ロンドン最強説:今日もやけにクロスロードだね。 | BRITISH MADE (ブリティッシュメイド)

Absolutely British ロンドン最強説:今日もやけにクロスロードだね。

2024.08.08

いつも不思議に思うことがある。例えば旅先で、田舎道を歩いているとき。あるいは、あまり人通りのない住宅街とか。 こちらへ向かって、人が歩いてくるのが見える。その時点ではそれ以外、人らしい人は見えない。道幅は狭い。向かってくる人の後ろから、うっすらと自転車が近づいてくるのが見える。私はハッとしてこう考える。

「この狭い道で三者が同時にすれ違うのは、マズいなぁ……」

そしてかなり高い確率で、その通りになるのだ。私と対向者、そして自転車が同時に、その狭い道で同じライン上ですれ違う。ときにはそこに、乗用車が加わることもある。

想像してほしい。その日、てんでバラバラの方角から、全く別の目的で家を出た赤の他人同士の4者が、一瞬、同じ道の同じライン上ですれ違う。私は彼らに当たらないよう身をくねらせながら「なんでわざわざ?」と思う。そのことが起こる可能性について、どのくらいの確率があるのか思わず考える。

「どうして彼らは1メートル前でも後でもなく、この瞬間に同じライン上に存在することになるのだろう?」

私たちの前後には、ただただ、誰もいない道がすとーんと抜けているだけなのに。

そして私の頭の中は、ドラマ仕立てのヴィジュアルでいっぱいになる。縁もゆかりもない4人が、それぞれの場所でその朝目覚める。身支度をして朝ごはんを食べて(あるいは食べずに)、用事を済ませながら、全く別の目的でその道のその場所を目指し、行動を開始するのだ。そして運命が彼らを邂逅させる……。私が映画監督なら、そこはもちろんスローモーションで。各人の表情や洋服にクローズアップしつつ、突然カメラをターンして空高く俯瞰モードにもって行きたいところだ。

これはある種の奇跡ではないだろうか? 奇跡でないとしたら、運命が仕組んだ何か? だとしたら、それはなぜか? なぜ彼らは人通りの少ない道路のたった一つのポイントで重なってしまうのか?


ロンドンクロスロード 江國まゆ
ロンドンはある意味、この奇跡が頻繁に起きうる、世界でも最強のクロスロードだ。

私はこれを、“人生のクロスロード”と呼んでいる。トラフィックのない場所でさえ自然に人がトラフィックを形作ってしまうのは、もともと人が自然に引き合い、他者とのつながりの中で成長していく存在であることを、象徴的に表しているのではないか。そんな仮説が頭をよぎる。

ロンドンには世界中から旅人が毎日大量に流れ込んでくる。そこに暮らす人々も多種多様だ。日本ではあり得ないような国籍同士の出会いもあれば、「なぜここで!?」と驚くような再会もある。私自身、何度かそんな体験をしている。あり得ない出会い。あり得ない再会。でもそれが全て、仕組まれたことだとしたら?

ロンドンが筋金入りのメルティング・ポットであることは、英国政府による2021年の公式調査でもわかる。いわゆる白人系イギリス人が36.8%、その他の白人が1 7%、インド圏から来た人々が20.7%、黒人が13.5%、日本人を含むその他が6.3%、ミックスが5.7%。これがロンドンを形成する人々の割合なのだそうだ。

ロンドンクロスロード 江國まゆ
出会いを提供することが都市としての宿命だとしたら、ロンドンはやはり最強だと思う。

実は一昨年くらいから、いわゆるワーキング・ホリデーでイギリスを訪れる日本の方々が急増していて、しばらく少なくなっていた日本人人口が増えてきたことを実感している。全く嬉しい限りなのである。

新たにこの街にやって来た若き同胞に出会うにつけ、彼らが人知れず悩みを抱えていることに気づく。そこでロンドン在住歴の長い私がおこがましいとは思いつつ、ロンドン初心者の皆さんへ向けて、多くの価値観が渦巻くロンドンでどうサバイバルしていけばいいのかについて少しだけアドバイスを差し上げてみたい思う。私見にしばしお付き合い願いたい。

