9月に入り、イギリスに突然「夏」がやってきました。いえ、間違いではありません。インディアンサマーと呼ばれる、気温が30度近くにもなる日が一週間ほど続いているのです。
そのかわり、というわけではないでしょうが、今年のイギリスの夏は、6月には真夏のような日差しがあったものの、その後、低気圧の影響もあって、7~8月は雨が降ったり風が強く、夏らしい夏ではありませんでした。
とはいえ、夏に長期ホリデーを取るのは、イギリスの人たちのお約束。海外旅行に出かける人も多いですが、国内ホリデーだとしたら、海や山に行くというのは、日本もイギリスも似ています。
私たち家族も今夏のホリデーでは、山登りをしにウェールズにあるブレコン・ビーコンズ国立公園に出かけてきました。イングランドでは見られない壮大な山から見る景色は思わず声をあげてしまうほどの美しさで、皆さんにもぜひ一度訪ねてほしい場所です。
さて、ウェールズはグレートブリテン島の南西にあり、イギリス、つまりグレートブリテンおよび北アイルランド連合王国(The United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)を構成する国のひとつだというのは、すでに皆さんもご存知だと思います。
たくさんの古城があり、歴史と壮大な自然とその美しい景色で知られる場所がこの国です。また、かつては産業革命の原動力のひとつともいえる炭鉱の町として栄えたことでも知られています。
そのウェールズ中部~南部にかけて広がる自然保護地域が、ブレコン・ビーコンズ国立公園(Brecon Beacons National Park)です。1957年に国立公園に指定されたこの一帯の面積は、1347平方キロメートルといわれ、現在では、イギリスの景観や歴史的建築物の保護に尽力しているチャリティ団体ナショナル・トラストによって管理されています。
出発はナショナルトラストが管理している駐車場に続く登山口からです。歩きはじめるとすぐに小川が流れていて、「『ロード・オブ・ザ・リング』の世界だね」と、J・R・R・トールキンの物語の大ファンの娘は興奮ぎみです。
登山道はゆるやかな傾斜という感じですが、登り始めると、結構体力がいるのに気づきます。子どもたちが少し先を歩いていくのを見ながら、家にあったウォーキングポールをもってこなかったのを少々悔やみながら、それでもマイペースで歩き続けました。歩き慣れてくると、ウォーキングブーツのかかとあたりを伝わって地面から力強いエネルギーが体の中に伝わってくるような気がします。そして、時々立ち止まっては周りを見回すと、羊が草を食べていたり、延々と続く自然の緑が目に写り、忙しい日常から離れた時間を過ごしている実感がわいてきます。
コーン・ディ山の山頂が近づくと、それまでずっとなだらかだった道が、崖のような様相を見せ、ここでは「山登り」らしい経験ができました(つまり、ちょっと怖かった)。足場を確保しながら片手、片足…と、そろりそろりと歩を上へ上へとすすめ、私がようやく登り切ったときには、子どもも夫も「ウェルダン(よくやった!)」と声をあげてほめてくれました。
頂上には「ケアン(cairn)」と呼ばれる石を積み上げたものがあり、到着した人たちが薄っぺらい小さな石をまたその上に積み上げていっていました。以前、ヒマラヤ山脈の写真でこういうものを見たことがあったのですが、実際に見るのは初めてでした。古くから埋葬のモニュメントとか記念碑的な意味を持って作られていたものらしいですが、現代では、特に山頂のランドマークとして作られていることが多いらしく、ここでも存在しているというわけです。そこに石を積み上げている人々はみんなとても誇らしげな表情でニコニコしています。私たち家族も、そのケアンと一緒に記念撮影をしました。
また岩場を登ることを覚悟していましたが、ペン・イ・ヴァン山へのルートでは、それほど急な崖を登らずに、山頂に到着。南ウェールズ最高峰の山だけあって登山者はさきほどのコーン・ディ山の倍以上いました。
その様子は、まるで歌舞伎やオペラの舞台の幕が開いたかのような、一瞬にして後ろに隠れていた艶やかで見事な舞台装置が目の前に現れた、という感じでした。そして、霧があったときには気づきませんでしたが、崖の近くに立って見下ろすと、相当な高さの場所にいることが実感できました。
