「この庭はまるで舞台セットのよう。芸術作品と呼べるものです」
これは、世界遺産に指定されているイギリス南西部の街バースにある「プライヤー・パーク・ランドスケープ・ガーデン」のヘッド・ガーデナー、アリス・ポールフリーさんの言葉。
この日、私は、今年5月に新たにヘッド・ガーデナーに就任した彼女が案内する「ガーデン・ツアー」に参加。ツアー後のインタビューで、彼女が語ったこの言葉を聞いたとき、イギリスのガーデンが、なぜこれほどまでに人々を惹きつけるのか、その理由のひとつがわかったような気がしました。
彼女と一緒に歩いて巡った庭園は、ゆっくり歩いても約1時間半あれば十分という広さ。でも、敷地内それぞれのエリア、それぞれの植物が、物語を感じさせるドラマティックな場所だったからです。
イギリスのガーデンは、有名無名を問わず、興味深い歴史が隠されているものがたくさんあると言われます。そういう点では、このプライヤー・パーク・ランドスケープ・ガーデンも例にもれません。
現在はナショナル・トラストという、イギリスの景観や歴史的建築物の保護に尽力しているチャリティ団体によって管理されている庭園ですが、作られたのは18世紀。
元々はラルフ・アレンという、バースを拠点に実業家として成功を収めていた人物の邸宅として作られた場所でした。
コーンウォール出身の彼は、バースの郵便局に勤めていました。1720年代に、それまでの郵便を効率化するシステムを考え出し、富を得ます。それと並び、バース近辺にあった蜂蜜色の石灰質の石に目をつけ、これを建築用石材として使用することを事業にし、大成功を収めます。
プライヤー・パーク・マンションと呼ばれる大邸宅は、その石材のショウケースとしての役割がありました。彼は建築家ジョン・ウッドに依頼し、パラディアン様式という、当時のイギリスで人気のあった建築スタイルで美しい豪邸を作り上げます。そして、その邸宅からバース市街までを見下ろす場所に作られたのが、この風景式庭園だったというわけです。
アリスさんの話によると、1764年のラルフ・アレン没後、この庭は長い間ほったらかしにされてしまっていました。そのため、木々は伸び放題になり、植物は生い茂り、池の水もなくなってしまうというありさまだったそうです。
それが、1993年にナショナル・トラストの管理下に置かれて以降、大きな変化を遂げています。18世紀当時の姿に戻そうと、調査、研究がすすめられ、その結果をもとにした長期的な計画に基づき、アリスさんを筆頭にガーデナーと多くのボランティアたちの手で日々、作業が進められています。
では、ガーデン・ツアーの順路をたどりながら、プライヤー・パークを巡ってみましょう。
自然そのままのような景色を目指してデザインされた18世紀の風景式庭園。歴史あるガーデンを、その時代の姿に戻す作業をしているアリスさんの仕事もまた、この庭園の歴史の一コマとなっています。
このようにして、イギリスにおけるガーデンの歴史は、今も全国で作り続けられているのです。
そして、イギリスのガーデンを見学するということは、私たち自身もそのガーデン史の現場に立ち会っているのだと言えるのかもしれません。
みなさんも機会があれば、ぜひこうした「ガーデン・ウォーク」や「ガイド・ツアー」に参加してみてください。イギリスの庭園史に思いを馳せながら緑の中を歩くと、まるでその時代にタイムトリップするような気がするかもしれませんよ。
*プライヤー・パーク・ランドスケープ・ガーデン ウエブサイト
https://www.nationaltrust.org.uk/prior-park-landscape-garden
これは、世界遺産に指定されているイギリス南西部の街バースにある「プライヤー・パーク・ランドスケープ・ガーデン」のヘッド・ガーデナー、アリス・ポールフリーさんの言葉。
この日、私は、今年5月に新たにヘッド・ガーデナーに就任した彼女が案内する「ガーデン・ツアー」に参加。ツアー後のインタビューで、彼女が語ったこの言葉を聞いたとき、イギリスのガーデンが、なぜこれほどまでに人々を惹きつけるのか、その理由のひとつがわかったような気がしました。
彼女と一緒に歩いて巡った庭園は、ゆっくり歩いても約1時間半あれば十分という広さ。でも、敷地内それぞれのエリア、それぞれの植物が、物語を感じさせるドラマティックな場所だったからです。
イギリスのガーデンは、有名無名を問わず、興味深い歴史が隠されているものがたくさんあると言われます。そういう点では、このプライヤー・パーク・ランドスケープ・ガーデンも例にもれません。
現在はナショナル・トラストという、イギリスの景観や歴史的建築物の保護に尽力しているチャリティ団体によって管理されている庭園ですが、作られたのは18世紀。
元々はラルフ・アレンという、バースを拠点に実業家として成功を収めていた人物の邸宅として作られた場所でした。
