7月11日(日)午後8時からフットボールの2020年欧州選手権(ユーロ2020)の決勝戦が、ロンドンのウェンブリー・スタジアムで開催されました。
決勝を戦ったのは、イングランドとイタリア。1対1のまま延長戦を終えてPK戦となり、3対2でイタリアが優勝したことは、すでにご存知の方も多いと思います。
決勝トーナメントに進む頃には、メディアでは“It’s coming home(Football’s coming home)”というフレーズが何度も使われ、フットボール(のトロフィー=栄誉)がその生誕地(イングランド)に帰ってくるという期待感が高まっていました。
ちなみに“It’s coming home”というのは、イングランドが開催地だった1996年のユーロ1996の際に作られた「スリー・ライオンズ」という曲の歌詞から来ています。
そして実は、今回のイングランド代表の指揮をとったギャレス・サウスゲイト監督はユーロ1996のイングランド代表選手の一人でした。準決勝でドイツと対戦したイングランドはPK戦で敗退。そのとき、ギャレス・サウスゲイト監督のシュートがドイツのゴールキーパーに止められてしまったという苦い思い出があるのです。
また、2018年のワールドカップロシア大会では、やはりギャレス・サウスゲイト監督率いるイングランド代表が、28年ぶりに準決勝に進出するも、残念ながら敗退。それが今回は決勝にまで進んだということで、イングランドの人々の興奮ぶりは最高潮に達していました。
中でも驚いたのは、イングランドの複数の学校で、決勝戦翌日の月曜日の登校時間を、通常より遅くしていいという決定がなされたことでした。理由は、日曜夜遅くまで試合観戦をした子供たちに、翌日の朝寝を許可するため。それらの学校では、決勝戦を観戦することは「プライドやレジリエンスを学ぶ貴重な機会」「家族と過ごす大切な時間」と考えられていたのです。
「どこで」「誰と一緒に」試合を観戦するか、そのときにどんな会話がなされ、どんな気持ちになったのか。そのことが思い出となって、それぞれの人の記憶に何年も残り続ける。それがイングランドのフットボールなのです。
そうした努力にもかかわらず、今回の決勝戦のPK戦で得点できなかったマーカス・ラッシュフォード、ジェイドン・サンチョ、ブカヨ・サカに対して、試合後、SNS上でひどい中傷がありました。それに対し、ギャレス・サウスゲイト監督はじめ、イングランドサッカー協会(FA)は許せない行為と厳しく非難しています。キャプテンのハリー・ケインも「SNSで中傷をするような人はイングランドファンではないし、自分たちはそんなファンはいらない。」と抗議しています。
イングランドのみならず、イギリス全土で知られていることですが、マーカス・ラッシュフォードは、昨年のロックダウンの際、貧困家庭救済のための学校給食を夏休み中も継続するよう政府に呼びかけ、それを実現させたという功績があります。彼はこれ以前からも積極的にチャリティ活動を行ってきたことが知られていますが、実はラッシュフォードだけでなく、イングランド選手のほとんどが、チャリティ活動に取り組んでいます。そうした彼らの姿は、子供たちにも影響を与えているに違いありません。
一方で、選手たちの努力と勇気を讃え、感謝を伝えるメッセージもたくさん伝えられています。マーカス・ラッシュフォードはツイッターで、子供のファンたちから決勝戦の翌日に送られてきた手紙を披露。そこには「あなたは素晴らしい。」「私はあなたを誇りに思うし、いつだってヒーローです。」などというメッセージが綴られていました。
我が家の子供たちに翌日の学校での様子を聞くと、誰もが皆、選手たちに同情的で、責めたりひどいことを言っている人はいなかったそうです。
それを聞いて安心すると同時に、それはもしかしたら、イングランドの監督、選手みんなが、チーム一丸となって戦い、負けたときにも誰かを責めるのではなく、お互いをかばいあい、労りあうという姿を見せてくれたからこそ、子供たちがその姿勢を学んだのだという気がしました。まさにイングランドチームが、子供たちの「ロールモデル」となっていたのです。
決勝戦には負けてしまったけれど、ユーロ2020におけるイングランドチームは、人間としての誠実さ、優しさ、そしてチームとして心を合わせてひとつになって目標に向かうことの大切さを、見ている人々に伝えてくれたのだと思います。
決勝を戦ったのは、イングランドとイタリア。1対1のまま延長戦を終えてPK戦となり、3対2でイタリアが優勝したことは、すでにご存知の方も多いと思います。
55年ぶりの快挙を目指して
イングランドが勝てば、1966年にW杯で優勝して以来、55年ぶりの国際主要大会での栄誉ということで、この決勝戦についてのイングランド内での盛り上がりは大変なものでした。それを証明するかのように、BBC と ITVという二つのテレビ局で放送された試合は、最高時には3,095万という視聴数だったと発表されました。決勝トーナメントに進む頃には、メディアでは“It’s coming home(Football’s coming home)”というフレーズが何度も使われ、フットボール(のトロフィー=栄誉)がその生誕地(イングランド)に帰ってくるという期待感が高まっていました。
ちなみに“It’s coming home”というのは、イングランドが開催地だった1996年のユーロ1996の際に作られた「スリー・ライオンズ」という曲の歌詞から来ています。
