今年のイギリスのクリスマスは、確信犯的に早まっている。店のショーウィンドウで今年初めてクリスマス・ツリーを見たのは10月20日頃のことだった。近年はハロウィーンが終わって一拍子おいてからクリスマス・ムードになっていくのが通常だったので、ここ10年ほどで最も早い登場である。スーパーでも11 月になるかならないかのうちにクリスマス商品が出揃った。今年は自宅で過ごすことになる人が多いので、早めに祝祭気分を盛り上げようということなのだろう。
人は自由を制限されてストレスを感じると、「もっと美味しいものを食べたい!」「もっと生活に素敵なものを取り入れたい!」という「好き」を貪欲に追求したいという欲望に駆られるようだ・・・少なくとも私の場合はそういう傾向にあり、ついついお気に入りの飲食店やショップに頻繁に出入りすることになってしまう。
そのうちの一つがご近所にあったものだから大変。その店に足しげく通ううちに、思いもよらぬ展開になっていったので・・・今回はそのことをシェアしてみたい。
創業者はイギリス人女性のエミリーさん。1年後にアパレル業界にいたトルコ系男性でのちに旦那様となるレドワンさんが合流。現在二人三脚で経営されている。現在のところMahalaで扱っているのは、自社ブランドのファッション・アイテムやスキンケア用品・キャンドル、英国やヨーロッパのヴィンテージ雑貨、トルコのラグやクッション生地、雑貨、インドのアルチザン・ブランケットなどなど。
こうして書き上げるとてんでバラバラな印象を受けるかもしれないのだが・・・Mahalaの世界は創業者であるエミリーさんの目利きによって、素晴らしくキュレートされているのだ!
そしてある日、ふらっと訪れてみると・・・こんな光景に出くわした。
左側の男性・・・アジア人だけど、どこの出身だろう? 無国籍な外見ゆえに思わず英語で話しかけてしまったのだが、なんと日本の方だったのである。(右はエミリーさんの友人でスタッフでもあるルーシーさん)
ウェブ用の商品撮影をしていたようなのだが、私はすっかりお店に溶け込んでしまい、(とびきり美味しい)お茶までいただきながら話し込んでしまうこととなった。
この日本人男性との会話は知的好奇心を刺激されるもので、人柄も穏やかで経歴も面白そうだと感じ、俄然ジャーナリスト魂が沸き立ったのであるが「僕のことは(今は)あまり出さないでください」とのことで残念ながら彼自身をここで紹介することはできない。しかし私はこの男性の手引きで、Mahalaの自社アパレル・ブランド「Roomi Apparel」でも使っている、布地の卸し問屋を訪ねることになったのである。
東ロンドンはもちろん、ロンドンの各所から買い付けに来るアパレルやインテリアの業者も多いのだろう。個人客もたくさんいる。通常のショップと同様、誰でも買いにくることができるので、布地が必要なら覗いてみる価値は十分にある。
Woolcrest Textileのオーナーさんはキプロス出身のトルコ人だそうだ。ロンドンに暮らす移民は、数で言うとインド、パキスタン系が圧倒的に多く、続いてジャマイカ、カリブ系が続くはずで、トルコ系は全体で言うと多数派ではないはずなのに、私はなぜかトルコ系の人とご縁が深い。
それは私が住む北ロンドンにトルコ、キプロス系(同時にギリシャ系も)の大きなコミュニティがあるということだけが理由ではないと思う。ロンドンで起業するトルコ人は、圧倒的に飲食や服飾系の人が多く、筆者のカバーする領域に重なっているからだと見ている。
トルコは繊維・服飾産業が盛んな国で、縫製でもヨーロッパのアパレル産業に貢献している。ロンドン市内の小売店舗を見ても、私たち日本人の感性に合う庶民派の服や靴のデザインものは、気をつけて見ているとトルコ系オーナーのショップであることが多い(もちろん個人的な感覚だが)。
北ロンドンの何もない場所でトルコ人創業者が人知れず起したクラフト・ジーンズのBlackhorse Lane Atelierなんかも、数年前までは知る人ぞ知るジーンズ屋さんという感じだったけれど、今や日本にまで輸出するブランドに成長している。ひとえに真面目な国民性とテキスタイルの伝統、確かなクラフトマンシップが成せる技なのではないかと思っている。