コーンウォール出身の彼は、バースの郵便局に勤めていました。1720年代に、それまでの郵便を効率化するシステムを考え出し、富を得ます。それと並び、バース近辺にあった蜂蜜色の石灰質の石に目をつけ、これを建築用石材として使用することを事業にし、大成功を収めます。
プライヤー・パーク・マンションと呼ばれる大邸宅は、その石材のショウケースとしての役割がありました。彼は建築家ジョン・ウッドに依頼し、パラディアン様式という、当時のイギリスで人気のあった建築スタイルで美しい豪邸を作り上げます。そして、その邸宅からバース市街までを見下ろす場所に作られたのが、この風景式庭園だったというわけです。
アリスさんの話によると、1764年のラルフ・アレン没後、この庭は長い間ほったらかしにされてしまっていました。そのため、木々は伸び放題になり、植物は生い茂り、池の水もなくなってしまうというありさまだったそうです。
それが、1993年にナショナル・トラストの管理下に置かれて以降、大きな変化を遂げています。18世紀当時の姿に戻そうと、調査、研究がすすめられ、その結果をもとにした長期的な計画に基づき、アリスさんを筆頭にガーデナーと多くのボランティアたちの手で日々、作業が進められています。
では、ガーデン・ツアーの順路をたどりながら、プライヤー・パークを巡ってみましょう。
1. ツアーの最初に、ラルフ・アレンが目指した風景式庭園についての説明を聞く。前時代に流行ったフォーマルガーデンとは違い、曲がりくねる道、広い芝生、目をみはるような景色が特徴
2. サーペンタイン・レイクと呼ばれる湖は、改修保存を始める前は水はすっかりなくなり、土で埋まってしまっていたという
3. 暗くムーディーな常緑樹の中を抜けていく。この先に何が起こるのか、まるで舞台のお芝居を見ているような気分に
4. 目の前に現れたのは薄い黄色が特徴の美しいバース・ストーンで造られたプライヤー・パーク・マンション。現在はプライベート・スクールになっている
5. イギリスの庭園にベンチは欠かせない。ここに座って見下ろす景色はまさに贅沢の極み
6. 庭園の向こう、遠くに見えるのがバースの街並み。まさに風景画を見るよう
7. 以前、このコラムでケイパビリティ・ブラウンを取り上げたときにご紹介したハハー(ha-ha)がこの庭園にも! 上(邸宅)から見ると土地がシームレスになっていながら、羊や牛などの動物は、この石垣から上には上がれないという仕組み
8. 池から邸宅を見上げて
9. この庭のハイライトのひとつ、パラディアン橋。庭園内にこうした見所を作るのも風景式庭園の特徴
10. パラディアン橋にはたくさんの落書きがあり、中にはかなり古いものも(もちろん、今は落書きは禁止されています)
11. 庭園のあちこちで色づいたヒペリカムのつややかな実を見かけた
12. ガーデンで採れたリンゴをウォーキングの後のお土産に
常緑樹の多いプライヤー・パークですが、「緑」とひとことで言っても、その形や質感、色の濃さなど、それぞれの植物の表情はひとつひとつ違います。その特徴をわかった上で、庭園がデザインされ、そのことにより、変化に富んだ魅力的な景色を作り上げているとアリスさんはいいます。自然そのままのような景色を目指してデザインされた18世紀の風景式庭園。歴史あるガーデンを、その時代の姿に戻す作業をしているアリスさんの仕事もまた、この庭園の歴史の一コマとなっています。
このようにして、イギリスにおけるガーデンの歴史は、今も全国で作り続けられているのです。
そして、イギリスのガーデンを見学するということは、私たち自身もそのガーデン史の現場に立ち会っているのだと言えるのかもしれません。
みなさんも機会があれば、ぜひこうした「ガーデン・ウォーク」や「ガイド・ツアー」に参加してみてください。イギリスの庭園史に思いを馳せながら緑の中を歩くと、まるでその時代にタイムトリップするような気がするかもしれませんよ。
*プライヤー・パーク・ランドスケープ・ガーデン ウエブサイト
https://www.nationaltrust.org.uk/prior-park-landscape-garden
案内をしてくださったアリス・ポールフリーさん。ナショナル・トラストでボランティアとして9ヶ月の研修後、プライヤー・パークのガーデナーとして5年間勤務。今年5月にヘッド・ガーデナーとなる
庭園の入り口には、今の季節に見る(出会う)ことのできる鳥や動物の名前が書かれていた
マクギネス真美
英国在住20年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。
音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。
ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』にてコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。
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