ヒースロー空港まではパディトン駅から一直線で行くことが可能。
前回、エリザベス女王戴冠70周年「プラチナ·ジュビリー」のイギリスでの様子をご紹介しましたが、プラチナ・ジュビリーの祝賀イベントに先立って5月24日に開通したのが、女王の名前を冠した「エリザベス・ライン」という鉄道路線です。
西のレディングから東のシェフィールドまで、ロンドン市外からロンドン中心地を通り抜けつつ、東西を結ぶということで、市民や観光客にとって大変便利な路線となります(現在はパディントンとリバプールストリート駅での乗り換えが必要です)。また、ヒースロー空港駅からロンドン市内パディントン駅へ34分で到着というのは、日本からいらっしゃる皆さんにとっても利用価値のある路線だといえます。
パディントンを含め、エリザベス・ラインには41の駅がある。
工事期間が大幅に延長、予算超過の末の開通
ロンドン市長のサディク·カーンさんは、オープン当日、鉄道マニアを含めた一般乗客とともにエリザベス・ラインに初乗車。その様子はテレビのニュースで速報されたほか、ツイッターやYoutubeなどSNSでも、その興奮ぶりを伝えていました。もともとクロスレイルという名称で建設されていたこの路線は、実は2009年に工事を開始し、2018年には開業予定となっていました。ところが、工事は大幅に期間延長となり予定から41ヶ月遅れの開業となりました。それも40億ポンドの予算超過で、ようやく開通となったのですから、市長はじめ、関係者の喜び(安堵)は想像にかたくありません。
そもそも、ロンドン市内を東西に走る鉄道路線の計画が持ち上がったのは、19世紀のことだったといいます(さすが、鉄道発祥の地!?)。第2次世界大戦後にも同様のプランがありましたが、結局、1974年に「クロスレイル」という名称で調査が始められ、実際の建設にあたっての計画が取り掛かられたのは、1990年でした。
上の動画からもわかるように、ロンドンの土地を深く掘り下げたところに設置されたこの路線工事では、建設前に、イギリス国内では最も大規模となる考古学調査が行われました。というのも、クロスレイルの中心となる場所では、トンネルの掘削が行われる前に発掘品を集めて、ロンドンの歴史的遺物を調査することが法的に義務づけられていたからです。
プロジェクトでは、100人以上の考古学者が発掘に携わりました。その結果、先史時代からローマ時代、中世そして近年まで、ロンドン5500万年の歴史にわたる何万点もの遺物が発見されました。つまり、エリザベス・ラインの建設は、ロンドンの街の下に隠されていた歴史を明らかにする機会を提供したことにもなります。
実際の乗り心地は?
では、実際のエリザベス・ラインの乗り心地はどうでしょう?エリザベス・ラインのシンボルカラーは紫。モケットと呼ばれる車両内のシート生地も紫を基調としたデザインになっています。個人的にはちょっと目がチカチカするような気もしましたが、隣に座った女性は「落ち着いた色で好き。」と言っていました。ちなみに紫は、何世紀にもわたって王族、権力と関係する色とされてきました。エリザベス1世は、王室の近親者以外がこの色を身につけることを禁じていたとも言われています。そう考えると、エリザベス女王の名前のついたこの路線には、やはり紫がテーマカラーなのは必然ということでしょうか。
5番目の車両には車椅子用のスペースが設置されている。
座席自体はクッションがそれほどきいているわけではないので、長時間座るには適していないかもしれませんが、まだ開通したばかりということもあり、清潔な車両は乗っていても気持ちがいいものです。
シートはモケットと呼ばれる、ベルベットに似た手触りの生地が使用されている。
イギリスで鉄道を利用したことのある方は経験していると思いますが、この国では電車の遅延や突然の運休などは珍しくありません。鉄道発祥の地ということが、逆にロンドンの地下鉄を含む現代のイギリス鉄道システムの不便さ、不合理さの原因とも言われます。しかし、この新しいエリザベス・ラインは、最新のテクノロジーを利用した22世紀に向けての路線ということなので、今度みなさんがイギリスを訪ねた時には、スムーズで快適な鉄道の旅を楽しんでいただけるのではないかと思います。
ロンドン中心地、トッテナムコートロード駅のホームはまるでSF映画のセットのよう。
*London Transport Museum(ロンドン交通博物館)のウェブサイトでは、エリザベス・ラインの特別グッズを購入することができます。
https://www.ltmuseumshop.co.uk/new-in/elizabeth-line-gifts
*ロンドン交通局ウエブサイト(エリザベスラインについて)
https://tfl.gov.uk/travel-information/improvements-and-projects/elizabeth-line
マクギネス真美
英国在住20年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。
音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。
ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』にてコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。
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