2020年3月、コロナウイルス対策によって一気に増えた需要に応えるために、イギリスとアイルランド国内のウイスキー会社は一斉に消毒用エチルアルコールの生産を始めました。ウイスキーの生産は樽貯蔵が不可欠なので、何年も掛かりますが、その原料となるエチルアルコールの生産は、穀物の糖化、発酵、そして蒸留という過程を数日間で行うものです。つまり、ウイスキーの製造は何年も掛かりますが、その原酒は短期間に大量生産が可能なのです。飲料用アルコールが消毒用に転用されるほどの緊急事態ですから、せっかくのニューポット(熟成前の蒸留酒。ニューメイク、ニュースピリッツとも言う)が惜しい…と舌なめずりしていたら不謹慎ですよね。
ウイスキーの原酒エタノールは樽の中で酸化してアセトアルデヒドや酢酸に変化します。アセトアルデヒドの代謝レベルが高い(つまり、二日酔いになりにくい)アングロサクソンな体質の人々の話では、一日の締めくくりにグイっとナイトキャップを一杯傾けると、緊張感が一気にほぐれ快眠に導かれるということです。心身を再生させるシステムとしての睡眠を導入する媒体として、アルコール濃度の強いウイスキーは(個人差は否めませんが)少量でこそ生命を維持する上で有効な飲み物なのです。
☆「命の水」を語源にする蒸留酒の例(ご参考)
1.Aqua vitae:アクア・ヴィテ (ラテン語)8世紀
2.Akvavit : アクアヴィット(スカンジナビア諸国)
3.Eau de Vie : オードヴィ(フランス語) ブランデー
4.Uisge beatha : ウシュク・ベーハ (ゲール語)
(ゲール語:スコットランドやアイルランド在ケルト人による言語)
ウシュク・ベーハはウスケボーという訛りを経てウイスキー(Whisky:スコットランド産とWhiskey:アイルランド産)へと至ったという説が有力です。
また、古代中東では錬金術が発達する過程で生み出された蒸留法、すなわち、混合した液体を気化(蒸気化)することで、低沸点のアルコールと高沸点の水分とに分離して抽出された物体(純粋に近いアルコール)をその液体の神聖な本質と捉え、あたかも魂のごときスピリッツと言わしめた(のだろう)という説も見つけました。 そして、蒸留酒のすべて(ウォッカ、ジン、ラム、テキーラ、ブランデー、メスカル、ウイスキーなど)をスピリッツと呼び、さらにそのアルコール成分自体を神がかった呼び名で「酒精」と呼ぶようになったという説も語られています。
80年代の終わりには、ロンドン近郊に住む元上司宅でスコットランドの「原酒の会」からサブスクリプション購入していたアルコール濃度80度(市販は40度前後)のウイスキー原酒に触れたことがあります。また、骨董の取材をしていた2004年ごろにはジェームス・ボンド・シリーズ007の作者イアン・フレミングが所有していたと言われるウイスキー用デカンタとの出会いがありました。2014年にはまだ珍しかったウェールズのウイスキーを頂くこともあれば、去る2018年にはエジンバラ在住の友人が会員として所属するThe Scotch Malt Whisky Societyに招いてもらいました。そこでは、銘柄のない番号札と説明文が添付されただけのシングルモルトウイスキーのヴァッティング(モルト同士のブレンド)や、グレーンウイスキーとのブレンディングを啜(すす)らせてもらいましたので、今後は当方のウイスキー経験を皆さまと共有できたらと願っております。
さて、次回以降も数回に分けてウイスキーを語らせて頂きます。「ブランドの謎と意味と我が妄想」「健康とユニット(酒量単位)と医療」「嗜好品やデザートになるウイスキー・レシピ」「ウイスキーを感じる風景」「ウイスキーの生み出すアイテム」「放言と格言とストーリ―」などをテーマにする予定です。どうぞ、お楽しみに。
ある国に常駐するイギリス公館のバーカウンター。職員のための福利厚生施設として運営されています。海外駐在するイギリス人は在外勤務先でも本国と同じ生活スタイルの維持に執心します。画像はクリスマスの時期。このバーに訪れた人たち、招かれた人々は必ずこの光景を撮影します。
