英国生まれのスピリット「Do It Yourself」
「Do It Yourself」=「自分でやる」の略語であるD.I.Y.。最近、日本でもさまざまなシーンで盛んになっているカルチャーだが、発祥地はイギリスだとご存知だろうか? 第二次世界大戦直後の荒廃したロンドン。故郷の復興を望む元軍人たちが、「何でも自分でやろう」と声掛けしあい、再建のために働いたのが起源といわれている。1957年には「Do it yourself」という名の雑誌まで発行され、その精神はイギリスからヨーロッパ全土、さらにアメリカへと伝わったそう。D.I.Y.というワード自体は決して歴史のある言葉ではない。とはいえ、その心意気自体はイギリス人に古くから根付いているものであった。家にかける情熱は世界一!とされるほど、日常的にセルフリノベーションやリフォームに挑む彼ら。根底には、同じ家を何世代にも渡って受け継ぐ伝統がある。
古いものの良さを認める価値観
「古いものは将来増えることがなく、減るのみである。よって、貴重であり価値が高い」というのは、アンティークを愛する英国らしい考え方の一つ。家も同様に、新築より年季の入った物件が好まれているとか。そのため、以前から住んでいるマイホームを自分たちで手入れし続け、大切に守るという意識が育まれてきた。食文化が発展しなかったのは、価値が下がらない住居に注力するあまり、後世に残せないフード類には無関心になったから、との説があるほど。もともと、イギリスの建築は石造りが基本。丈夫なうえケア次第で耐用年数をさらに延ばせるのだ。 しかも、英国流のホームケアは我々日本人が思うそれとはレベルが違う。壁紙の張り替えや庭に柵を立てる程度なら当たり前。台所、お風呂といった水まわりを大幅に改修したり、ゼロからバルコニーを追加したり、とても素人とは思えないほどの”工事”までセルフでこなしてしまう。電気系統や水道配管の個人改造が許されている国だからこそではあるが、長年培われた土壌がなによりだろう。資産運用、投資対象としての家
先祖代々の住まいを守る一方、古い家に投資する資産運用術が存在する。特にヴィクトリアン様式の建物に投資するのが手堅いとか。世界の四分の一をイギリスが支配していた時代に、質の良い材料、贅沢な間取りに高い天井など、栄えていた頃ならではのクオリティを誇り、土台がしっかりしているのでリノベーションもしやすいそうだ。廃屋状態にある当時の家をリーズナブルに買取り、まともに住めるようD.I.Y.。それを高値で売却するという運用が、かつての英国バブル期に多く見られたといわれている。 ここまで極端ではないにせよ、コストのかからないD.I.Y.によってマイホームの価値を高め、ステップアップのために売却するスタイルは、ある種の投資術として周知のこと。パパたちが大工仕事に奮闘するモチベーションにもなっている。 ヨーロッパ最大級の規模と品揃えで、英国では知らない人はいない、イギリスのD.I.Y.会社「B&Q」
世界一D.I.Y.に向いた風土
電気水道まわりの個人改修が許されているだけでなく、政府が借家より持ち家暮らしを推奨、優遇しているのも、日本との相違点。さまざまな面でマイホームを持ちやすくなっており、我が家だからこその派手なリノベーションが心置きなく楽しめるわけだ。また、D.I.Y.関連書籍やショップの充実ぶりは世界でも屈指。かなり専門的なマニュアルが雑誌感覚で店頭に置かれ、ホームセンターには工具類はもちろん、持ち帰り用バスタブやユニットキッチン、噴水などまでが並ぶ。ちなみに英国においてホームセンターはWarehouseと呼ばれ、B&Qというチェーン店がその代表格だ。総店舗数300以上、取り扱う商品は45000点を超え、日曜大工にまつわるすべてが揃う。
さらにリノベーションセンターという、一般の人々が建築ノウハウを学べる施設まで存在。巨大な展示スペースに地盤から基礎、壁や屋根、配管など、実物大の模型がディスプレイされ、どのようにして家が造られるのかを学べるようになっている。テキストだけでは足りない現場の知識を得られるのは、大きなアドバンテージに違いない。
イギリス流D.I.Y.をそのまま日本でこなすのは、少々骨が折れるはず。まずは昔から愛用しているお気に入り家具の修繕にチャレンジ。徐々にスキルアップさせ、古きを愛でる本格ブリティッシュスタイルへ近づいてみては?