ロンドン在住20年目、フリーランス編集者・ライターとなって9年目にして、身震いするようなチャンスが巡ってきた。「思い切り“ロイヤル”な体験をしちゃおう」という英国政府観光庁さん主催のプレス・ツアー「ロイヤル・ブリテン」に参加させていただいたのである。
送られてきた日程表を見て、二重三重に驚いた。まず、私をのぞく参加者全員が各国在住のジャーナリストで、ニューヨーク、トロント、モスクワ、アンマン、デリー、上海、マドリッド、コペンハーゲン、ストックホルムといった都市に拠点を置くそうそうたるメディアから、9名が送り込まれてくること。
次に、あくまで「ロイヤルは何を体験しているか?」を重視するツアーであって、古城巡りといったありきたりの「見学」ツアーではないということだ。そこにはロイヤル・ボックスでのメジャー競馬体験からヘリコプター・ライド、クレイ・ピジョン射撃、ランドローバー・サファリやセント・アンドリュースでのゴルフ体験、ロイヤルゆかりの五つ星ホテル宿泊といった項目がきらびやかに並んでいたが、実のところ最も私の目を引いたのは、ツアー序盤に組み込まれていた「ポロ」という文字だった・・・。
ツアー開始当日、英国政府観光庁の担当さんに「『ポロ』ってあるけど、観戦? それとも・・・?」と聞いてみると、「プレイするのよ!」との答え。えっ。ポロって、激しく馬に乗ってボールを打ちながら競技する、高度なチーム・スポーツですよね!? 旅の仲間と仰天の視線を交わし合いながらも、どんな体験になるのか待ちきれず・・・。そして私たちが向かったのは、イングランド西部、コッツウォルズ丘陵の西端に位置するLongdole Polo Clubだった。
プレイするのに自分だけでなく馬が必須というスポーツは、世界広しといえども馬術とポロくらい。ポロを本格的にやるなら馬を世話したりトレーニングしたりする「groom」と呼ばれる個人トレーナーを付けることも必要だ。その馬は、1試合に最低でも2頭を用意することを義務づけられているので、スキルだけでなく資金力も入り用となってくる。もっとも今回私たちがお世話になったポロ・クラブのように、馬をはじめヘルメットや木製スティックまで、訪れるだけでポロをプレイするのに必要な全てのものが用意されている一般向け体験レッスンを提供している場所があるのは、有り難い。 1992年に創設されたロングドール・ポロ・クラブは国際ポロ協会であるHurlingham Polo Associationのメンバー。2014年にプロのポロ選手だった新オーナーを迎え、ポロ人材を育て、広く一般の人びとにポロを知ってもらうことに尽力しているフレンドリーなクラブだ。そして! 英王室のウィリアム王子とヘンリー王子も、若かりし頃はこのクラブでポロの練習に励み、今現在も彼ら所有の馬がクラブ内で世話されているというからびっくり。今でもお二人は毎年、チャリティー目的のポロ試合に参加して寄付金集めに貢献しているのだ。
さて、超ビギナーに対して非常に分かりやすくポロの基本を教えてくれる指導員の皆さんに迎えられ、 頭にぴったりのヘルメットを選んだら(←これは大切。両手がふさがる馬上でヘルメットのズレを直すのは難しい・・)、T字型の木製スティック「マレット」を持っていざ、グラウンドへ! この日私たちを助けてくれる経験豊富な馬たちが、いかに素晴らしく力強く、どんなに賢く優しく私たちをリードしてくれるか・・・といった情報も、しっかりと心で受け止めて。)
ポロでは4名が1チームとなり、2チームが相手方のゴール目がけて球を打ち込む。ともかく球を正確に、持っていきたい方向に向かって打つ練習をせねばならない。
木馬上では本番よりも短めのマレットを使う。持ち方、打つときの角度、腕の力の入れ具合といった細やかな指導を受けながら、転がされてくる球を目がけてスウィングする。ビギナー用の練習なので遅めのスピードで転がされてくるためタイミングさえ合わせれば比較的簡単に打つことができるが、マレットは木製で球は固いので当たったときの手への衝撃は大きい。これにスピードが加わると、手首から肩にかけての負担は相当なものになるに違いないと想像できる。
