本コラムでご紹介している「イングランドの隠れた名所」シリーズ。第3回目の今回は、日英をまたにかけて活躍中のアーティスト、アラン・ヨシエさんと一緒に500年の歴史を誇るカントリーハウス「ネブワース・ハウス」を訪ねてきました。
『英国王のスピーチ』『ヴィクトリア女王 最期の秘密』『パディントン2』や『ザ・クラウン』など、多くの人気映画やドラマの撮影が行われたネブワース・ハウスは、名前は知らなくても、そうした映像で多くの人が見たことがあるのではないでしょうか。また、屋外の広大な敷地では、レッド・ツェッペリン、オアシス、ピンク・フロイド、ローリング・ストーンズなど、名だたるトップミュージシャンのコンサートや音楽フェスティバルが開催されていて、まさに隠れた名所と呼ぶのにふさわしい場所です。
ヨシエさんは、ネブワース・ハウスのあるスティーブニッジの隣町に住んでいて、以前、ガーデンを訪問したことはあったそうですが、邸宅内をめぐるのは今回が初めて。アーティストとして、普段から歴史や自然、デザインやアートなど、様々なものからアイデアを得ているヨシエさんが、伝統と歴史あるネブワース・ハウスで得たインスピレーションはいったいどんなものだったのでしょうか。
ネブワース・ハウスは、ロンドン中心地から車で約1時間ほど北上したハートフォードシャー州に位置しています。ヘンリー7世の忠臣であったロバート・リットン卿が1490年に購入した中世の邸宅は、以来、リットン家に代々受け継がれ、現在は19代目のヘンリー・リットン・コボルド卿家族の住まいとなっています。
今回は、まるでお城のようなその邸宅を、フレンドリーな熟練ガイドさんの案内で巡ります。ガイドツアーは、豪華なシャンデリアが訪問者を見下ろすバンケティング・ホールから始まりました。
「シャンデリア、窓のデザイン、その周りの彫刻、暖炉の横に置かれた木製の椅子。特にこれに惹かれます」。イングリッシュ・オーク、そしてイタリアン・パインといった木材を使った美しい彫刻の施された部屋に入るやいなや、ヨシエさんは興奮ぎみにひとつひとつの装飾に近寄って見入っていました。
部屋に飾られたたくさんの絵画の中には、ウィンストン・チャーチル元首相によって描かれた、このバンケティング・ホールの絵もあります。チャーチルがインド滞在中の若き頃、のちに2代リットン伯爵ヴィクター氏の伴侶となったパメラに恋をしたことから、パメラがリットン家の一員となってからも、リットン夫妻との交友が続き、1933年に彼がこの絵を描いたのだと言います。
ダイニング・パーラーと呼ばれる次の部屋には、真ん中に19世紀初頭に作られたローズウッドのダイニングテーブルが置かれています。テーブルに再現されたドイツ製の食器類は18世紀のもの。室内を飾る肖像画はリットン家の人々で、壁際に置かれたチェストは17世紀のものと、この部屋ひとつをとっても、この邸宅に流れる長い歴史を感じることができます。
さて、ガイドの方がひときわ楽しそうに紹介してくれたのが隣にあるライブラリー。約4000冊の蔵書が収められているという、まさに本で溢れた部屋ですが、なんといっても楽しいのが、本棚を模したドアです。ダイニング・パーラーから部屋に入ってドアを閉めると、そこに現れるのが本棚、というしかけ。
「この扉は本に没頭できる最高のアイデアですね!自分のアトリエもこんな風にしたらいいかも?と思っちゃいますね」とヨシエさんも思わず笑顔になっていました。
バンケティング・ホールでチャールズ・ディケンズと演劇を上演していたエドワード・ブルワー・リットンは、生涯に70冊以上の小説を執筆し、1830年代にはディケンズと同じくらい有名なベストセラー作家でした。このライブラリーには、彼の著書がすべて保存されています。
そのエドワード・ブルワー・リットンが使っていた書斎を通り過ぎた先の貴賓室(The State Drawing Room)と呼ばれる部屋では、1840年代の装飾が残されています。太陽の光を受けたヘンリー7世が描かれたステンドグラスと天井を彩る44の紋章が印象的です。
