ヨークシャーでベティーズ三昧しよう | BRITISH MADE

Absolutely British ヨークシャーでベティーズ三昧しよう

2018.08.03

ヨークシャーにあって、ロンドンにないもの、な〜んだ? それはBettys。北イングランドが誇る1919年創業の老舗ティールームだ。

ベティーズはヨークシャーを拠点に6店舗を展開する大人気ブランドだが、南には決して進出しないというポリシーを持っているため、首都ロンドンといえどもベティーズを招聘することはできない。従ってベティーズのティールームで名物ファット・ラスカルを食べたいと思ったら、ヨークシャーまで出向いて行くしかないのである。

イギリス菓子をこよなく愛する私はそんな機会を10年以上前から眈々と伺っていた一人で、ヨークシャーまでわざわざお茶をしに行ってくれる連れを見つけるのに何年もかかってしまったが・・・文字通り満を持して、ベティーズ1号店のあるHarrogateへと旅立つことにとなった。

ロンドンからハロゲートまでは電車で約3時間。ヨーク、またはリーズ経由となる。おしゃべりに興じたり景色に見とれたり乗り換えたりしているとすぐに到着してしまう距離だ。目指すはベティーズなので、 電車を降りたら足早にティールームへと向かう。お目当ての場所まで駅から歩いてほんの4、5分ほどだったので助かった。向かっている間にキョロキョロと街の様子を伺うと、ハロゲートはこぢんまりとした美しい温泉街でバースを彷彿させるリラックスした佇まいがなんとも気持ちいい。お天気にも恵まれ、本当に素晴らしい旅の始まりとなった。
ここがベティーズ1号店!! 古き良きイングランドの面影を残す、ワクワクする店構え。
半地下のティーラウンジでランチを。ちょうど外のグリーンが見えて良いお席でした。
ランチがまだだったので、軽食もいただくことにして意気揚々と着席! スタッフの皆さんも手慣れた方ばかりでスムーズに注文をすませ、ベティーズにやってきた喜びをあらためて噛みしめてみる・・・

さて、ここで少しベティーズについて紹介しておこう。ベティーズはなぜ全国津々浦々にまで名声を轟かせるようになったのだろうか?

ベティーズを創業したのはスイス人のフリッツ・バルガーさん、イギリス名に改めフレデリック・ベルモント氏である。孤児だった彼はパティシエとして、そしてビジネスマンとしての成功を夢見て欧州各地で修業を積んだ後、イギリス南部の海沿いでビジネスを始めようとまだ見ぬ島国へと船に乗ってやってきた・・・そしてロンドンから鉄道で南下していったはずが、なんと行き先を間違えて北イングランドのヨークシャーにきてしまった!!
スイス人創業の店だけあり、ウスターソース入りチーズ・トーストのウェルシュ・レアビットを注文すると、トーストがほとんどチーズで隠れたグラタン状態で登場! さすがチーズの国、スイスとのハイブリッド・レアビット(笑)。コクのあるとろーりチーズ、美味しかったです。野菜が足りないと思って注文したサラダの盛り合わせ(奥)が、丁寧に調理された3種の盛り合わせで大満足。
こちらはヨークシャー名物のほろほろのウェンズリーデール・チーズのキッシュで、クラスト部分もサックリとしていて、いいお味。格別に美しい佇まいだったティーポットにうっとりしつつ、お隣に座っていらした年配のご婦人との会話を楽しんだり。田舎ティールームの醍醐味です。
フレデリックさんがエライなと思ったのは、あえて南に戻ろうとはせずに、そのままヨークシャーに留まって腰を落ち着けたこと。その理由をウェブ情報からうかがい知ることはかなわないが、ヨークシャーデールズの壮大な自然をはじめ美しい土地の様子に惹かれたからか、はたまた産業革命で栄えていたブラッドフォードでビジネスの成功を信じたか・・・。ともあれ彼の決断は正しく、1919年に1号店をハロゲートにオープンして以来、ビジネスは拡大を続け、1937年のヨーク旗艦店のオープンは彼も相当に喜んだようだ。

成功の理由? まずは基本中の基本、商品が優れていることだろう。今回、ティールームでいただいたり持ち帰りをしたりと相当数のベティーズ商品を賞味してみたのだが(!)、そのどれもが印象に残る美味しさで大満足だった。とくに名物のファット・ラスカルはあまりの好みの味だったためロンドンに持ち帰りしたほど。よりリッチな味わいのスコーンといったタイプの焼き菓子で、チェリーの目が輝きアーモンドの歯がニヤリと笑っている顔はまさに「ファット・ラスカル(太っちょのいたずらっ子)」そのもの(笑)。軽く温めて供されるそれは、惜しみなくバターを付けていただきたいホッとする郷愁の味だ。ファット・ラスカルについて詳しくはこちらでどうぞ。
写真だとサイズ感が今ひとつだけど、かなり大ぶり!! 一人一個もいただけばお腹いっぱいに。
ベティーズのお菓子は今でも昔のレシピを使って、職人さんが毎日手作りしている。そんなストーリー満載の商品がぎっしりと並ぶショップもカフェに併設されていて、お土産選びのテンションも半端なく上がってしまった・・・笑

