次回渡英される際、ぜひとも旅程に組み入れていただきたい場所がある。バーミンガム郊外ダドリーにある、ブラック・カントリー・リビング・ミュージアムだ。
イギリス産業革命を支えた工業地域に暮らす庶民たちが、その昔、いったいどんな生活を送っていたのか。坑道や製鉄工房、輸送ドックだけでなく商店街やパブまで再現した体験型ミュージアムは、やたらと面白い。1日たっぷりと楽しめる仕掛けがそこかしこに仕込んであり、ピーキー・ブラインダーズのファンでなくても十分に楽しめるのである。
ピーキー・ブラインダーズですって?
そうなのだ、ここはBBC人気ドラマ「ピーキー・ブラインダーズ」のロケ地でもあるのである。ピーキー・ファンからは「聖地」とも呼ばれる場所ではあるが(私が訪れた理由はまさにそこにあるのだが笑)、いやいや、ピーキー・ファン以外にムシロおすすめしたいほどなのだ。
ブラック・カントリー・リビング・ミュージアム、略してBCLM。バーミンガムの市街地から車でおよそ30分弱程度の距離にある。電車ならTipton駅が最寄り。バーミンガムから20分で到着だ。
BCLM は1978年開館と、すでに半世紀近い歴史を誇っている。これまで 1000万人以上の来館者を迎えてきた英国の5大野外ミュージアムの一つでもある。
「Black Country」とはウェスト・ミッドランズに広がるダドリー、サンドウェル、ウォルソール、ウォルバーハンプトンを含むエリアで、120万人が暮らしている。しかしなぜブラック・カントリーなのだろうか。
これは工場から煙がモクモクと出ていた産業革命期、このあたりはまるで雲がかかったように煤で覆われ真っ黒に見えたから、という説が有力なのだそうだ。あまり嬉しくない命名ではあるが、今となってはちょっとカッコいい響きもある。
ブラック・カントリーは炭鉱や製鉄など、英国の産業史においてとても重要な役割を担ってきた。世界に先駆けた重工業エリアであり、現代はハイテク産業が重工業に取って代わっているが、製造業は依然としてブラック・カントリーの経済とコミュニティの中心的な部分を占めている。
その歴史に敬意を表し、価値ある景観やストーリーを後世に残すべく活動しているのが、このミュージアムなのだ。
労働者たちの家屋や作業場を再現し、1850年代から1940年代までに見られた鉄製品などのコレクションなども展示。ブラック・カントリーではかつて大型船の錨の製造などを得意としてきた歴史があり、なんとタイタニック号やロイヤル・ヨットのブリタニア号の錨を作ったのも、この地域の工場だったのだとか。
ドラマ「ピーキー・ブラインダーズ」でシェルビー一家が闊歩する街の背景で製鉄の火花が散っているのは、そんな時代設定があるから。シェルビー・ファミリーの熱さは、ブラック・カントリーの熱なのだ。
産業史にさほど興味がない人でも大丈夫。そんなあなたは100年前のブラック・カントリー・ヴィレッジを再現したエリアをそぞろ歩いていただきたい。
食料雑貨店、薬局、仕立て屋、モーターバイクの店、フィッシュ&チップス屋、パン屋などが勢ぞろいし、そのレトロな様子を眺めているだけで本当にワクワクしてしまう。お店の中には当時の衣装に身を包んだ役者のようなスタッフさんがいて、まるで自分がドラマに出演しているような錯覚に陥る。
お散歩なら運河沿いも外せないスポット。この風景、ピーキー・ファンなら見覚えがあるはず・・・。シェルビー一家が人払いし、家族だけで話をする場所がここ。2013 年に放送がスタートして以来、ファンにとってはたまらない必訪ロケ地の一つとなっている。
そしてBCLMでは今、これまでで最大のプロジェクト「Forging Ahead / フォージング・アヘッド」を2023年に向けて完成させるべく、最終段階に入っている。
フォージング・アヘッドは、ブラック・カントリーが重工業の中心地としての役割を終えるまでの1940-60年代にスポットを当てた体験型プラットフォーム。訪問者が歴史を「見て、嗅いで、聴いて、触って、味わう」ことができる環境を作り、生身の人間による解説と実演であらゆる年齢層の人々がブラック・カントリーの魅力、この地域がいかに国の産業に貢献してきたかを理解できるよう、ストーリーとして伝え続けていく街並みを建設中なのである。
そのためにパブや図書館、その他の産業遺産などの建物をまたしても移築中。本当に「リビング・ミュージアム」の名にふさわしい場所だ。
