次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|ダーティントン | ブリティッシュメイド

English Garden Diary 次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|ダーティントン

2024.07.22

イングランド南西にあるデヴォン州の南部には「トランジション・タウン」として世界中に知られているトットネス(Totnes)という街があります。トランジション・タウンについての定義はさまざまですが、多くの人に認知されているものとしては、地球環境や社会に関する色々な課題に対して、その街に住む住民たち自らが課題解決に向けて考え、協力し、行動、活動している街というものです。

今回ご紹介する美しい庭園があるダーティントン・エステート(Dartington Estate)は、そのトットネス近郊にあり、地元の人たちはもとより、イギリス国内さらには世界中から、多くの人たちが訪ねてきます。

現在のダーティントン・エステートの活動は、1925年にドロシー&レナード・エルムハースト夫妻が14世紀のダーティントン邸を購入したところから始まりました。というのも、 エルムハースト夫妻は、当時の革新的な思想家たちに影響を受けて、ダーティントン・エステート内の建物を修復し、農業、林業、教育プロジェクトなどを立ち上げる「ダーティントン・エクスペリメント」に力を注いだからです。 それを皮切りに、このダーティントンには、世界中から芸術家、建築家、作家、哲学者、音楽家などが集まるようになり、クリエイティブな活動の中心地となっていったのです。

次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|ダーティントン 485ヘクタールの敷地をもつダーティントン・エステート (photo © Dartington Trust)
中でも現代において特によく知られているのが、エステート内にあるシューマッハ・カレッジです。ここは、日本にたびたび訪れている思想家サティシュ・クマールさんが設立した私立大学。ドイツ生まれでイギリスで活躍した環境経済学者エルンスト・フリードリッヒ・シューマッハと、ガンディーの思想を受け継いだサティシュさんは、この場所で「21世紀の課題に立ち向かうために必要な意識、実践的スキル、戦略的思考を身につける」という理念のもと、たくさんの学生たちを受け入れて、その教えを伝えてきました。学生たちはキャンパス内でコミュニティ活動をしながら、自然に触れ、実践を通じての学びをしています。

このように、ダーティントン・エステートは歴史的建造物、庭園、大学など、広大な敷地の中に様々な建物、機能をもった場所ですが、今回はイギリスで「建築的歴史的重要建造物リスト」の中でもグレードII*(特別に重要な建造物)に指定されている、美しい庭園についてご紹介したいと思います。

米国出身女性によるガーデンデザイン

エステートの敷地へメインゲートから入っていくと、まず目の前に現れるのが、グレートホールと呼ばれる建物です。14世紀後半に建てられた歴史ある建物は、イングランドに現存する最も優美な国内建築のひとつともいわれています。実際、遠くから眺めても、近寄ってみても、その壮麗さに圧倒されるでしょう。

次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|ダーティントン中世の雰囲気が漂ってくるようなグレートホールの外観
『ハリー・ポッター』の映画に出てきそうな中世の建物は中庭を囲むように建てられています。中でもウェスト・ウイングと呼ばれる建物の一角は、中世そのままの外壁が残っていて、当時の様子を想像させてくれます。

次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|ダーティントン中世の壁が残る一角
中世イギリスへと思いを馳せながら進んでいくと、ガーデンの入り口には”Tai-Haku”と書かれた桜の木がありました。説明を読むと、この「太白」という品種の桜は、戦前の日本では絶滅していたものだそうです。それが、桜の研究をしていたイギリス人園芸家のコリングウッド・イングラムが、自宅庭にあった太白の桜の穂木を日本に送り、桜の祖国である日本でまた太白を根付かせることができた、という記念すべき桜なのだとか。予備知識なく訪れた庭園で、イギリスと日本とのこのような親密な関係を知り、ますます庭園への期待は高まりました。

次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|ダーティントン「太白」は訪問時には花の季節は終わっていたが、新緑が生き生きと伸びていた
エルムハースト夫妻は、ビアトリクス・ファランドという、アメリカの女性ランドスケープアーキテクトを招いてこのガーデンのデザインを依頼。ビアトリクスは1934年から1939年までダーティントンを4回訪問しただけだったといいますが、庭園計画を立案・設計。イングランドを離れている間も、ダーティントンのことを常に考えていた、とドロシーとの書簡に書き綴っています。そのビアトリクスはガーデンデザインに、自生植物を最大限に活用しましたが、庭園の端から端まで歩いてみると、そのことがよくわかります。ちなみに、アメリカ以外でビアトリクス・ファランドのデザインしたガーデンを見ることができるのは、ダーティントンのみという、貴重な場所です。