素敵アンビエンスに後押しされ、ティールーム・ブレンドの紅茶、ジンジャーブレッド、フロレンティーン、そしてベティーズ特製のマチの深いショッピング・バッグを購入! 紅茶缶は可愛らしいものがいくつかあったのだが、ブラックにゴールドのロゴが刻まれているリーフ・ティー入り缶のデザインに一目惚れ。家に帰って開けてみると丸ぽちの取っ手つき中蓋までついていて本物のティーキャディだと感激してしまった。1962年にヨークシャー・ティーで知られるTaylors & Coを吸収合併しているので、濃く出るイギリスらしい紅茶はテイラーズのレシピなのだろう。

ベティーズがヨークシャーから徐々に全国的に知られる存在となった理由には、昔ながらのやり方を守っていく姿勢やレトロ路線のブランディング、味のよい商品、テイラーズ・ティーの知名度などがあると思う。とくにティールームは今でも100 年前のままといった雰囲気を漂わせ、ずっしりと重いメタル製ティーポットやコーヒー用カフェテリアの美しさに惚れ惚れしてしまう。じつはこのカフェテリアがすごく欲しくなってしまった私(笑)。でもお店には売っておらず・・・この記事を書くためにちょっとリサーチしてみたら、なんと北イングランドを拠点としている有名デザイン事務所が手がけた特注品なのだそう。どおりではっとするスペシャル感があるはず・・・興味ある方はこちらのリンクを参照ください。
めくるめく商品たち。自分用に、お土産用にと、あれやこれや手にとる楽しみもいっぱい。
さてさて、この日、私たちはハロゲート駅から車で10分程度の場所にあるカントリーハウス・ホテルに宿泊した。ヨークシャーの旅のハイライトとなったので、こちらも少しご紹介したい。
広大な敷地に驚かされる別世界。ハロゲートに来られたら、宿泊せずともぜひ訪れていただきたいデスティネーション。
到着日の夕方と翌日の朝、ぶらぶらと散歩して気持ちよかったどこまでも続く敷地は、そのままゴルフ場まで続きます・・・緑地には年輪が刻まれた巨樹もあって癒されました。
カントリーハウス・ホテルの名前はRudding Park。4つ星ホテルとはいえ、飽きのこないシンプル・ゴージャスな仕様で美しく統一され、レストラン2つ、パブ、豪華スパ、シネマ、ゴルフ場、教会まで! 併設された5つ星と言っても遜色のない設備。何より、広大なランドスケープを望む自然美の中でのびのびとリフレッシュできることそのものが、ロンドンから来ている者への大きなご褒美だった。
宿泊客だけでなく、来訪者もウェルカムの素敵な敷地内。
陽にあたりたくない日本人は、屋内コンサーバトリーでのんびり(笑)。幸福度が右肩上がり!
陽のあたるテラスで朝ごはん。今日もいい天気だ!
ラディング・パークはヨークの名家、ラドクリフ準男爵家が所有していた時期が長く(敷地内の教会も家族用に作られたもの)、館自体は19世紀初頭から建てられているものらしい。20世紀も半ばを過ぎてから現代の事業家、マーカネス家の手に渡ってからホテルになったようだ。グッド・ジョブ!

2日目はゆっくりとハロゲート中心部を散策する予定だったのだが、ハロゲートはこぢんまりとした街でちょっと歩くとショッピングから公園散策まで一通りできてしまう・・・そんなとき、私の脳裏をよぎるアイディアがあった。そう、地図で見てみると、ヨークの街も近そうなのだ。そこで急遽「ヨークのベティーズにも行ってみるべし!」という話になり、昼過ぎまででハロゲートの観光をすませ、一路電車で30分ほどのヨークへ! 計画外の行程だが、ここまで来たらとことんベティーズを楽しんでやる!という気持ちだ。

そしてヨーク到着後は、もちろんベティーズへ直行(笑)。ベティーズはハロゲート店が第一号店で多大なる敬意が払われているのだが、じつはヨーク店の方が規模から言うと大きく、旗艦店のような役割を果たしている。旅行者も多いせいか外はベティーズ体験を求める人々が適度な列をなしているので、私たちも末尾に加わることにした。
ベティーズ・ヨーク店は駅から歩いて10分ほどのところにある歴史地区の中心スクエアにあります。スクエアは随分と賑わっています。左はベティーズに入店するために行列する人々。右はスクエア内で木工細工のデモンストレーション販売をするおじさま。
この待ち時間を有効に使って一人ひとりが先にショップで買い物をすませることにした。結論から言うと、ハロゲート店のショップ・スペースの方がこぢんまりと美しく商品が陳列されているので、日持ちする商品の購入がお目当てなら、そちらで買い物を済ませてしまうことをおすすめしたい。ヨーク店はどちらかと言うと、ケーキやスコーン、ビスケットなどの持ち帰りに力を入れている造りだったので、私も帰りの電車の中でいただくためのスイーツを入手してみた。ヨークシャー名物のヨークシャー・カード・タルトだ。
ヴィクトリア朝時代の小売店を思わせる素敵な店内。
ファット・ラスカルはもちろん、スコーンもね!
店員さんのユニフォームがノスタルジック。髪型もそれに合わせてクラシックに〜。
こちらがヨークシャー・カード・タルト。
ヨークシャー・カード・タルトは、カード、つまり熟成させる前のフレッシュな白い凝乳を使って作るさっぱりとした甘さのタルト。電車の中でいただいたのだが・・・食べ応えがあり、甘さも控えめでほんのりとスパイスも香り、独特の美味しさを堪能。ロンドンではあまり見かけないのが残念でならない・・。ヨークシャー・カード・タルトについて詳しくはこちらで。

