あけましておめでとうございます。
クリスマスの頃に、このコラムの読者の方からメールをいただきました。先月ご紹介したイギリスのクリスマスに食べるスイーツがとても珍しく興味深かったとのことで、「日本にいてはわからない、イギリスのクリスマスの様子をもっと知りたい。」と書かれていました。
確かに、私もイギリスに住むようになって、最初の数年は特に、日本とのクリスマスの習慣の違いに、おおいに面白がったり、不思議がったりしていたことを思い出しました。
そこで今日は、イギリスのクリスマスの様子について、まだご紹介していなかったことをお話ししたいと思います。
6日を過ぎて飾っておくことは縁起がよくないと言われているので、6日には一斉にご近所からクリスマスの電飾が消えてしまいます。冬至は過ぎているとはいえ、まだまだ日が短く、4時ごろには暗くなってしまう日々なので、突然クリスマスの華やぎがなくなるこの時期は、少し物寂しさを感じます。
多くの家庭がこの習慣にしたがっているため、6日の朝には生木のクリスマスツリーが歩道のあちこちに置かれているのを見かけます。地域によってツリーのリサイクル収集日が決められていますが、それまではお役目を終えたクリスマスツリーがちょっと疲れた感じで横たわっているのも例年の光景です。
ところで、この習慣には従わず、2月までクリスマスツリーを飾っている人がいます。それは、エリザベス女王。女王は父親であるジョージ6世が亡くなった2月6日まで、毎年クリスマスツリーを飾ったままにしておくのだそうです。
その紙製の王冠は、イギリスのクリスマスには欠かせない「クリスマスクラッカー」の中に入っているのです。クリスマスクラッカーは、筒状のキャンディのような形をしたもの。クリスマスディナーをいただく前、両手を交差させて、テーブルの隣に座っている人とクラッカーの片方の端同士をもち、一気に引っ張ると、「パンッ」という大きな音がして中味が出てくる、というしくみです。
紙の王冠をかぶると、誰もがちょっとおどけているようにみえて、クリスマスをともに過ごす時間が和やかな雰囲気になる気がします。
このクリスマス・クラッカー、始まりはヴィクトリア時代だといいます。スイーツのお店を経営していたトーマス・スミス(Thomas Smith)という人がパリで見た、ボンボンを薄紙で包んで両端をひねって包んだものからヒントを得て作ったものです。
現在ではいくつか別の種類が販売されていますが、オリジナルは「クオリティ・ストリート(Quality Street)」という名前の詰め合わせです。
1936年にマッキントッシュ社から発売されました(現在はネスレ社)。赤、黄、ピンク、青、緑、オレンジと、まるで宝石箱を開けた時のような、鮮やかなセロファンの包み紙に包まれたチョコレートとトフィー(キャラメル)は、特に子供にとっては、心はずむもの。だからこそ、今でも子供時代の思い出がなつかしくて、毎年今でもクオリティ・ストリートを2つ3つと買うという人たちも少なくありません。
一つ一つ、形と中身が違っていて、人によって好みが違うので、家族で「私はこの色が好き。」などと言い合いながらつまむのが楽しいのです。家族内に同じものを好きな人が多いと問題ですが、幸いなことに我が家は好みがバラバラ。ちなみに私は、細長いトフィーをチョコレートで包んだ「トフィーフィンガー」がお気に入りです。
かつてはイラスト付きの缶に入って売られていたということで、その缶にも子供時代のクリスマスの思い出を重ねる人も多いようです。古い缶はヴィインテージマーケットなどで人気の品となっています。
たとえば、文字を組み合わせて言葉を作って、点数を競う「スクラブル」。小さな子供がいる家庭なら「スネーク&ラダー(蛇とはしご)」という双六風ゲーム。もちろん、モノポリーも根強い人気があります。
我が家では、今年は「クルード(CLUEDO)」というゲームで遊びました。これは、「犯人・凶器・殺害現場」を当てる推理系ボードゲームです。
以前、親戚の家でこのゲームをやって面白さに目覚めた娘が、義弟家族にリクエストして、クリスマスプレゼントとしてもらったものです。1940年代にイギリスで作られたものといいますが、こういうゲームが今でも人気があるというのは、やはりシャーロック・ホームズやミス・マープルが生み出されたお国柄かもしれません。
「テリー」という愛称を付けてしまうほど、イギリス人はテレビ好きとして知られているので、当然かもしれません。その上、BBCをはじめ、各放送局がオンデマンドでの視聴可能になっているので、テレビ番組の選択肢もますます広がっています。
この時期には、日本と同様、クリスマス特番や過去の人気番組のクリスマス特集の再放送などもたくさん放映されました。
