青空にラベンダーの紫がよく合う。サマセット・ラベンダーにて。
目の前に広がる一面の紫。それは、6月から8月にかけて、イギリスで見かけることのできるラベンダー畑です。異常気象かとも思えるほどに好天気が続き、気温も30度近くまで上がる日もあるここ数週間のイギリス。でも、澄み渡る真っ青な空の下に続く紫色の花畑は、その芳香とともに、爽やかさを感じさせてくれます。 ラベンダー・ファームは気持ちのいいカントリーサイドにあることが多い。
ラベンダーの産地というと世界的に有名なのは南フランスです。まぶしい日差しが降り注ぐプロヴァンスに対して、イギリスはいつもどんよりした曇り空というのが一般的なイメージ。なので、イギリスがラベンダーの産地だということは、あまり知られていないかもしれません。私自身、2005年に取材でコッツウォルズにあるラベンダー園を訪ねるまでは、この国で、こんなにたくさんのラベンダーが咲く様子を見られるとは思ってもいませんでした。でも、ラベンダーは、イギリス人の暮らしに最も身近なハーブのひとつなのです。
ラベンダー畑の中で、人々は思い思いに時を過ごしている。
私がイギリスに来てすぐ、ホームステイをしていたときのことです。ある日、当時小学3年生だったその家の次男ジョーが、足に切り傷をして泣いていました。ほんの少し血が滲んでいるだけで、それほど深刻なケガではなさそうでしたが、ジョーは「この世のおしまい」とばかりに大声をあげて泣いています。すると、母親のルースが、キッチンの端っこにある戸棚から小さな茶色い瓶を取り出して、それを脱脂綿につけ、傷口に塗りました。「痛かったね。これをつけたらよくなるから。」となだめるルースが手にしていたのが、ラベンダーのエッセンシャル・オイルでした。
「薬じゃなくて、ラベンダーをつけるの?」と私が聞くと、「そう、このくらいのかすり傷なら、これで十分。ラベンダーのオイルはブーツ*で買えるし。」と教えてくれました。一般の家庭で、こんな風にラベンダーが利用されているというのに、ちょっと驚いた出来事でした。
イングリッシュ・ラベンダー(Lavandula angustifolia)は、耐寒性に優れ、イギリスの気候に合うこともあり、一般家庭のガーデンでも、よく育てられている。
現代に限らず、イギリスでは古くから薬用ハーブとして利用されてきたラベンダー。イギリスのハーブ第一人者といわれるジェッカ・マクヴィカーさんの著書『ジェッカズ・コンプリート・ハーブブック』によれば、ラベンダーは地中海地方、カナリー諸島、インドが原産地。ローマ人はお風呂の中にラベンダーを入れていたといい、イギリスには、ローマ時代にもたらされたのではないかと考えられているそうです。ラベンダーは、イギリス王室とも深いかかわりがあります。というのも、エリザベス一世は、悪臭とペストなどの疫病を避けるために、常にラベンダーを身につけていたそうです。また、偏頭痛の解消にラベンダーのお茶を飲んでいたことが知られています。
ラベンダー・ティーはお土産にも。
さらに、ヴィクトリア女王はこの植物をこよなく好み、毎日この花を宮殿に飾っていました。また、イングランド・サリー州のサラ・スプルールさんを女王ご用達の業者に指名し、彼女の作るラベンダー・オイルを常に用いていました。女王のラベンダー好きを真似て、貴族の女性たちは揃ってこの香りをまとっていたと言います。また、その影響は一般市民にも及び、当時のロンドンでは、ラベンダーの収穫時期になると街でラベンダーの花束を売る屋台なども出ていました。 こうしてイギリスの人々の生活に浸透していたラベンダーですが、この国でのラベンダー栽培は、生産コストの高騰や、ライバルの生産地であるフランス産ラベンダーの勢いに押され、衰退していきました。
それが、ここ20年前後の間に、再びラベンダー栽培をする農家が現れました。多くは家族経営で、それぞれ規模も違いますが、共通しているのは、訪れた人がくつろぐことのできるカフェがあったり、畑で収穫されたラベンダーを使ったエッセンシャル・オイルやポプリ、ラベンダー・ティーなどのお土産品を売ったりしているところ。まずは地元の人々に知られるようになり、徐々に観光客が訪れるような人気のラベンダー・ファームになってきたのです。
左:ヒッチン・ラベンダーは20エーカーの場所に、約40kmに渡ってラベンダーが植えられている。
右:ヒッチン・ラベンダーで摘んだラベンダーを使って、サシェを作ってみた。
右:ヒッチン・ラベンダーで摘んだラベンダーを使って、サシェを作ってみた。
左:サマセット・ラベンダーでは、シェドと呼ばれる小屋が可愛いショップになっている。
右:ファームでは、ラベンダーの苗を購入することも可能。
ラベンダー・ファームは、ロンドンから日帰りで行くことのできる場所もありますので、日本からの観光でイギリスにいらした方も、ぜひ足をのばして訪ねてみることをおすすめします。ファームオリジナルの商品は、日本へのお土産にもきっと喜ばれるに違いありません。*ブーツ(Boots)は、イギリス内にあるチェーン系の薬局。かつて日本にも出店していたことがありました。
イギリス国内で人気のラベンダー・ファーム
● ヒッチン・ラベンダー(Hitchin Lavender)
場所:Cadwell Farm, Ickleford, Hitchin, Hertfordshire SG5 3UA
開園期間:5〜9月、毎日 10:00-17:00
入園料:大人6ポンド、14歳以下3ポンド、5歳以下は無料(入場料にはラベンダー摘みが含まれる)
ウェブサイト:www.hitchinlavender.com
● サマセット・ラベンダー(Somerset Lavender)
場所:Horsepond Farm, Faulkland, Somerset BA3 5WA
開園期間:5~9月、水~日曜日 10:00-17:00
入園:無料
ウェブサイト:www.somersetlavender.com
● コッツウォルド・ラベンダー(Cotswold Lavender)
場所:Hill Barn Farm, Snow Hill, Broadway, Worcestershire WR12 7JY
開園期間:6~8月 毎日10:00-17:00
入園料:大人4ポンド、子供2ポンド(15歳以下)、5歳以下は無料
ウェブサイト:www.cotswoldlavender.co.uk
● メイフィールド・ラベンダー・ファーム(Mayfield Lavender Farm)
場所:1 Carshalton Rd, Banstead SM7 3JA
開園期間:6~9月 毎日9:00-18:00
入園料: 大人2ポンド、16歳以下は無料
ウェブサイト:www.mayfieldlavender.com
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マクギネス真美
英国在住20年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。
音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。
ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』にてコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。
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