ピーキー・ファンのためにはファンの集い「ピーキー・ブラインダーズ・ナイト」も定期的に開催! 今年の残りは 9月16・17日、23・24日の金土、11月18・19日の金土開催の予定だ。
このイベントでは参加者はピーキー・ファッションに身を包み、「ギャリソン」パブで地ビールを飲み、BCLM名物1930年代スタイルのフィッシュ&チップス店で買い食いする楽しみをシェアすることができる。その他、ライブ音楽、ダンス、ボンファイヤーなど、夕方イベントならではのお楽しみも。通りでは警官や酔っ払いに成り切った俳優たちに出くわすかもしれない。場内にはドラマの重要な場所を示すブルー・プラークもあるのでトレースしてみるのも一興だ。
私はある晴れた日、ピーキー・ブラインダーズの一ファンとして半日をこのミュージアムで過ごしたが、これほど楽しいとは知らず1日の予定で訪れるべきだったと後で悔やむことになった。
だからこそ断言できる。ピーキーのファンだけでなく、レトロな英国をそのまま体験したい全ての英国ファンにうってつけのアトラクションだと。8月中の金曜日はイベントとして夜もオープンしているらしいので、お時間あればぜひ。テーマパークとして楽しめること請け合い。
イギリス産業革命を支えた工業地域に暮らす庶民たちが、その昔、いったいどんな生活を送っていたのか。坑道や製鉄工房、輸送ドックだけでなく商店街やパブまで再現した体験型ミュージアムは、やたらと面白い。1日たっぷりと楽しめる仕掛けがそこかしこに仕込んであり、ピーキー・ブラインダーズのファンでなくても十分に楽しめるのである。
ピーキー・ブラインダーズですって?
そうなのだ、ここはBBC人気ドラマ「ピーキー・ブラインダーズ」のロケ地でもあるのである。ピーキー・ファンからは「聖地」とも呼ばれる場所ではあるが(私が訪れた理由はまさにそこにあるのだが笑)、いやいや、ピーキー・ファン以外にムシロおすすめしたいほどなのだ。
こちらからどうぞ。レトロな英国を体験できる面白ミュージアムの始まりはじまり。
ブラック・カントリー・リビング・ミュージアム、略してBCLM。バーミンガムの市街地から車でおよそ30分弱程度の距離にある。電車ならTipton駅が最寄り。バーミンガムから20分で到着だ。
BCLM は1978年開館と、すでに半世紀近い歴史を誇っている。これまで 1000万人以上の来館者を迎えてきた英国の5大野外ミュージアムの一つでもある。
「Black Country」とはウェスト・ミッドランズに広がるダドリー、サンドウェル、ウォルソール、ウォルバーハンプトンを含むエリアで、120万人が暮らしている。しかしなぜブラック・カントリーなのだろうか。
これは工場から煙がモクモクと出ていた産業革命期、このあたりはまるで雲がかかったように煤で覆われ真っ黒に見えたから、という説が有力なのだそうだ。あまり嬉しくない命名ではあるが、今となってはちょっとカッコいい響きもある。
ブラック・カントリーは炭鉱や製鉄など、英国の産業史においてとても重要な役割を担ってきた。世界に先駆けた重工業エリアであり、現代はハイテク産業が重工業に取って代わっているが、製造業は依然としてブラック・カントリーの経済とコミュニティの中心的な部分を占めている。
その歴史に敬意を表し、価値ある景観やストーリーを後世に残すべく活動しているのが、このミュージアムなのだ。
ミュージアムに再現された街の様子。坑道や石灰窯、製鉄工房なども再現し、建物類は周辺地域から歴史的価値のあるものを移築しています。
20世紀前半のイギリスにいたわけではないけれど、どこか懐かしさを感じますね。
商店も忠実に再現。
場内を電動のトローリーバスが走っています。
労働者たちの家屋や作業場を再現し、1850年代から1940年代までに見られた鉄製品などのコレクションなども展示。ブラック・カントリーではかつて大型船の錨の製造などを得意としてきた歴史があり、なんとタイタニック号やロイヤル・ヨットのブリタニア号の錨を作ったのも、この地域の工場だったのだとか。
ドラマ「ピーキー・ブラインダーズ」でシェルビー一家が闊歩する街の背景で製鉄の火花が散っているのは、そんな時代設定があるから。シェルビー・ファミリーの熱さは、ブラック・カントリーの熱なのだ。
製鉄の作業場。デモンストレーションあります!