彼はあっという間にエミリーさんにコンタクトをとり、あれよあれよと言う間に、今度はMahala創業者へのインタビューの日取りを決めてしまった。そして私はとある秋の日の午後(Mahalaで購入したお気に入りのマフラーを首に巻いて)ハックニーのショップ兼ご自宅へとお邪魔することになったのだった・・・。
到着するとエミリーさんの「あら、そのマフラー!」という嬉しそうな第一声に迎えられた。
彼女はもともとアクセサリー・デザイナーで、ヴィンテージのキャンバス地などを使ったナチュラルな風合いのバッグを作っていたそうだ(その素敵なバッグはMahalaでも扱っているのだが、現在は3歳の男の子とつい先日生まれたばかりの次男くんの子育て中で、制作を小休止されているとのこと)。
「第二次世界大戦頃のものや、ときに100年もののミニタリー・キャンバス地を使って作るバッグです。キャンバス生地はとても頑丈で、古い革用のミシンを使っているの。時が経つにつれて生地にも風合いが加わってくるのよ。どこか壊れても、持ってきてもらえれば修理します。こういった長持ちするものを使い続けることで、人はものを大切にする気持ちを育んでいくと思います」
エミリーさんは何年かのちに、インテリア・デザイナーへと転向した。レストランやバーなど主に飲食業界のインテリアを5、6年に渡って手がけてきたが、 クライアントの要望を取り入れていると結局自分のカラーを出すことは難しいことに気づき「やはり自分の店を持ちたいと思ったんです」。
「Mahalaは、私が好きなものだけを集めてキュレートした店です。私が選ぶものを嫌いだって言う人がいても、自分のお店なら置いても問題ないでしょう? 私自身もインテリアをやっていたときよりも自分を表現できているし、お客さんもその方が断然嬉しいはずなの」とにこやかに話す。
なるほどイギリス人は物を大切にする傾向が強いですよね? と同意を促すと、彼女はどうかしらね?と言う顔をしてこう答える。
「私の両親の世代などは、イケアで家全体の家具を揃えることに全く抵抗がないんですよね。2 for 1(2つで1つの値段)なんて売り文句にもすごく弱いですし(笑)。むしろ私たちの世代の方が、もっと環境問題その他に意欲的に取り組んでいると思います。私は廃材を再利用するのも得意なんですよ」
このハックニーの一号店の床も、元はコンクリートだったけれど、廃材だった木を使って知り合いの大工さんに頼んで敷いてもらったそうだ。北ロンドンの店の壁も古いウッドパネルのまま残した。「私たちが止めなければ木材も全部捨てられるところでした。ほとんど自分たちでデコレーションしたので、改装費も格段にリーズナブルだったのよ」
「夫がトルコ人なので、現地に行って直接話し合い、信頼関係を築いています。ある年配の男性などは、今ではまるで夫のお父さんみたいな存在なんですよ。洋服は東ロンドンのテイラーさんとの契約で作っています。彼はもともと40年以上に渡ってコートを作っている職人で、 コートは1970年代の型を使ってもらっています」
エミリーさんがヴィンテージ生地を使ってバッグを作ったり、昔の型を使って洋服を作ったりしているのは、現代風に言うと「アップサイクル」にあたるのだろう。これは彼女が本質的に持っている「「もったいない」精神から来ている活動であり、子供の頃の<手作り>の経験とも繋がっている。
「店を始めた当初は予算も限られていたので、母から『あるものを使いなさい』とアドバイスを受けたことは大きいですね。私自身、テキスタイルが大好きなので長年に渡って集めていたものが大量にありました。それを使って何かしようと思ったんです。
