イギリスでは10月といえば林檎の季節です。寒冷な気候に合うせいか、この国ではいたるところで林檎の木を見かけます。あちこちの家のガーデンはもちろんのこと、時には街路樹にまで林檎の木が植えられているところさえあるほどです。
次に引っ越した家の庭にもやはり林檎の木が。それも今度は3本もあり、こちらはどれも赤ちゃんの結んだ手ほどの大きさしかない、赤い実。品種は「コックス(cox’s orange pippin)」といい、ほどよい酸味と甘み、そしてほのかな芳香もあり、イギリス人お気に入りの林檎です。こちらは「イーティング・アップル」という種類にわけられ、そのまま皮ごとまるかじりする人がほとんどです。
歴史的には新石器時代のイギリスで野生の林檎が育っていたという記録があるそうですが、現在のような甘みのある品種が伝わったのは、ローマ人による征服時代。その後、イギリスでの林檎栽培の歴史にはアップダウンがありましたが、19世紀末から20世紀初頭にかけて新品種の改良がピークに達したといいます。
先に挙げたブラムリーとコックスの二種はイギリスを代表する林檎ですが、これらイギリスの林檎が特においしいのは、雨が多い気候ゆえ、ゆっくり時間をかけて実が成長するためだそうです。その間にしっかりと林檎の実全体に風味が行き渡るというわけです。
朝には山盛りだったのが、夕方帰宅途中に見ると、残っている林檎は2、3個に。そんな様子には「たくさんの人がお裾分けにあずかったんだな~」と、つい笑顔になってしまいます。
イギリスの林檎は、分け合ったりギフトにしたりと、人と人とをつなぐ役目も果たす果物といえそうです。
バラ・マーケットApple Day 2016
http://boroughmarket.org.uk/events/apple-day-2016
街路樹として植えられた林檎の木からのwindfall
以前住んでいた家には庭に大きな林檎の木がありました。もう何代も前の家主から引き継がれてきたと思わせるそれには、握り拳より大きい、無骨な形をした緑色の林檎が実りました。それは「ブラムリー(Bramley Seedlings)」という品種で、イギリスでは「クッキング・アップル」と呼ばれる、加熱して食べるとよりおいしいというタイプのもの。酸味が強く、柔らかく煮溶ける果肉がアップル・パイにぴったりです。次に引っ越した家の庭にもやはり林檎の木が。それも今度は3本もあり、こちらはどれも赤ちゃんの結んだ手ほどの大きさしかない、赤い実。品種は「コックス(cox’s orange pippin)」といい、ほどよい酸味と甘み、そしてほのかな芳香もあり、イギリス人お気に入りの林檎です。こちらは「イーティング・アップル」という種類にわけられ、そのまま皮ごとまるかじりする人がほとんどです。
1850年にリチャード・コックス氏によって発表されたコックスは、イギリス人が最もお気に入りの林檎
こんなふうにイギリスでは林檎が「クッキング」用と「イーティング」用に区別されているのです。初めて知ったときには、いかにもたくさんの種類の林檎があるイギリスらしいな、と感心したものです。歴史的には新石器時代のイギリスで野生の林檎が育っていたという記録があるそうですが、現在のような甘みのある品種が伝わったのは、ローマ人による征服時代。その後、イギリスでの林檎栽培の歴史にはアップダウンがありましたが、19世紀末から20世紀初頭にかけて新品種の改良がピークに達したといいます。
先に挙げたブラムリーとコックスの二種はイギリスを代表する林檎ですが、これらイギリスの林檎が特においしいのは、雨が多い気候ゆえ、ゆっくり時間をかけて実が成長するためだそうです。その間にしっかりと林檎の実全体に風味が行き渡るというわけです。
春に花をつけ、芳香を放つブラムリーの木
ところで、この季節になると「ご自由にどうぞ」というメッセージがついたカゴや箱にいっぱいの林檎が家の前に置かれているのを見かけることがあります。「ウィンドフォール(windfall)」と呼ばれる秋の実りを、近所の人にもシェアしよう、というイギリスの人々の習慣です。朝には山盛りだったのが、夕方帰宅途中に見ると、残っている林檎は2、3個に。そんな様子には「たくさんの人がお裾分けにあずかったんだな~」と、つい笑顔になってしまいます。
庭で採れた林檎は形もバラバラで個性的なのが楽しい
残念ながらわが家の林檎は完全無農薬(ほったらかし)で育てていたため、芯の部分に虫がいることが多く、採ってそのままご近所さんに配る、という訳にはいきません。そのかわり、虫喰い部分を取り除き、それを刻んで、チーズやサンドウィッチによく合うチャツネをつくります。瓶詰めにしたチャツネは、友人や家の修理に来てくれたビルダーさんなどにプレゼントしました。 わが家のチャツネのレシピは義祖母から受け継がれたものです
チャツネやジャムなど、林檎や秋の実りを瓶に閉じ込め保存食にしたものは、かつては定番のクリスマス・プレゼントとされていたそうです。そういえば、キャサリン妃もエリザベス女王へのクリスマス・プレゼントとして、手作りの林檎入りチャツネを贈ったというニュースがありましたね。イギリスの林檎は、分け合ったりギフトにしたりと、人と人とをつなぐ役目も果たす果物といえそうです。
庭で採れた林檎とブラックベリーを使ったクランブルはイギリス定番のデザート
10月21日は「林檎の日(Apple Day)」のため、その日を前後してイギリス各地でお祝いのイベントが開催されます。観光客に人気のあるロンドンの食料市場「バラ・マーケット」では、今年は23日(日)にお祭りが行われます。会場に並ぶ数えきれないほどの種類のイギリス産の林檎を見れば、この国で林檎がどれほど愛されているかがわかるはずです。バラ・マーケットApple Day 2016
http://boroughmarket.org.uk/events/apple-day-2016
マクギネス真美
英国在住20年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。
音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。
ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』にてコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。
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