01.英語でうまくコミュニケーションがとれない!どうしよう? / 「言葉の力に頼るな!」

人に何かを伝えるとき、実は言葉はほんの少ししか語らない。顔の表情やボディランゲージのほうが雄弁なのである。なるべく誠意を持って相手に接することで人柄が伝わり、人間関係もスムーズになる。相手が何を言っているのか分からない時は「分からないんだけど」と素直に伝えるほうが、(私も昔はよくやったけれど)ニヤニヤして分かったふりをするよりもよほどいい。親切な人なら別の言い方をしてくれるはずだ。それとは真逆のアドバイスだが、適当に調子を合わせて会話を続けることも大事。そこから友情が芽生えることもある。

どちらにせよ、シャイでいることは、ロンドンではあまりお勧めしない。「何を考えているかわからない」と思われ、疎遠になってしまうかもしれない。英語なんてちょっとくらい間違ってもいい。どんな形であれ、なるべく会話に参加すること、話そうとすることが楽しいロンドン生活への近道なのである。言語はツールであり、ハートで話すと通じ合うはずだ。

ロンドンクロスロード 江國まゆ

02.フラットメイトが掃除をしない(泣) / 「自分のために行動しよう!」

フラットメイトが掃除をしなくて参っている? まず「皆が掃除をすべき」という倫理的思考を取り払ってみよう。掃除が美徳という考えも、まずは脇に置いておく。そして「なぜ掃除をするのか?」について自問すると、それは「自分が気持ちよく生活したいから」だと気づくはずだ。

とりあえず「掃除をしたい人が掃除をする」ということになりがちなロンドンのフラットシェア生活だと思うが、「掃除は自分のため」と思うと気が楽になる。自分のために掃除をする。そして掃除時間をエクササイズだと思いながら楽しく動き回ると、もっと気分が上がるし、しまいにはいいことがある(きっとね)。

人のことを考えず、人におもねらず、ひたすら自分のためだけに掃除をする。フラットの共用スペースなどたかが広さも限られているはずだ。しかし掃除が好きではないと思うなら、(過度の期待をせず)フラットメイトに掃除の分担を持ちかけてみよう。トイレには(気休めだとは思うが)張り紙をするなどの工夫もしてみると良い。

ちなみに掃除があまり得意でなく美徳だとも思っていないのは、イギリス人、フランス人、スペイン人、イタリア人など。「掃除をしてやってもいいよ」と思っているのは、ポーランド人をはじめ一部の東欧出身者、それからアジアの人々かもしれないので、「掃除問題」に行き当たりたくない人は、フラットメイト選びに慎重になるのも一つの手だ。

ロンドンクロスロード 江國まゆ

03.差別されてる気がする! / 「それは本当に?」

普段から口を酸っぱくして言いたいことなのだが、あなたが「差別」と思っていることは、ほとんど「個人的な偏見」であることが多いので、よく見極めることが必要だ。スーパーやショップで店員から、あるいはお役所の役人から嫌な態度を受けた? それは本当なのだろうか? その人は普段からただの「嫌なヤツ」なのかもしれない。

あるいは本当に日本人が嫌いなのかもしれない。でもその個人的な偏見と、あなた自身が素晴らしい人であることと、いったい何の関係があるだろうか? 卑屈な気持ちでいると見えることも見えなくなってしまうので、常日頃から「自分は素敵だ」と思うことをおすすめしたい。

本来、個人の偏見はその人の問題であって、あなたの問題ではないので、気にしないのが得策。隣人から嫌がらせがある? その場合は差別や偏見ではなく、あなたが他人に迷惑をかけている可能性も含め、個人的に解決しなくてはならない問題かもしれないので、差別と結びつけて放っておくのはおすすめしない。

ちょっとポッシュに見えるイギリス人の同僚や大家から、何か差別的なことを言われた? あるいはそんな態度を取られた? それはそのイギリス人の経験や知識が浅すぎて、世界の多様な価値観に追いついていないだけなのかもしれない。「お気の毒さま」と思って口を閉じるか、もしくは会話中なら「どうしてそう思うのか?」と、真顔で問い返してみるといいだろう。

相手はもしかしたら、あなたのボディランゲージに反応している可能性もある。「自分なんてどうせ……」「自分には大した価値がない」と言う態度を取り続けていると、相手もあなたをそう扱いがちになってしまう。それを避けるためには、前述したように「自分は素敵だ」と常日頃から思っておくことだ。

そして忘れてならないのは、あなたが外国人だということだ。他人様の領土でそつなく楽しく過ごすには、その土地のやり方を吸収し、イギリスの歴史を学ぶことも大切。いつも日本のやり方と寿司が一番と思っていると、痛い目に遭っても仕方ない。外国に住むということは、謙虚であることも時には必要なのだ。

