紙の本が好きだ。一時期は紙の本に関わる仕事をしていたが、今も変わらず好きだ。なぜか。それをうまく表現することができず、時々もどかしい想いに駆られる。
もちろん、一般的に言って「好き」の理由を言葉にすることは難しい。「とても好き」な場合はなおさら難しい。なぜその絵が好きなのか、なぜその場所が好きなのか、なぜそのひとが好きなのか。考えるほどに頭がパンクしそうになる種類の問いだと思う。だから、愚問だと言って端(はな)から相手にしないひともきっといるだろう。
あるいは、「直感的にいいと思ったから」で済ませるひともいることだろう。しかし、それでは何も説明したことにはならないのではないか。「直感的にいい」は、「好きだから好き」の言い換えに過ぎないように思えるからだ。
そういったわけで、休日ともなれば答えを探しにロンドンの本屋をのぞいて回るのが習慣となってしまった。いつか、「これだ!」と思える言葉に出会えるような気がして。(断っておくが、けっして憂鬱なわけではない)
事実、店内に足を踏み入れれば、その想いを全身で感じることになる。いや、むしろ目の当たりにすると言ったほうがいいかもしれない。例えば、なぜこの雑誌の隣にこの雑誌が並んでいるのか。なぜこの雑誌は平積みでこの雑誌は棚置きなのか。きっと全てに意味があるのだ。雑誌の大きさ、色、ジャンル、ページ数、表紙のアートワーク、そしてどこでプリントされたものなのか。全てが完璧な調和を目指してディスプレイされている。これはぜひとも目で感じてほしい。
廃刊する雑誌があれば、創刊する雑誌もある。クオリティの下がった雑誌は棚から消え、代わりに個性的な雑誌が並ぶ。そうした新陳代謝を繰り返しながら、まるで生き物のように熱量を帯びる空間。ああ、そうか。言葉だけじゃなかった。「紙の本が好き」はこのような形でも伝えられることを知った。
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ロンドン、アートとデザインの本屋をめぐる
もちろん、一般的に言って「好き」の理由を言葉にすることは難しい。「とても好き」な場合はなおさら難しい。なぜその絵が好きなのか、なぜその場所が好きなのか、なぜそのひとが好きなのか。考えるほどに頭がパンクしそうになる種類の問いだと思う。だから、愚問だと言って端(はな)から相手にしないひともきっといるだろう。
あるいは、「直感的にいいと思ったから」で済ませるひともいることだろう。しかし、それでは何も説明したことにはならないのではないか。「直感的にいい」は、「好きだから好き」の言い換えに過ぎないように思えるからだ。
5月、夏とも思える日が続いたロンドン
しかしながらぼくは編集者であって、自分の好きなこと、いいと感じたことはうまく言葉で伝えられなければならない、と半ば強迫観念のように考えている。「伝えたいこと、伝えるべきことを、伝えたい人に最適な方法で伝える」のが編集者の役割だからだ。その意味で、「紙の本が好きなこと」をうまく表現したいのだ。そういったわけで、休日ともなれば答えを探しにロンドンの本屋をのぞいて回るのが習慣となってしまった。いつか、「これだ!」と思える言葉に出会えるような気がして。(断っておくが、けっして憂鬱なわけではない)
ショーウィンドーのディスプレイも目立つ「magCulture」の外観
めずらしく晴天の続くロンドン。ある週末に「magCulture」という書店を見つけた。地下鉄ファーリンドン駅から北に徒歩10分ほど、クラーケンウェルの静かなエリアに立つ。店名からも推察できるように雑誌を専門的に扱うお店だ。店のスタッフに聞いたところ、扱うタイトルは450以上。イギリス国内のみならず、海外の雑誌も数多く取り揃えているという。「日本のものだと『POPEYE』を仕入れてるよ。あと、サッカー誌の『SHUKYU』ね」。なんというセレクトだろうか。 ロンドンで初めて知った日本の雑誌『SHUKYU』
曰く、お店のオープンは2015年だが、2006年にローンチされたmagculture.comという雑誌のレビューサイトがそもそもの始まりだという。オーナーは、30年以上にわたって編集スタジオを運営してきたJeremy Leslie氏。エディトリアル・デザインの飽くなき追求をきっかけに、雑誌への想いが、レビューサイト、書店経営と様々に形を変えていったのだろう。事実、店内に足を踏み入れれば、その想いを全身で感じることになる。いや、むしろ目の当たりにすると言ったほうがいいかもしれない。例えば、なぜこの雑誌の隣にこの雑誌が並んでいるのか。なぜこの雑誌は平積みでこの雑誌は棚置きなのか。きっと全てに意味があるのだ。雑誌の大きさ、色、ジャンル、ページ数、表紙のアートワーク、そしてどこでプリントされたものなのか。全てが完璧な調和を目指してディスプレイされている。これはぜひとも目で感じてほしい。
整然と並べられた雑誌の数々
それから、スタッフはこんなことも話してくれた。「ラインナップは、毎月、目まぐるしく変わるからね」。廃刊する雑誌があれば、創刊する雑誌もある。クオリティの下がった雑誌は棚から消え、代わりに個性的な雑誌が並ぶ。そうした新陳代謝を繰り返しながら、まるで生き物のように熱量を帯びる空間。ああ、そうか。言葉だけじゃなかった。「紙の本が好き」はこのような形でも伝えられることを知った。
結局、2冊買って帰った。手前はイギリスで発行されている「活版印刷・プリント」専門の雑誌。なんとニッチな
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Yuichi Ishino
イギリスをはじめ、欧州と東京を拠点にするデジタルプロダクション/エージェンシー「TAMLO」代表。企業に向け、ウェブメディアの戦略コンサルティング、SNS施策、デジタル広告の運用、コンテンツの制作などを日英を含めた多言語でサポートする。好きな英国ドラマは『フォルティ・タワーズ』。ウィスキーはラフロイグ。