オックスフォード、コッツウォルズ、カーディフとおよそ1週間の周遊を終えてロンドンに戻り、その後の1週間はおもにメリルボーンに滞在した。我々が宿泊したのは“Durants Hotel”だ。このホテルは1789 年に設立され、1921年から現在までミラー家が所有している。個人事業で経営するホテルとしては、ロンドンでも随一の歴史を誇る。建築はジョージ王朝時代に遡り、周辺の家をホテルの構造に取り込んで拡張していった。館内で特徴的なのは、ロビーから階上に伸びる二股階段だ。壁には巨大な肖像画など幾多の美術工芸品が飾られている。木造建築のため、階段や廊下を歩けばギシギシと音を立てる。実際、このホテルは、お世辞にも設備が充実しているとは言い難い。エレベーターは小さい上にとろく、部屋のヒーターの起動も遅い。部屋にポットがないため、お湯をくれとお願いしたらぬるま湯が入ったほうろうの水差しを渡された。そのぬるま湯で作ったカップラーメンは、博多で言うハリガネや粉落としだった。こういった不便な箇所もホテルの雰囲気とマッチしていて面白い。痘痕も靨とはこのことだ。このホテルで最も気に入ったのは朝食だ。コンチネンタル式ではないにも関わらず、メニュー数は10 種類を優に超える。母と妻は新鮮なフルーツがふんだんに盛られたベルジャンワッフルに大層熱を上げていたが、僕はフルブレックファストとカプチーノ2 杯を毎日楽しんだ。その後、別のホテルに移動する際に利用したタクシードライバーが「いいホテルを選んだな」と静かに言ってくれたことが何だか誇らしかった。 メリルボーン界隈は、喧騒なシティにあるにも関わらず、一本路地に入ればいたって閑静だ。ここがロンドンの中心であることを忘れてしまう。フラット、オフィス、パブが適度に入り混じり、時折見られる個性的な店のおかげで散歩が弾んだ。毎日この界隈を歩き、すっかり馴染んでしまったので、いくつかこの場で紹介したい。
まずはメリルボーン・ハイ・ストリートにある“Daunt Books”だ。地下を含めて三階建の店内は、天井が高く開放的な構造だ。一階は新本、二階には古本が並べられている。地上は、吹抜けになっており、天窓から光が射し込む。木材がふんだんに使われていて温かみがあるのも魅力的だ。地下には世界各国の旅行書が並んでいる。本が好きな妻は、この書店がいたく気に入ったようで何度も足を運んでいた。ショッピングバッグのセンスも良く、帰国してからもエコバッグとして重宝している。
次は、グロスター・ロードを西に越えたところにあるフレグランスショップ “Perfumer H” だ。ミラーハリスの創業者である調香師リン・ハリスが立ち上げたブランドだ。ミッドセンチュリ ー家具で統一された店内に立ち込める芳香。洗練された空間が心地良く、ショップスタッフの制服も素敵だ。香水に限らず、ディフューザーやキャンドルなどの種類も豊富で色々な香りを試すことができる。好みの香りやイメージを相談し、“SMOKE”のキャンドルを購入した。キ ャンドルが入った器は、鈍い独特のグレーの吹きガラスで美しい。購入したボックスにはイニシャルを刻印してくれるのもちょっとしたサプライズだ。
メリルボーンで最も印象的だった場所は、チルターンストリートだ。この一帯は建築様式が統一されていて優雅で美しい。そこに個性的な服屋、古書店、レコード店、カフェなどが軒を連ねる。例えば、ケイスリーヘイフォードの店舗もこの通りにある。偶然にも、地下のオーダーサロンではチャーリー・ケイスリー・ヘイフォード本人に出会う機会を得た。また、アンダーソン&シェパードのヘッドカッター、ジョン・ヒッチコックの子息で、チャールズ皇太子殿下のコートなども仕立てているスティーブン・ヒッチコックのテーラーもこの通りにある。ジャーミンストリートやロイヤルアーケードは、きら星のごとく魅力的な店が並ぶ半面いつも人に溢れている。紹介した界隈は、基本的に人通りが少なく、喧噪を避けて一呼吸するにはうってつけのエリアではないだろうか。
さて、およそ2週間かけた両親の還暦を祝う旅はここロンドンで終わった。舞い上がった親父殿は帰国直後に40℃の熱を出す悲惨な結果となった。
まずはメリルボーン・ハイ・ストリートにある“Daunt Books”だ。地下を含めて三階建の店内は、天井が高く開放的な構造だ。一階は新本、二階には古本が並べられている。地上は、吹抜けになっており、天窓から光が射し込む。木材がふんだんに使われていて温かみがあるのも魅力的だ。地下には世界各国の旅行書が並んでいる。本が好きな妻は、この書店がいたく気に入ったようで何度も足を運んでいた。ショッピングバッグのセンスも良く、帰国してからもエコバッグとして重宝している。
次は、グロスター・ロードを西に越えたところにあるフレグランスショップ “Perfumer H” だ。ミラーハリスの創業者である調香師リン・ハリスが立ち上げたブランドだ。ミッドセンチュリ ー家具で統一された店内に立ち込める芳香。洗練された空間が心地良く、ショップスタッフの制服も素敵だ。香水に限らず、ディフューザーやキャンドルなどの種類も豊富で色々な香りを試すことができる。好みの香りやイメージを相談し、“SMOKE”のキャンドルを購入した。キ ャンドルが入った器は、鈍い独特のグレーの吹きガラスで美しい。購入したボックスにはイニシャルを刻印してくれるのもちょっとしたサプライズだ。
メリルボーンで最も印象的だった場所は、チルターンストリートだ。この一帯は建築様式が統一されていて優雅で美しい。そこに個性的な服屋、古書店、レコード店、カフェなどが軒を連ねる。例えば、ケイスリーヘイフォードの店舗もこの通りにある。偶然にも、地下のオーダーサロンではチャーリー・ケイスリー・ヘイフォード本人に出会う機会を得た。また、アンダーソン&シェパードのヘッドカッター、ジョン・ヒッチコックの子息で、チャールズ皇太子殿下のコートなども仕立てているスティーブン・ヒッチコックのテーラーもこの通りにある。ジャーミンストリートやロイヤルアーケードは、きら星のごとく魅力的な店が並ぶ半面いつも人に溢れている。紹介した界隈は、基本的に人通りが少なく、喧噪を避けて一呼吸するにはうってつけのエリアではないだろうか。
さて、およそ2週間かけた両親の還暦を祝う旅はここロンドンで終わった。舞い上がった親父殿は帰国直後に40℃の熱を出す悲惨な結果となった。
部坂 尚吾
1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。毎月第三土曜日KRYラジオ「どよーDA!」に出演中。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com