今年のイギリスの夏はなかなか温度が上がらず、夕方は肌寒いほどでしたが、ここ数日やっと夏らしくなってきたので、これは出かけない訳にはいかない!ということで、ずっと行きたいと思っていたところへ足を伸ばすことにしました。
リバティプリントと並んで、美しいテキスタイルや壁紙のデザインで有名なウイリアム・モリスの博物館です。日本でも彼の名はよく知られており、デザインも人気がありますが、この博物館はロンドン中心部から少し離れたところにあるせいか、意外と知らない人が多いようですが、私の中ではお気に入りのロンドンスポットの上位に入るお勧めの場所です。
この博物館の建物はモリス自身が家族と20代を過ごした家で、その後にここに暮らした出版者のエドワード・ロイド氏の息子が建物とその周りの土地を自治体に寄付し、土地は1900年に公園になり、1914年に建物を博物館にする計画が立てられましたが、その36年後の1950年にやっと現実のものになったということです。
展示を通して私なりに感じたモリス氏の人物像をご紹介したいと思います。
例えば、彼は人工的な染料よりも自然の植物を使った染料を使いたいと考え、思う色の染料ができるまで10年もの間実験を繰り返したり、人物を取り入れたデザイン(壁画やステンドグラスなど)のために中世の衣装を作らせて、それをモデルに着せてスケッチしたりと時間や労力を惜しまず、自分の追い求めるクオリティーにとことんこだわる人だったようです。
「デザイナーは、デザインするだけでなくそのものが作られる工程についてもすべて把握しておかなければならない」モリス氏の言葉です。
また、もともと本が好きで、文学の才能にも恵まれていて、晩年には自分の理想の本を出版するため、出版社まで立ち上げたそうです。
モリス氏の信念、日々の生活に美と芸術を取り入れること(モリス氏が先導したアーツ・アンド・クラフツ運動の思想でもあります)をもとに設立されたインテリア会社「Morris & co.」の商品は長い間一部の人にしか支持されませんでしたが、モリス氏が貫いた信念は長い間をかけて人々の間に浸透し、なんと設立から150年以上経った今でもMorris & Co.は美しいインテリア用品をデザイン、販売しています。
その際、凝り性のモリス氏は兜と刀を作らせて、それを見ながら描こうということになったのですが、兜が届くやいなやかぶって見せましたが、頭がつかえて抜けなくなり、みんなで大笑いしたそうです。
また、50代になって、社会主義思想に目覚め、以降は社会主義者として精力的に活動をしました。自分はたまたまとても裕福な家庭に生まれただけで、貧しい人となんの変りもないということに気が付いたからだそうです。私の想像ですが、ワーキングクラスと呼ばれる職人たちに出会ってきて、彼らに対する尊敬の念もそれを後押ししたのではないでしょうか。
正解は(一目瞭然かもしれませんが…)右がモリス氏のもので、直線的で、華美な装飾はないものの、様式美がありますね。
モリス氏はだれもが取り入れられるシンプルで、高価すぎない美しいものを世に送り出そうとしましたが、残念ながらMorris & Co.のものは品質が良いだけになかなか手の出るお値段のものではありませんが、この博物館を訪れたことで、自分の身の周りのものをもう一度見直して、毎日の生活を楽しむ工夫をしていこうと思いました。