ガーデン内に歩みを進めると、眼前に広がってくるガーデンの中心ポイントともいえる「ティルト・ヤード」と呼ばれる中庭があります。芝生が敷き詰められ傾斜になっていて、時にはコンサートや芝居の舞台としても利用されていたといいますが、ベンチに座って野鳥の歌声を聴きながらこのガーデンを見下ろしているだけで、心が静かになっていくのがわかります。特にグレートホールの対岸側に置かれた、イギリス人アーティスト、ヘンリー・ムーアの彫刻があるあたりからの眺めは見逃せません。

次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|ダーティントン 1840年代にティルト・ヤードに植えられた12本のヨーロッパイチイの木は、再生のために現在は枝がすべて切り払われた状態
さらに庭を進んでいくと、緑、白、青などのシンプルでモダンな色使いが際立つ庭のなかで、ひときわ目を引くのはアザレア・デル(Azalea Dell)というエリア。日本ではツツジの名で知られるアザレアは、イングリッシュガーデンでも人気の植物で、とくにその艶やかな彩りが人々の目を引くためか、この庭でもたくさんの訪問者が、かわるがわるこの花の前で記念撮影をしていました。

次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|ダーティントン 撮影スポットとなっているアザレア・デル
なお、私が訪ねた初春にはまだ花は咲いていませんでしたが、ティルト・ヤードを見下ろすことのできる場所には、イングリッシュガーデンの特徴のひとつともいえるボーダーガーデン(帯状に細長く広がるガーデンのこと)が作られていました。今の時期にはきっと夏の花々が華やかさを添えていることでしょう。細長くつらなるエリアに多種類、色とりどりの花が咲きそろう姿を見ると、なぜイギリスの人たちがガーデンとガーデニングを愛するのかがわかる気がするはずなので、ぜひゆっくりと眺めていってほしいエリアです。

次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|ダーティントン様々な花が咲き乱れた様が美しいイングリッシュボーダー (photo © Dartington Trust)
また、敷地内には、広大な一面の緑を見渡せる場所にプレイハウスと呼ばれる、子供たちのための小さな家が建てられていました。苔むした屋根がこの場所の歴史を感じる趣のある建物。大人はもちろんのこと、エルムハースト家の子供たちも、このガーデンで自然に触れながら楽しい時を過ごした様子が思い浮かぶようです。

次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|ダーティントン 子供たちのはしゃぎ声がきこえてきそうなプレイハウス
自生の樹木を生かしながらも、ところどころに彫刻が置かれたり、エリアごとに植栽がデザインされ、まるで「百の緑」があるともいえる色とりどりのグリーンにあふれたこの庭には、必ずまた戻ってきたい、と思わせる清涼ながらもあたたかなエネルギーに溢れていました。

次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|ダーティントン 「緑」の豊富さにため息がでるほど
次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|ダーティントン ヘンリームーアの彫刻からグレートホールを見下ろして
グレートホール内にあるパブ、ザ・ホワイト・ハートでは、地元産の食材を使ったおいしい食事もいただけるので、ガーデン散策の後には、こちらにも立ち寄ってみてください。もちろん、ここでも地元産、サステナブル、フェアトレードの原則にのっとったものだけが利用されているので、環境問題、社会問題に関心が高い方達からも支持を受けているお店です。14世紀の建物でのダイニング体験は特別なものになること間違いなしです。

次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|ダーティントン
次のイギリス旅行で訪ねたいイングランドの隠れた名所|ダーティントン 中世の建物の中にあるザ・ホワイト・ハートで、ローカルフードを味わう
*ダーティントン・ホール(Dartington Hall)
住所:The Elmhirst Centre, Dartington, Totnes TQ9 6EL
ウェブサイト:www.dartington.org

Photo&Text by Mami McGuinness


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マクギネス真美

マクギネス真美

英国在住20年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。
音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。

ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』にてコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。

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