フレーバーについて考えてみた
ウイスキーのフレーバーを表現する言葉を調べて、以下のように当方なりに8つの表現を考えてみました。と言っても、一般的に使われている専門用語を当方なりに解釈したものです。フルーティ、フローラル、スモーキー、消毒液っぽい、ウッディ、レジン(樹液)、硫黄、潮騒の8種類。
ウイスキーをたしなんできた経験や記憶の範囲なので、ご専門の皆様が指摘するほど詳細でもなければ、表現も多くもありません。「まろやかな」風味もあれば、「うま味」「渋み」などの五味に関するテイストもあるほかに、辛味など五味とは異なった刺激もありますので、包括的な意味でフレーバーと表現すべきかもしれないと考えました。そして、それぞれのウイスキーにマッチングする(すればいいな)と、当方が思うおつまみも紹介します。

フルーティ、フローラル
最初に示したフルーティと言えば、日本のウイスキーです。余市や山崎などちょいと高めのウイスキーでなくても、庶民的な明石、陸、富士山麓なども爽やかな柑橘系の香りを感じさせます。おつまみはドライフルーツ、コンポート、旬の果物が合います。フローラルタイプのウイスキーについては。当方の経験した種類は少なく、エジンバラのグレンキンチーのみ。おつまみは思いつきませんが、食前酒にできるほど軽い当たりだったという記憶があります。スモーキー
スモーキーは前回で少し述べたとおり、製麦の際に泥炭(ピート)に燻(いぶ)された麦芽から生み出されるモルト・ウイスキーのフレーバーです。当方の好みはシングル・モルトの標準と言われるグレン・リベット。つまみには燻製ものが並びます。燻製した鯖やニシンの他、冷燻したタラコや明太子で作ったタラマサラタ・ディップに、スティック野菜(大根、ニンジン、スナップえんどうなど)を付けて食べては、ウイスキーをすするというもの。ご要望あれば、ディップのレシピを紹介します。実は、このレシピ、どんなお酒にも合います。
ところで、モルト・ウイスキーと言っても、当方が知るだけでも4種類あります。濃淡の差こそあれ、どれも口に含むとスモーキーフレーバーが鼻腔空間を通り抜けます。
モルト・ウイスキー:大麦麦芽(モルト)を原料にした発酵モロミをポット・スチルで蒸留して樽貯蔵。
1.シングル・カスク:ひとつの樽のみで造られる。
2.シングル・モルト:ひとつの蒸留所のモルトから造られる。
3.ヴァッテド・モルト:複数の蒸留所のモルトをブレンド。Vatは桶。vatted malt.
4つ目として、ブレンデッド・ウイスキー:モルト酒とグレーン(穀物)酒とのブレンド。再貯蔵

消毒液っぽい
30年ほど前の日本でもイギリスでも、病院に行けば大部屋の入り口前に置かれていた消毒液のニオイは決して快適な気分にさせるものではありませんでしたから、ウイスキーのフレーバーの一種であることは意外ですよね。銘柄はラフロイグとか、ベン・リアックですが、当方のように若いころにスポーツで怪我ばかりしていた者は、過去の苦い思い出を呼び起こすので、あの頃の悔しさや感傷に浸るにはいいのかもしれません。また、特にこのフレーバーを好む友人がいますが、彼はすするだけで、no nibbles. just sip itと言って、つまみものを必要としません。まさに体内をアルコール消毒しているかのような飲みっぷりでした。
ウッディとレジン(樹液)
樽がウイスキーのフレーバーに与える影響は2つあるとのこと。確かに樹木の香りなのですが、新しい木と、熟成を何度か重ねた木とでは、異なるフレーバーを醸し出している気がします。新しい木樽を使ったウッディは鉛筆の削りカスのような、木工所で香るおがくずのような新鮮な自然臭です。専門家からのお叱りを覚悟で、レジンとカテゴライズしたのは、松脂(まつやに)と似て非なる風味を感じることがあるから。エジンバラのウイスキーソサイエティで頂いたものでしたが、銘柄が判りません。「世界ウイスキー大図鑑」にはスペイサイド産のバルヴェニーとグレンセロスが紹介されています。前者はアメリカンオークの樽で10年、カスク樽に移し替えて2年熟成させるそうです。使う樽の種類を聞いただけで美味しさが期待できます。もうひとつ付け加えますと、熟成を何度か重ねた木を使った樽からは、タンニンの含有量が多いので、スパイシーでワインのような香りが感じられます。手軽に入手できるグレンフィディックはその一つだと思います。適したおつまみはバニラの香りのもの、ナッツやナッツ入りのケーキでしょうか。
硫黄
感覚が敏感になっている時に、どのウイスキーにも感じられる香りですが、体調によってその香りも微妙に変化します。特に硫黄の香りが感じられることの多いウイスキーと言えば、当方の場合はザ・マッカランだと思います。マッカラン自体はシェリー樽を使うものが多いので、フローラル且つフルーティな風味も口腔内に漂います。おつまみと言えば、やはりナッツでしょうか。ところで、専門家によるフレーバーの種類の中でも、どうしてもピンと来ないフレーバーの中に「オイリー」があります。オイル自体の香りの違いはあれども、濃厚な胡麻油の香りを含んだ胡麻焼酎を彷彿とさせる強い風味。黒エール(スタウト?)で言えば、ネズミが車を運転するデザインのオールド・エンジン・オイルに似ています。
このフレーバーを好む人は相当に頑健な身体と精神力をお持ちではないだろうかと想像するほど、強烈なフレーバーです。他のウイスキーとの違いは判るけど、当方にはインパクトが強すぎます。ちなみに、オイリーと呼ばれるウイスキーはハイランドのダルモア、ジュラ島のジュラ、そしてアイルランドのいくつかの銘柄です。経験上、合うと思われる食べ物はバターをふんだんに使ったビスケット、濃厚なチーズ、クリームなどです。ちょいと胸焼けになってしまいそうですが・・・。

潮騒の香り
最後は、当方の好物。シリーズの中で何度か画像に登場してきたウェールズのウイスキー、ペンダリンは口に含むと、信じられないことに、本当に海の香りがします。以前、ノーサンバランドの記事でも紹介したサムファイア(シーアスパラガス)という干潟に生息する塩辛い海藻の一種を口に含んでかじった時と同じ香りでした。もちろん、とても微妙な香りです。シングル・モルトのペンダリンにはレジェンド、ピーテッド、ミスの3種の銘柄があり、その中でもミスは熟成がバーボンの樽で行われるせいかどうか、独特の余韻を残します。口の中に放り込んだチョコレートをウイスキーで溶かすのが好きな当方には、特にチョコレートに合うウイスキーではないかと思います。冷燻の牡蠣、生牡蠣に合うと言う人もいます。


Text&Photo by M.Kinoshita


マック木下
ロンドンを拠点にするライター。96年に在英企業の課長職を辞し、子育てのために「主夫」に転身し、イクメン生活に突入。英人妻の仕事を優先して世界各国に転住しながら明るいオタク系執筆生活。趣味は創作料理とスポーツ(プレイと観戦)。ややマニアックな歴史家でもあり「駐日英国大使館の歴史」と「ロンドン の歴史散歩」などが得意分野。主な寄稿先は「英国政府観光庁刊ブログBritain Park(筆名はブリ吉)」など英国の産品や文化の紹介誌。