ヨシエさんは、こうした雰囲気のそれぞれ異なるしつらえの豪華な部屋を巡っているうちに、あたまの中が、柄×柄の合わせや色使いの新しいアイデアでいっぱいになったと言います。
ハンプデン・ルームと名付けられた部屋には、子供用のベッドや本棚、ぬいぐるみやドールハウスなどが所狭しと置かれていました。ここは子供部屋ではなく、エドワード朝時代のリットン家の子供たちが使っていた家具やおもちゃを集めた場所で、イギリスの上流階級の子供時代を垣間見ることができます。
19世紀初頭にこのお屋敷に住んでいたエリザベス・ブルワー・リットン夫人の部屋は、夫人が亡くなったあと、息子のエドワード・ブルワー・リットンが母親を偲んで生前のままにしたため、現在でも当時の様子を残しています。ガイドの方によれば、リットン夫人は大変しっかりした女性だったようです。興味深いエピソードとして、彼女がネブワース・ハウスの温室で作らせていたパイナップルの話を教えてもらいました。
当時、温室でしか栽培できないパイナップルは大変な高級品でした。その土地から収穫されたものの価値(売り上げ)の10%を教会に税として納めることになっていたのですが、リットン夫人は温室で栽培したものに10%の税を支払う義務はないと主張し、牧師と口論になったそうです。交戦はおさまらず、とうとうリットン夫人は教会に行くことをやめ、ネブワース・ハウスのスタッフにも教会に行くことを禁じ、自ら分厚い聖書を用いて、自分で礼拝を行うようになったというのです(部屋にはその分厚い聖書も残されていました)。
次の部屋はエリザベス女王のベッドルームです。エリザベスといっても前述のリットン夫人ではなく、女王エリザベス1世のことです。ここも、エドワード・ブルワー・リットンが19世紀に、かつてエリザベス1世が訪れたことを記念して、それに合わせた部屋作りを試みたものでした。とはいえ、彼は女王訪問を1588年と勘違いしており、実際には1566年と1568年に晩餐のために来訪され、そして1571年には4泊したという記録が発見されています。このベッドを女王エリザベス1世が利用したという記述はありませんが、先ごろ亡くなったエリザベス2世がネブワース・ハウス訪問の際、控室として利用されたのは間違いないそうです。また、ここは現在もゲストルームとして利用されていて、これまでウィンストン・チャーチルや俳優のコリン・ファース、ミュージシャンのミック・ジャガーなども宿泊したことがあるそうです。
見どころだらけの邸宅内ガイドツアーを終えて、ヨシエさんは「歴史ある館じゅうに散りばめられた豪華で優雅な装飾にとにかく目を奪われっぱなしでした。高い天井から訪問者を見下ろす豪華なシャンデリア、天井画や壁画、装飾やタペストリー、どこを見ても美しい色柄が部屋から部屋へと続く天井。そして職人の技と時間が閉じ込められた素晴らしい木彫りの重厚な装飾家具や調度品にもため息がでました」と満足げ。そして「こういう時が止まったような感覚になる空間にいると、静かな重厚さのようなものも感じて、『静と動』、『光と影』のようなコントラストの強い絵・モチーフがたくさん浮かびます」と、アーティストとして作品作りへのインスピレーションもわいたようです。
また、館内に展示された絵画にも大いに刺激を受けたとのこと。「サー・ウインストン・チャーチルの恋物語と彼の描いた素敵な絵とか、展示された絵にもそれぞれストーリーがあり、リットン家の歴代の肖像画のほか一族の才能あるアーティストの絵も楽しめる。そのうえ、ペットのポートレートを制作している私はどうしても、動物も描かれている肖像画にとくに足をとめてしまいました」。
現在でも実際にリットン・ファミリーが住んでいる邸宅ということで、ヘンリー卿と奥様のマーサさんがお客様とお茶をしているところを見かけるという偶然もあり、ヨシエさんはそのことにも感激したと言います。
