過熱するヨーロッパの移民問題
ヨーロッパに住んでいると、毎日のように移民問題に関する話題を耳にする。そのほとんどはテレビや新聞、ニュースサイトなどによるもので、全く話題に上らない日はないと言っていいほどだ。どの国でも移民の数は年々増え続けているが、もちろん、誰でも簡単にその国に移住できるわけではない。条件は国によって異なるが、決められた滞在年数をクリアし、語学習得レベルや住むための合理的な理由があるかなどを審査されて始めて、永住権や市民権を獲得できる。ところでイギリスではこの永住権や市民権を取得するうえで、あるユニークなテストが義務づけられている。イギリス内務省によって主催されているLife in the UK Test、通称「イギリス人になるためのテスト」と呼ばれているものだ。その内容は「アルコールは何歳から買うことができるか」といった生活上の一般常識から、「女性の投票権が認められたのは何年か?」などイギリス社会に関する知識を問うものまでさまざま。一般常識を問う設問も多いため、一部では「どうしてこんなテストを行うのか?」と揶揄する人もいる。しかし、実はここに移民問題に悩む、イギリスの苦労が垣間見える。ただ「美しい」だけではない移民受け入れ
もともと移民を受け入れるということは、ただ人道主義に基づく美しい行為というだけではない。すでにそこに住んでいる自国民との軋轢を生んだり、場合によっては治安の悪化をまねいたりするリスクがつきまとう。ヨーロッパにはすでに住民の3割ほどが移民によって占められている街もあるほどで、将来的に自国民よりも移民のほうがマジョリティになるのではという懸念もある。イギリスではこうした移民が増え続ける現状を「トロイの木馬」に例える声まであるほどだ。トロイの木馬に隠れてやってきた移民が、自国を占領してしまうのではという危機感が感じ取れる。だからといって、今さら移民排斥の方向に向かうことは現実的ではない。イギリスが移民を受け入れてきた背景には、人道的な観点だけでなく、労働力の確保や少子化対策などさまざまな思惑があり、すでに移民は国を支える重要な要素となりつつある。移民がいなくなってしまうと、なり手がいなくなってしまう職業だってあるのだ。だからせめて、これ以上の軋轢や治安の悪化を生まないためには、移民にその国の習慣や考え方を学ばせ、職を得やすい環境をつくるなどして生活基盤を確保していく必要がある。社会に溶け込み、同化していくことでこうした摩擦は解消されるという発想だ。
自国への同化政策が移民問題を緩和する
「イギリス人になるためのテスト」が目的としているのはまさにここにある。イギリス政府はこのテストを行う目的を「移民にイギリスに属することを意識させ、人種的緊張関係を和らげる効果がある」としており、イギリスの一般常識を学ぶことで、社会に溶け込むきっかけになると期待しているのだ。イギリスはこれまでにも大量の移民を受け入れてきた歴史があるが、自国民との軋轢をなくし、両者を共存させる道を模索していることがうかがえる。最近、日本でも移民受け入れに関する議論が高まってきているが、こうした事例から学ぶことは多いのかもしれない。
Life in the UK Test
http://www.theuktest.com/