個人的には「アップスタート・クロウ(Upstart Crow)」という、若きシェイクスピアを主役にしたコメディ番組のクリスマス特番が気に入りました。「アップスタート・クロウ」は、シェイクスピア没後400年記念としてBBCで放映されたコメディシリーズで、シェイクスピアの作品を引用しながら、それを面白おかしくコメディに仕立てたものです。第3シリーズの放送は2018年で終わっているのですが、クリスマス特番として、ペストがロンドンを襲った時の状況下でのシェイクスピアの暮らしを現代のパンデミックになぞらえて番組が作られました。
ロックダウン状況下での撮影だったためか、大勢の出演者でにぎわっていたこれまでのシリーズと違い、出演者は2名のみ。パンデミックという厳しい状況を、こうしてコメディに、それもシェイクスピアを主役にして番組を作ってしまうところに、イギリスらしさを感じたのは私だけではなかったと思います。
日本からは視聴できないかもしれませんが、機会があれば、ぜひご覧になってみてください。
https://www.bbc.co.uk/iplayer/episode/m000qrsx/upstart-crow-lockdown-christmas-1603
クリスマスの頃に、このコラムの読者の方からメールをいただきました。先月ご紹介したイギリスのクリスマスに食べるスイーツがとても珍しく興味深かったとのことで、「日本にいてはわからない、イギリスのクリスマスの様子をもっと知りたい。」と書かれていました。
確かに、私もイギリスに住むようになって、最初の数年は特に、日本とのクリスマスの習慣の違いに、おおいに面白がったり、不思議がったりしていたことを思い出しました。
そこで今日は、イギリスのクリスマスの様子について、まだご紹介していなかったことをお話ししたいと思います。
十二夜
あまり知られてないことですが、イギリスのクリスマスは12月25日で終わりではありません。正確には十二夜と呼ばれる1月5日まで続いています。なので、それまではツリーをはじめとするクリスマスのデコレーションはそのまま飾られています。6日を過ぎて飾っておくことは縁起がよくないと言われているので、6日には一斉にご近所からクリスマスの電飾が消えてしまいます。冬至は過ぎているとはいえ、まだまだ日が短く、4時ごろには暗くなってしまう日々なので、突然クリスマスの華やぎがなくなるこの時期は、少し物寂しさを感じます。
多くの家庭がこの習慣にしたがっているため、6日の朝には生木のクリスマスツリーが歩道のあちこちに置かれているのを見かけます。地域によってツリーのリサイクル収集日が決められていますが、それまではお役目を終えたクリスマスツリーがちょっと疲れた感じで横たわっているのも例年の光景です。
ところで、この習慣には従わず、2月までクリスマスツリーを飾っている人がいます。それは、エリザベス女王。女王は父親であるジョージ6世が亡くなった2月6日まで、毎年クリスマスツリーを飾ったままにしておくのだそうです。
イギリスでは大人も子供もクリスマスが待ち遠しい。
クリスマスクラッカー
私が初めてイギリスでクリスマスを過ごした時、いちばん気に入ったもののひとつがクリスマスクラッカーでした。12月になって、レストランの窓越しにテーブルを囲んでいる人々が、紙でできた王冠をかぶっているのを見て、「あの人たち、どうしてあんな格好しているんだろう?」と不思議に思っていました。そして、当時、ホームステイをしていた家族と一緒にクリスマスを過ごしてみて、みんながそれをかぶっている謎がとけました。その紙製の王冠は、イギリスのクリスマスには欠かせない「クリスマスクラッカー」の中に入っているのです。クリスマスクラッカーは、筒状のキャンディのような形をしたもの。クリスマスディナーをいただく前、両手を交差させて、テーブルの隣に座っている人とクラッカーの片方の端同士をもち、一気に引っ張ると、「パンッ」という大きな音がして中味が出てくる、というしくみです。
紙の王冠をかぶると、誰もがちょっとおどけているようにみえて、クリスマスをともに過ごす時間が和やかな雰囲気になる気がします。
このクリスマス・クラッカー、始まりはヴィクトリア時代だといいます。スイーツのお店を経営していたトーマス・スミス(Thomas Smith)という人がパリで見た、ボンボンを薄紙で包んで両端をひねって包んだものからヒントを得て作ったものです。
紙の王冠とおもちゃ、ジョークが出てくるクリスマスクラッカー。これがなくてはクリスマスディナーは始まらない。
チョコレートの詰め合わせ
ハロウィンの頃、プラスチック製の大きな容器に入ったチョコレートの詰め合わせがスーパーに山積みされると「もうすぐクリスマス」の合図です。現在ではいくつか別の種類が販売されていますが、オリジナルは「クオリティ・ストリート(Quality Street)」という名前の詰め合わせです。