偏見は世界の至るところにある。きっとあなたの中にも。そしてあなたは世界で最も多様な価値観が交差する土地に来ている。ぜひその価値の大海を泳ぎ回り、その意味を知り、経験から学んでほしい(ちなみに会社や学校などで本当に日本人だけが公に差別を受けていると感じるなら、然るべき組織のトップに相談することをおすすめする)。

04.どうしてイギリスではXXなのだろう?日本はZZなのに。 / 「相手をリスペクトしよう」

自分の考えに囚われていると、せっかくの海外生活がもったいない。「郷に入っては郷に従え」と言うが、これは一部当たっている。あなたは決してイギリスで日本のクオリティを手に入れることはないだろう。その代わり全く異なるクオリティがあることに、ただ気づき、異文化のあり方に目を身開かされるだけだ。

自分が日本人として持っている優れた点に気づき、リスペクトできるようになると、自ずと相手の行動や考えもリスペクトできるようになる。ロンドンのようなダイバーシティの海に浮かんでいると、「互いに認め合う」ことの大切さに気づくことになるだろう。他人へのリスペクトを忘れないようにしよう。

ロンドンクロスロード 江國まゆ

05.滞在一年が経った。イギリスの全てが嫌いになりそう。 / 「日本に帰ることもできるよ」

そんな時は、そもそも自分がなぜイギリスに来たのか、もう一度考えてみよう。あのロックミュージシャンが好きだったから? それとも英国的なノーブルに惹かれたから? イギリスの田園風景に心奪われたからだろうか? その答えに戻っていくときかもしれない。

理想と現実の間で引き裂かれるとき、それは自分が最も成長できるときでもある。恐れずに自分の「ヘイト」に向き合い、自分がどんな偏見を持っているかを洗い出してみると良い。そして身近な人に相談をしたり、話を聞いてもらったりするだけで、きっと心が落ち着くことだろう。

どうして自分は傷つくのか。何に対して傷つこうとしているのか。傷つくのは自分だけで、相手は傷ついていないのだろうか。感情はきっと、大切なことを教えてくれるだろう。その経験から何を学ぶのかは、あなた次第だ。

もっとも本当にイギリスが「合わず」毎日が辛いのに、滞在し続けることは互いにとっての不幸である。日本に帰る選択肢もあることを忘れないでいよう。

ロンドンクロスロード 江國まゆ

06.どうすれば有意義に過ごすことができる? / 「有意義って何?」

正直、経験は非常に個人的なものなので、友達が多くて派手な仕事をしていて毎週パーティーに行って浮かれ騒いでいるような生活が有意義かどうかは分からない。

それよりも、本当に自分に必要な少数の人との関係性を掘り下げ、自分の直感でいいと思うこと、やりたいと思うことに集中するほうが、より自分にとっては有意義な体験ができるに違いないのだ。他人の生活と自分の生活を比べず、ご縁のあるヒトやコトを大切にしよう。自分の成長はあなただけのものなのだから。





“人生のクロスロード”体験は、人それぞれだ。

私自身、ロンドンで暮らし始めてどれほど多くの人と出会い、得難い経験をさせてもらっているかは、ここでは書ききれないほど。大切な人たちとの出会いはもちろんのこと、昔を振り返って「あの経験があったからこそ今がある」と思える。

伴侶であれ、友人であれ、同僚であれ、人と出会わなければ人生は始まらない。修行僧のように人との接触を避けて山奥で修行しても、世俗ではその修行が何の役にも立たないと気づくはずだ。

ロンドンは地球の両極端で生まれた二人が、守備よく出会える場所。何百万もの異なるバックグラウンドを持つ人々が一直線に並ぶクロスロードであり、出会う人々とどう関わっていくかは、あなた次第。ぜひここで、自分だけの人生をデザインしてほしい。

Text&Photo by Mayu Ekuni


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江國まゆ

ロンドンを拠点にするライター、編集者。東京の出版社勤務を経て1998年渡英。英系広告代理店にて主に日本語翻訳媒体の編集・コピーライティングに9年携わった後、2009年からフリーランス。趣味の食べ歩きブログが人気となり『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房)を出版。2014年にロンドン・イギリス情報を発信するウェブマガジン「あぶそる〜とロンドン」を創刊し、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活について模索する日々。

http://www.absolute-london.co.uk

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