ヒントは、古いものの中にある。帽子職人・前田かおりさんが継承する、ものづくりの伝統とは。 | BRITISH MADE

My Favourite Journals ヒントは、古いものの中にある。帽子職人・前田かおりさんが継承する、ものづくりの伝統とは。

2018.06.29

ロンドンで、ヴィヴィアン・ウエストウッドやイヴ・サンローランと長年仕事をしてきた伝説的なミリナー(帽子職人)に弟子入りし、現在は東京を拠点に活動する前田かおりさん。「ビスポーク」という、職人と顧客が対話をしながら、その人に合った帽子をオーダーメイドするという形をとる、日本ではまだ少ない職人の1人です。
そんな彼女の恩師との出会いやイギリス時代の話、帽子づくりから仕事の時の愛用品のお話を伺いました。

帽子づくりの世界に魅せられて、3度の渡英。学んだのは、「ものづくりの、その先」

「イギリスへ帽子を学びに渡英したのは、全部で3回です。イギリスへ行くのは、ファッションとか音楽といった文化的なキーワードの中で、最初に思い浮かんだ国であったことや、周囲にロンドンを進めてくれる人が多かったからです。結構無計画に飛び込んでしまいましたね(笑)。ある日、日本食を売るグローサリー・ストアの掲示板に『ヴィヴィアン・ウエストウッドやイヴ・サンローランの帽子を作るデザイナーが帽子づくりを教えます』と書いてあって、試しに行ってみたんです。それが師匠であるプルーデンスとの出会いでした」。
「その時は観光ビザだったので長くは学べませんでしたが、時間が許す限り彼女のもとで学んで帰ってきましたね。だから、1度目の渡英では「何を学んだ」とまでは言えないかもしれませんが、「帽子作りを学びたい」という思いだけ持って帰ってきました。そして2度、3度と渡英を重ねるうちに、もっと前のめりに、強く『この世界にいたい!もっと知りたい!』と考えるようになりました」。
神楽坂にある彼女のアトリエには、お客様に見せる見本の帽子や木型がずらりと並びます。どれも大切な職人の手しごとです。「イギリスではこの人に木型を作ってもらいたい!と思ったら何ヶ月でも待つ覚悟でお願いしていました。それか、蚤の市に木型が売りに出ることがあって、そこで手に入れたりするぐらいですね」とかおりさん。今では、自作の帽子型もあるそう。
ようやく長期のビザを取って、朝は語学学校へ行き、昼は師匠のもとで無償で働いて、夜にフリーランスとして請け負った日本の仕事をして生活費を作るというタイトな生活。それでも充実していたのは、「プルーデンスのもとでの学びが、それだけ貴重なものだったから」とかおりさんは語ります。

「プルーデンスは、すごく頑固で難しいところもあるけれど、すごくチャーミング。とにかく妥協のない人なんです。忙しいはずなのに、彼女の周りの時間はゆったりして見えるのも不思議でした。
彼女のもとで学んだことは、『ものを作る、ということがどういうことなのか』。帽子づくりの時間だけでなく、仕事の合間に話したこと、ファッションとか一緒に仕事をしてきたデザイナーの話…そこからものづくりのエッセンスを読み取るという時間が一番貴重だったと思いますね」。

なんとなく選んだロンドン。それが、最良の選択だった

「なにが美しいかどうかと感じるセンスって、実は“磨ける”ものだと私は思います。鍛えることができるから、実は感覚的なものとは違うのかもしれない。でも、それを知った上で、美しい!と思える納得できるものを作らないとなると、知識だけでもダメ。技術だけでもダメで、その両方が必要なんです。そういう意味で、イギリスはさすが大英帝国!と思わせる資料の量。大抵の博物館はいつも無料で入れるし、日本では考えられない近さで職人の作品を見ることもできたり、資料の詰まった図書館が近所にあったり。プルーデンスがいて、あの資料の数があって…ロンドンでの経験がなければ、今の私は確実にいないと思います」。

人にもモノにも敬意を払う、職人の伝統を大切に進化していきたい

日本に戻り、Kaori Milineryとしてブランドを立ち上げた前田さん。東京では様々な作家とのコラボレートも行っているそう。
「手製のものの凄みってやっぱり、伝わるものだと思います。だから私は、職人の持つ伝統的な手作りの手法をとても大事にしてるのですが、デザインはまた別。デザインの上で帽子がどう進化していけるか、というのは私も意識しているところです。

伝統的な手法は大事だけれど、同じものを作っていくのはつまらない。でも、新しいものをつくるには、古いものを知っていないといけない。帽子というのは、服を主役とした『その人のスタイル』をアシストするものだと思っています。それはつまり、『人をリスペクトする』ということにつながってきます。帽子は、かぶってもらわなければただのオブジェ。あくまで、かぶってくれる人が使いやすいものをというのが、私のモットーですね」。

大好きなテキスタイルから始まった、イギリスから日本に広がるご縁

英国高級服地マーチャント『ホーランド&シェリー』の生地スワッチ。
「渡英していた頃、いいウール系生地を置いてあったお店が閉店してしまって、新しい生地の仕入先を探さなければいけなくなったことがありました。仕入先を探しに入ったテキスタイルの展示会で『ホーランド&シェリー』という会社のブースにあった生地が素晴らしくて…。その後、名刺をもらった本社に行ったら、サヴィル・ロウのど真ん中、ルネサンス調の重厚な雰囲気のあるビルの最上階。歴史のある大きな会社だったんです(笑)。それでもそんなにキャリアのない私にも良くしてくれて、日本に帰る時は日本の代理店を紹介してくれました。

更にその代理店さんがとても気にかけてくれて、毎シーズンオーダー会を開いてくださるような販路を見つけてくださったり。本当に『ホーランド&シェリー』は恩人ですね。素敵なテキスタイルを見つけただけでなく、そんな風にご縁を持って帰れたのは本当によかったと思っています」。

ユーティリティ高くきちんとして見える、チャーチの靴がお気に入り

前田さんが愛用するチャーチのシューズ。
「わたし、歩くのが早いんです(笑)。だから普段から、スニーカーでたくさん歩きたいタイプです。このチャーチの靴は、普通のものとちょっと違ってソールがかなりしっかりしていて、ガシガシ歩けるのにちゃんとして見える。サイドゴアで脱ぎ履きがしやすいのもいいですね。
もともと、イギリスで見かけていいなあと思っていた形なのですが、日本では見つからず、昨年イギリスに行った時にお店を探し求めて買ってきました。
これが1足目のチャーチ。履いた後はシューキーパーできちんと形をキープしています。長く大切に履き続けたいですね」。


Text by Kaoru Tateishi
Photo by Kenji Yamada

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前田かおりさん

ミリナー
「Kaori Milinery」デザイナー
ロンドンで、伝統的な総手縫いによる制作手法を継承するミリナーの巨匠・プルーデンス氏のもとクチュールミリナー技術を習得。
ヴィヴィアン・ウエストウッドの帽子製作アシスタントや、オーストリア・ミュールバウアー社での研修を経て、「Kaori Milinery」を立ち上げる。

http://www.kaorimillinery.com/

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