冬至を過ぎて、ようやく少しずつ日が長くなってきましたが、相変わらず、空は昼なお薄暗く、小雨の多いイギリスの冬。とはいえ、雨が降ろうが、少々寒かろうが、自然の中でウォーキングをするのがイギリス流。というわけで、小雨の降る中、イングランド南西部、サウスグロスタシャーにある「ワイルド・プレイス・プロジェクト(Wild Place Project)」にでかけてきました。
ここは、昨年7月に「クマの林(Bear Wood)」というエリアをオープンさせて話題となった場所。ブリストル動物園の姉妹施設ですが、ここでは、普通の動物園とは違い、動物たちは広々とした自然空間の中で暮らしています。
それは、ここで数千年前にはイギリスに生息していたというヒグマを飼育しているということ。そして、それが7.5エーカー(サッカー場約6個分)という、クマを飼育している場所としてはイギリス国内では最大の広さを持つということ。また、クマとともに5頭のオオカミも同じ林に住んでいるということが、大変珍しい試みだからです。
ワイルド・プレイス・プロジェクトの敷地内の奥の方にあるクマの林のエリアに足を踏み入れると、空中歩道とでも呼びたい木製の歩道が設置されています。700メートルに渡るこの歩道は、林の高い位置から折り返すスロープになっていて、動物たちの様子を上から見渡すことができます。クマ、オオカミ、そして、囲いでわけられているものの、同じくこの天然林に住んでいる日本語ではクズリと呼ばれるイタチ科の動物と、オオヤマネコの姿も見つけることができました。
ワイルド・プレイス・プロジェクトのマネージャー、ウィル・ウォーカー氏は「私たちは人々に自然と触れ合ってもらい、自然につながることによって、自然に対する付き合い方を少しでも変化させてほしいのです。」と言います。
「いつしかあることが気にかかり始めた。それはヒグマのことだった。自分が生きている同じ国で、ヒグマが同時に生きていることが不思議でならなかった。もう少し詳しくいうと、例えば満員電車に揺られながら学校に向かう途中、東京の雑踏を歩いている時、ふとそのことが頭に浮かんでくるのである。今、この瞬間、ヒグマが原野を歩いているのかと……。」
星野さんは、「日々の暮らしに追われている時でも、地球上のどこかでもうひとつの時間が流れている。それは悠久の自然と言えるもので、そのことを知ることができたら、生きて行くうえでひとつの力になるような気がする。」とも言っています。
イギリス人を見習って、自然の中でウォーキングをしようと思ってでかけたワイルド・プレイス・プロジェクトですが、イギリス原生林に暮らすクマとオオカミに出会った時間は、人生について思いを巡らす機会をも与えてくれました。
ここは、昨年7月に「クマの林(Bear Wood)」というエリアをオープンさせて話題となった場所。ブリストル動物園の姉妹施設ですが、ここでは、普通の動物園とは違い、動物たちは広々とした自然空間の中で暮らしています。
絶滅してしまったイギリスの野生ヒグマが、イギリス南西部の原生林で再び見ることができるように。©️Wild Place Project
それにしても、クマのいる林が、どうして大きなニュースになったのでしょうか。それは、ここで数千年前にはイギリスに生息していたというヒグマを飼育しているということ。そして、それが7.5エーカー(サッカー場約6個分)という、クマを飼育している場所としてはイギリス国内では最大の広さを持つということ。また、クマとともに5頭のオオカミも同じ林に住んでいるということが、大変珍しい試みだからです。
クマの林からの眺め。©️Wild Place Project
現在は両者を環境に慣らすために、お互いのエリアに囲いがありますが、ゆくゆくは同じ場所を行き来することができるようになる予定です(ただし、必要に応じて、オオカミはクマが入れないエリアに行くことができます)。オオカミとクマが一緒の場所に暮らせるのか、という心配をしてしまいそうですが、プロジェクトの研究員によれば、オオカミとクマは同じ食べ物を争ったりすることはないため、共生が可能なのだといいます。 クマの林では、地上4メートルの高さに木製の歩道が設置され、季節の風を体感しながら動物たちに出会うことができる。©️Wild Place Project
施設内には子供のためのアクティビティがふんだんに用意されているため、子供の来場者も多い。©️Wild Place Project
この林に暮らすのは、ジェミニ、ネオ、ニラス、アルビという名前の4頭のヒグマ。現在イギリスには2%しか残っていないという天然林(Ancient woodland)が彼らの住まいです。ワイルド・プレイス・プロジェクトの敷地内の奥の方にあるクマの林のエリアに足を踏み入れると、空中歩道とでも呼びたい木製の歩道が設置されています。700メートルに渡るこの歩道は、林の高い位置から折り返すスロープになっていて、動物たちの様子を上から見渡すことができます。クマ、オオカミ、そして、囲いでわけられているものの、同じくこの天然林に住んでいる日本語ではクズリと呼ばれるイタチ科の動物と、オオヤマネコの姿も見つけることができました。
