今、ロンドンで最も大きな変貌を遂げつつあるエリアは、どこだと思われるだろうか?
マーケットで注目を集めている南のブリクストン? アート系住民が増えている同じく南部のペッカム? 多彩な成長を続けているイースト・ロンドン? それとも大型ショッピング・モールとインペリアル・カレッジの拠点として活気を取り戻しつつある西のシェファーズ・ブッシュだろうか? 視点によって意見は異なると思うが、私に言わせれば、キングス・クロスをおいて、ほかにない。
キングス・クロスは、ロンドン中心部を回るサークル線のちょうど北東に位置するハブ駅を中心としたエリアである。四半世紀ほど前まではドラッグ・ディーラーが徘徊する市内でもトップクラスの犯罪率で悪名高く、かつては男女に関係なく「夜はなるべく歩きたくない地域」ナンバーワンだった。以前、ロンドン警視庁に勤めていた知り合いから、ロンドンで一番最初に街角CCTVが導入されたのがキングス・クロスだったと聞いたことがある。それをきっかけに、犯罪率は激的に減少したのだとか。
大都市の新しい街づくりと言えば郊外への延長を想像しがちだが、ここはロンドンの歴史ある中心部。そういう意味でイギリス国内を見回しても非常にユニークなプロジェクトだ。再開発の着手は2001年。2007年にユーロスターの発着駅がウォータールー駅からセント・パンクラス・インターナショナル駅に引き継がれると、ちょっと野暮ったかった街の空気が一気にパリ風に……と言うのは冗談だが、洗練されたホテルやレストラン、バーなどがあれよあれよという間に林立し、少しずつ華やいだ空気が漂い始めたのは確か。
私はずっと北ロンドンに住んでいるのでキングス・クロス(愛称:キンクロ)は北のハブとしてことあるごとに通過するエリアだ。じっさい、ウェストエンドの喧噪を逃れてセント・パンクラス駅内のショッピング・モールで簡単に買い物も済ませられるので、大変重宝している(デパートのジョン・ルイスやフォートナム&メイソン、クラフト食品のソースト・マーケットなどが入っている)。この17年間の変貌ぶりをつぶさに目撃してきたキンクロ・ウォッチャーとして、どこがおすすめかざっとご紹介しよう。
今回の再開発のように古いものを保存利用しつつ、新しい技術やデザインと組み合わせていくというアプローチはイギリスのお家芸だ。まったく奥行きのない近代的な再開発よりも人びとに受け入れられやすいという側面もある。ヴィクトリア朝時代の遺物に新風が吹き込まれるのは素晴らしいし、さらに世代が変わり、現在のアート学生たちがこの土地を懐かしく思うときも来るのかもしれない。
www.kingscross.co.uk
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マーケットで注目を集めている南のブリクストン? アート系住民が増えている同じく南部のペッカム? 多彩な成長を続けているイースト・ロンドン? それとも大型ショッピング・モールとインペリアル・カレッジの拠点として活気を取り戻しつつある西のシェファーズ・ブッシュだろうか? 視点によって意見は異なると思うが、私に言わせれば、キングス・クロスをおいて、ほかにない。
キングス・クロスは、ロンドン中心部を回るサークル線のちょうど北東に位置するハブ駅を中心としたエリアである。四半世紀ほど前まではドラッグ・ディーラーが徘徊する市内でもトップクラスの犯罪率で悪名高く、かつては男女に関係なく「夜はなるべく歩きたくない地域」ナンバーワンだった。以前、ロンドン警視庁に勤めていた知り合いから、ロンドンで一番最初に街角CCTVが導入されたのがキングス・クロスだったと聞いたことがある。それをきっかけに、犯罪率は激的に減少したのだとか。
キングス・クロス駅。2012年に駅舎の改修が終わって再稼働を始めた。屋根にスチールの曲線フレームを配した新インテリア・デザインはEUが主宰する賞も受賞。
それが今、キングス・クロスは駅の周辺、主に裏手に広がる運河沿いの地域を中心に官民が手を組んだ大規模な再開発が旧ピッチで進行中だ。もともとポストコードがN1でNorthに属するエリアなのだが、この再開発地区のために新しく「N1C」(北1区セントラル)のポストコードが作られた。キングス・クロスを省略した「KX」を合い言葉にオフィスやショップだけでなく、近未来的とも言える2000戸の住宅も大々的に建設中、大学、小学校、幼稚園が誘致され、さらなる教育機関も今後作られる予定。オフィス人口も含めて3万人を超える人びとが拠点とする巨大ハブへと変貌中なのである。大都市の新しい街づくりと言えば郊外への延長を想像しがちだが、ここはロンドンの歴史ある中心部。そういう意味でイギリス国内を見回しても非常にユニークなプロジェクトだ。再開発の着手は2001年。2007年にユーロスターの発着駅がウォータールー駅からセント・パンクラス・インターナショナル駅に引き継がれると、ちょっと野暮ったかった街の空気が一気にパリ風に……と言うのは冗談だが、洗練されたホテルやレストラン、バーなどがあれよあれよという間に林立し、少しずつ華やいだ空気が漂い始めたのは確か。