また、2018年のワールドカップロシア大会では、やはりギャレス・サウスゲイト監督率いるイングランド代表が、28年ぶりに準決勝に進出するも、残念ながら敗退。それが今回は決勝にまで進んだということで、イングランドの人々の興奮ぶりは最高潮に達していました。
中でも驚いたのは、イングランドの複数の学校で、決勝戦翌日の月曜日の登校時間を、通常より遅くしていいという決定がなされたことでした。理由は、日曜夜遅くまで試合観戦をした子供たちに、翌日の朝寝を許可するため。それらの学校では、決勝戦を観戦することは「プライドやレジリエンスを学ぶ貴重な機会」「家族と過ごす大切な時間」と考えられていたのです。
決勝戦観戦に向けて子供たちが作ったイングランド応援カップケーキ。
今回、私がユーロ2020をイギリスで(テレビでですが)観戦しながら感じたのが、まさにそのことでした。家族やイギリスの友人たちが「○○年の大会の時には、弟とトーナメント表を紙に書いて壁に貼っていた」とか「○○の試合をおじいちゃんおばあちゃんの家で一緒に見ていた」などと、うれしそうに話すのを聞くたびに、今回の大会だけでなく、イングランドにおけるフットボールの試合(特に国際主要大会)は、選手だけでなく、見ている人ひとりひとりにとって、一生涯忘れられない思い出になるものなのだということを知ったのです。「どこで」「誰と一緒に」試合を観戦するか、そのときにどんな会話がなされ、どんな気持ちになったのか。そのことが思い出となって、それぞれの人の記憶に何年も残り続ける。それがイングランドのフットボールなのです。
出場選手の顔写真シールをコレクションして貼り付けるアルバム。これも子供たちの思い出に残っていくのだろう。
ロールモデルとしての選手たち
また、イングランドチーム各人の言動が、子供たちをはじめ、社会に影響を与えることをギャレス・サウスゲイト監督は強く意識し、「ロールモデル」であることを自身にも選手にも課していました。その一つが、試合前に選手たちが片膝をついたポーズで人種差別に対する抗議を示すことでした。残念ながら、フットボール選手への人種差別、特にオンライン上での中傷はなくなりません。でも、イングランドチームは一丸となって、人種差別に断固として抗議を続けることで、サポーターや国民にメッセージを伝え続けてきました。そうした努力にもかかわらず、今回の決勝戦のPK戦で得点できなかったマーカス・ラッシュフォード、ジェイドン・サンチョ、ブカヨ・サカに対して、試合後、SNS上でひどい中傷がありました。それに対し、ギャレス・サウスゲイト監督はじめ、イングランドサッカー協会(FA)は許せない行為と厳しく非難しています。キャプテンのハリー・ケインも「SNSで中傷をするような人はイングランドファンではないし、自分たちはそんなファンはいらない。」と抗議しています。
Three lads who were brilliant all summer had the courage to step up & take a pen when the stakes were high. They deserve support & backing not the vile racist abuse they’ve had since last night. If you abuse anyone on social media you’re not an @England fan and we don’t want you. pic.twitter.com/PgskPAXgxV
— Harry Kane (@HKane) July 12, 2021
一方で、選手たちの努力と勇気を讃え、感謝を伝えるメッセージもたくさん伝えられています。マーカス・ラッシュフォードはツイッターで、子供のファンたちから決勝戦の翌日に送られてきた手紙を披露。そこには「あなたは素晴らしい。」「私はあなたを誇りに思うし、いつだってヒーローです。」などというメッセージが綴られていました。
— Marcus Rashford MBE (@MarcusRashford) July 12, 2021
それを聞いて安心すると同時に、それはもしかしたら、イングランドの監督、選手みんなが、チーム一丸となって戦い、負けたときにも誰かを責めるのではなく、お互いをかばいあい、労りあうという姿を見せてくれたからこそ、子供たちがその姿勢を学んだのだという気がしました。まさにイングランドチームが、子供たちの「ロールモデル」となっていたのです。
決勝戦には負けてしまったけれど、ユーロ2020におけるイングランドチームは、人間としての誠実さ、優しさ、そしてチームとして心を合わせてひとつになって目標に向かうことの大切さを、見ている人々に伝えてくれたのだと思います。
決勝戦翌朝の新聞の一面はすべてイングランドチーム。
マクギネス真美
英国在住20年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。
音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。
ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』にてコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。
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