年齢は3〜4歳というクズリは2頭。毛皮や肉のために狩猟されつくしたが、かつてはイギリスに生息していた動物で、南西イングランドと南ウェールズで野生クズリの骨が発見されている。©️Wild Place Project
クズリ絶滅後もオオヤマネコは生息していたが、森林伐採の影響を受けて、こちらも絶滅したと考えられている。©️Wild Place Project
クマは2頭しか出会いませんでしたが、悠々堂々とした動きが美しく、彼らが動くたびに見学者から「わー。」といった歓声があがっていました。また、オレンジがかった毛にこげ茶と灰色が重なった見惚れるほどの毛並みを持つオオカミたちは、盛んに走り回っていて「精悍」という言葉がぴったりです。 5頭が群れをなして行動していたオオカミ。©️Wild Place Project
野生動物を、原生地とは違う環境、気候の中に置き、人間に見せる動物園という施設については、反対の態度を取る動物愛護家も少なくありません。でも、ワイルド・プレイス・プロジェクトを運営するブリストル動物学会(Bristol Zoological society)では、世界各地で絶滅に瀕している野生動物の保護や、繁殖に取り組んだり、環境問題について研究し、その解決に取り組んでおり、クマの林もそのプロジェクトの一つなのです。ワイルド・プレイス・プロジェクトのマネージャー、ウィル・ウォーカー氏は「私たちは人々に自然と触れ合ってもらい、自然につながることによって、自然に対する付き合い方を少しでも変化させてほしいのです。」と言います。
運がよければガラス越しにヒグマを間近に見ることができる。©️Wild Place Project
確かに、環境破壊、環境汚染が問題になる中、私たち一人一人が、どれほど実感を持ってその問題に気づき、行動をしているかと言われると、まだまだ自覚が足りないようにも思います。ニュースでは環境汚染について聞くけれど、どこか他人事のように思ってしまっている部分があるのではないでしょうか。 2頭のクマがのったりと歩く空間には、別の時が流れているようだ。
ここでゆったりと林の中を歩くヒグマを見た時、アラスカに暮らした写真家、星野道夫さんが「悠久の自然」という題で書かれていた「10代の頃に抱いた不思議な感覚の話」を思い出しました。「いつしかあることが気にかかり始めた。それはヒグマのことだった。自分が生きている同じ国で、ヒグマが同時に生きていることが不思議でならなかった。もう少し詳しくいうと、例えば満員電車に揺られながら学校に向かう途中、東京の雑踏を歩いている時、ふとそのことが頭に浮かんでくるのである。今、この瞬間、ヒグマが原野を歩いているのかと……。」
星野さんは、「日々の暮らしに追われている時でも、地球上のどこかでもうひとつの時間が流れている。それは悠久の自然と言えるもので、そのことを知ることができたら、生きて行くうえでひとつの力になるような気がする。」とも言っています。
イギリス人を見習って、自然の中でウォーキングをしようと思ってでかけたワイルド・プレイス・プロジェクトですが、イギリス原生林に暮らすクマとオオカミに出会った時間は、人生について思いを巡らす機会をも与えてくれました。
クマの林には飼育されている動物以外にもたくさんの野生動植物が生存している。キツネにも出会えるチャンスがあるかも。
ワイルド・プレイス・プロジェクトは2013年から一般公開されている。
教育施設としての機能も大きいワイルド・プレイス・プロジェクト。
ワイルド・プレイス・プロジェクト(Wild Place Project)
住所:Wild Place, Blackhorse Hill, Bristol BS10 7TP UK
電話番号:0117 980 7175
開園時間:10~16時(クマの林への入場は15時までに)
入場料:大人14.37ポンド、子供(2~14歳)11.50ポンド、2歳以下は無料
ウェブサイト:www.wildplace.org.uk
マクギネス真美
英国在住20年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。
音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。
ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』にてコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。
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