1936年にマッキントッシュ社から発売されました(現在はネスレ社)。赤、黄、ピンク、青、緑、オレンジと、まるで宝石箱を開けた時のような、鮮やかなセロファンの包み紙に包まれたチョコレートとトフィー(キャラメル)は、特に子供にとっては、心はずむもの。だからこそ、今でも子供時代の思い出がなつかしくて、毎年今でもクオリティ・ストリートを2つ3つと買うという人たちも少なくありません。
一つ一つ、形と中身が違っていて、人によって好みが違うので、家族で「私はこの色が好き。」などと言い合いながらつまむのが楽しいのです。家族内に同じものを好きな人が多いと問題ですが、幸いなことに我が家は好みがバラバラ。ちなみに私は、細長いトフィーをチョコレートで包んだ「トフィーフィンガー」がお気に入りです。
かつてはイラスト付きの缶に入って売られていたということで、その缶にも子供時代のクリスマスの思い出を重ねる人も多いようです。古い缶はヴィインテージマーケットなどで人気の品となっています。
ふたを開けた途端に鮮やかな色が目に飛び込んでくるクオリティ・ストリート。子供でなくたって、この色を見たらワクワクせずにはいられない。
ボードゲーム
イギリスでもコンピューターや各種デバイスを使ったゲームは、もちろん大人にも子供にも人気です。でも、クリスマスには、家族でボードゲームで遊ぶという習慣は、まだまだ廃れていません。たとえば、文字を組み合わせて言葉を作って、点数を競う「スクラブル」。小さな子供がいる家庭なら「スネーク&ラダー(蛇とはしご)」という双六風ゲーム。もちろん、モノポリーも根強い人気があります。
我が家では、今年は「クルード(CLUEDO)」というゲームで遊びました。これは、「犯人・凶器・殺害現場」を当てる推理系ボードゲームです。
以前、親戚の家でこのゲームをやって面白さに目覚めた娘が、義弟家族にリクエストして、クリスマスプレゼントとしてもらったものです。1940年代にイギリスで作られたものといいますが、こういうゲームが今でも人気があるというのは、やはりシャーロック・ホームズやミス・マープルが生み出されたお国柄かもしれません。
容疑者には幽霊まで登場するボードゲーム「CLUDE」。結構頭を使うので、クリスマスで飲み過ぎた人にはあまり向かないかも?
テレビ視聴
ネットサーフィンやネットフリックス視聴など、現代では、クリスマスディナーの後にリビングのソファに座ってやることはいくらもあります。それでもいまだに、テレビを見ることもクリスマスに欠かせないアクティビティのひつと言っても間違いではありません。「テリー」という愛称を付けてしまうほど、イギリス人はテレビ好きとして知られているので、当然かもしれません。その上、BBCをはじめ、各放送局がオンデマンドでの視聴可能になっているので、テレビ番組の選択肢もますます広がっています。
この時期には、日本と同様、クリスマス特番や過去の人気番組のクリスマス特集の再放送などもたくさん放映されました。
個人的には「アップスタート・クロウ(Upstart Crow)」という、若きシェイクスピアを主役にしたコメディ番組のクリスマス特番が気に入りました。「アップスタート・クロウ」は、シェイクスピア没後400年記念としてBBCで放映されたコメディシリーズで、シェイクスピアの作品を引用しながら、それを面白おかしくコメディに仕立てたものです。第3シリーズの放送は2018年で終わっているのですが、クリスマス特番として、ペストがロンドンを襲った時の状況下でのシェイクスピアの暮らしを現代のパンデミックになぞらえて番組が作られました。
ロックダウン状況下での撮影だったためか、大勢の出演者でにぎわっていたこれまでのシリーズと違い、出演者は2名のみ。パンデミックという厳しい状況を、こうしてコメディに、それもシェイクスピアを主役にして番組を作ってしまうところに、イギリスらしさを感じたのは私だけではなかったと思います。
日本からは視聴できないかもしれませんが、機会があれば、ぜひご覧になってみてください。
https://www.bbc.co.uk/iplayer/episode/m000qrsx/upstart-crow-lockdown-christmas-1603
イギリス版TVガイドともいえる雑誌『Radio Times』。1923年創刊という歴史ある週刊誌。年に一度、クリスマス時期のダブル・イシューと呼ばれる2週間分の特別号だけを買うと言う人も多い。
マクギネス真美
英国在住20年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。
音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。
ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』にてコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。
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