オックスフォード・ストリート。
こんにちは!川合亮平です。今年のクリスマス、あなたはどんな風に過ごされますか?
取り立ててクリスマスを意識しない人にとっては、どんな風もこんな風もないかもしれませんが。
僕は、去年は年末ロンドンで取材に奔走してたんですが、今年は、東京のスタジオで1日中収録の仕事が(ありがたいことに)入ってます。
だから、今年の12月25日は、逆にクリスマス感をできるだけ出さずに過ごしてやろうかしら、と思ってます。
赤と緑の真逆の色の衣装で身を包んでやれ、と思ってます(それが何色なのかは、わからないが)。
さて、一言で片付けると、“文化の違い”なんですが、イギリスのクリスマスと、日本のクリスマスは、まあ似て非なるもの、といってもいいんじゃないでしょうかね。
雰囲気、定義、人々の心持ち、概ね全部違います。
僕はこれまで(幸運にも)幾度となくロンドンでクリスマス(&ニューイヤー)を過ごしてきましたが、思い返して、一番印象に残っているのが、2013年のクリスマスです。
コヴェント・ガーデンのクリスマスの様子。ホリデー・ムードがたっぷり味わえる場所。
2013年のクリスマス
乳飲み子を含む家族全員で東京から飛び立ち、ロンドンに降り立ったのは12月中旬。例のごとく(✳)、Mother in Lawのお家での間借り生活が始まりました。
(*間借り生活について詳しくは前回の記事をご参照ください)
さて、2013年当時は、病床にあったFather in Lawもお家には居ました。
僕の義理の父であるDavidは、病で余命宣告をされていたんですが、余命期間を随分過ぎても健在で、不自由はあるものの、普通に自宅で生活をしていました。
そんな、クリスマスを約1週間後に控えたロンドンでのある晩のこと。
時差ボケでなかなか寝付けず、2階の部屋で横になりながら、夢と誠の境を行きつ戻りつしていた僕の耳に、尋常ではない人の声が1階から聞こえてきました。
今となってははっきりは思い出せないんですが、うめき声というか、人間が意識外で出している音、というか。
そして、その声に続いて聞こえてきたのは、Mother in Lawの声。
僕はその頃には、夢の世界にはきっぱり見切りをつけて、誠の世界での尋常ならざる出来事に全神経を傾けていました。真っ暗な2階の部屋で横になりながら。
「David? David! David!!」というMother in Lawの声。そして彼女は「Oh dear」と1人呟き、電話の場所まで行きました。
電話の向こう側の声は(もちろん)僕には聞こえないんだけど、彼女がA&Eに電話をし、やりとりの後、救急車がこちらに来る、という状況は僕にも分かりました。
ちなみに、A&Eは、Accident&Emergencyの略で、イギリスの医療救急サービスです。
その頃には、僕も妻も起き出し、1階に下りていました。そこで、Davidの容態が悪化して意識が朦朧としている、という状況を知ります。
さて、A&Eへは、患者だけでなく、Mother in Lawも付き添いで行くとのこと、でも、彼女1人だけでは心もとないということになり、本来であれば僕の妻が一緒に行く役回りなんですが、如何せん乳飲み子を抱えている身なんで、代わりに僕が行くことになりました(当時、それ以外の大人はその家にいなかった)。
しばらくして、A&Eの救急隊員の人たち(比較的若い、男女それぞれ2人ずつだったと思う)が救急車でやってきて、DavidとMother in Law、そして僕を乗せて、クリスマス直前の深夜のロンドンを病院に向かいます。
僕は、目の前で次々と起こっていく未体験の展開に、思考をまとめる暇もなく、「これがA&Eの救急車の中か、、、」と、ぼーっと考えるのみ、みたいな状態。
15分位走ったかな。総合病院のA&Eの病棟につき、カーテンで仕切られたベッドがたくさん並べられているフロアの一画を当てがわれた我々3人。
Davidの容態はなかなか落ち着かず、医師、看護師とのやり取りや、場合によっては彼の身体を支えたり、起こしたり、抑えたりしながら、ベッドに横たわる大柄な身体を見つめながら、ベッドの横のパイプ椅子にMother in Lawと隣り合わせで腰掛け、一夜を明かしました。結構めまぐるしく状況が変わったし、A&E病棟そのものが物珍しいというのもあって、なんだかあっという間に朝になった感じがしたものです。
すっかり夜が明けて明るくなった世界は、慌ただしく緊迫した夜を過ごした後、A&E病棟から出て来た僕にとってはなんだかやけに新鮮な感じがしました。
そして、(多分Costa Coffeeだったと思うけど)カフェで、Mother in Lawとコーヒーを飲んでいると、これまで一切感じたことのなかった感覚が僕の中に湧き上がってきました。それは、なんというか、彼女との一体感、というか、非日常的状況を一緒に潜り抜けた同士だけが得られる連帯感というか。
実はそれまで何年もの間、僕はなんとなく彼女との間に壁を感じていたんです(彼女がどう感じてたかはわかりませんが)。でもその壁が、その時を界に、全くなくなりました。その感覚はありありと感じられた。あの時あの場所で、本当の意味で家族として受け入れてもらった、という感じがしたものです。