私はずっと北ロンドンに住んでいるのでキングス・クロス(愛称:キンクロ)は北のハブとしてことあるごとに通過するエリアだ。じっさい、ウェストエンドの喧噪を逃れてセント・パンクラス駅内のショッピング・モールで簡単に買い物も済ませられるので、大変重宝している(デパートのジョン・ルイスやフォートナム&メイソン、クラフト食品のソースト・マーケットなどが入っている)。この17年間の変貌ぶりをつぶさに目撃してきたキンクロ・ウォッチャーとして、どこがおすすめかざっとご紹介しよう。
セント・パンクラス・インターナショナル駅の隣にあるオフィス・ビル群。左はGoogleのUK本社ビル。2018年はキングス・クロス駅のプラットフォームに並行する形でゼロから建設する真の本社ビルを着工予定。アメリカ西海岸に構えるオフィス以外で初めて自社デザインするビルだそうで、ジムやマッサージ・ルーム、スイミング・プールや屋上ガーデンを完備する予定。11階建てだが、シャードの高さよりも横長のビルになるのだとか。
さて、このキンクロの再開発で、何を置いても現在のところ最も中核的な存在となっているのが、2011年にウェストエンドから引っ越してきたロンドン芸術大学、セントラル・セント・マーチンズである。グラナリー・スクエアと呼ばれる広場に立つ元穀物倉庫「グラナリー・ビルディング」を改修して新本拠地としたわけだが、ステラ・マッカートニーやアレクサンダー・マックイーンといった著名デザイナーを輩出したファッションを得意とする大学だけに、ドキリとするほど奇抜な格好をしている学生も多く見かける。アート学生が闊歩し始めると街はぐんと活気づいてくるが、キンクロだって例外ではない。 19世紀の穀物倉庫を利用したキャンパス。外観が古いだけで中は近未来的。
グラナリー・ファウンテンと呼ばれる噴水。ここは夏になると子どもたち(ときに大人も)の遊び場として大人気となる。夜は照明でカラフルに色づいて幻想的な雰囲気に。
一般に開放されているエントランス・ホール。学校のビルを多くてがけているスタントン・ウィリアムズ・アーキテクツによる作品。ここでは学生によるゲリラ的なインスタレーションを頻繁に見ることができる。
キャンパス風景。左の写真は、建物の裏手にある巨大なスーパーマーケット、ウェイトローズに繋がる屋根付き広場。
何でもできそうな屋根付き広場にはマーケットも立つ。この裏側には一般のマンション群が。
運河には現役ナローボートが走り風情を添える。
こちらはボートを利用した古本屋さん! しかもライブ音楽もときどき聞くことができる。
大学裏手にあるイギリス唯一のイラストに特化したミュージアム「ハウス・オブ・イラストレーション」。面白い展示をしているので、ぜひチェックしてみてほしい。
グラナリー・ビルディングの1階には、いくつかカフェやレストランが入っている。ビルの左手を回り込んだ場所にあるモダン・インド料理「Dishoom」は、中でもおすすめの食事処。ここは料理が美味しいだけでなく、広いスペースを利用したインダストリアルな建築インテリアも見どころ。そしてコーヒー豆の焙煎所も兼ねている「Caravan」というコーヒー屋さん兼レストランも、ぜひぜひ試していただきたいおすすめの休憩場所だ。 インド料理の Dishoom。1階のバーは超クール! コクのあるソースが病み付きになるチキン・ルビーがおすすめ。インド・ビールと一緒に、さぁどうぞ。
Caravan Kings Crossはほぼ大学に付随しているような場所に位置している。コーヒーだけじゃなく、パンケーキや無国籍小皿料理などの食事もぜひ。
そして、同じ並びに登場しているカフェ・バー「Spiritland」は、筆者的には今イチオシの場所。友人のDJ氏によると、ここはロンドンで最も音がいいバーになるよう意図されて設計されているのだとか。ロンドンという豊かな音楽カルチャーを持つ土地で、真の音楽好きたちが音にこだわり抜いて作ったカフェ・バー。実際に行ってみると分かるのだが、クール感が半端ない。ロンドンに来たらぜひ、足を運んでもらいたい旬のスポットだ。 ヴィクトリア朝時代の倉庫跡を利用した飲食・ショップ・オフィス通り。Dishoomも同じ並びにある。
音の通たちが情熱を傾けて創り上げた「スピリットランド」。超クールなロンドンの最新べニュー。
ロンドンで活躍する日本人DJ Koichi Sakaiさん。グッド・センス&ヴァイヴ!
