家族と過ごす日クリスマス-神の子が天から降りてきた日 | BRITISH MADE

Little Tales of British Life 家族と過ごす日 クリスマス ~神の子が天から降りてきた日

2014.12.15

日本のような大晦日や正月の気分はありませんが、飾りを外す1月6日までクリスマス気分は続きます。

12月25日、日本の街中ではクリスマスツリーと飾りは片づけられて大晦日商戦が始まりますが、ヨーロッパではクリスマスの始まる日です。キリスト教世界では降誕祭が始まる日であり、12日後の1月6日の夜(twelfth night)まで続きます。

コヴェント・ガーデンの花卉市場跡。1972年以降は有名なショッピング・アーケードに。ここでも幻想的なクリスマス・デコレーションが展開します。この画像は本年11月25日撮影

クリスマス・デイズのうち公休日は12月25,26日そして、1月1日の3日間のみです。キリスト教国の航空会社は25日、26日にまったくフライトを飛ばさないか、極端な減便を行います。なんとかロンドンの空港に着いても、街に向かう交通機関はほとんど動いていませんし、タクシー料金は3割増しです。
キリスト教会ではクリスマスの5週間前から1週間ごとに大きな蝋燭を祭壇に立てていきます。25日の朝、キリストの誕生を祝う礼拝に備えるためです。一般家庭では12月1日から日めくりをするアドベント(降誕を待つ期間)・カレンダーを使って、クリスマス気分を盛り上げます。日めくりすると、お菓子や小物のプレゼントが出てくる仕掛けをした子供用のカレンダーもあります。
ツリーや家の中のデコレーションなどクリスマスの準備は11月末頃に始まります。親類や親友とのプレゼント交換のためのクリスマス・ショッピングもこの頃から賑わいます。繁華街は人で埋め尽くされ、消費財の物価と百貨店の株価は上昇します。
24日のイブ、大方の職場では昼になると祝杯を上げ始めますが、皆さん夕方までに帰宅し、商店も閉まってしまいます。25日の家族のイベントに備えるためです。前夜祭で盛り上がるのは都会の一部の人たちだけです。


2005年頃、ロンドンのリージェント・ストリートからピカデリー・サーカスを望む。クリスマスのディスプレイが派手になったのは1992年頃から。サッチャー首相の新自由主義経済政策の効果が出始めたのは、奇しくも彼女の退陣後でした。ディズニーやユニバーサル・スタジオのショップが進出した頃から、同企業群の熾烈なCM競争が始まったことがこのデコレーションの始まりです。1990年頃までリージェント・ストリートといえども、軒並みベニヤ板が打ち付けられ、古新聞が貼り付けられた閉店舗の並ぶ暗い通りでした

25日の朝、子供たちは目を輝かせて飛び起きます。暖炉の横に掛けた靴下の中のプレゼントと、クリスマスツリーの下に置かれたプレゼント包みのひとつだけを開けることが許されます。午前10時から家族で教会の礼拝に参加し、帰宅して1時頃にテレビでエリザベスⅡ世女王陛下のお言葉を聞き、2時ごろまでに集まって来た親類縁者とともにクリスマス・ディナーです。その後は子供たちがもっとも興奮するプレゼント交換の時間。やがて、貰ったもので遊んだり、皆でゲームをしたり、テレビを見たりなど落ち着いた時間を過ごすのです。そのうちディナーの準備で疲れたお父さんとお母さんから順に、満腹とワインの効果で皆が居間でうたた寝を始めます。