こちらも某国のイギリス大使館バーカウンターの内側。職員によるバー委員会によって毎週金曜日にのみ開催。ボランティアの交代制で、大使以下の職員がバーテンダーを勤めます。もちろん、新コロナ騒動以来どこの国でも金曜バーは閉鎖中で、開催の見込みはついていません。
マッサンとMACさん
ところで、2014年に日本のウイスキー作りがテーマとなった朝の連続ドラマがオンエアされていた頃、当方のことを思い出しながら観て下さったという声を多くの方々から聞き及びました。拙妻は設定されたヒロインと同じBritish(一応スコットランド起源の旧姓)ですし、当方のペンネームはドラマのタイトルに近い“MACさん”ですので、勝手に親しみを覚えたものです。そして、当方自身もこのドラマからウイスキーに関連する科学や文化、そして歴史的な背景に興味を抱きました。 キルン(窯)は、中世から近世まで続いた工業技術のひとつ。肥料用石灰の生産や、食料品の燻製だけでなく、ウイスキーにも欠かせないアイテムです。外に漂う煙のニオイで「このウイスキーは好みかも」とワクワクします。スモーキーフレーバーを作りだす施設は相当に強烈なニオイを放っています。
発酵酒と蒸留酒、飲み方の違い
まず、当方がウイスキーを好むようになった理由のひとつは、早く酔えるからなのですが、古代から先人たちも同じことを考えていたようです。ビールやワインのようなアルコール濃度の低い発酵酒を食事と一緒にまったりと飲む以外に、アルコール濃度の高い蒸留酒をグイっとあおって一気に気持ちよくなりたい人たちの需要が生み出されたことが、蒸留酒の発展した背景のひとつです。ウイスキーの原酒エタノールは樽の中で酸化してアセトアルデヒドや酢酸に変化します。アセトアルデヒドの代謝レベルが高い(つまり、二日酔いになりにくい)アングロサクソンな体質の人々の話では、一日の締めくくりにグイっとナイトキャップを一杯傾けると、緊張感が一気にほぐれ快眠に導かれるということです。心身を再生させるシステムとしての睡眠を導入する媒体として、アルコール濃度の強いウイスキーは(個人差は否めませんが)少量でこそ生命を維持する上で有効な飲み物なのです。
試飲って、量が少ないですよねえ
命の水から魂の水、精神の水へ
当方の心身をほぼ健全に維持してくれたという意味で、ウイスキーは真水と同様に生活を共にしてきた飲料のひとつです。その語源を辿ると「命の水」を意味するラテン語がゲール語やアイルランド語に翻訳されてウイスキーという言葉に辿り着いたという説明は、大手アルコール飲料企業のウェブサイトから容易に検索できます。ドイツ、フランス、ロシア、そして北欧でも蒸留酒は「命の水」を意味しています。☆「命の水」を語源にする蒸留酒の例(ご参考)
1.Aqua vitae:アクア・ヴィテ (ラテン語)8世紀
2.Akvavit : アクアヴィット(スカンジナビア諸国)
3.Eau de Vie : オードヴィ(フランス語) ブランデー
4.Uisge beatha : ウシュク・ベーハ (ゲール語)
(ゲール語:スコットランドやアイルランド在ケルト人による言語)
ウシュク・ベーハはウスケボーという訛りを経てウイスキー(Whisky:スコットランド産とWhiskey:アイルランド産)へと至ったという説が有力です。
エジンバラのThe Scotch Malt Whisky Societyにて。ブレンドしてもらったばかりのウイスキーのひと啜り(one sip)を味わった後、スポイトで一滴の水を垂らすと、あら不思議。舌触りがマイルドなウイスキーに変身。
また、古代中東では錬金術が発達する過程で生み出された蒸留法、すなわち、混合した液体を気化(蒸気化)することで、低沸点のアルコールと高沸点の水分とに分離して抽出された物体(純粋に近いアルコール)をその液体の神聖な本質と捉え、あたかも魂のごときスピリッツと言わしめた(のだろう)という説も見つけました。 そして、蒸留酒のすべて(ウォッカ、ジン、ラム、テキーラ、ブランデー、メスカル、ウイスキーなど)をスピリッツと呼び、さらにそのアルコール成分自体を神がかった呼び名で「酒精」と呼ぶようになったという説も語られています。
