で、中に入っているのは、人参、玉ねぎ、カリフラワー、ルタバガ(かぶ)で、それにモルトビネガー、砂糖、デーツ、りんごや各種スパイスなど。このピクルスは、チーズとビスケットの組み合わせなどにももちろん合いますが、一度はぜひチーズと一緒にサンドウィッチにして食べてみてほしいです。
商品名のブランストンは、創業地の名前からつけられましたが、現在ではこの会社は日本の「ミツカン」(Mizkan Euro)による経営となっています。ただ、生産は現在もイギリス国内で行われているので、イギリス産の人気ピクルスであることに変わりはありません。
野菜がゴロゴロと入っているのが特徴のブランストン・オリジナル・ピックルだが、現在では人々の好みに合わせてスモール・チャンク(小さめに刻んだもの)、スムース(つぶつぶを感じないもの)も販売されている。また、瓶詰め以外にマヨネーズやケチャップのように絞り出す容器に入ったものも発売されたので、これを日本へのお土産にするのも良さそう。
……ということで、今回はイギリスのピクルスをご紹介しました。瓶詰めで重いものばかりなので、日本へのお土産に持って帰るのは難しいかもしれませんが、イギリスらしい食卓の名脇役たち。ぜひ一度試してみてください。
イギリスでは食料を保存するために、塩漬けや酢漬けにする方法が古くから利用されてきました。こうした漬物(Pickles)は、家庭で手作りする人は昔ほど多くないとはいえ、スーパーにはたくさんの種類が並んでいます。
もともとかなりバラエティに富んだピクルスを味わうことのできるイギリスですが、最近では瓶詰めのKIMCHI(韓国や日本で売られているキムチとはお味は少々異なります)もスーパーに並ぶようになり、イギリスの人たちのピクルス好きはとどまるところを知らないようです。
今日はそのいくつかをご紹介したいと思います。
*ピックルド・オニオン(Pickled Onions)
イギリスのピクルスの中でも最もポピュラーなもののひとつが、玉ねぎのピクルスです。いつからこれが作られ始めたかの記録は明確ではありませんが、1740年代の書物にはスパイス入りの塩水に玉ねぎを漬ける方法が紹介されています。1845年にはフードライター、イライザ・アクトンさんの著書で白いビネガーを使ったピクルスの作り方が紹介されました。玉ねぎのサイズは色々ありますが、シルバースキンと呼ばれる種類のものは、小ぶりで、日本のらっきょうに似ているとも言えなくありません。わたしは日本のカレールーを使ったカレーを食べるときには、日本の食事をなつかしんで、このシルバースキン・ピックルド・オニオンを合わせることもあります(子どもたちはいやがって食べませんが。笑)。
また、1950年代ごろからイギリス内のパブでは「プラウマンズ・ランチ」と呼ばれる、パンとチーズ数種と(ときにはハムやポーク・パイなど)レタスやトマトなどの生野菜をワンプレートにのせたものに、このピックルド・オニオンを添えたものがメニューにのぼるようになりました。「プラウ(Plough)」は農場を耕すための工具なので、プラウマンとは、つまり農夫のこと。従ってプラウマンズ・ランチは、農夫の昼食というわけですが、これが人気となったのは、1960年代にチーズの販促キャンペーンとして「プラウマンズ・ランチ」をパブで食べることを大々的に宣伝したためと言われています。
「なんちゃってらっきょう」として重宝する一品。イギリスのブランド、サルソンズは現在ミツカン(Mizkan Euro)の経営下に収まっている。
*ガーキン(Gherkins)
ロンドンの金融街シティにある30セント・メリー・アクスというビルの別名がガーキンと呼ばれるのは、このキュウリのピクルスに形が似ているからと言われています。キュウリはピクルスの中でも歴史的にももっとも古いもののひとつではないかと言われているようです。ガーキンは小さいキュウリのことを言いますが、イギリスで普段生食用に売られているキュウリは、太さも長さも日本のキュウリの2倍はあるサイズ。なので、ガーキンのようなキュウリは生食用に売られていることはほとんどありません(最近、一部スーパーで小さめのキュウリが販売されるようになってきましたが)。
ガーキンは、サンドイッチはもちろん、ハンバーガーなどにもよく合わせて食べられています。
小指サイズくらいのガーキンもあるが、少し大きめのものは、サンドウィッチにすぐ挟めるように、スライスして瓶詰めにされたものもある。
*ピッカリリ(Piccalilli)
「インディアン・ピックル」としても知られるピッカリリ。元は「paco-lilla」「peccalillo」「piccalillo」などとも綴られていたようで、イギリスでは18世紀以降の料理書にレシピが掲載されています。ターメリックが入っていることからも、インド料理の影響を受けて作られたと言われています。カリフラワーやきゅうり、玉ねぎにキャベツ、人参やインゲンなど、様々な野菜にイングリッシュ・マスタードまで入っていて、色が鮮やかな黄色という、かなり個性的なピクルスですが、少量をコールドミートに合わせるのがおすすめです。ただ、見た目がどろっとしていて初めて見たときは抵抗がある方もいるかもしれません。わたしもずっと食べず嫌いでいたのですが、友人の家で手作りのものをいただいて、はじめてピッカリリのおいしさを知りました(その時のエピソードはこちらのコラムをどうぞ)。
