黄水仙の切り花がスーパーの店頭に並びだしたとはいえ、まだまだ春が待ち遠しい2月。こういう時期には、ソファに座ってミルクティーを飲みながら、ガーデニングの本を読むのが楽しみです。今回は、私が気に入っている3冊をご紹介します。
映像作家であり、画家であり、舞台デザイナーでもあったデレク・ジャーマンは、イギリス南東部のケント州、ダンジェネスという場所にあった漁師小屋を購入しました。1986年のことです。「プロスペクト・コテージ」と名付けられた、真っ黒に塗られた壁と屋根、黄色い窓枠が印象的な建物があるのは、遠景に電子力発電所が見られる、どこか殺伐としたような雰囲気の場所。
幼い頃からガーデニングが好きだったというデレクは、そこでドックローズや、ポピー、クリスマスローズにヒヤシンス、そして、さまざまなハーブ類など、色や形が印象的な植物を育てました。庭には、海岸で拾ってきた流木や石、鉄のオブジェなどが各所に置かれています。本書の写真からは、無彩色のオブジェと鮮やかな花の色のコントラストの美しさが、ありありと伝わってきます。
庭と建物だけでなく、ガーデンにしゃがみ込んでいたり、ハーブに水をやったりするデレクの姿の写真もふんだんに掲載されているこの本を撮影したのはハワード・スーリー。彼がプロスペクト・コテージとデレクの撮影を始めたのは1991年のことで、デレクジャーマンの亡くなる1994年まで写真を撮り続けました。ハワード自身が植物や園芸に熱心な人物だったこともあり、デレクのガーデン作りにも大きく貢献しました。写真集とも言えるようなこの本を眺めていると、まるで自分もこのプロスペクト・コテージの前に立って、風に吹かれているような気がしてきます。
ちなみに、プロスペクト・コテージは、デレクの晩年のパートナーで、コテージを受け継いだキース・コリンズが2018年に亡くなったことを受け、この場所を公共のものとして維持すべく、Art Fundというチャリティ団体を中心に、3月末までに350万ポンドの寄付を集めるためのクラウドファウンディングが行われています(募金についての詳細はこちら)。
イギリスのガーデニングの歴史に始まり、イギリスの有名ガーデナーについてや、時代ごとのガーデニングのトレンド、第2次世界大戦中のガーデンの様子、イギリス人がこだわるガーデニング道具など、さまざまなテーマが、たくさんの写真やイラストとともに紹介されているのが本書。
たとえば、7章では「アロットメント・フィーバー」として、イギリスにおける市民農園の成り立ちや、なぜイギリス人たちがアロットメントに情熱を持っているのか、9章では種苗商の歴史が詳細に語られたりと、マニアックな内容がわかりやすくまとめられています。
使用されている図版の資料の多くがロンドンのガーデン・ミュージアムに展示されているものなので、ミュージアムに行く前、または行った後に、この本を読むのもおすすめです。
著者であるイディス・ホールデンは、1871年のイラストレーターで、この本は、彼女のイラストと手書きの文字で描かれています。月ごとの自然観察日記のような形で、その季節ごとに、イディスが実際に目にした花、動物、虫、鳥などが美しい水彩画で描かれています。
私がイディスのことを知ったのは、ギフトショップで、彼女のイラストがあしらわれたカードに目を奪われたときでした。イラストのクレジットを見て調べたところ、この本が見つかり、すぐに注文したのです。これはイディスが1906年に書いたダイアリーがオリジナルで、それが1977年に出版されたときには、100万部以上売り上げ、それ以降も15年間ベストセラーとして記録されていたのだといいます。
その時期の天気の様子などを日記のようにしたためている文章もあれば、シェイクスピアやチョーサー、バーンズなどの詩が書かれていたりもします。文章とイラストが絶妙なバランスで配置されているのも、この本の特徴です。この本を読んだあとは、庭にでて、花や木々、鳥など自然の姿を自分の目で確かめてみたくなる、不思議なパワーを感じます。
3冊とも、写真や図版が多く、眺めているだけでもうっとりできます。こういう本を見ていると、あらためて、イギリス人が自然や庭をいかに大切にしているかが伝わってきますね。
1. Derek Jarman’s garden with photographs by Howard Sooley (Thames and Hudson 刊)
幼い頃からガーデニングが好きだったというデレクは、そこでドックローズや、ポピー、クリスマスローズにヒヤシンス、そして、さまざまなハーブ類など、色や形が印象的な植物を育てました。庭には、海岸で拾ってきた流木や石、鉄のオブジェなどが各所に置かれています。本書の写真からは、無彩色のオブジェと鮮やかな花の色のコントラストの美しさが、ありありと伝わってきます。
ちなみに、プロスペクト・コテージは、デレクの晩年のパートナーで、コテージを受け継いだキース・コリンズが2018年に亡くなったことを受け、この場所を公共のものとして維持すべく、Art Fundというチャリティ団体を中心に、3月末までに350万ポンドの寄付を集めるためのクラウドファウンディングが行われています(募金についての詳細はこちら)。
2、A Nation of Gardeners by Twigs Way(Prion 刊)
たとえば、7章では「アロットメント・フィーバー」として、イギリスにおける市民農園の成り立ちや、なぜイギリス人たちがアロットメントに情熱を持っているのか、9章では種苗商の歴史が詳細に語られたりと、マニアックな内容がわかりやすくまとめられています。
使用されている図版の資料の多くがロンドンのガーデン・ミュージアムに展示されているものなので、ミュージアムに行く前、または行った後に、この本を読むのもおすすめです。
3、The Country Diary of an Edwardian Lady by Edith Holden (Top That! 刊)
私がイディスのことを知ったのは、ギフトショップで、彼女のイラストがあしらわれたカードに目を奪われたときでした。イラストのクレジットを見て調べたところ、この本が見つかり、すぐに注文したのです。これはイディスが1906年に書いたダイアリーがオリジナルで、それが1977年に出版されたときには、100万部以上売り上げ、それ以降も15年間ベストセラーとして記録されていたのだといいます。
3冊とも、写真や図版が多く、眺めているだけでもうっとりできます。こういう本を見ていると、あらためて、イギリス人が自然や庭をいかに大切にしているかが伝わってきますね。
マクギネス真美
英国在住20年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。
音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。
ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』にてコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。
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