祖母はお針子だったの。縫い物は祖母から習いました。祖母は編み物も得意で私に教えようとしたけど、私自身は何ヵ月もかけて編むだけの忍耐がなくて(笑)デザインの方に興味を持ったのね。母は今でこそアーティストなのですが、昔は織物をしていて、子供の頃は大きな織り機が家にありました。私の周りにはその頃からたくさんの美しい手工芸があったんです」
私はこのあたりで、自分がMahalaの大ファンであること、行けば何か買わざるをえないほど、その世界にとても強く惹かれていることなどを告白した。それに対してエミリーさんは「ありがとう」と目を輝かせながら、Mahalaが持つヴィジョンについて話してくれた。
「Mahalaは私の子供のようなもので、今は夫婦二人でやっていることが本当に好きでたまらない。店を訪れる人にお茶を出し、話をして、お客さんがいずれ友人になるような店にしていきたい。私たちが扱っているものは、本当に自分たちが好きなものばかり。だからお客さんにも好きでいて欲しい。人の心に訴える何かを扱いたいと思っているのです」
その日、すでにロンドンは2度目のロックダウンに突入していたのだが、店は開いていた。またしても商品撮影をしていたのだ。私はジャグを受け取るだけのつもりで訪れたのだが、そこにはレドワンさん、日本人のMさん、ルーシーさんが全員勢揃いしており、とても温かく迎えてくれた。
「スープを飲むかい?」
レドワンさんにそう勧められ、私は有り難くエミリーさんが作ったという美味しいレンズ豆のスープとパン、そしてデザートにビスケットまでいただきながら、またしても前回同様、その場にとどまっておしゃべりに興じてしまったというわけ。
https://www.youtube.com/watch?v=e-f3zGKM9T4&t=91s
彼はこう語ってくれた。
「毎日が新しい1日です。問題があっても、その都度解決すればいいだけです。今こんなときこそ問題に煩わされることなく、リラックスして、好きな音楽でも聞いていましょう。周りの人と幸せに過ごし、人とのつながりを強めて互いに助け合うのです」
先陣を切る! ご近所ベーカリーのショーウィンドウです。
私が暮らすロンドンでは12月初旬まで1ヵ月のあいだ2度目のロックダウンを実施中だが、夏から秋にかけては規制が緩まり、街はつかの間の賑わいを取り戻した。職業柄あっちへこっちへと忙しく歩きまわったのだけれど、人との交流は楽しくお店を見てまわったりレストランで食事をしたりといったことは、もはや私たちにとって欠かせない生活一部ではないかと思う。自由を制限されることで当たり前だと思っていた人の営みの尊さを、かえって思い起こさせられる時期だ。人は自由を制限されてストレスを感じると、「もっと美味しいものを食べたい!」「もっと生活に素敵なものを取り入れたい!」という「好き」を貪欲に追求したいという欲望に駆られるようだ・・・少なくとも私の場合はそういう傾向にあり、ついついお気に入りの飲食店やショップに頻繁に出入りすることになってしまう。
そのうちの一つがご近所にあったものだから大変。その店に足しげく通ううちに、思いもよらぬ展開になっていったので・・・今回はそのことをシェアしてみたい。
ライフスタイル・ショップMahala。ロックダウン中の外観です。
そのショップは、Mahalaと言う。北ロンドンの小さなヴィレッジに昨年登場しているライフスタイル・ブランドだ。もともと2015年に東ロンドンのハックニーで産声をあげ、新たなマーケットを開拓するため、ご縁のあった北ロンドンに2号店を出すことになったのである。創業者はイギリス人女性のエミリーさん。1年後にアパレル業界にいたトルコ系男性でのちに旦那様となるレドワンさんが合流。現在二人三脚で経営されている。現在のところMahalaで扱っているのは、自社ブランドのファッション・アイテムやスキンケア用品・キャンドル、英国やヨーロッパのヴィンテージ雑貨、トルコのラグやクッション生地、雑貨、インドのアルチザン・ブランケットなどなど。
こうして書き上げるとてんでバラバラな印象を受けるかもしれないのだが・・・Mahalaの世界は創業者であるエミリーさんの目利きによって、素晴らしくキュレートされているのだ!
