倒された奴隷商人銅像のゆくえ ーBlack Lives Matter | BRITISH MADE

English Garden Diary 倒された奴隷商人銅像のゆくえ ーBlack Lives Matter

2021.09.16

2020年5月、アメリカのミネソタ州ミネアポリスで黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警察に逮捕され、死亡した事件が起こりました。そしてそれは、警官が長時間にわたってジョージさんの首を押さえつけたことが彼の死につながったのだと伝えられました。これをきっかけに、世界中で黒人に対する人種差別反対運動が広がり、各地で抗議デモが行われたことを覚えていらっしゃる方も多いはずです。

イングランド南西部に位置するブリストルでも、約1万人が抗議デモに集まったと言われています。

ロンドンから電車で約2時間弱の距離にあるこの港湾都市は、かつては大西洋三角貿易の拠点の一つで、アフリカ奴隷貿易の玄関口として栄えた場所です。
ブリストル港にかかる橋は黒人奴隷Pero Jonesさんを記念して「ペロの橋 」と呼ばれている。
2020年6月、その街の抗議活動の様子が世界中のニュースで伝えられたのは、ブリストル市街の中心地にあった銅像が引き倒されたときでした。

銅像の人物はエドワード·コルストン(Edward Colston)。コルストンは、17世紀にブリストルを拠点に貿易で巨額の財を築き、国会議員も勤めた人物です。コルストンが関わった会社が手がけた貿易の中に奴隷の取引が含まれていて、子供を含めた約10万人をアフリカからアメリカへ奴隷として送ったと言われています。

コルストンは貿易で富を得て以降、慈善家として病院や学校をはじめとして多額の寄付を行い、地元ブリストルの発展に大きく貢献しました。そのため、市内には彼の名を冠した建物、学校、通り、パブなどがあります。そして、銅像は1895年から市の中心地に存在していました。

とはいえ、コルストンが奴隷商人であったことから、市内に銅像があることにはかねてから数十年に渡り、賛否両論がありました。また、2020年の抗議デモ以前から奴隷商人の名前をつけていることへの論議がされていた「コルストン・ホール」という建物は、2020年9月には「ブリストル・ビーコン」という名称に変更されています。

そのコルストン像がロープを使って台座から引き倒されたのは2020年6月7日、抗議デモの2日目でした。その後、銅像は市内を転がしながら引き回され、ブリストル港に投げ入れられました。

この動画では銅像が引き倒される様子を見ることができます。

さて、水中に投げ入れられた銅像のその後はどうなったと思いますか?

実は、4日後の6月11日に銅像は港から引き上げられ、今年の6月から来年の1月まで、ブリストルにある博物館エム·シェッド(M shed)の “The Colston statue: What next?”という展覧会で一般公開されています。エム·シェッドはブリストルの歴史、文化、産業などについての展示がされている博物館で、以前から奴隷貿易の歴史を伝えるコーナーもありました。
ブリストル港沿いに立つ博物館Mshed。
今回の展覧会では、ペンキで汚された横たわるコルストン像の他に、抗議デモ当日に人々が掲げたプラカードなどが展示されています。また、コルストンの経歴やブリストルの奴隷貿易の歴史、そして今回の抗議行動についての詳細な説明も知ることができるようになっています。
エドワード・コルストンの銅像が立っていた台座。現在は何も置かれていない。
‘The Colston statue: What next?’の入口には行列ができるほどの人気だった。
展覧会にはデモ抗議で使われたポスターやプラカードの展示も。
会場では銅像は横たわる形で展示されている。
銅像に描かれた落書きはそのままの形で残されている。
この展示は一時的なものと位置付けられていて、今後、この銅像をどうするべきかを市民に問いかけるもの、ここから対話を初めていきたいとブリストル市議会は考えているそうです。というのも、銅像を元に戻すべき、と言う人もいれば、博物館に展示してこの歴史を伝えていくべき、という人もいたりと意見はさまざまだからです。

会場では、アンケートに答えて自分の意見を伝えることができます。質問は「今後、この銅像を博物館に展示すべきか?」「コルストンの銅像が置かれていた台座は今後どうするべきか?」などで、展覧会に足を運べない人はオンラインでの意見投稿も可能です。

私は展覧会を見た後に、現時点での自分の考えをアンケートに記入してきました。さて、あなたは今後、この銅像をどうするべきだと思いますか?

*オンラインでのアンケートはこちらからどうぞ

エム・シェッド(M Shed)
住所:Princes Wharf, Wapping Rd, Bristol BS1 4RN
開館時間:10~17時(月曜休)
入場料:無料
ウェブサイト:https://www.bristolmuseums.org.uk/m-shed

Photo&Text by Mami McGuinness


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マクギネス真美

マクギネス真美

英国在住20年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。
音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。

ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』にてコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。

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