ロンドン・デザイン散歩 「テート・モダン」の煙突に魅せられて | BRITISH MADE

英国クリエイティブの窓  ロンドン・デザイン散歩 「テート・モダン」の煙突に魅せられて

2018.06.26

これまでに幾度となく口にしたフレーズがあります。「ロンドンの美術館や博物館は、実は無料なんです!」(註:一部施設や企画展を除く)。多くの人たちはこれを聞いて驚くのですが、ロンドンに住む者者にとってはもはや当たり前のこと(笑)。渡英後しばらくは財布を開くことなく受付を過ぎるのが不安だった僕も、今ではそうした感覚はどこかに吹き飛んでいってしまいました。ほんと、贅沢な話ですよね。

それにしても、僕自身は随分とこの「無料」の恩恵に浴してきたように思います。週末ともなれば街の中心部まで出かけ、気ままにいくつかの美術館を巡る。もしも有料だったら、そんなことしょっちゅうできません。

さて、僕のお気に入りの散歩コースは、テムズ川南岸(サウス・バンク)なのですが、とりわけ近代美術館「テート・モダン」にはよく足を運んでいます。展示企画の内容もいいのですが、なんというか建物自体に思わずため息が漏れるんですよね。とりわけ、印象的なのがその煙突。「美術館に煙突」とは珍妙な取り合わせですが、まずは次の写真をぜひご覧ください。

これが「テート・モダン」の煙突。凛々しい姿ですっくとのびています。僕は、この場所に初めて訪れた時、「これもアートの一部で、どうせ気をてらった建築デザインなのだろう」と考えたのですが、後からそんなものではないと知ってとても恥ずかしくなりました。聞くところによると、「テート・モダン」はかつての発電所をリノベーションしてできた建物なのだそうです。なるほど、だからこんなに立派な煙突があるんですね。
レンガの色が青い空に映える
かつての正式名称は「バンクサイド発電所」と言いました。1891年の先行発電所から、A発電所、B発電所と3回に分けて運転が開始され、最終的には1981年まで稼働が続いたそうです。その後、しばらく使われないまま取り壊しの話が持ち上がっていたようですが、1994年に状況が一変。再利用が決定し、国立美術館「テート・モダン」へと生まれ変わることになりました。リノベーションの設計はスイスの建築家ユニット、ヘルツォーク&ド・ムーロンで、2000年に晴れてオープン。今では年間約600万人の来場者数を誇る、ロンドンのランドマークとなりました。
テート・モダンの正面
さて、僕は今この原稿を東京で書いているのですが、実は一時帰国直前に「テート・モダン」に立ち寄ってきたばかり。最近はもっぱら企画展を目当てに訪れていたのですが、今回、常設展をぐるりと巡ったところ思いのほか充実していて時間が経つのを忘れるほどだったので、簡単に紹介したいと思います。

まず、常設展は2〜4階で開かれています。近現代に特化した美術館なので、わかりやすい絵や彫刻ばかりが並べられているというわけではありません。現代アートと聞いて一見とっつきにくいと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、芸術一般に疎い僕などでも十分満喫できるのでご安心ください。広々とした空間で多種多様な作品に囲まれ、自分を「言葉にならない」ものの中に埋没させてみるのも一興。僕はそうやって「何も考えないこと」を楽しみながら鑑賞しています。

なお、余談ですが、芸術鑑賞の後は6階のKITCHEN & BARがおすすめ。テムズ川を挟んでセント・ポールズ大聖堂が目の前に見えるので、最高の景観なんですね。
セントポールをのぞむ
最後にもう一度、「発電所」の話に戻ります。一年ほど前だったか、「テート・モダン」で開かれた興味深いイベントに参加してきました。「現在のテート・モダンから発電所の歴史を紐解こう」という趣旨のもと、施設を巡りながら発電所時代の記憶をたどっていくツアーでした。案内人は、建物にまつわる物語に魅せられた若手研究者で、発電所で働いていたエンジニアや事務員なども複数人参加し、「このフロアはこうだった」「この空間はああだった」「この壁のシミはオイルだね」など懐かしい話があちこちで展開されます。普段はもうすっかりアートを楽しむ場所として定着したかつての「発電所」。僕はこのツアーで飛び交った思い出の数々に建物が抱きしめる過去の物語を発見し、まるで大きな芸術品の中にいるような錯覚におちいりました。
美術館の壁に染み付いたオイル
あなたを非日常へと誘ってくれる「テート・モダン」、おすすめです。
テート・モダンの物語に魅了され

Text&Photo by Ishino Yuichi

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Ishino Yuichi

Yuichi Ishino

イギリスをはじめ、欧州と東京を拠点にするデジタルプロダクション/エージェンシー「TAMLO」代表。企業に向け、ウェブメディアの戦略コンサルティング、SNS施策、デジタル広告の運用、コンテンツの制作などを日英を含めた多言語でサポートする。好きな英国ドラマは『フォルティ・タワーズ』。ウィスキーはラフロイグ。

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