年齢や性別、国籍の制限なく、誰でも、無料で参加できるのが特徴。会場の運営は全てボランティアの手で行われており、参加希望者は事前にウェブサイトに登録をし、独自のバーコードを発行してもらうだけで、どの会場のイベントに参加するかは自由です。バーコードを持って会場に行けば、走り終えた後、自分の記録を確認することができるというシステムで、記録はオンライン上に残るため、走る度に自己記録に挑戦することもできます。
50、100回など、ランニングした回数を記念したTシャツを着ている人もよく見かける。©️parkrun
ランニングをしたことがないという人も、ランニングに興味がないという人も、なにかのきっかけで一度パークランに参加すると、その魅力に取りつかれてしまう不思議なイベント、パークラン。私は昨年末から地元のパークラン会場でボランティアをしていますが、パークランの魅力の秘密は、参加者の誰もが人の目を気にすることなく「自分らしくいられる」ことにあると感じています。実際にパークランに参加している人はどう思っているのでしょう? 数週間前に100回記念のランをしたというルイーズ・イーストさんにインタビューしてみました。
普段は特別ケアが必要な子供たちのための学校の先生をしているルイーズ・イーストさん。今日は最後尾を歩く「テイル・ウォーカー」としてボランティアで参加。
「最初は、自分が5km走りきれるかどうか自信がないとか、一番最後になったらどうしようとか考えていたんだけれど、走ってみたらすごく気持ちよくて、とっても気に入ったの」
ルイーズさんは5年前にランニングを始めたときに、知り合いからパークランをすすめられたのだと言います。それから毎週行くようになって、だんだん顔見知りが増えていき、ますますパークランが楽しくなったのだそう。
ロックダウン後にパークランが再開したときに、地元のパークランのラン・ディレクター(運営をマネジメントする役目)を引き受け、さらにパークランの魅力にはまっているといいます。
「パークランでは、参加者が『自分自身が考えている限界を超えることができる』のに気づく瞬間を見られるのがたまらない。たとえば先週、ある女性がゴールに達した途端、涙を流して感激していた。彼女が完走した自分をとても誇りに感じているのがわかったわ。私自身も初めての時は完走できる自信なんてまったくなかったから、その女性の気持ちがとてもよくわかった。
パークランでは、そうやって、他人との競争ではなく、誰もが自分のペースで自分らしく走ったり歩いたりすることができるのが素晴らしい。そして、ラン・ディレクターとして、そのお手伝いができるのは本当にうれしいことなのです」
ルイーズさんの言う通り、パークランは競争のためのランニングではないので、自己のタイムトライアル、あるいは純粋に「走る」ことや、その場のフレンドリーな雰囲気を楽しむためだけに参加する人も大勢います。
全てがボランティアで成り立つコミュニティ
日本の大阪・鶴見緑地会場でのボランティアの方達。©️parkrun
草の根スポーツともいえるこの活動は、2004年に創始者のポール・シントン・ヒューイットさんを含む13人のランナーと5人のボランティアにより、ロンドンのブッシー・パークにて始まりました。その後、ロンドン各地からイギリス全土、そして海外にまで人気が広まり、日本でのパークランの開始は2019年4月。以来、現在では全国34会場でイベントが開催されています。発祥のスピリットは現在も続き、今も日本を含め、各会場の運営はすべてボランティアで行われています。私はボランティアとして、コースに不備や危険がないか安全を確認したり、コースがわからない人をガイドしたり、ケガ人がでたら救護したりするマーシャルという役目をしています。といっても、マーシャルの最も重要な役目は、走っている人たちを全力で応援すること。だから毎週、ランナーが目の前を通るたびに拍手をして応援しています。マーシャルとして声を張り上げて応援していると、中には手を振ってくれる方や、「サンキュー、マーシャル!」と叫び返してくれる方もいて、こちらの方が元気をもらえる気がします。
手を振ってくれているのは、イングランド・エセックス州から息子さんとともに参加のジャンさん。
ランナーの中には、ベビーカーに赤ちゃんを乗せて走っている男性もいれば、親子や夫婦で並んで走っている人もいます。また、最後尾でゆっくりゆっくり歩いている人が、脳梗塞で倒れたあと数ヶ月前に病院から退院したリハビリ中の方で、こうしてパークランで歩けていることが奇跡のようだという裏話を別のボランティアから聞いたこともありました。常連の方もいれば、初めてパークランに参加するという人も毎週一定数います。どの人もみんな、それぞれの理由や事情を抱えながら、真剣に、そしてときには苦しそうに、ときには笑顔で、前を向いて、ゴールに向かって走ったり歩いたりしているのです。
走ってでも、歩いてでも、ボランティアとしてでも、ここでは「自分のペースで、自分らしく」いることができます。そして、それを誰もが受け入れてくれる。そんなコミュニティができあがっているのです。
花が咲き誇る公園だったり、海岸沿いだったり、パークランのコースは地域によってさまざまなのも楽しい。 ©️parkrun
先週、私の地元コースには、イングランド内でも最も大きなランニングクラブの一つである「フォーディ・ランズ」の人たちが大型バスに乗ってやってきました。こんな風に、仲間と一緒にイギリス国内のさまざまなコースにチャンレジするのもパークランの楽しみかたの一つなのです。現在では世界20カ国、2200のコースがあるパークラン。あなたが今度イギリスに来た時、宿泊するホテルの近くの会場で参加することも可能ですし、日本国内でチャレンジするのもおすすめ。ぜひ一度、パークランのイベントに出向いてみてはいかがでしょう?
*パークラン ウェブサイト:https://www.parkrun.org.uk/
*パークラン・ジャパン ウェブサイト:https://www.parkrun.jp/
マクギネス真美
英国在住20年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。
音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。
ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』にてコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。
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