寂れた田舎町から世界に名だたる「本屋の町」へ
11世紀にノルマン人が城塞を築いてから中世では市場が立つ町としての役割を果たしましたが、近代以降は衰退。主だった産業もなく、歴史に取り残され寂れた町となってしまいました。
そんな事態を一変させたのは、リチャード・ブースというヘイ・オン・ワイで生まれ育った1人の若者。名門パブリック・スクールであるラグビー校からオックスフォード大学へと進学した彼は、同窓の若者らのように都会で成功するエリート街道ではなく、愛する故郷の振興を目指します。
そして伯父から譲り受けた遺産を使い、旧消防署の建物を購入したのが1961年のこと。そこに古書店を開業するとともに雇った者らをアメリカ合衆国に送り込み、当時そこで次々に閉鎖されていた図書館から良質の古書を大量に買い付けました。
古書業は大成功し、ブースは次々に町の由緒ある建物を中心に買い取って事業を拡大。メディア露出も巧みに演出した彼によって、古びた小さな町に活気が蘇りました。やがて他にも同業者が集まり、最盛期には30軒以上の本屋が立ち並ぶ町に。「本屋で町興しに成功した類まれな例」として英国内だけでなく、世界でも知られるようになったのです。
書物と思索の祭典 ヘイ・フェスティバル
15年ほど前までは町にある学校や教会、公民館などの施設で催されていましたが、知名度が高まり商業的にも成功。現在では数々のスポンサーがつき、大規模な仮設イベント場を設置してBBCでも放映されるほどの国民的イベントとなりました。英国内外の読書家が集まるこの10日間で、延べ10万人の来場者があるという事です。
ブック・フェスティバルというと堅苦しい印象ですが、ご覧のように音楽フェスティバルにも劣らないくらい自由闊達な雰囲気。過去にオバマ元大統領や俳優ベネディクト・カンバーバッチもセレブ・スピーカーとして登場し、中でも2001年に招かれたビル・クリントン元大統領がこのフェスティバルを形容して「思索のウッドストック」と表現したのは、まさしく言い得て妙!読書家かつインテリ層による、知的ヒッピーまたはフラワーチルドレン願望のような空気が漂います。
また会場内にはレストランやフード・ホールも完備されており、朝から晩までお目当てのスピーカーによるトーク会場をハシゴするのに不自由しません。次項で詳述しますがアウトドアな宿泊方法が主流につき、食事の心配をしなくて済むのは安心材料です。
現代人がノマド気分を味わうならばグランピング施設へ!
そこで活躍するのが、国立公園という場所を活かしたキャンプ場。ヘイ・フェスティバルにやってくる人々の多くがキャンプ場でテントを設営するか、キャンピング・カーで宿泊します。
もうひとつの宿泊方法は、既にテントや必要な機能が整えてあるグランピング施設。私たちが利用した「フレッズ・ユールツ(Fred’s Yurts)」が良い例です。
既に設営されたテント内に入ると、マットレスは厚みがあって寝やすく電池式ライトも3か所に設置され、かなり快適。パドロックで施錠もできるだけでなく場内に24時間スタッフが常任しているのも安心感があります。
カフェ兼バーでは朝食や軽食もオーダー可能。しかも施設内で唯一WiFiが使え電源完備しているので、スマホなどの充電をしながらリビング・ルームのように過ごせる空間です。
また清潔なお手洗いも簡易シャワールームもあり、機能性が十分整っているのは大変ありがたい。適度にアウトドアを味わいたい現代人にとって、手軽かつお洒落にノマド気分を味わえるのがグランピングの魅力ですね。
まとめ
ヘイ・フェスティバル開催中はお祭りムードに包まれ大いに賑わいますが、今では年間を通し観光地として人気。またフェスティバル期間でなければホテルやB&Bも予約が容易となりますから、野外キャンプをせずに滞在する事ができます。アンティーク・ショップや洒落たカフェも多い、中世の面影を残す町ヘイ・オン・ワイ。道中ではブレコン・ビーコンズ国立公園の美しい自然を満喫しながら、ぜひ訪れてみてくださいね!取材協力:英国政府観光庁(VisitBritain)
関連URL:
Hay Festival https://www.hayfestival.com/home
Fred’s Yurts http://www.yurtevents.co.uk/
VisitBritain日本語サイト https://www.visitbritain.com/jp/ja
VisitWales https://www.visitwales.com/