町の中心に建つパブ。
休日はすぐに埋まってしまう2階スペース。
パブからの眺め。
産業史にさほど興味がない人でも大丈夫。そんなあなたは100年前のブラック・カントリー・ヴィレッジを再現したエリアをそぞろ歩いていただきたい。
食料雑貨店、薬局、仕立て屋、モーターバイクの店、フィッシュ&チップス屋、パン屋などが勢ぞろいし、そのレトロな様子を眺めているだけで本当にワクワクしてしまう。お店の中には当時の衣装に身を包んだ役者のようなスタッフさんがいて、まるで自分がドラマに出演しているような錯覚に陥る。
20世紀初頭のハイ・ストリートを再現。2010年に作られたものだそうです。
お散歩なら運河沿いも外せないスポット。この風景、ピーキー・ファンなら見覚えがあるはず・・・。シェルビー一家が人払いし、家族だけで話をする場所がここ。2013 年に放送がスタートして以来、ファンにとってはたまらない必訪ロケ地の一つとなっている。
そしてBCLMでは今、これまでで最大のプロジェクト「Forging Ahead / フォージング・アヘッド」を2023年に向けて完成させるべく、最終段階に入っている。
フォージング・アヘッドは、ブラック・カントリーが重工業の中心地としての役割を終えるまでの1940-60年代にスポットを当てた体験型プラットフォーム。訪問者が歴史を「見て、嗅いで、聴いて、触って、味わう」ことができる環境を作り、生身の人間による解説と実演であらゆる年齢層の人々がブラック・カントリーの魅力、この地域がいかに国の産業に貢献してきたかを理解できるよう、ストーリーとして伝え続けていく街並みを建設中なのである。
そのためにパブや図書館、その他の産業遺産などの建物をまたしても移築中。本当に「リビング・ミュージアム」の名にふさわしい場所だ。
大勢の役者さんが雰囲気を盛り立ててくれます。
ピーキーの記憶が蘇りますね。
ピーキー・ファンのためにはファンの集い「ピーキー・ブラインダーズ・ナイト」も定期的に開催! 今年の残りは 9月16・17日、23・24日の金土、11月18・19日の金土開催の予定だ。
このイベントでは参加者はピーキー・ファッションに身を包み、「ギャリソン」パブで地ビールを飲み、BCLM名物1930年代スタイルのフィッシュ&チップス店で買い食いする楽しみをシェアすることができる。その他、ライブ音楽、ダンス、ボンファイヤーなど、夕方イベントならではのお楽しみも。通りでは警官や酔っ払いに成り切った俳優たちに出くわすかもしれない。場内にはドラマの重要な場所を示すブルー・プラークもあるのでトレースしてみるのも一興だ。
私はある晴れた日、ピーキー・ブラインダーズの一ファンとして半日をこのミュージアムで過ごしたが、これほど楽しいとは知らず1日の予定で訪れるべきだったと後で悔やむことになった。
だからこそ断言できる。ピーキーのファンだけでなく、レトロな英国をそのまま体験したい全ての英国ファンにうってつけのアトラクションだと。8月中の金曜日はイベントとして夜もオープンしているらしいので、お時間あればぜひ。テーマパークとして楽しめること請け合い。
Black Country Living Museum
Tipton Road, Dudley, West Midlands DY1 4SQ
開館:
4月4日〜10月30日 毎日 10:00-17:00
10月31日〜11月27日 水〜日 10:00-16:00 (冬期間の開館はTBC)
入場料:大人(16歳以上)19.95ポンド、子ども(3〜15歳)9.95ポンド
ピーキー・グッズを多数販売しているショップもあり。
https://bclm.com
ピーキー・ブラインダーズについての過去記事
https://www.british-made.jp/stories/entertainment/202106040046722
江國まゆ
ロンドンを拠点にするライター、編集者。東京の出版社勤務を経て1998年渡英。英系広告代理店にて主に日本語翻訳媒体の編集・コピーライティングに9年携わった後、2009年からフリーランス。趣味の食べ歩きブログが人気となり『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房)を出版。2014年にロンドン・イギリス情報を発信するウェブマガジン「あぶそる〜とロンドン」を創刊し、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活について模索する日々。