「静かで豪華で大きな、築500年のネブワース・ハウスの中には家主のリットン家が実際に住んでいて、ガイドさんが歴史上の著名人や有名人とも交流が深かった一家の歴史や一族の面白いエピソードを交えて展示エリアの部屋の案内をしてくれている。そんな中、プライベートの部屋ではリットン家の方々が普通に日常を過ごしているのを見かけて、現代の一般的な日常とはかけ離れた暮らしを垣間見れるところがとても興味深かったです。自分がこの館の住人だったらどんな暮らしなんだろう?という空想と物語も膨らみます。そのせいか、時計が昔の時間のまま止まっているような、かと思うと今の時間にとつぜんカチッと合うような、不思議なふわふわした感覚も味わえる気がしました」。
邸宅内のガイドツアーを終えた後には、約11ヘクタールという広大な敷地に作られたローズガーデンやハーブガーデンなどを見て回りました。
「リットン家のガーデナーさんたちが日々手入れをしている美しいローズガーデン、ハーブと野菜園、緑溢れる森や丘を、きれいな空気を吸いながらのんびり散歩して、敷地内にあるカフェでひと息ついたり、木陰や庭池のそばなどお気に入りの場所に座って鳥のさえずりをBGMに小さなノートを開いてお気に入りの植物や館のスケッチをしたり、ピクニックをしたり、大切な人へのひさしぶりのハガキを書いたりして、何時間でも癒しの時間を過ごせそうです」。ヨシエさんはそう言いながら、バラの香りをかいだり、小鳥たちの歌声にしばらく耳をそばだてていました。
ネブワース・ハウスの敷地内には、ほかにも恐竜のオブジェが見つかるダイナソー・トレイルやアドベンチャー・プレイグラウンドといった、子供たちが一日中夢中になって遊ぶことのできる施設や、軽食やケーキが楽しめるカフェも併設されています。
まだ日本ではあまり知られていないネブワース・ハウスですが、ヨシエさんはまた何度でも訪ねてみたい場所だと、すっかりお気に入りの様子です。読者の皆さんへ「ロンドンから日帰りで行けて、子供連れから大人までみんなが楽しめること満載のネブワース・ハウス。ぜひ皆さんも、五感で楽しむ、楽しい時間を過ごしてくださいね」とのメッセージとともに、今回の訪問でのスケッチも特別に公開してくださいました。
アラン・ヨシエさん
福島県生まれ。2006年より東京を拠点にイラストレーター・コラージュ作家として活動開始。近年は、自然からインスパイアされた光と影のコントラストの中に自分なりの人生哲学を織りまぜ、それをペインティングやドローイング、切り絵や色とりどりの素材ハギレ、柄で表現している。最近では愛犬マーゴをきっかけにはじめたドッグウォーカーとペットポートレート制作もライフワークに加わる。
著書『ヨシエフォンデュ』(角川書店)、『ハッピーイースター』(くもん出版) 他多数。
Instagram:https://www.instagram.com/yoshiemilkallan.art/
Website & Shop:https://yoshiemilk.com/
『英国王のスピーチ』『ヴィクトリア女王 最期の秘密』『パディントン2』や『ザ・クラウン』など、多くの人気映画やドラマの撮影が行われたネブワース・ハウスは、名前は知らなくても、そうした映像で多くの人が見たことがあるのではないでしょうか。また、屋外の広大な敷地では、レッド・ツェッペリン、オアシス、ピンク・フロイド、ローリング・ストーンズなど、名だたるトップミュージシャンのコンサートや音楽フェスティバルが開催されていて、まさに隠れた名所と呼ぶのにふさわしい場所です。
ヨシエさんは、ネブワース・ハウスのあるスティーブニッジの隣町に住んでいて、以前、ガーデンを訪問したことはあったそうですが、邸宅内をめぐるのは今回が初めて。アーティストとして、普段から歴史や自然、デザインやアートなど、様々なものからアイデアを得ているヨシエさんが、伝統と歴史あるネブワース・ハウスで得たインスピレーションはいったいどんなものだったのでしょうか。
何度か改築、修復が行われて現在の形となったネブワース・ハウスの外観。©️Knebworth house