手前に見えているのが自社開発のソープ。他社にも卸しはじめたところ。
統一感のある店内。どのアイテムを選ぶかは、ご自宅のインテリア次第。
ヨーロッパのお宅でもとびきり洗練されたアクセントになりそうなクッションたち。
ヨーロッパのヴィンテージ雑貨たち。日本の民芸にも通じるでしょう?
Mahalaで扱うどの商品の生地も、すべて自然素材です。
仕入れする国に関係なくエミリーさんのキュレーション・センスが発揮されます!
あぁMahala。私自身、昨年のオープン以来、何度ここを訪れただろうか。店に入ったときの高揚感と言ったら。訪れるたび何かしら必ず購入してしまうので、最近は足を向けるタイミングに気をつけるようにしているほどだ。そしてある日、ふらっと訪れてみると・・・こんな光景に出くわした。
ウェブ用の商品撮影をしていたようなのだが、私はすっかりお店に溶け込んでしまい、(とびきり美味しい)お茶までいただきながら話し込んでしまうこととなった。
この日本人男性との会話は知的好奇心を刺激されるもので、人柄も穏やかで経歴も面白そうだと感じ、俄然ジャーナリスト魂が沸き立ったのであるが「僕のことは(今は)あまり出さないでください」とのことで残念ながら彼自身をここで紹介することはできない。しかし私はこの男性の手引きで、Mahalaの自社アパレル・ブランド「Roomi Apparel」でも使っている、布地の卸し問屋を訪ねることになったのである。
ハックニーで布地のトレジャー・ハンティング!
その卸し兼小売業者「Woolcrest Textiles」は、東ロンドンのハックニーにあった。大通りに面しているのだが、少し奥まっているので人目につきにくい。かの日本人男性Mさんによると「ほぼ9割の人が迷う」とのこと。私は1割の迷わなかった一人。この辺りは昔よく来たエリアで、懐かしさを感じつつその店の前に立った。 無愛想な外観。昔のハックニーらしい倉庫の趣。
天井高い・・・倉庫ですね。
気が遠くなりそうな膨大な数の布地です! 種類としては100種をくだらないとか。
歩いて2分くらいの距離にロンドン・ファッション大学の分校があることから、学生さんも多い。
地下にもたっぷり。必要になればクレーンで上の階まで持ち上げます。
あれ。エ、Mさん!?
25 年に渡ってこの地で営業を続けるWoolcrest Textileの倉庫然とした店内を一通り見て頭をよぎったのは、「トレジャー・ハント」と言う言葉だった。自分の感性とお店の人のアドバイスさえあれば、ソーホーの Birwick Street界隈で売っているのと同等のクオリティの布地を格安で入手することができる。 東ロンドンはもちろん、ロンドンの各所から買い付けに来るアパレルやインテリアの業者も多いのだろう。個人客もたくさんいる。通常のショップと同様、誰でも買いにくることができるので、布地が必要なら覗いてみる価値は十分にある。
Woolcrest Textileのオーナーさんはキプロス出身のトルコ人だそうだ。ロンドンに暮らす移民は、数で言うとインド、パキスタン系が圧倒的に多く、続いてジャマイカ、カリブ系が続くはずで、トルコ系は全体で言うと多数派ではないはずなのに、私はなぜかトルコ系の人とご縁が深い。
それは私が住む北ロンドンにトルコ、キプロス系(同時にギリシャ系も)の大きなコミュニティがあるということだけが理由ではないと思う。ロンドンで起業するトルコ人は、圧倒的に飲食や服飾系の人が多く、筆者のカバーする領域に重なっているからだと見ている。
トルコは繊維・服飾産業が盛んな国で、縫製でもヨーロッパのアパレル産業に貢献している。ロンドン市内の小売店舗を見ても、私たち日本人の感性に合う庶民派の服や靴のデザインものは、気をつけて見ているとトルコ系オーナーのショップであることが多い(もちろん個人的な感覚だが)。