※ガラスへの反射などで一部見づらい写真があるかも知れませんが、ご了承ください。
より詳しく知りたい方はこちら。
リバティプリントと並んで、美しいテキスタイルや壁紙のデザインで有名なウイリアム・モリスの博物館です。日本でも彼の名はよく知られており、デザインも人気がありますが、この博物館はロンドン中心部から少し離れたところにあるせいか、意外と知らない人が多いようですが、私の中ではお気に入りのロンドンスポットの上位に入るお勧めの場所です。
この博物館の建物はモリス自身が家族と20代を過ごした家で、その後にここに暮らした出版者のエドワード・ロイド氏の息子が建物とその周りの土地を自治体に寄付し、土地は1900年に公園になり、1914年に建物を博物館にする計画が立てられましたが、その36年後の1950年にやっと現実のものになったということです。
博物館の外観。典型的なエドワード様式の建物。
モリス氏とロイド氏の名前のブルー・プラーク(イギリスで著名人にまつわる建物に付けられている青いプレート)。
モリス氏の肖像画。
博物館ではモリス氏のデザインがたくさん見られると楽しみにしていましたが、実際にはそれだけでなくモリス氏の人柄に触れることができました。展示を通して私なりに感じたモリス氏の人物像をご紹介したいと思います。
1.とても凝り性
才能はもちろんですが、モリス氏のデザインの裏には彼の飽くなき探求心と研究心が隠れていると思います。例えば、彼は人工的な染料よりも自然の植物を使った染料を使いたいと考え、思う色の染料ができるまで10年もの間実験を繰り返したり、人物を取り入れたデザイン(壁画やステンドグラスなど)のために中世の衣装を作らせて、それをモデルに着せてスケッチしたりと時間や労力を惜しまず、自分の追い求めるクオリティーにとことんこだわる人だったようです。
「デザイナーは、デザインするだけでなくそのものが作られる工程についてもすべて把握しておかなければならない」モリス氏の言葉です。
また、もともと本が好きで、文学の才能にも恵まれていて、晩年には自分の理想の本を出版するため、出版社まで立ち上げたそうです。
モリス氏が作業や実験をするときに来ていたスモックのレプリカ。
モデルに中世の衣装を着せて描いたスケッチ。女性モデルはモリス氏の妻。
2.革新的
モリス氏は当時の主流であったビクトリア様式の過剰なまでの装飾、産業革命による住環境の悪化に疑問を持っていました。モリス氏の信念、日々の生活に美と芸術を取り入れること(モリス氏が先導したアーツ・アンド・クラフツ運動の思想でもあります)をもとに設立されたインテリア会社「Morris & co.」の商品は長い間一部の人にしか支持されませんでしたが、モリス氏が貫いた信念は長い間をかけて人々の間に浸透し、なんと設立から150年以上経った今でもMorris & Co.は美しいインテリア用品をデザイン、販売しています。
この椅子はモリス氏が自身の家のためにデザインしたもので、華美なビクトリア様式とは真逆のシンプルで機能美を追求したものとなっています。名付けて「反逆の椅子」。
ガラス食器やタイルにも氏の美意識が見てとれます。
人気の高いデザインの刺繍が施された布。完成品だけでなく、刺繍キットとしても販売されていたそうです。これも時代を先取りした革新的なアイデア?!
3.少しおっちょこちょい?
