フリーランスとして働いていると、オフィスとしての自宅から飛び出し、全く別の環境に身をおきたいという誘惑に常に駆られている。
パンデミックで多くの皆さんが自宅勤務を謳歌されていると思うが、オフィスの存在を恋しく思っているフリーランスたちは少なからずいるものだ。気分転換が可能な広い家に住んでいるとしても、自宅だと雑事や雑念から離れることができないのが悩ましいところなのである(洗濯とか掃除とかね)。
というわけで私自身は週に4日程度は外に出かけ、カフェなどで仕事をする毎日である。コワーキング・スペースに所属することを考えたこともあるけれど、ロンドンの四方八方を訪れ新しい情報を仕入れ、カフェを体験することも仕事の一部ではあるので、未だに加入せずじまい。カフェなら月々決まった金額を支払う必要もないし、特定の場所に縛られることもない。
オフィスとしてのカフェの使い勝手は、当たり前だがそれぞれの店によるし、時間帯にもよる。不思議と仕事がはかどるカフェと、そうでないカフェがある。ただしオフィスとして優秀であることは、必ずしもオーナーの幸せではないのかもしれないけれど。
目下のところ私のお気に入りは、ホテルのラウンジで仕事をすること。これは実に気持ちがいい。ホテルのサービスはカフェのそれとは異なるレベルにあり、椅子やテーブルの質、トイレの清潔さも含めて施設のクオリティが違う。上等のホテルで、たった数ポンドのコーヒーという対価で仕事をしてしまうとなかなかカフェに戻れなくなってしまう。
カフェで1時間以上仕事をする場合は2杯目のドリンクを注文することにしているが、それでも次第に居心地悪く感じることがあるのに比べ、ホテルでそれはほとんどない。スタッフは常に丁寧で顧客第一の姿勢を貫いてくれるからだ。というわけで一流のオフィスを借りているような体験ができるホテル・ラウンジは一押しである。
そんなノマド・ワーカーな私なのだが、ときにもっと違うレベルの外オフィスで静かに仕事をしてみたいとも思っていた。そんな私にある日、理想のオフィスがもたらされることになったのだ……。
外から様子を伺うと仕事もはかどりそうだったので、店名もチェックせずさっそく中に入ってみた。するとこう告げられたのだ。「ここはSoho Houseが経営する施設の一つだから、利用するには会員になる必要がある」と。
Soho House!
Soho Houseと言えば泣く子も黙る会員制クラブだ。と言うのは少し大げさだが、ロンドンに住むフーディーたちはもちろん、クオリティ・ライフを求める都市部の富裕層なら「ああ、Soho Houseね」とすぐにわかる飲食店やホテルを運営するクラブで、会員でなくても一部レストランやホテルは利用できるので大抵のロンドナーなら知っている。ハリー王子やニコール・キッドマン、デミアン・ハーストなどが会員だというと、何となくイメージできるだろうか。
Soho Houseはブランド名通り1995年にSohoで立ち上がったビジネス。そのスタイリッシュかつ特権的なイメージ戦略でスノッブな人々を魅了してきた。
調べてみると、我が町にできたのはSoho Studioと呼ばれる施設の一つで、現在のところロンドン市内(つまりUK内)にまだ5箇所しかないラウンジ兼コワーキング・スペースのようなものだとわかった。中心部に二つ、東に一つ、西に一つ、そして北に一つ。南はブリクストンにもうじき誕生する予定だと言う。海外ではバルセロナ、ローマ、ベルリン、シカゴなどにある。
特権的なイメージのあるSoho Houseの年会費がいくらくらいするのか、調べたこともなく知らなかったのだが、何か直感が働き「これは何らかの新しいオファーなのではないか?」と思って調べてみると、予感は的中。2020年秋から新しいメンバーシップ・レベル「Soho Friends」が登場していることがわかった。
Soho Friends はなんと、年会費100ポンド(約15000円)ぽっきり。これにはかなり驚いた。胸を高鳴らせながらさらに調べると、コア・メンバーシップであるSoho Houseクラブのメンバーと同様、多くの施設へアクセスできるだけでなく(Houseと呼ばれる施設はNG)、レストランやホテルの利用割引やイベントへのアクセス権までついている。年間100ポンド? もってけバーゲンである。即入会手続きを開始した。