北ロンドンの何もない場所でトルコ人創業者が人知れず起したクラフト・ジーンズのBlackhorse Lane Atelierなんかも、数年前までは知る人ぞ知るジーンズ屋さんという感じだったけれど、今や日本にまで輸出するブランドに成長している。ひとえに真面目な国民性とテキスタイルの伝統、確かなクラフトマンシップが成せる技なのではないかと思っている。
ナチュラルなスタイルと素材が人気のRoomi Apparel。ユニセックスで老若男女を問わずフィットするデザインが多い。
さて、Woolcrest Textileにも出入りしているらしい日本人男性Mさんは(自分への興味の矛先を別に向けようと)またしても唐突に私にこう提案したのだ。「エミリーにインタビューしてみたらどうですか? きっと面白い話が聴けますよ」と。 彼はあっという間にエミリーさんにコンタクトをとり、あれよあれよと言う間に、今度はMahala創業者へのインタビューの日取りを決めてしまった。そして私はとある秋の日の午後(Mahalaで購入したお気に入りのマフラーを首に巻いて)ハックニーのショップ兼ご自宅へとお邪魔することになったのだった・・・。
もったいない精神とスローでエシカルなファッション
ハックニーの1号店は、Well Streetと言う長〜い通りの東端にある。Well Streetはよく知る通りだが、こんなに長いとはこの日まで知らなかった。ちなみにWoolcrest は通りの西端に位置している。到着するとエミリーさんの「あら、そのマフラー!」という嬉しそうな第一声に迎えられた。
彼女はもともとアクセサリー・デザイナーで、ヴィンテージのキャンバス地などを使ったナチュラルな風合いのバッグを作っていたそうだ(その素敵なバッグはMahalaでも扱っているのだが、現在は3歳の男の子とつい先日生まれたばかりの次男くんの子育て中で、制作を小休止されているとのこと)。
「第二次世界大戦頃のものや、ときに100年もののミニタリー・キャンバス地を使って作るバッグです。キャンバス生地はとても頑丈で、古い革用のミシンを使っているの。時が経つにつれて生地にも風合いが加わってくるのよ。どこか壊れても、持ってきてもらえれば修理します。こういった長持ちするものを使い続けることで、人はものを大切にする気持ちを育んでいくと思います」
エミリーさんは何年かのちに、インテリア・デザイナーへと転向した。レストランやバーなど主に飲食業界のインテリアを5、6年に渡って手がけてきたが、 クライアントの要望を取り入れていると結局自分のカラーを出すことは難しいことに気づき「やはり自分の店を持ちたいと思ったんです」。
「Mahalaは、私が好きなものだけを集めてキュレートした店です。私が選ぶものを嫌いだって言う人がいても、自分のお店なら置いても問題ないでしょう? 私自身もインテリアをやっていたときよりも自分を表現できているし、お客さんもその方が断然嬉しいはずなの」とにこやかに話す。
なるほどイギリス人は物を大切にする傾向が強いですよね? と同意を促すと、彼女はどうかしらね?と言う顔をしてこう答える。
「私の両親の世代などは、イケアで家全体の家具を揃えることに全く抵抗がないんですよね。2 for 1(2つで1つの値段)なんて売り文句にもすごく弱いですし(笑)。むしろ私たちの世代の方が、もっと環境問題その他に意欲的に取り組んでいると思います。私は廃材を再利用するのも得意なんですよ」
このハックニーの一号店の床も、元はコンクリートだったけれど、廃材だった木を使って知り合いの大工さんに頼んで敷いてもらったそうだ。北ロンドンの店の壁も古いウッドパネルのまま残した。「私たちが止めなければ木材も全部捨てられるところでした。ほとんど自分たちでデコレーションしたので、改装費も格段にリーズナブルだったのよ」
エミリーさん。11月半ばに第二子を出産したばかり!