モリス氏の友人がオックスフォード大学のある建物にアーサー王の伝説を題材にした壁画の依頼を受け、モリス氏を含め数人のチームで作業をしたそうですが、きちんと下地の準備をせずに描いたため、数か月で剥がれおちてしまったそうです。その際、凝り性のモリス氏は兜と刀を作らせて、それを見ながら描こうということになったのですが、兜が届くやいなやかぶって見せましたが、頭がつかえて抜けなくなり、みんなで大笑いしたそうです。
その問題の兜と刀。パネルは壁画の一部の写真。
4.手仕事の良さと伝統を重んじる
産業革命の大量生産に疑問を持っていたモリス氏は、自分の会社の商品に数々の伝統的な技法を取り入れました。例えば、インドで布に柄を染める技法のひとつである版木を使った方法や、ペルシア絨毯を参考にしたラグなどです。 モリス氏による布のデザイン画。色の指示書も兼ねており、これに従って職人が版木を色数分だけ削ります。
版木。
モリス氏のデザインしたラグ。
5.強い信念の持ち主
モリス氏が大学卒業後、デザイナーになると宣言した時には家族の猛反対に会いましたが、それでも信念を曲げず、自分のやり方でその意思を貫きました。また、50代になって、社会主義思想に目覚め、以降は社会主義者として精力的に活動をしました。自分はたまたまとても裕福な家庭に生まれただけで、貧しい人となんの変りもないということに気が付いたからだそうです。私の想像ですが、ワーキングクラスと呼ばれる職人たちに出会ってきて、彼らに対する尊敬の念もそれを後押ししたのではないでしょうか。
社会主義のデモの時に使われたのぼり。モリス氏のデザインが採用されています。
モリス氏が愛用していた鞄。ここでも機能美を大切にする姿勢が見て取れます。これに社会主義のビラや講義の台本などを入れて持ち歩いていたそうです。
みなさまに博物館の良さを伝えたくて、思わず長文になってしまいましたが、ここからは純粋に作品と博物館を写真でお楽しみください。 美しい壁紙の数々。
肉筆のデザイン画や刺繍のサンプルなど、貴重なものも見られます。
モリス氏がデザインした美しいステンドグラスも多数展示されています。
ミュージアムショップは小さいけれど、魅力的な商品が盛りだくさん。
ガラス天井の開放感あふれるカフェもあります。
カフェのテラスからは広々とした公園が一望できます。
公園の一角にある「ウイリアム・モリスガーデン」。氏のデザインに使われている花などが植えられています。
公園を流れる小川。青年のモリス氏はボート遊びや釣りを楽しんだそうです。
ここで恒例のクイズをひとつ。左の椅子と右の椅子、どちらがビクトリア様式でどちらがモリス氏のデザインでしょうか。 モリス氏はだれもが取り入れられるシンプルで、高価すぎない美しいものを世に送り出そうとしましたが、残念ながらMorris & Co.のものは品質が良いだけになかなか手の出るお値段のものではありませんが、この博物館を訪れたことで、自分の身の周りのものをもう一度見直して、毎日の生活を楽しむ工夫をしていこうと思いました。
※ガラスへの反射などで一部見づらい写真があるかも知れませんが、ご了承ください。
より詳しく知りたい方はこちら。
ウイリアム・モリス博物館
http://www.wmgallery.org.uk/
Morris & Co. (ウイリアム・モリス商会)
https://www.william-morris.co.uk/?act=ssocomplete
アムスベリー加恵
ロンドン留学中にヴィンテージウエアを販売する「Old Hat」ロンドン店でアルバイトをしたことをきっかけに、紳士服に興味を持ち始める。職人の技を身近に見る機会にも恵まれ、英国のクラフツマンシップにも刺激を受ける。カレッジを卒業後、いったん帰国。結婚を機に2012年10月に再渡英、現在ロンドン在住。
夫に作ったニットタイが好評で、夫の友人たちから注文が相次ぎ、2013年11月にオーダーメイドの手編みニットタイを販売する「Bee’s Knees Ties」を立ち上げる。
Bee’s Knees Ties
ロンドンを拠点に、オーダーメイドの手編みのニットタイを制作、販売しています。
色はもちろん、ステッチや結び目の大きさ、長さや太さなど、お客様のお好みをおうかがいお伺いしてから、1本1本、手で編みあげます。素材にもこだわり、大量生産の糸にはない魅力を持つ糸を探し求め、何度も試作を繰り返した後に、品質が良く、ユニークで、長く愛用していただける糸だけを採用しています。手編みならではの親しみやすい風合いが、スーツだけではなく、ニットウエアやツイードにもよく合い、日常の色々なシーンでお使いいただけます。
ロンドンではサヴィル・ロウのテーラー「L G Wilkinson」にてお取り扱いいただいております。
facebook.com/bees.knees.ties
現在、BRITISH MADE青山本店にてオーダーを承っております。また実際にいくつかお手にとって店頭にてご覧頂けます。詳細はお気軽に店頭スタッフまでお訪ね下さい。