木馬練習が終わったら・・・生きた馬たちにご対面〜♪ このクラブには約100頭の馬たちがいるが、それぞれ個性を持った存在として大切にグルームたちに世話されているそうだ。
ちなみに私たちグループのうち、アメリカ、ヨーロッパ、ヨルダン出身のガールズたちは乗馬経験があったが、私を含め他のメンバーは子供の頃のなんちゃって乗馬以外は経験していない組。まずは馬への指令の出し方など基本的なところから学んでいく。 最初は指導員が手綱を持って引き回してくれるが、そのうちに一人で回るよう促される。球を探して進んでいき、打っては馬を進ませる。そんなことを繰り返しているうち、遠くの球にも手をのばして打つようになる。すると上体を乗り出すことになるので、おのずと身体は馬体に頼り、馬を中心にバランスをとることになる。グランドを回りながら気づいたのは、当たり前のことだがポロというのは馬への全幅の信頼なくしてありえないスポーツだ、ということだった。
ポロに最適の馬はhorseよりも身体が小さいponyタイプで、お尻が丸く首が少し短めがよいのだが、脚は長くて脚力があるものが「typey」(理想的な身体付きをした)なのだとか。どこぞの自動車メーカーの謳い文句ではないが、そこに体現されるべき感覚は、文字通りの「人馬一体」。馬は主人からのサインを読み取ると同時に、微細な動きや気持ちさえ感じ取って瞬発的に身体を動かしているに違いない。ポロについてのドキュメンタリー映像を見ていると、独特の疾走感、身体と身体がぶつかり競り合うようなど迫力に圧倒されてしまう。ある種の畏敬の念さえ呼び起こされるほどだ。そこでは人と馬が完全に一体化している。まるで勇猛なるケンタウロスのように。
競技時間は約1時間から1時間半。チャッカーと呼ばれる7分単位のマッチが6回(もっと少ない場合もある)で構成されるのだが、1頭の馬を連続したチャッカーに出場させることはできないので、1試合に馬は最低でも2頭は必要になる。実質的には平均して4頭の馬が必要なのだそうだ。それだけ馬にとっても負担の大きなスポーツなのだろう。 さて、ポロのほんのサワリのサワリを体験しただけで言うのも恐縮だが、私自身はおこがましくも「デキる」と思ってしまったクチ(笑)。デキる、と思ったのは、素直に馬に身体をゆだねることができた瞬間だった。
馬に乗って球を打つという行為自体は、タイミングさえうまく図ればさほどの難関ではない。馬といかに一心同体で動くかが基本であり、またキーだと感じた。この印象はあながち間違ってはいないようで、こちらのテレグラフ紙の記事によると「ルールにとらわれ過ぎるな。最も重要なのは馬術だ」と、最年少でUSオープン・チャンピオンシップを制した人気選手ニック・ロルダンは語っている。「サドルから身を乗り出し、いかに快適に球を打つことができるか」がポイントだと。
http://www.telegraph.co.uk/women/life/easy-become-polo-master/
現在のところイギリス全土で70のポロ・クラブがあり、2600名を超えるメンバーがいるらしいが、全体からみるとまだまだ成長する余地がある。ポロはイギリス国内でも上流階級のスポーツと見なされがちだが、実際は様々なバックグランドの人びとがゲームを楽しんでいるし、業界もプレイ人口を増やしたいと思っているようだ。確かに装備の整ったポロ・クラブでのレッスンはそれほど高くはないし、やりたい気持ちさえあれば馬を所有していなくても始めることはできる。「それじゃあ一丁、ポロでも始めてみるか」と思われたあなた、下記からLongdole Polo Clubの詳細を見てみてはどうだろう。
英王室ともゆかりが深い1894年創設のCirencester Park Polo Clubをチェック!