ネブワース・ハウスは、ロンドン中心地から車で約1時間ほど北上したハートフォードシャー州に位置しています。ヘンリー7世の忠臣であったロバート・リットン卿が1490年に購入した中世の邸宅は、以来、リットン家に代々受け継がれ、現在は19代目のヘンリー・リットン・コボルド卿家族の住まいとなっています。
今回は、まるでお城のようなその邸宅を、フレンドリーな熟練ガイドさんの案内で巡ります。ガイドツアーは、豪華なシャンデリアが訪問者を見下ろすバンケティング・ホールから始まりました。
1990年に修復されたバンケティング・ホール。かつてエドワード・ブルワー・リットンはここを演劇の上演に使用。親友のチャールズ・ディケンズが1850年に『Every Man in His Humour』で共演した。
「シャンデリア、窓のデザイン、その周りの彫刻、暖炉の横に置かれた木製の椅子。特にこれに惹かれます」。イングリッシュ・オーク、そしてイタリアン・パインといった木材を使った美しい彫刻の施された部屋に入るやいなや、ヨシエさんは興奮ぎみにひとつひとつの装飾に近寄って見入っていました。
部屋に飾られたたくさんの絵画の中には、ウィンストン・チャーチル元首相によって描かれた、このバンケティング・ホールの絵もあります。チャーチルがインド滞在中の若き頃、のちに2代リットン伯爵ヴィクター氏の伴侶となったパメラに恋をしたことから、パメラがリットン家の一員となってからも、リットン夫妻との交友が続き、1933年に彼がこの絵を描いたのだと言います。
現在のバンケティング・ホールはチャーチルが描いたものとほとんど変わっていない。
ダイニング・パーラーと呼ばれる次の部屋には、真ん中に19世紀初頭に作られたローズウッドのダイニングテーブルが置かれています。テーブルに再現されたドイツ製の食器類は18世紀のもの。室内を飾る肖像画はリットン家の人々で、壁際に置かれたチェストは17世紀のものと、この部屋ひとつをとっても、この邸宅に流れる長い歴史を感じることができます。
窓から差し込む光と調度品によってできる影。陰影の美しさを感じることのできるダイニング・パーラー。
さて、ガイドの方がひときわ楽しそうに紹介してくれたのが隣にあるライブラリー。約4000冊の蔵書が収められているという、まさに本で溢れた部屋ですが、なんといっても楽しいのが、本棚を模したドアです。ダイニング・パーラーから部屋に入ってドアを閉めると、そこに現れるのが本棚、というしかけ。
「この扉は本に没頭できる最高のアイデアですね!自分のアトリエもこんな風にしたらいいかも?と思っちゃいますね」とヨシエさんも思わず笑顔になっていました。
取材のために特別許可をいただいて、扉を開けるヨシエさん。
バンケティング・ホールでチャールズ・ディケンズと演劇を上演していたエドワード・ブルワー・リットンは、生涯に70冊以上の小説を執筆し、1830年代にはディケンズと同じくらい有名なベストセラー作家でした。このライブラリーには、彼の著書がすべて保存されています。
ライブラリーの調度品のディテールにも目が釘付けに。
そのエドワード・ブルワー・リットンが使っていた書斎を通り過ぎた先の貴賓室(The State Drawing Room)と呼ばれる部屋では、1840年代の装飾が残されています。太陽の光を受けたヘンリー7世が描かれたステンドグラスと天井を彩る44の紋章が印象的です。
ヨシエさんは、こうした雰囲気のそれぞれ異なるしつらえの豪華な部屋を巡っているうちに、あたまの中が、柄×柄の合わせや色使いの新しいアイデアでいっぱいになったと言います。
エリザベス1世がネブワース・ハウスを訪問したときには、この部屋でゲストに面会したのではないかと言われている。
ハンプデン・ルームと名付けられた部屋には、子供用のベッドや本棚、ぬいぐるみやドールハウスなどが所狭しと置かれていました。ここは子供部屋ではなく、エドワード朝時代のリットン家の子供たちが使っていた家具やおもちゃを集めた場所で、イギリスの上流階級の子供時代を垣間見ることができます。
シュタイフのクマのぬいぐるみや、ナポレオンの衣装などが目につく。
