かつて「インスタ映え」という言葉が流行った時期がありましたね。イギリス国内には、その言葉にふさわしいパブリックアートがたくさん存在します。ただ、パブリックアートは写真に撮って美しかったり楽しかったりするだけ、というものではありません。実際に目の前に立って、あるいは手で触れてみることで、さまざまな感情や想いを感じるきっかけとなるのもパブリックアートの楽しさとも言えます。
そんなことを考えたのは、今回ご紹介するイギリスのアーティスト、アレックス・チネック(Alex Chinneck)さんによる、ユーモア溢れる作品たちに出会ったからです。アレックスさんはロンドンのコヴェントガーデンで展示された”Floating Building(建物の上半分が宙に浮いているように見える錯視を利用したインスタレーション)”など、日常的なオブジェクトや建築物を巧妙に変形・再構築することで、観る人を驚かせるような作品を作り続けている現代彫刻家です。
“Alphabetti Spaghetti”と名付けられたのは、胴体の真ん中がロープの結び目のようになった赤い郵便ポスト。これまで50年間閉鎖されていたブリストル市内の「チーズ・レーン」が一般の人たちが利用できる公道として再オープンしたことを記念して、この「結び目のある郵便ポスト」が登場しました。Alphabetti Spaghettiの後ろにあるビル群は、 建築家オールフォード・ホール・モナハン・モリスによるアッセンブリー・ブリストルの建物で、そのモダンでカラフルなデザインにポストの赤い色が強いコントラストを与えています。 どこか生身の人間を思わせる雰囲気があるこの彫刻に誘われるように奥に足をすすめていくと、そこに現れるのが次のアート作品。
“Wring ring”と呼ばれるこれは、見ての通り、かつてはイギリス各地に設置されていた電話ボックスをモチーフにしています。タオルを絞るかのようにねじられた電話ボックスは、金属でできていて、触るとちょっとひんやりして、どっしりとした重厚さを感じます。
ライトになっているので、上半分の部分には夜になると灯りがともり、ロマンティックな雰囲気を感じさせます。
建物に沿ってさらに奥へ行くと、運河沿いに2つの街灯が見えてきます。”First kiss at last light”というロマンチックなタイトルがつけられた作品のひとつは、これもまたまるで人のように思える2本のビクトリア朝スタイルの街灯が、しっかりと結びついて(抱きついて)運河を見下ろしているように見えます。また、もうひとつは蝶々結びとなっていて、運河の向かい側に立つビルを通りがかる人にプレゼントしているようです。
家族連れでやってきた人たちが、写真を撮ろうとしていたので、携帯を構えていた父親らしき人に「ご一緒に撮りましょうか?」といって、記念撮影を手伝ったあと、「このアートを見にきたの?」と聞いてみました。「そうだよ、ローカルの新聞で見て、週末だから家族で見にきたんだよ」と答える彼に、「どう思う?」と聞くと、「こんな楽しい彫刻があって子供たちも喜んでいるから、もっとこういうものが街にたくさんあってもいいと思うよ」と答えてくれました。
さきほどの電話ボックスと同様、この街灯も夕方になるとあかりがともり、水辺のシーンをいっそう印象深いものへと演出します。
郵便ポスト、電話ボックス、街灯と、日常的なオブジェを、まるでマジックのように人々を「あっ」と言わせるアート作品にして街にストーリーをもたらすアレックス・チネックさんのパブリックアートからは、「日常(当たり前)」を、「非日常(特別)」にするアートの力を感じます。
前回のコラムでご紹介したアントニー・ゴームリーさんによる“Another Place”もそうですが、イギリスにおけるパブリックアートというのは、単なる装飾にとどまらず、社会的・文化的メッセージを伝える手段としても重要な役割を担っていると感じます。そして、市民の意識を高めたり、コミュニティのアイデンティティを強化したり、あるいはこのアッセンブリー・ブリストルのように、それまで閉ざされていた場所をオープンにして、公共空間の質を向上させる役割を果たすことも。とはいえ、難しいことを考えずとも、見ているだけでただ楽しいというのもアートの素晴らしさ。次回、イギリスに来る時には、ぜひ国内各地にあるパブリックアートにも目を向けてみてください。
そんなことを考えたのは、今回ご紹介するイギリスのアーティスト、アレックス・チネック(Alex Chinneck)さんによる、ユーモア溢れる作品たちに出会ったからです。アレックスさんはロンドンのコヴェントガーデンで展示された”Floating Building(建物の上半分が宙に浮いているように見える錯視を利用したインスタレーション)”など、日常的なオブジェクトや建築物を巧妙に変形・再構築することで、観る人を驚かせるような作品を作り続けている現代彫刻家です。
シュールなのに愛嬌のあるアート
たとえば、真っ赤な公衆電話ボックスや郵便ポスト。最近では、街中からそれらの存在が減ってきているものの、イギリスを象徴する存在として今でもポストカードやマグなどのお土産品に必ず印刷されています。それらをモチーフにした、印象的かつ目にした誰もが「くすっ」としてしまうアート作品が昨年10月にアッセンブリー・ブリストル(Assembly Bristol)という場所に登場しました。さきほどの電話ボックスと同様、この街灯も夕方になるとあかりがともり、水辺のシーンをいっそう印象深いものへと演出します。
前回のコラムでご紹介したアントニー・ゴームリーさんによる“Another Place”もそうですが、イギリスにおけるパブリックアートというのは、単なる装飾にとどまらず、社会的・文化的メッセージを伝える手段としても重要な役割を担っていると感じます。そして、市民の意識を高めたり、コミュニティのアイデンティティを強化したり、あるいはこのアッセンブリー・ブリストルのように、それまで閉ざされていた場所をオープンにして、公共空間の質を向上させる役割を果たすことも。とはいえ、難しいことを考えずとも、見ているだけでただ楽しいというのもアートの素晴らしさ。次回、イギリスに来る時には、ぜひ国内各地にあるパブリックアートにも目を向けてみてください。
*アレックス・チネックさん
WEBサイト:alexchinneck.com
*Assembly Bristol
住所:Cheese Ln, Bristol BS2 0JJ
マクギネス真美
英国在住20年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。
音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。
ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』にてコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。
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