「ヘリテージ・オープン・デイズ」で17世紀イギリスのフォーマル・ガーデンに出会う | BRITISH MADE

English Garden Diary 「ヘリテージ・オープン・デイズ」で17世紀イギリスのフォーマル・ガーデンに出会う

2019.10.17

9月13日~22日までの10日間にイングランド全土で開催された「ヘリテージ・オープン・デイズ」は、今年で25周年を迎えたイベントです。イングランド最大の歴史と文化のフェスティバルといわれ、各地にある庭園やマナーハウス、教会などが無料で一般公開。人々が、気軽に歴史的かつ文化的遺産に触れる貴重な機会となっています。

私がでかけたのは、コッツウォルズ南部にある「ディラム・パーク(Dyrham Park)」。カズオ・イシグロ原作の映画「日の名残り(The Remains of the Day)」のロケ地として知られるここは、バロック式建築の建物と、鹿や牛が放たれた広大な敷地の作り出す景色が美しい場所です。
ナショナル・トラストの管理下にあるため、普段は大人13.5ポンド、子供6.75ポンドの入場料が必要ですが、この日はヘリテージ・オープン・デイズということで、無料。それもあってか、たくさんの家族連れを見かけました。
シャトルバス 駐車場からカントリーハウスまでのシャトルバス。
広大な土地に放牧された牛 広大な土地に放牧された牛が草を喰む様子を見ることもできる。
丘の上にある駐車場から邸宅までは、 歩くと15分ほどかかるため、送迎バスが出ています。でも、体調に問題がない方は、歩いていくのがおすすめです。そうすれば、美しく整えられた木々や、草を喰む牛、鹿の家族や、木の根元に育つきのこなど、パーク内の様々な自然に触れることができます。延々と続く緑のうねり、南コッツウォルズの丘陵地帯の美しさはまさに眼福。ただし、あれこれ見ていると、丘の下の建物に行き着くまでにあっという間に1時間くらいたってしまうので、時間には余裕をもってでかけてください。
丘の上から見える景色 かつての人々がしていたように、丘の上から見える景色の美しさを存分味わう。
たどりついた邸宅は、一面の緑を背景に、蜂蜜色の建物が日の光に映えてまぶしいほどです。このカントリーハウスには6世紀から続く長い歴史があるといいますが、現在の建物は17世紀後半から18世紀前半にかけて、ウィリアム・ブラスウェイト(William Blathwayt)という人物が、建築家ウィリアム・タルマン(William Talman)に依頼し、チューダー式の屋敷をバロック様式に改築してできたたものです。
ゴシック建築 チャッツワースハウスの設計でも知られる建築家ウィリアム・タルマンによるゴシック建築の建物は近くで見るとより荘厳さを感じられるようだ。
ブラスウェイトは若い頃にオランダの英国大使館で働き、その後はロンドンで政治家となった人物。ヨーロッパでの暮らしを経験し、当時の流行であったフォーマル・ガーデンを見てきたブラスウェイト。 その経験をもとに、ベルサイユ宮殿をはじめとする、ヨーロッパ各地で目にした、眼を見張るような見事なフォーマル・ガーデンをディラム・パークに作ることを試みました。
セント・ピーターズ教会 ディラム・パーク邸宅の横にあるセント・ピーターズ教会(St Peter’s Church)は、13世紀中頃に作られたもの。ブラスウェイトはディラム・パークの建物が教会となじむようにデザインさせたという。
当時の庭園は、野菜やハーブなどを台所に近いエリアで育てるキッチンガーデンや、果樹園など、生活に利用できるものを育てていたのも特徴です。また、ブラスウェイトは滝の流れるダッチ・ウォーターガーデンに憧れ、ディラム・パークにも滝と池を作りました。
クインス(マルメロ) フォーマルガーデンの端に植えられているのはクインス(マルメロ)。実った果実を使って作ったゼリーは、その季節になると園内のレストランで供されるそうだ。
たくさんの梨 チューダー朝時代から存在していたという果樹園では、今もたくさんの梨が育てられている。
エスパリエ仕立て 「エスパリエ仕立て」と呼ばれる、壁に沿わせるように枝を誘引して育てる方法で育てられた梨は、ブラスウェイトの時代から料理に使用されていた。ここで育っているものは生食には向かない品種。
キャスケード(滝)と池があるのも、このガーデンの特徴。
以前、このコラムで、18世紀に風景式庭園をイギリス中に広めたランドスケープ・デザイナー、ランスロット・ブラウンをご紹介しましたが、ディラム・パークはそれ以前に作られた整形式庭園です。ただし、イギリス中に風景式庭園が流行ったことで、ブラスウェイトの死後は、この庭園も風景式庭園に変えられてしまったといいます。その後、20世紀になって、ナショナルトラストの管理下になり、あらためて17世紀の姿を取り戻しつつあるガーデンは、イギリスの庭園史に興味がある方には、特に見逃せない場所だといえそうです。
ボーダーガーデン 唯一残っているという17世紀の門から邸宅正面まではボーダーガーデン(帯状の細長い花壇)が続く。
ボーダーガーデン ボーダーガーデンには、さまざまな彩りの花が植栽されている。春には1万5千本のチューリップが咲くという。
ディラム・パーク 邸宅の正面玄関。
ところで、「ヘリテージ・オープン・デイズ」についてですが、このイベントは1984年にフランスで文化大臣によって提唱された「フランス文化財(文化遺産)の日(Journées Du Patrimoine)」がはじまりと言われています。その後、欧州評議会と欧州委員会により、1991年に「ヨーロピアン・ヘリテージ・デイズ(European Heritage Days)が開始され、イングランドでも開催されるようになりました。

来年の9月にも開催予定ですので、この時期に合わせてイギリス旅行をし、さまざまな庭園や文化遺産を巡ってみるのも楽しいと思います。
ディラム・パーク ディラム・パークのギフトショップでは、果樹園で収穫された梨を使って作られたアルコール飲料「ペリー」が販売されている。
ディラム・パーク(Dyrham Park)
住所:Dyrham, Chippenham, Gloucestershire SN14 8HY
電話番号:+44(0)1179372501
入場料:大人13.5ポンド、子供6.75ポンド
ウェブサイト:https://www.nationaltrust.org.uk/dyrham-park

*ヘリテージ・オープン・デイズ ウェブサイト:https://www.heritageopendays.org.uk/
Photo&Text by Mami McGuinness

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マクギネス真美

マクギネス真美

英国在住20年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。
音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。

ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』にてコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。

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