さて、20分くらい待っただろうか。明るい1階席の窓際に案内され、待ちかねていたアフタヌーン・ティーを注文! ランチ&ディナーを兼ねて賞味してみた。サンドイッチ、スコーン、ケーキ類のシンプルなアフタヌーン・ティーは19.95ポンド。お味はもちろん悪くはないのだが、率直な感想を述べると、わざわざベティーズに来てアフタヌーン・ティーは食べなくてもいいかも(笑)。かなりスタンダードな印象なので、ここはやはり、私たちがハロゲートでいただいたように、軽食とお目当てのスイーツを組み合わせるのが、いちばん満足度が高いような気がする。
大きな窓が特徴的な1階ティールームでアフタヌーン・ティー。サンドイッチもケーキも特別感はないので、あなたがアフタヌーン・ティー熟練者なら、別メニューの方がベティーズらしさを味わえるかも。
例えばおかず系のキッシュを注文するとサラダもついてくるし、その後、ファット・ラスカルやヨークシャー・カード・タルトで締めてもよい。軽食もサンドイッチ以外を注文されることをおすすめする。ロンドンの工夫あるアフタヌーン・ティーに慣れてしまっているせいか、サンドイッチもスコーンも、突出して素晴らしいとは思わなかった・・・ぜひぜひ、ベティーズならではの品々を注意深く選んで、ご賞味いただきたい。座る場所としては明るい1階もいいが、地下ラウンジもなかなか雰囲気が良いのでそちらもおすすめである。

ベティーズ はヨーロッパ大陸で修業を積んだスイス人が始めた店で、その名残はもちろんメニューに見て取ることができる。と同時に地元ヨークシャーに伝わる伝統菓子も取り入れ、職人たちが発展させてきた。その二つの要素が今となっては心地よく融合し、何世代にも渡って地元の人々にも愛されているベティーズは、いわばヨークシャーのアイコンのような存在であり、ある意味、土地の文化を知るのに適した場所だ。旅の目的がティールーム訪問というと眉をひそめる方もいるかもしれないが、あえて言いたい。ヨークシャーに行ったら、ぜひ愛しのベティーズに立ち寄って欲しいと。

さて、ベティーズ2軒目を堪能した私たちは、そのまま街全体が歴史遺産のようにも感じる重厚なヨークの街へと繰り出し、 ずっと行ってみたかったヨーク・ミンスターを目指した。エントランスに到着すると、日曜日の4時頃だったため、これから礼拝が始まるので一般客の入場は無理だと言う。しかしヨークまで来てヨーク・ミンスターを見ずして帰ることが考えられなかったので、よい機会とばかりに礼拝に参加してみることにした。
北イングランドを代表する壮麗なゴシック建築のヨーク・ミンスター。
ヨーク・ミンスターはイングランド国教会の大聖堂であり、総本山であるカンタベリーに次ぐイングランド第2位の大聖堂だ。中に入ると奥の小さな(しかし緻密に装飾された)聖歌隊席のある礼拝堂へと案内され、地元の信者さんだけでなく、私たちのような旅行者も入り混じった静かな礼拝が約40分かけてとり行われ、しばし静寂に包まれ内観の時間を持つことができた。ヨーク・ミンスターで礼拝に参加できるなんて!体験そのものに心ときめいた・・・。

礼拝の後はすぐに建物から出されてしまうのだが、わざと歩を緩めて出口へと向かう途中、世界最大級という圧巻のステンドグラスをチェック。写真はFive Sistersと呼ばれる絵ガラスを組み合わせた5 枚のステンドグラスで、遠目に見ると優しいモスグリーンに輝く縦長の窓には、まさに息をのむ美しさがある。

ヨークは城壁があることからも分かるように、ローマ時代から栄えた古都だ。街全体が見どころなので、次回はまたゆっくりと巡りたい。もちろんベティーズ の別支店の訪問も計画しなくては!

Bettys
https://www.bettys.co.uk

Rudding Park
https://www.ruddingpark.co.uk
Text&Photo by Mayu Ekuni

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江國まゆ

江國まゆ

ロンドンを拠点にするライター、編集者。東京の出版社勤務を経て1998年渡英。英系広告代理店にて主に日本語翻訳媒体の編集・コピーライティングに9年携わった後、2009年からフリーランス。趣味の食べ歩きブログが人気となり『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房)を出版。2014年にロンドン・イギリス情報を発信するウェブマガジン「あぶそる〜とロンドン」を創刊し、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活について模索する日々。

http://www.absolute-london.co.uk

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