店で取り扱うアイテムについては、自分たちでアンティーク・マーケットを回って買い付けしているのに加えて、信頼のおけるサプライヤーさんたちとの関係の中から生まれているのだという。「夫がトルコ人なので、現地に行って直接話し合い、信頼関係を築いています。ある年配の男性などは、今ではまるで夫のお父さんみたいな存在なんですよ。洋服は東ロンドンのテイラーさんとの契約で作っています。彼はもともと40年以上に渡ってコートを作っている職人で、 コートは1970年代の型を使ってもらっています」
エミリーさんがヴィンテージ生地を使ってバッグを作ったり、昔の型を使って洋服を作ったりしているのは、現代風に言うと「アップサイクル」にあたるのだろう。これは彼女が本質的に持っている「「もったいない」精神から来ている活動であり、子供の頃の<手作り>の経験とも繋がっている。
「店を始めた当初は予算も限られていたので、母から『あるものを使いなさい』とアドバイスを受けたことは大きいですね。私自身、テキスタイルが大好きなので長年に渡って集めていたものが大量にありました。それを使って何かしようと思ったんです。
祖母はお針子だったの。縫い物は祖母から習いました。祖母は編み物も得意で私に教えようとしたけど、私自身は何ヵ月もかけて編むだけの忍耐がなくて(笑)デザインの方に興味を持ったのね。母は今でこそアーティストなのですが、昔は織物をしていて、子供の頃は大きな織り機が家にありました。私の周りにはその頃からたくさんの美しい手工芸があったんです」
私はこのあたりで、自分がMahalaの大ファンであること、行けば何か買わざるをえないほど、その世界にとても強く惹かれていることなどを告白した。それに対してエミリーさんは「ありがとう」と目を輝かせながら、Mahalaが持つヴィジョンについて話してくれた。
「Mahalaは私の子供のようなもので、今は夫婦二人でやっていることが本当に好きでたまらない。店を訪れる人にお茶を出し、話をして、お客さんがいずれ友人になるような店にしていきたい。私たちが扱っているものは、本当に自分たちが好きなものばかり。だからお客さんにも好きでいて欲しい。人の心に訴える何かを扱いたいと思っているのです」
北ロンドン店で夫のレドワンさんが、トルコの古い祭祀用の伝統着をデコレーションとして壁にかけようとしているところ。
袖が長い!内側まで美しい布で覆われています。スタッフのルーシーさんが実際に着てみてくれたのは興味深かった。
エミリーさんへのインタビューを終えてから数日後、私はふたたび北ロンドンのMahala を訪れた。実はインタビュー後にヴィンテージの大きなジャグを購入してしまい(エミリーさんの写真に写ってます!)彼女が親切にも「重いから北ロンドン店まで夫に届けさせるので、そこに取りにくるといいわ」と言ってくださったのだ。その日、すでにロンドンは2度目のロックダウンに突入していたのだが、店は開いていた。またしても商品撮影をしていたのだ。私はジャグを受け取るだけのつもりで訪れたのだが、そこにはレドワンさん、日本人のMさん、ルーシーさんが全員勢揃いしており、とても温かく迎えてくれた。
「スープを飲むかい?」
レドワンさんにそう勧められ、私は有り難くエミリーさんが作ったという美味しいレンズ豆のスープとパン、そしてデザートにビスケットまでいただきながら、またしても前回同様、その場にとどまっておしゃべりに興じてしまったというわけ。
レドワンさん
実はロックダウン前、ロンドンがティア2規制だったときに、レドワンさんに小ビジネスのオーナーさんとしてその思いを語っていただき、動画に収めた。ご興味あればぜひこちらをご覧いただきたい(レドワンさんが登場するのは後半です)。https://www.youtube.com/watch?v=e-f3zGKM9T4&t=91s
彼はこう語ってくれた。
「毎日が新しい1日です。問題があっても、その都度解決すればいいだけです。今こんなときこそ問題に煩わされることなく、リラックスして、好きな音楽でも聞いていましょう。周りの人と幸せに過ごし、人とのつながりを強めて互いに助け合うのです」
Mahala
https://mahala.co.uk
Woolcrest Textiles
6 Well Street, London E9 7PX
江國まゆ
ロンドンを拠点にするライター、編集者。東京の出版社勤務を経て1998年渡英。英系広告代理店にて主に日本語翻訳媒体の編集・コピーライティングに9年携わった後、2009年からフリーランス。趣味の食べ歩きブログが人気となり『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房)を出版。2014年にロンドン・イギリス情報を発信するウェブマガジン「あぶそる〜とロンドン」を創刊し、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活について模索する日々。