クリスマス・デイズの過ごし方 家族でゲーム | BRITISH MADE

Little Tales of British Life クリスマス・デイズの過ごし方 家族でゲーム

2014.12.31

ゲームには、いくつか異なった意味があります。狩猟、スポーツ、そして遊戯(遊び)の3種類があることは何となくご存知でしょう。

この記事の掲載日12月31日は、正にクリスマスデイから1週間経ったクリスマス期間のど真ん中です。英国で大晦日の楽しみと言えば、極寒のトラファルガースクウェアなどの大広場に若者が集まって行う新年のカウントダウンくらいのものでしょう。その後はチャイナタウンで夜通し飲んで食べるのは20代の青年たちばかりです。
一方、多くのビジネスマンたちは子供たちの学校の休みに沿って休暇を取るので、この2週間を家族でのんびりしている人が大半です。ウィンター・サン(冬の太陽)を求めて、大西洋の島バルバドスに海水浴に行ったり、赤道近辺やダウン・アンダーと呼ばれる南半球の暑い国々を旅行したりする英国人の家族も少なくありません。

Back Gammonは冬の夜長にホット・ウィスキーを啜りながらプレイします。甘党の人のために角砂糖も…。バック・ギャモンはチェスのようにケースに収納できるゲームキットとして販売されています。高級なキットでゲームを楽しむと、洗練されたダンディズムの意識とゲームへの愛着を覚えるかもしれません

そんな彼らも家族とずっと一緒にいると、さすがに退屈してきますから、いろいろなゲームで遊びます。英国から旅行先にわざわざゲーム版を持って来たり、その場で出来るゲームを考えたりするなど、とにかく楽しむことに貪欲なので、「皆で何かやろう」と盛り上げようとします。

ところで、ゲームには、いくつか異なった意味があります。狩猟、スポーツ、そして遊戯(遊び)の3種類があることは何となくご存知でしょう。一定の条件とルールの元で勝敗を競うものが、スポーツとしてのゲームと遊戯のゲームであり、2つのゲームの共通点です。
もうひとつのゲーム、狩猟はちょっと事情が異なります。ドイツ語源の古英語でガマナンという「喜び、娯楽、スポーツ、歓楽」などを意味する言葉から徐々に変化していったものとされています。それはコンペを伴うゲームのニュアンスと似ているようでいて、言葉の源は異なるのです。


いろいろな種類の水鳥が一挙に集まる光景はなかなか見られません。雁、ガチョウ、オシドリ、そして頭の白い黒鳥はクーツと言います。どれもゲーム(ジビエ)種として食卓を飾ります

因みに、狩猟のゲームとは野生動物の肉料理を意味するフランス語のジビエとほぼ同義語でもあります。かつてから、英国では鴨や雁などの野生の水鳥がゲーム種としてfishmonger(魚屋)で売られていました。しかし、ここ数十年間でそのfishmonger自体が減少してしまって、水鳥を売る魚屋も見かけなくなってしまいました。現代の食糧管理法では水鳥は肉屋の扱いにされています。今でも水鳥を売っている魚屋をイングランドで稀に見掛けることはあります。おそらくその店は、200年以上前に得た魚屋のライセンスを代々に渡って受け継いで来ているのです。魚屋さんたちの言い伝えに拠ると、何世紀か前のあるイングランド王が、金曜日に大嫌いな魚を食べなくて済む苦肉の策を講じたということです。王といえども、金曜の魚食を課すキリスト教の慣例には逆らえないために、水鳥なら魚として認められるべきだという屁理屈で、水鳥を魚屋で販売する許可を法に定めたのです。そして、王様自らが「魚釣りだ」と言って狩猟(ゲーム)に出掛け、鴨を持ち帰ったとか…。

ロンドン・ブリッジのバラ・マーケットに吊るされた雉。フェンスの向こう側に見えるのは魚です。雉は水鳥ではないのですが、魚屋で売られていました。確かにゲーム種として扱われますが…

今でも、自分の領地内で冬場の狩りをする貴族や大地主も居ますが、その目的の大半はきつねなどの害獣狩りとされています。英国内の狩猟については自然環境のサステナビリティや動物愛護などから他面的な議論がされていますが、ごく少数のお金持ちやその家族と友人たちが一緒に参加するゲームでもあると、念のために申し上げておきます。

ポーカーやコントラクト・ブリッジなどのカードゲーム、モノポリー、スクラブル、魚雷潜ゲームなどのゲーム版(ボードゲーム)、多人数で行うジェスチャーゲームなど遊戯としてのゲーム、そして狩猟を含めてどのゲームも英国では家族や親しい人間関係を構築し、「私たちは家族だよね」と、その関係を確かめ合う機会に利用されるものなのです。

英国のボードゲームは多種多彩です。Lifeは日本でもアメリカでも知られた人生ゲーム。クロスワードパズルは語彙力の向上に役立ちます。しかし、英国人と対戦すると、どうしても勝てません。悔しい!
一般の英国家庭に置かれているボードゲーム類。夫婦で、家族で、そして友人たちと。親密を図るマストアイテムなのであります
アップ・ワーズという立体的クロスワードを楽しむ若いカップル。クリスマスの時期には、仲良くなったカップルがお互いの自宅に招いて過ごすこともあります

Board Game(ゲーム盤)を文字って、親と時間を共有したくない反抗期のティーンエィジャーがBored Game(つまらないゲーム)と微妙な発音の違いで揶揄するようになってくると、家族の絆も関係も変化を迎えるのが一般的です。コンピュータ・ゲームが世の中に出てきてからは、ゲームの相手はゲーム機本体からネットワークで繋がるどこかの誰かさんへ、と変わってしまったのは、日本ばかりではないのですね。物理的には孤独でもネットでバーチャルに楽しめる時代になったということでしょうか。
現在の駐日英国大使は、大学生の息子さんと社会人の娘さんと介する機会には、今でもボードゲームを楽しんでいます。それを聞いて我が家でも、昨年から数年ぶりに家族ゲームが復活しました。我が家族も大使の家族と同様に世界各国に離散していますが、クリスマスには親である我ら夫婦の元に戻って参りますので、典型的な英国のクリスマススタイルを再開した次第です。
幼かった子どもたちとゲームで遊んだ経験自体が、彼らの論理的思考を育み、情緒の安定を図って来たことを、子どもたちが成人してなおさら再確認する思いです。英国人の落ち着きの裏付けが、このような家族を大切にする生活ぶりにあるのかもしれませんね。


2014.12.31
Text&Photo by M.Kinoshita

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マック 木下

マック木下

ロンドンを拠点にするライター。96年に在英企業の課長職を辞し、子育てのために「主夫」に転身し、イクメン生活に突入。英人妻の仕事を優先して世界各国に転住しながら明るいオタク系執筆生活。趣味は創作料理とスポーツ(プレイと観戦)。ややマニアックな歴史家でもあり「駐日英国大使館の歴史」と「ロンドン の歴史散歩」などが得意分野。主な寄稿先は「英国政府観光庁刊ブログBritain Park(筆名はブリ吉)」など英国の産品や文化の紹介誌。

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