ウイスキーボトルを眺めて…
幸いなことに、公共医療機関NHSを支えるイギリスの国庫に迷惑を掛けることもなく、40年近くウイスキーを嗜(たしな)み続けております。しかし、味、風味、刺激、そしてアルコール度数が自分に合うかどうか、あるいは妥協できるかどうかということ以外は、銘柄などに大したコダワリはありません。美味いと思ったら高級品だったというオチはたまにあることですが、日ごろから口にする分には高級志向でもありません。むしろ、日本の国産ウイスキーが次第に美味しさを増しながら、同時に安価になっていく40年間の過程を楽しめたのは貴重な経験でした。在英生活を始めた1980年代以来、たまに日本に戻って口にしていた和ウイスキーは、イギリスのウイスキーとは少し違った飲み物に感じられたものです。しかし、今や当時から楽しんでいた和ウイスキーの多くが高級品となり、毎日飲めるような常備品ではなくなってしまいました。 拙宅にはウイスキーボトルが常に2~3種。ここに辿り着いたボトルたちは、なぜか長居してくれません。画像はイギリス大使館公邸4番館に住んでいた2015年ごろに頂戴したウェールズのウイスキー「ペンダリン」。 駐日ウェールズ開発公社の職員さんに聞いた話では、当時、このボトルは日本には3本しかなかったとのこと。大変に貴重なものを頂いた自覚もなく、遠慮なく飲んでしまった自らの無知な行為に冷や汗が出てきました。海の香りがする幻想的なウイスキー。このシリーズでも皆さまにご紹介することで、少しはウェールズにも貢献したいと思います。
80年代の終わりには、ロンドン近郊に住む元上司宅でスコットランドの「原酒の会」からサブスクリプション購入していたアルコール濃度80度(市販は40度前後)のウイスキー原酒に触れたことがあります。また、骨董の取材をしていた2004年ごろにはジェームス・ボンド・シリーズ007の作者イアン・フレミングが所有していたと言われるウイスキー用デカンタとの出会いがありました。2014年にはまだ珍しかったウェールズのウイスキーを頂くこともあれば、去る2018年にはエジンバラ在住の友人が会員として所属するThe Scotch Malt Whisky Societyに招いてもらいました。そこでは、銘柄のない番号札と説明文が添付されただけのシングルモルトウイスキーのヴァッティング(モルト同士のブレンド)や、グレーンウイスキーとのブレンディングを啜(すす)らせてもらいましたので、今後は当方のウイスキー経験を皆さまと共有できたらと願っております。
さて、次回以降も数回に分けてウイスキーを語らせて頂きます。「ブランドの謎と意味と我が妄想」「健康とユニット(酒量単位)と医療」「嗜好品やデザートになるウイスキー・レシピ」「ウイスキーを感じる風景」「ウイスキーの生み出すアイテム」「放言と格言とストーリ―」などをテーマにする予定です。どうぞ、お楽しみに。
MAC木下の著書「イギリス大使館の地下室から」は、2020年8月1日から印刷した製本でお読み頂けることになりました。ご興味のある方のアクセスをお待ちしております。
書名「イギリス大使館の地下室から」
サブタイトル: 公開外交公文書からたどる駐日イギリス公館ものがたり
価格1,980円(税別)
お求めの際はこちらのウェブにアクセス下さい。
マック木下
ロンドンを拠点にするライター。96年に在英企業の課長職を辞し、子育てのために「主夫」に転身し、イクメン生活に突入。英人妻の仕事を優先して世界各国に転住しながら明るいオタク系執筆生活。趣味は創作料理とスポーツ(プレイと観戦)。ややマニアックな歴史家でもあり「駐日英国大使館の歴史」と「ロンドン の歴史散歩」などが得意分野。主な寄稿先は「英国政府観光庁刊ブログBritain Park(筆名はブリ吉)」など英国の産品や文化の紹介誌。