http://www.cirencesterpolo.co.uk/Fixtures
送られてきた日程表を見て、二重三重に驚いた。まず、私をのぞく参加者全員が各国在住のジャーナリストで、ニューヨーク、トロント、モスクワ、アンマン、デリー、上海、マドリッド、コペンハーゲン、ストックホルムといった都市に拠点を置くそうそうたるメディアから、9名が送り込まれてくること。
次に、あくまで「ロイヤルは何を体験しているか?」を重視するツアーであって、古城巡りといったありきたりの「見学」ツアーではないということだ。そこにはロイヤル・ボックスでのメジャー競馬体験からヘリコプター・ライド、クレイ・ピジョン射撃、ランドローバー・サファリやセント・アンドリュースでのゴルフ体験、ロイヤルゆかりの五つ星ホテル宿泊といった項目がきらびやかに並んでいたが、実のところ最も私の目を引いたのは、ツアー序盤に組み込まれていた「ポロ」という文字だった・・・。
ツアー開始当日、英国政府観光庁の担当さんに「『ポロ』ってあるけど、観戦? それとも・・・?」と聞いてみると、「プレイするのよ!」との答え。えっ。ポロって、激しく馬に乗ってボールを打ちながら競技する、高度なチーム・スポーツですよね!? 旅の仲間と仰天の視線を交わし合いながらも、どんな体験になるのか待ちきれず・・・。そして私たちが向かったのは、イングランド西部、コッツウォルズ丘陵の西端に位置するLongdole Polo Clubだった。
スウェードのロングブーツは乗馬やカントリーウォーキングに最適。泊まっていたホテルに「ブーツ・ルーム」があり(!)無料貸し出ししてくれた。
ポロと言えば、ポロシャツで有名なラルフローレンのロゴにもなったスポーツだ。複数のソースによると、紀元前(およそ2500年前!)のアラブ諸国や中国、モンゴル、インドのマニプールなどに起源を辿ることができる世界最古類のボール競技で、イギリスに輸入されたのは19世紀頃。ルールを作るのが得意なイギリス人のこと、あっという間に近代ポロの礎を築いたらしい。ポロはどの国でも伝統的に王侯貴族や富裕層の間でプレイされていたことから、「王様のスポーツ」という異名をとっているほどだ。プレイするのに自分だけでなく馬が必須というスポーツは、世界広しといえども馬術とポロくらい。ポロを本格的にやるなら馬を世話したりトレーニングしたりする「groom」と呼ばれる個人トレーナーを付けることも必要だ。その馬は、1試合に最低でも2頭を用意することを義務づけられているので、スキルだけでなく資金力も入り用となってくる。もっとも今回私たちがお世話になったポロ・クラブのように、馬をはじめヘルメットや木製スティックまで、訪れるだけでポロをプレイするのに必要な全てのものが用意されている一般向け体験レッスンを提供している場所があるのは、有り難い。
初心者でも大丈夫よ〜と、やさしく楽しくレクチャーしてくれたポロ・クラブの女性。
さて、超ビギナーに対して非常に分かりやすくポロの基本を教えてくれる指導員の皆さんに迎えられ、 頭にぴったりのヘルメットを選んだら(←これは大切。両手がふさがる馬上でヘルメットのズレを直すのは難しい・・)、T字型の木製スティック「マレット」を持っていざ、グラウンドへ! この日私たちを助けてくれる経験豊富な馬たちが、いかに素晴らしく力強く、どんなに賢く優しく私たちをリードしてくれるか・・・といった情報も、しっかりと心で受け止めて。)
やる気満々のガールズたち! この日は朝からなんともイギリスの面目も躍如といった曇天かつ霧がかった天気ではあったが、奇跡的にプレイ中は雨も降らず集中して楽しむことができた。
「手首は柔軟にしてね」と指導を受ける。
超ビギナーがまずすべきこと。それは木馬に股がっての打球練習だ。ポロでは4名が1チームとなり、2チームが相手方のゴール目がけて球を打ち込む。ともかく球を正確に、持っていきたい方向に向かって打つ練習をせねばならない。
