2015年は4月5日がイースター祭りの日です。その頃になると、ロンドンには真夏が来たかのような体感気温30℃に近いバカ陽気の日が一度だけ必ず訪れます。
2015年は4月5日がイースター祭りの日です。その頃になると、ロンドンには真夏が来たかのような体感気温30℃に近いバカ陽気の日が一度だけ必ず訪れます。とても不思議な現象ですが、英国で毎年経験することです。夏のような日差しの中で、オクスフォードサーカス周辺を行き交うイースター休暇の旅行者の中でも、特にヨーロッパの人々はTシャツ姿やタンクトップ姿になります。しかし、夕方になるとまた涼しくなって…、いえ、寒くなって皆我に返るのです。季節をわきまえずにバカ陽気に踊らされた気持ちになって、夏の恰好で過ごしているうちに風邪を引いてしまってから、なんてバカなことをしたんだろうと後悔するのです。と言うのも、冬のヨーロッパでは、英国を含めて太陽の光が極端に乏しいのです。陽の射している「この時」とばかりに、陽光を浴びるために人々は身体をさらけ出すのです。初めて英国の冬を越して、イースターを迎えた頃、居ても立っても居られないほど、外の空気と陽光に触れたい衝動に駆られた若葉マークの在英邦人は、ピークシーズンで超忙しい時期に、上司に向かって言ったことを思い出します。
“Gordon, let me have a break for sunbathing a few minutes”
邦訳「ゴードン(上司の名前)、2、3分でいいから日光浴させて」
イングランド人の大好きな花、ブルーベルズが咲くころ、長い冬がようやく終わり春を迎えます。低く重い灰色の冬空の下で、うつむき加減に歩く英国人の表情をロング・フェイスと表現しますが、この花の季節になるとロング・フェイスを見掛けなくなります。おそらく、明るい空に向かって背筋が伸び、視線も上向きになるのでしょう。太陽の位置も昼間はだいぶ高くなり、木漏れ日が美しい季節になります。どんなに仕事が忙しくても、外で過ごしたくなるのです
英国の旅行会社の商品にもWinter Sunというブランド名があるほどです。行き先はバルバドス島、カリブ諸島など大西洋の島々が特に人気で、続いてドバイ、ケープタウンなど、英国から比較的行きやすいところが人気です。地中海で泳ぐのは5月以降、と言っても英国人は多少寒くても海に飛び込みます。
4月と言えば、表題のように、かつては「4月バカ」と邦訳されたエイプリルフールから始まります。英国人のユーモアセンスが試される機会でもあります。誰も傷つけず、事実のように思わせて、びっくりさせるだけでなく、「え~、本当なの」と夢を抱かせたり、ウソと気付いた後でも発案者のウィットや教養を褒め称えたり、感動させることなどの諸要素を揃えてこそ、エイプリルフールに相応しい理想のウソになると言われます。
一般的にはウソをつくと、そのウソを真実に見せかけるために、さらにウソをつくことになるようですが、エイプリルフールのウソは、ウソであることを種明かしすることを前提に考えられたウソですから、優しさや思いやりなどいろいろな配慮が込められているのですね。
こちらに面白いサイトがあるので、ご参考まで。
「英国のエイプリルフールのジョークまとめ」
ところで、イースターでは卵とウサギは豊穣のシンボルとして扱われています。卵が新しい生命のシンボルとしてキリストの復活を著すのです。どんなに狩りをしても居なくならない繁殖力の強いウサギは、どんどん生まれ変わる力を持っているから復活祭に相応しいという説と、子供たちが庭でイースターエッグハンティングをしていると、庭の穴からウサギが飛び出してきたので、「卵からウサギが孵った」と誰かが叫んだことから、という最近作られたような成り行き説もあります。チョコレートのエッグハンティングをするようになったのは1960年代以降のことですが、17世紀にはウサギはイースターバニーとして文献に登場しています。
イースターが近づくと、あちこちから卵型のチョコレートが届きます。1970年頃、横浜在のドイツ人宣教師によるキリスト教会の子ども日曜学校に通っていました。イースター祭を祝う礼拝の後、卵型チョコレートを貰ってとても嬉しかったことと、ドイツ風の味付けゆで卵を、そのお宅の台所で頂いたことを思い出します。宣教師の息子が同じ齢で仲良しだったので、最初の外国文化との接触は、英国ではなくドイツでした
英国では卵に小さな穴を開け、中の白身と黄身を吸い出した殻にいろいろなデザインを施します。でも、その風習もドイツ起源という説が有力です
また、近年になって判ってきたことですが、イースターの頃から自殺と自殺未遂が増えるという統計があります。春は何かにつけ、スタートの季節です。日本と英国では学制が異なりますが、英国でも春から新生活を始める人が多いのです。その景気付けにこの時期に祭りが行われるのは、近世の人々の配慮であったかもしれないという学説もあるのですが、今時の人ともなると、周囲の皆が騒いでいるとかえって落ち込んでしまうこともあるのでしょうね。
以前、ライフル職人さんを多人数扱う会社パーディの社長に聞いたところ、毎年夏に学校を卒業して徒弟になった新人たちが辞めていくのも、4~5月が一番多いということでした。理由はこれまでにやってきたことへの自分自身に対する不信と、遠い将来に向けて自分が職人になれるかどうか不安だからということです。どんな職人さんも自分を信じて、最初の1年を乗り越えることが肝要なのだそうです。我々も遠く日本から、BRITISH MADEの製品を支える多くの職人さんたちを応援したいものです。
マック木下
ロンドンを拠点にするライター。96年に在英企業の課長職を辞し、子育てのために「主夫」に転身し、イクメン生活に突入。英人妻の仕事を優先して世界各国に転住しながら明るいオタク系執筆生活。趣味は創作料理とスポーツ(プレイと観戦)。ややマニアックな歴史家でもあり「駐日英国大使館の歴史」と「ロンドン の歴史散歩」などが得意分野。主な寄稿先は「英国政府観光庁刊ブログBritain Park(筆名はブリ吉)」など英国の産品や文化の紹介誌。