5日程度の審査期間を経て承認され、晴れて町のStudioへ。そこで夢のオフィスに出会う私なのだった……(笑)。
メンバーズクラブのようなものにはほとんど興味のなかった私が、メンバーシップのメリットを初めて体験したのが、Soho Friendsであると、ここであえて告白しておこう。
もともとSoho Houseは上質クオリティで知られる会員制クラブ。Soho Studioにもしっかりとその理念が反映され、末端で利用する私のようなフリーランスにもその素晴らしさがよくわかる。
午前中はラップトップ族がたくさんやってくるが、それでも通常のカフェに比べると格段に静かだし設備も整い働きやすい。そしてこれはSoho Houseの特徴なのだが、トレンドを抑えた各種フード&ドリンクが美味しい。あくまでもシンプルで飽きのこないメニューを揃え、丁寧な調理でツボを突いてくる。ホテル並みのサービスの良さは言わずもがな。Studioそのものがオフィス利用を前提として運営されているということもあり、カフェと違ってここなら堂々とラップトップを広げて仕事もできる。もう最高なのである。
その他の地域にあるSoho Studioにも俄然興味が湧き(笑)、さっそく体験してみることにした。
こちらの記事をはじめ複数のメディアによると、Soho Houseグループは今年7月、自社株3000万株を公開株とし、約430億円を超える利益を生み出して負債の返済に充てたとある。
この大規模な新規株式公開は既存の会員に少なからぬインパクトを与えたようだ。つまりSoho Houseがもはや限られた富裕層のためのものでなくなり、大衆に歩み寄っていくディレクションを採用したということのようだ 。
ロサンゼルスやマイアミを含め世界10ヵ国28箇所にプライベート・クラブを所有し、11万人を超える会員がいるSoho Houseも(新規会員選抜のウェイティング・リストも長い)、利益を生み出す組織でなかったという事実には正直驚いた。パンデミック期以前からすでに多額の負債を抱え、株式公開前は800億円以上の負債があったそうだ。
営業が不可能となったロックダウン期には9割の従業員を職務停止(ファーロー)せざるを得ない状況となったが、失った会員はほんの1割程度にとどまった。これは業界ではパンデミック期を克服した成功例とみなされている。つい先日会った友人は長らくSoho Houseクラブの会員だったが、パンデミック期に施設が使えなくなったことから会員を辞めたと言っていたので、この1割の中の一人ということになる。
ちなみにSoho Houseクラブの正規会員は、現時点で 年間1000ポンド(約15万円)程度を支払っている人たちだ(かつてはもっと高かったらしい)。年間100ポンドで7割方同じ権利にアクセスできるSoho Friendsのことを知ったら、正規会員たちきっといい気はしないに違いない。
つまりSoho Houseの方向転換=大衆化を象徴的に表しているのが、Soho Friendsというメンバーシップなのである。
今年6月のフィナンシャル・タイムズの記事では、Soho Houseは新規株式公開でキャッシュを注入し、さらに2023年までに18件の新規施設を増やす計画だとある。株式公開は組織を活性化することに繋がり、投資家からパンデミック後の事業計画へ承認が下りたということなのだろう。
こちらの記事によると今年4月の時点でSoho Friends には6000件の申請があり4000件が受理されたとある。現在は数倍になっているはずだが、それでもまだ世界で数万人しかいないメンバーの一人だと思うと特別感はある。これがメンバーシップの醍醐味なのだろう。
Soho Houseはもともとクリエイティブな分野で成功している人たちを取り入れるプライベート・クラブだった。そのコンセプトはSoho Friendsにも反映されてはいるものの、Soho Houseは既存施設を利用できる人口を増やしたいはずなので、今後はもっと門戸を広げていくはず。
前掲フィナンシャル・タイムズの記事でコメントしていた専門家によると、パンデミックを機に変化したワーク・スタイルが、Soho Houseのこの新しい方向性を後押しするだろうと言っている。確かに自宅勤務者の数が現在のまま維持されれば、私のようなノマド・ワーカーも増えていくはずだし、Soho Studioのようなコワーキング・ラウンジは願ってもないオプションなのだ。