これは、当地で気候変動と生物多様性という緊急課題に向けた取り組みのひとつとして実施されたものだといいます。計画では、1万6000ヘクタールの泥炭地の復元や、100万本の新しい木の植林、公園全域での川の水質向上など、気候変動の影響を阻止し、逆転させるための多くのプロジェクトが進行中なのだそうです。
これらの取り組みで、ブレコン・ビーコンズあらためバナイ・ブルフェニヨークは、さらに美しい自然を取り戻していくに違いありません。
そのかわり、というわけではないでしょうが、今年のイギリスの夏は、6月には真夏のような日差しがあったものの、その後、低気圧の影響もあって、7~8月は雨が降ったり風が強く、夏らしい夏ではありませんでした。
とはいえ、夏に長期ホリデーを取るのは、イギリスの人たちのお約束。海外旅行に出かける人も多いですが、国内ホリデーだとしたら、海や山に行くというのは、日本もイギリスも似ています。
私たち家族も今夏のホリデーでは、山登りをしにウェールズにあるブレコン・ビーコンズ国立公園に出かけてきました。イングランドでは見られない壮大な山から見る景色は思わず声をあげてしまうほどの美しさで、皆さんにもぜひ一度訪ねてほしい場所です。
たくさんの古城があり、歴史と壮大な自然とその美しい景色で知られる場所がこの国です。また、かつては産業革命の原動力のひとつともいえる炭鉱の町として栄えたことでも知られています。
そのウェールズ中部~南部にかけて広がる自然保護地域が、ブレコン・ビーコンズ国立公園(Brecon Beacons National Park)です。1957年に国立公園に指定されたこの一帯の面積は、1347平方キロメートルといわれ、現在では、イギリスの景観や歴史的建築物の保護に尽力しているチャリティ団体ナショナル・トラストによって管理されています。
登山口となっているナショナル・トラスト管理の駐車場にある地図を確認してからスタート
さて、私たちが目指したのは、ブレコン・ビーコンズ(英名:Berecon Beacons)国立公園内で最高峰といわれる標高886mのペン・イ・ヴァン山。出発はナショナルトラストが管理している駐車場に続く登山口からです。歩きはじめるとすぐに小川が流れていて、「『ロード・オブ・ザ・リング』の世界だね」と、J・R・R・トールキンの物語の大ファンの娘は興奮ぎみです。
ちょっとした冒険の始まりを感じさせる風景
登山(といっても今回のような場合、イギリスではウォーキングまたはハイキングと呼ばれます)をする道は石が敷かれてあるところも多く、歩きやすいように整備されているため、私のような初心者を含め、子どもや高齢の方たちなどさまざまな年齢層の人々が、頂上を目指して歩いています。ルートはひとつではないため、降りてくる人の数はそれほど多くはありませんでしたが、お互いすれ違うたびに「ハロー」「上はどうだった?」など、自然の中では見知らぬ同士でも、あいさつや短い会話をするのも楽しいもの。登山道はゆるやかな傾斜という感じですが、登り始めると、結構体力がいるのに気づきます。子どもたちが少し先を歩いていくのを見ながら、家にあったウォーキングポールをもってこなかったのを少々悔やみながら、それでもマイペースで歩き続けました。歩き慣れてくると、ウォーキングブーツのかかとあたりを伝わって地面から力強いエネルギーが体の中に伝わってくるような気がします。そして、時々立ち止まっては周りを見回すと、羊が草を食べていたり、延々と続く自然の緑が目に写り、忙しい日常から離れた時間を過ごしている実感がわいてきます。
登山道は整備されていてスニーカーで登る人もいますが、やはりウォーキングブーツ着用がおすすめ
深呼吸をしてから再び歩き出し、少しすると道が二手にわかれています。一方はペン・イ・ヴァン山、もう一方はコーン・ディ山へ行く道だと、降りてくる人が教えてくれました。時間にして15分くらいと聞いたので、まずはコーン・ディ山に行き、その後、本命のペン・イ・ヴァン山を目指すことにした私たち。コーン・ディ山の山頂が近づくと、それまでずっとなだらかだった道が、崖のような様相を見せ、ここでは「山登り」らしい経験ができました(つまり、ちょっと怖かった)。足場を確保しながら片手、片足…と、そろりそろりと歩を上へ上へとすすめ、私がようやく登り切ったときには、子どもも夫も「ウェルダン(よくやった!)」と声をあげてほめてくれました。