運河沿いでは新しいショッピング・コンプレックス「Coal Drops Yard」が10月の完成へ向けて意気揚々と佇んでいる。先日足を運んでみたら、ロンドン生まれの世界的インテリア・デザイン・ブランド「Tom Dixon」の旗艦店が、他のテナントに先駆けて4月20日にオープンしていた。トム・ディクソンは西ロンドンのケンザル・ライズのあたりに同じく運河沿いに旗艦店を持っていたのだが、どうやらそこを引き払っての大移動らしい。他にもポール・スミス、ユニバーサル・ワークス、ロスト・プロパティ・オブ・ロンドンといった男女ともに楽しめるブランドが入店ラインナップされている。レストランはロンドンでも一、二を争う人気タパス・バー、Barrafinaがやってくるというので、これはいろいろな意味で期待できそう。 いくつもの小部屋を使ってうまくディスプレイしていたトム・ディクソンの旗艦店。窓の外に運河の景色を間近に見られるのがごちそうだ。いちばん左端になる部屋は工房になるのだとか。
Coal Drops Yardは、その名が示す通り1850年代に列車で北イングランドから運ばれてきた石炭を管理していた場所。ヴィクトリア朝時代の労働者たちは170年後にこんなショッピング・モールができるなんて予想だにしなかっただろう。 今回の再開発のように古いものを保存利用しつつ、新しい技術やデザインと組み合わせていくというアプローチはイギリスのお家芸だ。まったく奥行きのない近代的な再開発よりも人びとに受け入れられやすいという側面もある。ヴィクトリア朝時代の遺物に新風が吹き込まれるのは素晴らしいし、さらに世代が変わり、現在のアート学生たちがこの土地を懐かしく思うときも来るのかもしれない。
右の写真はセント・パンクラス駅に隣接しているルネッッサンス・ホテルをのぞむキングス・クロスの夕景。左はルネッサンス・ホテル内にあるラウンジ・バー、Booking Office。美しい駅舎を見ながら朝食はいかが? ハリー・ポッター・ファンならキングス・クロス駅内にある9と4分の3番線で写真もとっちゃおう。
キングス・クロスには、他にも大英図書館、ウェルカム・コレクションなどの文化的見どころがあり、また同じ再開発の一貫でKings Placeという音楽とアートの複合施設も通りを隔てた向こう側で先行稼働中だ。冒頭で挙げた東や南の変貌は住民による自然発生的な現象である一方で、キングス・クロスの再開発はビッグ・マネーが動いていることは否めない。それでも、すべてのリノベーションが終わる頃には、新生キングス・クロスはロンドン市内におけるエリア再興のモデル・ケースとして称賛の目を向けられていることだろう。www.kingscross.co.uk
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江國まゆ
ロンドンを拠点にするライター、編集者。東京の出版社勤務を経て1998年渡英。英系広告代理店にて主に日本語翻訳媒体の編集・コピーライティングに9年携わった後、2009年からフリーランス。趣味の食べ歩きブログが人気となり『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房)を出版。2014年にロンドン・イギリス情報を発信するウェブマガジン「あぶそる〜とロンドン」を創刊し、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活について模索する日々。