少し手間はかかりますが、手作りしてみるのもおすすめです。
鮮やかな黄色に驚くが、お皿に彩りを与えてくれる効果もある。手作りするときには、自分の好きな野菜を入れて作ることもできるので、残り物の野菜をまとめてピッカリリにしてしまうのもおすすめ。
*ピックルド・エッグ(Pickled Egg)
イギリス人の夫も手を出したことがなかった、という卵のピクルスは、イギリスの人たちの間でも好き嫌いが分かれる存在です。ただ、フィッシュ&チップスのお店にはかならずといっていいほど、大瓶の中に入ったこのピックルド・エッグが売られており、付け合わせに食べる人がけっこういるようです。また、パブでもピックルド・エッグを置いているところがあり、おつまみといえばクリスプス(ポテトチップス)やビーフジャーキーくらいしかないイギリスのパブでは、小腹がすいた時にこの酢漬けの卵でお腹を膨らますのかもしれません。実際に食べてみると、まさに想像した通りの「すっぱいゆで卵」です。とくに白身の部分はかなり酸っぱさを感じますが、このまま食べるよりも、サラダに入れたりすれば、違和感なくいただけます。試してみてはいませんが、タルタルソースを作るのにも良さそうな気がします。
冷蔵庫がなかった時代に、タンパク質を補給できる卵を長期保存するためにピクルスにするのは、よいアイディアだったのでしょう。それにしても、最初にゆで卵をピクルスにした人は勇気があるというか、創意工夫の能力に溢れていたのでは、という気もします。
見た目は固茹で卵とまったく変わりなし。味もかなり酸味が強いが、クセはないので、卵好きの人にはこのままでもおすすめ。今回生まれて初めて食べたイギリス人の夫も「意外にいける」と驚いていた。
*ピックルド・ビートルート(Pickled Beetroot)
日本ではビーツと呼ばれる赤い根野菜がビートルートです。イギリスでは生でサラダに入れたり、オーブンで焼いたりする調理の仕方がありますが、イギリスの人たちがビートルートを食べるのは、すでに調理された瓶詰めのもののほうが多いような気がします。丸ごとのもの、薄くスライスしたもの、刻んだものなど、種類も色々あり、人気のピクルスです。そのままサラダに入れたり、コールドミートに合わせたり。我が家ではキッシュに付け合わせて食べたりもします。ビートルートは栄養価が高いということで、最近は特にスーパーフードとして注目が集まっている。ビートルートは生で食べるとearthy(土の香り)な味がして、それが苦手という人もいるが、ピクルスになっていると食べやすい。
*ブランストン・オリジナル・ピックル(Branston Original Pickle)
黒にほど近い濃い茶色のドロドロとしたピクルス。これだけ見るとあまり食欲をそそりませんが、これこそイギリスで知らない人はいない、根強いファンのいるブランストン・オリジナル・ピックルです。チェダーチーズとこのピクルスを合わせたサンドウィッチは、まさに定番の組み合わせ。このピクルスが登場したのは1922年で、スタフォードシャー州ブランストン村のクロース&ブラックウェル社から生み出されました。甘さと酸っぱさが絶妙に調和した味で、中に入っているのは、人参、玉ねぎ、カリフラワー、ルタバガ(かぶ)で、それにモルトビネガー、砂糖、デーツ、りんごや各種スパイスなど。このピクルスは、チーズとビスケットの組み合わせなどにももちろん合いますが、一度はぜひチーズと一緒にサンドウィッチにして食べてみてほしいです。
商品名のブランストンは、創業地の名前からつけられましたが、現在ではこの会社は日本の「ミツカン」(Mizkan Euro)による経営となっています。ただ、生産は現在もイギリス国内で行われているので、イギリス産の人気ピクルスであることに変わりはありません。
野菜がゴロゴロと入っているのが特徴のブランストン・オリジナル・ピックルだが、現在では人々の好みに合わせてスモール・チャンク(小さめに刻んだもの)、スムース(つぶつぶを感じないもの)も販売されている。また、瓶詰め以外にマヨネーズやケチャップのように絞り出す容器に入ったものも発売されたので、これを日本へのお土産にするのも良さそう。
……ということで、今回はイギリスのピクルスをご紹介しました。瓶詰めで重いものばかりなので、日本へのお土産に持って帰るのは難しいかもしれませんが、イギリスらしい食卓の名脇役たち。ぜひ一度試してみてください。
マクギネス真美
英国在住20年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。
音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。
ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』にてコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。
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