19世紀初頭にこのお屋敷に住んでいたエリザベス・ブルワー・リットン夫人の部屋は、夫人が亡くなったあと、息子のエドワード・ブルワー・リットンが母親を偲んで生前のままにしたため、現在でも当時の様子を残しています。ガイドの方によれば、リットン夫人は大変しっかりした女性だったようです。興味深いエピソードとして、彼女がネブワース・ハウスの温室で作らせていたパイナップルの話を教えてもらいました。
当時、温室でしか栽培できないパイナップルは大変な高級品でした。その土地から収穫されたものの価値(売り上げ)の10%を教会に税として納めることになっていたのですが、リットン夫人は温室で栽培したものに10%の税を支払う義務はないと主張し、牧師と口論になったそうです。交戦はおさまらず、とうとうリットン夫人は教会に行くことをやめ、ネブワース・ハウスのスタッフにも教会に行くことを禁じ、自ら分厚い聖書を用いて、自分で礼拝を行うようになったというのです(部屋にはその分厚い聖書も残されていました)。
ライトで照らされた絵画は、幼いリットン夫人が母親に抱かれているときのもの。
次の部屋はエリザベス女王のベッドルームです。エリザベスといっても前述のリットン夫人ではなく、女王エリザベス1世のことです。ここも、エドワード・ブルワー・リットンが19世紀に、かつてエリザベス1世が訪れたことを記念して、それに合わせた部屋作りを試みたものでした。とはいえ、彼は女王訪問を1588年と勘違いしており、実際には1566年と1568年に晩餐のために来訪され、そして1571年には4泊したという記録が発見されています。このベッドを女王エリザベス1世が利用したという記述はありませんが、先ごろ亡くなったエリザベス2世がネブワース・ハウス訪問の際、控室として利用されたのは間違いないそうです。また、ここは現在もゲストルームとして利用されていて、これまでウィンストン・チャーチルや俳優のコリン・ファース、ミュージシャンのミック・ジャガーなども宿泊したことがあるそうです。
ベッドの右上にはエリザベス1世の肖像画が掲げられている。ベッドはエリザベス朝の家具に似せて再現されたもの。
見どころだらけの邸宅内ガイドツアーを終えて、ヨシエさんは「歴史ある館じゅうに散りばめられた豪華で優雅な装飾にとにかく目を奪われっぱなしでした。高い天井から訪問者を見下ろす豪華なシャンデリア、天井画や壁画、装飾やタペストリー、どこを見ても美しい色柄が部屋から部屋へと続く天井。そして職人の技と時間が閉じ込められた素晴らしい木彫りの重厚な装飾家具や調度品にもため息がでました」と満足げ。そして「こういう時が止まったような感覚になる空間にいると、静かな重厚さのようなものも感じて、『静と動』、『光と影』のようなコントラストの強い絵・モチーフがたくさん浮かびます」と、アーティストとして作品作りへのインスピレーションもわいたようです。
ガイドツアーの最後には、階上からバンケティング・ホールを見下ろして。
また、館内に展示された絵画にも大いに刺激を受けたとのこと。「サー・ウインストン・チャーチルの恋物語と彼の描いた素敵な絵とか、展示された絵にもそれぞれストーリーがあり、リットン家の歴代の肖像画のほか一族の才能あるアーティストの絵も楽しめる。そのうえ、ペットのポートレートを制作している私はどうしても、動物も描かれている肖像画にとくに足をとめてしまいました」。
邸宅内には、現在のオーナーであるヘンリー卿とその夫人マーサさんの肖像画もありました。
現在でも実際にリットン・ファミリーが住んでいる邸宅ということで、ヘンリー卿と奥様のマーサさんがお客様とお茶をしているところを見かけるという偶然もあり、ヨシエさんはそのことにも感激したと言います。