個人的に時代を感じたのは、Sohoにある老舗レストランKettner’sをSoho Houseが数年前に買収し、現在は1階の一部をStudioとして開放していること。Kettner’sはロンドンで初めてのフランス料理店として150年前にオープンして以来、王様や詩人、作家などの常連を迎えながら老舗としての貫禄を培ってきた。その文化的な歴史を好むロンドナーは多く、Soho Houseは歴史ごとKettner’sを買ったのだ。
自分が暮らす町にSoho Studioができなければ、今もおそらくSoho Houseに深い興味は持っていなかったと思う。時代は変わり、一般庶民もプライベート・クラブの一端を垣間見ることができるようになった。パンデミックがもたらしたチャンスだとも言えるだろう。これからどんな風にメンバーシップが変化していくのか、内部から注目していきたい。
パンデミックで多くの皆さんが自宅勤務を謳歌されていると思うが、オフィスの存在を恋しく思っているフリーランスたちは少なからずいるものだ。気分転換が可能な広い家に住んでいるとしても、自宅だと雑事や雑念から離れることができないのが悩ましいところなのである(洗濯とか掃除とかね)。
というわけで私自身は週に4日程度は外に出かけ、カフェなどで仕事をする毎日である。コワーキング・スペースに所属することを考えたこともあるけれど、ロンドンの四方八方を訪れ新しい情報を仕入れ、カフェを体験することも仕事の一部ではあるので、未だに加入せずじまい。カフェなら月々決まった金額を支払う必要もないし、特定の場所に縛られることもない。
オフィスとしてのカフェの使い勝手は、当たり前だがそれぞれの店によるし、時間帯にもよる。不思議と仕事がはかどるカフェと、そうでないカフェがある。ただしオフィスとして優秀であることは、必ずしもオーナーの幸せではないのかもしれないけれど。
ラグジュアリーな擬似オフィス体験ができるラウンジ
私が住む北ロンドンの町はフリーランス人口が多く、朝8時台から一斉にどのカフェもオフィス化する。ラップトップ族がそれぞれに好みカフェのお気に入りの席に陣取り、仕事に取り掛かる。私はどちらかというとランチ後に外に出ることが多いのだけど、午前中から外(カフェ)オフィスに行くほうが絶対に効率がいい気がしている。目下のところ私のお気に入りは、ホテルのラウンジで仕事をすること。これは実に気持ちがいい。ホテルのサービスはカフェのそれとは異なるレベルにあり、椅子やテーブルの質、トイレの清潔さも含めて施設のクオリティが違う。上等のホテルで、たった数ポンドのコーヒーという対価で仕事をしてしまうとなかなかカフェに戻れなくなってしまう。
カフェで1時間以上仕事をする場合は2杯目のドリンクを注文することにしているが、それでも次第に居心地悪く感じることがあるのに比べ、ホテルでそれはほとんどない。スタッフは常に丁寧で顧客第一の姿勢を貫いてくれるからだ。というわけで一流のオフィスを借りているような体験ができるホテル・ラウンジは一押しである。
ピカデリー・サーカスから直近の場所にある五つ星ホテル、Dillyのテラス。
Dillyはピカデリー大通りに面してテラス席があり、珍しい景観を楽しむことができます。
ノマド・ワーカーに大人気、ホルボーンのThe Hoxton。平日はほぼラップトップ族で埋め尽くされます。
そんなノマド・ワーカーな私なのだが、ときにもっと違うレベルの外オフィスで静かに仕事をしてみたいとも思っていた。そんな私にある日、理想のオフィスがもたらされることになったのだ……。
月額8ポンドでアクセスできる理想のオフィス
この夏、私が暮らす町になかなか使い勝手の良さそうなカフェラウンジが誕生した。わがヴィレッジは小さいにもかかわらず合計10以上の多彩なカフェがひしめく激選区で、まさにフリーランス天国。そこに参入してきたその場所とは……。外から様子を伺うと仕事もはかどりそうだったので、店名もチェックせずさっそく中に入ってみた。するとこう告げられたのだ。「ここはSoho Houseが経営する施設の一つだから、利用するには会員になる必要がある」と。
Soho House!