頂上には「ケアン(cairn)」と呼ばれる石を積み上げたものがあり、到着した人たちが薄っぺらい小さな石をまたその上に積み上げていっていました。以前、ヒマラヤ山脈の写真でこういうものを見たことがあったのですが、実際に見るのは初めてでした。古くから埋葬のモニュメントとか記念碑的な意味を持って作られていたものらしいですが、現代では、特に山頂のランドマークとして作られていることが多いらしく、ここでも存在しているというわけです。そこに石を積み上げている人々はみんなとても誇らしげな表情でニコニコしています。私たち家族も、そのケアンと一緒に記念撮影をしました。
子どもたちだけでなく大人も喜んでケアンを積み上げていた
この時は霧がかかっていて山の下の様子はあまり見えなかったのですが、ひとつめの山を登り切ったことに勢いをつけ、隣のペン・イ・ヴァン山を目指しました。また岩場を登ることを覚悟していましたが、ペン・イ・ヴァン山へのルートでは、それほど急な崖を登らずに、山頂に到着。南ウェールズ最高峰の山だけあって登山者はさきほどのコーン・ディ山の倍以上いました。
霧に霞む景色も風情がある
頂上に到着してまもなく、薄いグレーの霧が、一瞬のうちに消え去って、突如、青い空と遠くまで続く山の稜線が目の前に現れたときは、私だけでなく、周りの人もみんな「わー」「わぉ」という声をあげていました。その様子は、まるで歌舞伎やオペラの舞台の幕が開いたかのような、一瞬にして後ろに隠れていた艶やかで見事な舞台装置が目の前に現れた、という感じでした。そして、霧があったときには気づきませんでしたが、崖の近くに立って見下ろすと、相当な高さの場所にいることが実感できました。
霧が晴れて現れた景色には思わず声をあげてしまった
「雄大」という言葉がぴったりな景色を見ていたら、日本を9000キロメートルも離れた場所にも日本と同じように山、木々、植物といった自然があり、そして人々の生活があるということになぜか胸がいっぱいになりました。 ペン・イ・ヴァン山は標高886メートル
あとから知ったのですが、今年の4月17日から、このブレコン・ビーコンズはウェールズ語のBannau Brycheiniog(バナイ・ブルフェニヨーク)に名称変更(というか、かつての名称に戻された)そうです。これは、当地で気候変動と生物多様性という緊急課題に向けた取り組みのひとつとして実施されたものだといいます。計画では、1万6000ヘクタールの泥炭地の復元や、100万本の新しい木の植林、公園全域での川の水質向上など、気候変動の影響を阻止し、逆転させるための多くのプロジェクトが進行中なのだそうです。
これらの取り組みで、ブレコン・ビーコンズあらためバナイ・ブルフェニヨークは、さらに美しい自然を取り戻していくに違いありません。
動物や植物に出会うのもブレコン・ビーコンズの山登りでの楽しみのひとつ
今度イギリスを旅する時には、ぜひウェールズの美しい自然を楽しみにバナイ・ブルフェニヨークでの山登りを体験してみてください。 ウェールズ出身の人気俳優マイケル・シーンによる、ブレコン・ビーコンズの新名称とあらたな取り組みについての短編動画。
*ブレコン・ビーコンズ
ウェブサイト:www.breconbeacons.org
マクギネス真美
英国在住20年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。
音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。
ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』にてコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。
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