「静かで豪華で大きな、築500年のネブワース・ハウスの中には家主のリットン家が実際に住んでいて、ガイドさんが歴史上の著名人や有名人とも交流が深かった一家の歴史や一族の面白いエピソードを交えて展示エリアの部屋の案内をしてくれている。そんな中、プライベートの部屋ではリットン家の方々が普通に日常を過ごしているのを見かけて、現代の一般的な日常とはかけ離れた暮らしを垣間見れるところがとても興味深かったです。自分がこの館の住人だったらどんな暮らしなんだろう?という空想と物語も膨らみます。そのせいか、時計が昔の時間のまま止まっているような、かと思うと今の時間にとつぜんカチッと合うような、不思議なふわふわした感覚も味わえる気がしました」。
邸宅内のガイドツアーを終えた後には、約11ヘクタールという広大な敷地に作られたローズガーデンやハーブガーデンなどを見て回りました。
池に映る建物の姿はさらに美しい。
「リットン家のガーデナーさんたちが日々手入れをしている美しいローズガーデン、ハーブと野菜園、緑溢れる森や丘を、きれいな空気を吸いながらのんびり散歩して、敷地内にあるカフェでひと息ついたり、木陰や庭池のそばなどお気に入りの場所に座って鳥のさえずりをBGMに小さなノートを開いてお気に入りの植物や館のスケッチをしたり、ピクニックをしたり、大切な人へのひさしぶりのハガキを書いたりして、何時間でも癒しの時間を過ごせそうです」。ヨシエさんはそう言いながら、バラの香りをかいだり、小鳥たちの歌声にしばらく耳をそばだてていました。
規模は大きくないが色とりどりの種類のバラを揃えたローズガーデンも見事。
ネブワース・ハウスの敷地内には、ほかにも恐竜のオブジェが見つかるダイナソー・トレイルやアドベンチャー・プレイグラウンドといった、子供たちが一日中夢中になって遊ぶことのできる施設や、軽食やケーキが楽しめるカフェも併設されています。
どこを取っても絵になる建物は、多くの撮影に利用されるというのも納得。
まだ日本ではあまり知られていないネブワース・ハウスですが、ヨシエさんはまた何度でも訪ねてみたい場所だと、すっかりお気に入りの様子です。読者の皆さんへ「ロンドンから日帰りで行けて、子供連れから大人までみんなが楽しめること満載のネブワース・ハウス。ぜひ皆さんも、五感で楽しむ、楽しい時間を過ごしてくださいね」とのメッセージとともに、今回の訪問でのスケッチも特別に公開してくださいました。
アラン・ヨシエさん
福島県生まれ。2006年より東京を拠点にイラストレーター・コラージュ作家として活動開始。近年は、自然からインスパイアされた光と影のコントラストの中に自分なりの人生哲学を織りまぜ、それをペインティングやドローイング、切り絵や色とりどりの素材ハギレ、柄で表現している。最近では愛犬マーゴをきっかけにはじめたドッグウォーカーとペットポートレート制作もライフワークに加わる。
著書『ヨシエフォンデュ』(角川書店)、『ハッピーイースター』(くもん出版) 他多数。
Instagram:https://www.instagram.com/yoshiemilkallan.art/
Website & Shop:https://yoshiemilk.com/
*ネブワース・ハウス(Knebworth House)
住所:Knebworth, Hertfordshire, SG3 6PY
(車で訪問の場合には郵便番号SG1 2AXをカーナビに記入)
電話番号:44 1438 812661
営業時間:時期によって異なるので訪問前にウェブサイトにて確認を。
ウェブサイト:http://www.knebworthhouse.com/
マクギネス真美
英国在住20年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。
音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。
ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』にてコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。
▶︎ mamimcguinness.com
▶︎ twitter
▶︎ Facebook
▶︎ Instagram
▶︎ note