Soho Houseと言えば泣く子も黙る会員制クラブだ。と言うのは少し大げさだが、ロンドンに住むフーディーたちはもちろん、クオリティ・ライフを求める都市部の富裕層なら「ああ、Soho Houseね」とすぐにわかる飲食店やホテルを運営するクラブで、会員でなくても一部レストランやホテルは利用できるので大抵のロンドナーなら知っている。ハリー王子やニコール・キッドマン、デミアン・ハーストなどが会員だというと、何となくイメージできるだろうか。
Soho Houseはブランド名通り1995年にSohoで立ち上がったビジネス。そのスタイリッシュかつ特権的なイメージ戦略でスノッブな人々を魅了してきた。
調べてみると、我が町にできたのはSoho Studioと呼ばれる施設の一つで、現在のところロンドン市内(つまりUK内)にまだ5箇所しかないラウンジ兼コワーキング・スペースのようなものだとわかった。中心部に二つ、東に一つ、西に一つ、そして北に一つ。南はブリクストンにもうじき誕生する予定だと言う。海外ではバルセロナ、ローマ、ベルリン、シカゴなどにある。
北ロンドンにこの夏できたSoho Studio。以前はチキン専門のカジュアル・レストランだったのでちょっとした驚き。
このラウンジ・スペースはかなりリラックスできます。
特権的なイメージのあるSoho Houseの年会費がいくらくらいするのか、調べたこともなく知らなかったのだが、何か直感が働き「これは何らかの新しいオファーなのではないか?」と思って調べてみると、予感は的中。2020年秋から新しいメンバーシップ・レベル「Soho Friends」が登場していることがわかった。
Soho Friends はなんと、年会費100ポンド(約15000円)ぽっきり。これにはかなり驚いた。胸を高鳴らせながらさらに調べると、コア・メンバーシップであるSoho Houseクラブのメンバーと同様、多くの施設へアクセスできるだけでなく(Houseと呼ばれる施設はNG)、レストランやホテルの利用割引やイベントへのアクセス権までついている。年間100ポンド? もってけバーゲンである。即入会手続きを開始した。
5日程度の審査期間を経て承認され、晴れて町のStudioへ。そこで夢のオフィスに出会う私なのだった……(笑)。
こちらも北ロンドンのStudioです。
フレンドリーなスタッフさんに感謝。
メンバーズクラブのようなものにはほとんど興味のなかった私が、メンバーシップのメリットを初めて体験したのが、Soho Friendsであると、ここであえて告白しておこう。
もともとSoho Houseは上質クオリティで知られる会員制クラブ。Soho Studioにもしっかりとその理念が反映され、末端で利用する私のようなフリーランスにもその素晴らしさがよくわかる。
午前中はラップトップ族がたくさんやってくるが、それでも通常のカフェに比べると格段に静かだし設備も整い働きやすい。そしてこれはSoho Houseの特徴なのだが、トレンドを抑えた各種フード&ドリンクが美味しい。あくまでもシンプルで飽きのこないメニューを揃え、丁寧な調理でツボを突いてくる。ホテル並みのサービスの良さは言わずもがな。Studioそのものがオフィス利用を前提として運営されているということもあり、カフェと違ってここなら堂々とラップトップを広げて仕事もできる。もう最高なのである。
その他の地域にあるSoho Studioにも俄然興味が湧き(笑)、さっそく体験してみることにした。
こちらは西ロンドンで2018年に誕生したWhite City House。元BBC放送センタービルを利用したもので、1階部分がStudioです。
Soho Houseらしいスタイリッシュな空間。 House会員は建物内の別のラウンジ、ジム、屋上スイミング・プールなどにアクセスできます。
椅子の座り心地がいいんですよね。でもこのラウンジよりも、わが町にあるStudioの椅子の方が仕事しやすい(笑)。
パンデミックを機に再編成するプライベート・クラブ
ロンドンに暮らすノマド・ワーカーの生態について書こうと思った本稿だが、書き進めるにつれてSoho Houseについて興味深い記事にいくつか行き当たった。Soho Friendsというメンバーシップそのものの誕生秘話につながる、コロナ時代ならではのストーリーである。こちらの記事をはじめ複数のメディアによると、Soho Houseグループは今年7月、自社株3000万株を公開株とし、約430億円を超える利益を生み出して負債の返済に充てたとある。
この大規模な新規株式公開は既存の会員に少なからぬインパクトを与えたようだ。つまりSoho Houseがもはや限られた富裕層のためのものでなくなり、大衆に歩み寄っていくディレクションを採用したということのようだ 。