その朝、容態が落ち着いたDavidは、A&E病棟から普通病棟に移りました。そして、僕の妻を含む三姉妹が、お見舞いに病院にやってきました。つまり、乳飲み子の世話バトンタッチということになるので、僕はタクシーで家に戻りました。
昨晩から一睡もしていないMother in Lawと、父を見舞いに来た三姉妹。彼らはしばらく病室にいた後、とりあえずDavidの容態が安定しているので、ベッドで安静に眠る彼の病室を後にしようとしました。 そして、扉を開けて外に出る前に、最後になんとなく彼の様子を伺うと、彼はすでに息を引き取っていたそうです。12月18日の午前中。
毎年12月25日は、Mother in Lawの家に家族がみんな集まって、手の込んだクリスマス・ディナーをいただくのが通例なんです。でも、2013年のクリスマスは、「お葬式や色々な手続き関係なんかもあり、慌ただしすぎてクリスマスの用意が全然できない」というような事をMother in Lawがしきりに口にしていた事は思い出せるのですが、はたして、結局24日、25日、どこで何をして過ごしたのかと考えると、全然思い出せないんです。その前の出来事が鮮烈すぎるのか、本当に思い出せない。 唯一覚えているのは、(多分)25日の朝に、妻が「お父さんは、誰よりもクリスマスが好きだったから、直前に亡くなるなんて残念ね」と、それほど悲壮感なく、でも十分な寂しさを含めて、余命期間より随分長く生きた父のことを語った言葉くらい。
プレゼント
さて、(実は)ものすごく人見知りの僕は、人と打ち解け合うのがそれほど得意ではなくて、しかも相手が“配偶者の家族”ともなると、余計変な力が入って、なかなか思うように溶け込めない、という状況がずっとありました。それでも、Davidとは、初対面の時からなんとなく分かり合えたような気がしていました。僕にとって、義理の家族の中で彼が唯一のオアシス的存在だったんです。取り立てて多くの言葉を交わしていたわけでもないんですが、波長が合う、とでも表現するのかな。
そして、2013年のクリスマス、Davidがこの世に別れを告げた一方で、僕個人的には、A&Eでの一件を通じて、Mother in Law(と、その他の家族メンバー)に“本当の意味で”家族に迎え入れてもらえた(正式にそう言われたわけじゃもちろんないけど、そういう風に感じています)。
振り返って、(ものすごく自己中心的な見方をすると)Davidからとんでもなく素敵なクリスマス・プレゼントをもらったんだなぁ、と1人感謝しています。
だから、クリスマスって自分にとっては、家族を考え、そして家族に感謝を表現する日にしないといけないのかな、と改めて自分に問いかけている2017年のクリスマス目前です。
この記事の冒頭で「赤と緑の真逆の色の衣装で身を包んでやれ」と嘯いた自分をやや呆れて顧みたりもして・・・。
25日は仕事の後、できるだけ素敵な家族とのクリスマスを演出してみようかな。
Have a happy Christmas and a healthy New Year.
今年一年、このコラムを読んでくれたあなたに心から感謝、
今回初めて読んでくれたあなたにも心から感謝、
また来年。
川合亮平でした。
P.S. 年末年始 in Londonの観光アイデアでーす。
ロンドンの5つ星ホテルOne Aldwych(ワン オルドウィッチ)にて、”チャーリーとチョコレート工場”をテーマにしたスペシャル・アフタヌーンティー。
詳細記事:https://allabout.co.jp/gm/gc/467049/2/
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冬の風物詩、ハイドパークのウィンターワンダーランド。この季節だけのテーマパークです。
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本場で、クリスマス・プディングを食べる!
詳細記事:https://allabout.co.jp/gm/gc/467066/
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大晦日は、ロンドンアイのカウントダウン花火!
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元日は、ニューイヤーパレード!
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川合 亮平
(かわいりょうへい)
通訳者・東京在住
関西の人気テレビ番組で紹介され、累計1万部突破の『なんでやねんを英語で言えますか?』(KADOKAWA)をはじめ、著書・翻訳書・関連書は10冊以上を数える。
通訳者としては直近で東京五輪関連のビジネス会議、アスリート通訳に携わる。その他、歌手のエド・シーラン、映画『ファンタビ』シリーズのエディ・レッドメイン、BBCドラマ『シャーロック』のベネディクト・カンバーバッチ、マーティン・フリーマン、ヒットドラマ『ダウントン・アビー』の主要キャストなど、ミュージシャン、俳優への通訳・インタビューも多数手がけている。