そんな彼女の恩師との出会いやイギリス時代の話、帽子づくりから仕事の時の愛用品のお話を伺いました。
帽子づくりの世界に魅せられて、3度の渡英。学んだのは、「ものづくりの、その先」
神楽坂にある彼女のアトリエには、お客様に見せる見本の帽子や木型がずらりと並びます。どれも大切な職人の手しごとです。「イギリスではこの人に木型を作ってもらいたい!と思ったら何ヶ月でも待つ覚悟でお願いしていました。それか、蚤の市に木型が売りに出ることがあって、そこで手に入れたりするぐらいですね」とかおりさん。今では、自作の帽子型もあるそう。
ようやく長期のビザを取って、朝は語学学校へ行き、昼は師匠のもとで無償で働いて、夜にフリーランスとして請け負った日本の仕事をして生活費を作るというタイトな生活。それでも充実していたのは、「プルーデンスのもとでの学びが、それだけ貴重なものだったから」とかおりさんは語ります。「プルーデンスは、すごく頑固で難しいところもあるけれど、すごくチャーミング。とにかく妥協のない人なんです。忙しいはずなのに、彼女の周りの時間はゆったりして見えるのも不思議でした。
彼女のもとで学んだことは、『ものを作る、ということがどういうことなのか』。帽子づくりの時間だけでなく、仕事の合間に話したこと、ファッションとか一緒に仕事をしてきたデザイナーの話…そこからものづくりのエッセンスを読み取るという時間が一番貴重だったと思いますね」。
なんとなく選んだロンドン。それが、最良の選択だった
人にもモノにも敬意を払う、職人の伝統を大切に進化していきたい
「手製のものの凄みってやっぱり、伝わるものだと思います。だから私は、職人の持つ伝統的な手作りの手法をとても大事にしてるのですが、デザインはまた別。デザインの上で帽子がどう進化していけるか、というのは私も意識しているところです。
伝統的な手法は大事だけれど、同じものを作っていくのはつまらない。でも、新しいものをつくるには、古いものを知っていないといけない。帽子というのは、服を主役とした『その人のスタイル』をアシストするものだと思っています。それはつまり、『人をリスペクトする』ということにつながってきます。帽子は、かぶってもらわなければただのオブジェ。あくまで、かぶってくれる人が使いやすいものをというのが、私のモットーですね」。
大好きなテキスタイルから始まった、イギリスから日本に広がるご縁
英国高級服地マーチャント『ホーランド&シェリー』の生地スワッチ。
「渡英していた頃、いいウール系生地を置いてあったお店が閉店してしまって、新しい生地の仕入先を探さなければいけなくなったことがありました。仕入先を探しに入ったテキスタイルの展示会で『ホーランド&シェリー』という会社のブースにあった生地が素晴らしくて…。その後、名刺をもらった本社に行ったら、サヴィル・ロウのど真ん中、ルネサンス調の重厚な雰囲気のあるビルの最上階。歴史のある大きな会社だったんです(笑)。それでもそんなにキャリアのない私にも良くしてくれて、日本に帰る時は日本の代理店を紹介してくれました。更にその代理店さんがとても気にかけてくれて、毎シーズンオーダー会を開いてくださるような販路を見つけてくださったり。本当に『ホーランド&シェリー』は恩人ですね。素敵なテキスタイルを見つけただけでなく、そんな風にご縁を持って帰れたのは本当によかったと思っています」。
ユーティリティ高くきちんとして見える、チャーチの靴がお気に入り
前田さんが愛用するチャーチのシューズ。
「わたし、歩くのが早いんです(笑)。だから普段から、スニーカーでたくさん歩きたいタイプです。このチャーチの靴は、普通のものとちょっと違ってソールがかなりしっかりしていて、ガシガシ歩けるのにちゃんとして見える。サイドゴアで脱ぎ履きがしやすいのもいいですね。もともと、イギリスで見かけていいなあと思っていた形なのですが、日本では見つからず、昨年イギリスに行った時にお店を探し求めて買ってきました。
これが1足目のチャーチ。履いた後はシューキーパーできちんと形をキープしています。長く大切に履き続けたいですね」。
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