木馬上では本番よりも短めのマレットを使う。持ち方、打つときの角度、腕の力の入れ具合といった細やかな指導を受けながら、転がされてくる球を目がけてスウィングする。ビギナー用の練習なので遅めのスピードで転がされてくるためタイミングさえ合わせれば比較的簡単に打つことができるが、マレットは木製で球は固いので当たったときの手への衝撃は大きい。これにスピードが加わると、手首から肩にかけての負担は相当なものになるに違いないと想像できる。
皆さんいい感じにヒットしてます♪
「大丈夫、馬がリードしてくれるから」と言われるが・・・。
私が乗らせていただいた雌馬のココちゃんはその日、ちょっぴりムーディーでなかなか思うように進んでくれなかった(笑)。でも私の手綱使いと足の置き方にも問題があったのかも。脚で馬の胴体を圧迫するのが乗馬の基本なのだ。
ポロに最適の馬はhorseよりも身体が小さいponyタイプで、お尻が丸く首が少し短めがよいのだが、脚は長くて脚力があるものが「typey」(理想的な身体付きをした)なのだとか。どこぞの自動車メーカーの謳い文句ではないが、そこに体現されるべき感覚は、文字通りの「人馬一体」。馬は主人からのサインを読み取ると同時に、微細な動きや気持ちさえ感じ取って瞬発的に身体を動かしているに違いない。ポロについてのドキュメンタリー映像を見ていると、独特の疾走感、身体と身体がぶつかり競り合うようなど迫力に圧倒されてしまう。ある種の畏敬の念さえ呼び起こされるほどだ。そこでは人と馬が完全に一体化している。まるで勇猛なるケンタウロスのように。
試合中、尻尾は乱れないように三つ編みにして短く束ねられる。
特に試合前後の馬たちは、身体の状態をこと細かに見てもらい、必要ならマッサージをしたり脚にエクストラのサポーターを巻いたりしてもらうのだが、愛情深い言葉をもらいながら丁寧にブラッシングをしてもらったりと、精神面でのケアも徹底している。それは感動的でさえある光景だ。競技時間は約1時間から1時間半。チャッカーと呼ばれる7分単位のマッチが6回(もっと少ない場合もある)で構成されるのだが、1頭の馬を連続したチャッカーに出場させることはできないので、1試合に馬は最低でも2頭は必要になる。実質的には平均して4頭の馬が必要なのだそうだ。それだけ馬にとっても負担の大きなスポーツなのだろう。
それぞれに楽しんだ初のポロ練習。生まれながらに得意な人というのはいるものだ。
馬に乗って球を打つという行為自体は、タイミングさえうまく図ればさほどの難関ではない。馬といかに一心同体で動くかが基本であり、またキーだと感じた。この印象はあながち間違ってはいないようで、こちらのテレグラフ紙の記事によると「ルールにとらわれ過ぎるな。最も重要なのは馬術だ」と、最年少でUSオープン・チャンピオンシップを制した人気選手ニック・ロルダンは語っている。「サドルから身を乗り出し、いかに快適に球を打つことができるか」がポイントだと。
http://www.telegraph.co.uk/women/life/easy-become-polo-master/
Longdole Polo Clubまずは観戦してみたい?
住所: Longdole Farm, Gloucester GL4 8LH
アクセス: Cheltenham / Gloucester / Kemble各駅から車で約20分
http://longdolepolo.com
Twitter: @longdolepolocl
英王室ともゆかりが深い1894年創設のCirencester Park Polo Clubをチェック!
http://www.cirencesterpolo.co.uk/Fixtures
江國まゆ
ロンドンを拠点にするライター、編集者。東京の出版社勤務を経て1998年渡英。英系広告代理店にて主に日本語翻訳媒体の編集・コピーライティングに9年携わった後、2009年からフリーランス。趣味の食べ歩きブログが人気となり『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房)を出版。2014年にロンドン・イギリス情報を発信するウェブマガジン「あぶそる〜とロンドン」を創刊し、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむかたわら、オルタナティブな生活について模索する日々。