クリスマスイブまでに寄せられたクリスマスプレゼント。家族全員に親類中から集まります。でも、空けられるのは25日です
アーモンドフレークの乗ったチーズケーキ。縁に並ぶヒイラギのデザインがクリスマス感を盛り上げています
極め付けはこれ。クリスマス・プディング(写真左)。これこそが本当のクリスマスケーキです。ブランデーでフランベするとドライフルーツやナツメグ、シナモンなどの香料の豊かな香りが食欲を駆り立てます。とてもリッチな味わいで甘さも相当なものです。ビクトリア時代のクリスマスを題材にしたものが多いディケンズの小説では、このプディングこそ、貴族や中流などの階級を越えて、ハレの日を象徴する最高のデザートとして描写されています。写真左はラズベリとクリームチーズのメレンゲ
2006年、この年のディナーの後は、テレビ映画鑑賞とゲームの2つのグループに分かれました。画像のグループは皆でゲーム(たぶん、マリオカート)をしています。手前の大柄な男性はClive Allenという有名な元FAのフットボール選手です。当時はトテナムの指導者でした。大物の縁戚ですが、クリスマスの過ごし方は一般人と同じです。翌日のボクシングデイは対チェルシーのロンドン・ダービー戦で指揮を執っていました

26日はボクシングデイで、日ごろからお世話になっている新聞、牛乳、郵便などの配達人、古くは執事やメイドにまで、日ごろの感謝を込めたプレゼントを小さなボックスに入れて渡す日です。1990年ごろから26日はバーゲンセールの初日にもなっています。
一方で、こんな話もあります。「飢え死にするかと思った」とは、英国の地方大学に留学しながら、節約のために年末年始の日本に戻らなかった学生から聞いた一言です。もちろん、笑い話ですが、クリスマス期間は孤独な異教徒にとって厳しい期間かもしれません。なにしろ、店がどこも開いていないのです。
クリスマス期間といえども、一般的には12月27日から31日の昼ごろまで、会社員は普通に勤務し、1月1日の公休日を経て、翌日から普通に勤務を開始します。学校の冬休み期間はマチマチですが、平均的に12月20日からクリスマスデイの終わる1月6日までのようです。

日本のような大晦日や正月の気分はありませんが、飾りを外す1月6日までクリスマス気分は続きます。因みに、拙宅が英国でクリスマスを過ごす場合、ホームレスの皆様に炊き出しをするロンドン近郊の教会のお手伝いに参加しますので、以上に述べたような伝統的、且つ一般的なクリスマススタイルは、子供たちが育って家を出てしまった当家にはもはや過去のことです。ディナーの機会は25日、26日、1月1日、6日、そして週末と計4~6回ほどあるので、どれかに1~2回参加すれば、どんな大家族でも親類縁者全員と会い見えるわけです。

1604年築の小作農が所有していた家屋を改装した一軒家は天井が低く、間接照明だけで室内が暗いために、画像がピンボケで申し訳ありません。三世代の親類が集まったクリスマスディナーです

3世代以上に渡る親類縁者が一同に結集し、楽しい時間を過ごすことは、子供たちの人生観に反映する大イベントでもあります。家族と親類を想い、自分と神との関係、そして宗教の在り方を考えさせる。言わば人生の本質に触れるべき日々なのです。日照時間が8時間弱と年間で最も短く、空の暗い季節に、家族とともに楽しめるイベントを創り出してきた英国人の生活の知恵に感心させられる時期でもあります。30年以上前のことですが、初めて本場のクリスマスに触れたとき、日本の法事や盆暮れに親類一同が本家(実家)に集う様子と同じだなあと思いました。


2014.12.17
Text&Photo by M.Kinoshita

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マック 木下

マック木下

ロンドンを拠点にするライター。96年に在英企業の課長職を辞し、子育てのために「主夫」に転身し、イクメン生活に突入。英人妻の仕事を優先して世界各国に転住しながら明るいオタク系執筆生活。趣味は創作料理とスポーツ(プレイと観戦)。ややマニアックな歴史家でもあり「駐日英国大使館の歴史」と「ロンドン の歴史散歩」などが得意分野。主な寄稿先は「英国政府観光庁刊ブログBritain Park(筆名はブリ吉)」など英国の産品や文化の紹介誌。

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