ロサンゼルスやマイアミを含め世界10ヵ国28箇所にプライベート・クラブを所有し、11万人を超える会員がいるSoho Houseも(新規会員選抜のウェイティング・リストも長い)、利益を生み出す組織でなかったという事実には正直驚いた。パンデミック期以前からすでに多額の負債を抱え、株式公開前は800億円以上の負債があったそうだ。
営業が不可能となったロックダウン期には9割の従業員を職務停止(ファーロー)せざるを得ない状況となったが、失った会員はほんの1割程度にとどまった。これは業界ではパンデミック期を克服した成功例とみなされている。つい先日会った友人は長らくSoho Houseクラブの会員だったが、パンデミック期に施設が使えなくなったことから会員を辞めたと言っていたので、この1割の中の一人ということになる。
Soho HouseのUK旗艦ハウスであるストランド沿いのStudio。大規模! あらゆる設備が整い、まさにSoho Houseの狙い通り、クリエイティブな人々の集まり。交流も生まれていそう。
スペースはたっぷり。ラウンジというよりもコワーキング・スペースという印象で、飲食もセルフ式でカウンター販売されている。上階は個別のオフィス・スペース。
ちなみにSoho Houseクラブの正規会員は、現時点で 年間1000ポンド(約15万円)程度を支払っている人たちだ(かつてはもっと高かったらしい)。年間100ポンドで7割方同じ権利にアクセスできるSoho Friendsのことを知ったら、正規会員たちきっといい気はしないに違いない。
つまりSoho Houseの方向転換=大衆化を象徴的に表しているのが、Soho Friendsというメンバーシップなのである。
今年6月のフィナンシャル・タイムズの記事では、Soho Houseは新規株式公開でキャッシュを注入し、さらに2023年までに18件の新規施設を増やす計画だとある。株式公開は組織を活性化することに繋がり、投資家からパンデミック後の事業計画へ承認が下りたということなのだろう。
ロンドナーの働き方も変わっていく?
いずれにせよ Soho Friendsという新たなメンバーシップを取り入れたことで会員の裾野は爆発的に広がっているはずだ。こちらの記事によると今年4月の時点でSoho Friends には6000件の申請があり4000件が受理されたとある。現在は数倍になっているはずだが、それでもまだ世界で数万人しかいないメンバーの一人だと思うと特別感はある。これがメンバーシップの醍醐味なのだろう。
Soho Houseはもともとクリエイティブな分野で成功している人たちを取り入れるプライベート・クラブだった。そのコンセプトはSoho Friendsにも反映されてはいるものの、Soho Houseは既存施設を利用できる人口を増やしたいはずなので、今後はもっと門戸を広げていくはず。
前掲フィナンシャル・タイムズの記事でコメントしていた専門家によると、パンデミックを機に変化したワーク・スタイルが、Soho Houseのこの新しい方向性を後押しするだろうと言っている。確かに自宅勤務者の数が現在のまま維持されれば、私のようなノマド・ワーカーも増えていくはずだし、Soho Studioのようなコワーキング・ラウンジは願ってもないオプションなのだ。
個人的に時代を感じたのは、Sohoにある老舗レストランKettner’sをSoho Houseが数年前に買収し、現在は1階の一部をStudioとして開放していること。Kettner’sはロンドンで初めてのフランス料理店として150年前にオープンして以来、王様や詩人、作家などの常連を迎えながら老舗としての貫禄を培ってきた。その文化的な歴史を好むロンドナーは多く、Soho Houseは歴史ごとKettner’sを買ったのだ。
Sohoの目立たない通りにあるKettner’s。
やっぱりSoho Houseらしいインテリア。バー周りのお客さんは年配の男性が多いです。
Studioはこの一画のみ。ラップトップを広げていいのは18時まで。座り心地は抜群!
自分が暮らす町にSoho Studioができなければ、今もおそらくSoho Houseに深い興味は持っていなかったと思う。時代は変わり、一般庶民もプライベート・クラブの一端を垣間見ることができるようになった。パンデミックがもたらしたチャンスだとも言えるだろう。これからどんな風にメンバーシップが変化していくのか、内部から注目していきたい。
江國まゆ
ロンドンを拠点にするライター、編集者。東京の出版社勤務を経て1998年渡英。英系広告代理店にて主に日本語翻訳媒体の編集・コピーライティングに9年携わった後、2009年からフリーランス。趣味の食べ歩きブログが人気となり『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房)を出版。2014年にロンドン・イギリス情報を発信するウェブマガジン「あぶそる〜とロンドン」を創刊し、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活について模索する日々。