「ある意味、これまでで最も贅沢なアイテムかも……」
ブリティッシュメイド メンズコレクションを監修する四方章敬さんがこう評するのは、今季登場した新作のリバーシブルコート。かつてはさまざまなトラッドショップで定番的に展開されていたものの、イタリア服ブームの盛り上がりに伴っていつしかその姿を消していたアイテムです。片面はコットン、もう片面はツイードという組み合わせがお決まりでした。
ブリティッシュメイド メンズコレクションを監修する四方章敬さんがこう評するのは、今季登場した新作のリバーシブルコート。かつてはさまざまなトラッドショップで定番的に展開されていたものの、イタリア服ブームの盛り上がりに伴っていつしかその姿を消していたアイテムです。片面はコットン、もう片面はツイードという組み合わせがお決まりでした。
「近頃のトラッド・リバイバルを受けて、往年の定番というべきリバーシブルコートが今、再び新鮮に感じています。ところが、これほど各ブランドがトラッドを打ち出しているにもかかわらず、現行品ではほとんど見つけることができません。一方でヴィンテージに袖を通してみると、肩周りがガッチリしすぎていたり、着心地が重苦しかったり……ならば、“ありそうで、ない”をひとつのテーマに服作りをしてきたブリティッシュメイド メンズコレクションで、“いま視点”のリバーシブルコートを開発しようと思い立ったのです。
例によって、英国のヴィンテージをリサーチしつつスタイリスト目線から色々なモディファイを加えて完成したアイテムなのですが、これを“ブリティッシュメイド史上で最も贅沢”とご説明した理由は次のとおりです。まず、使う材料が2倍になること。表地はもちろん、見頃や袖などのボタンも裏表に付けなければいけないので、正直かなりのコストがかかります。ちなみにコットンはイタリア製・ツイードは英国製ファブリックにこだわり、ボタンはすべて水牛の角を採用しました。
そして、リバーシブルという特殊な構造のため仕立ての難度も高い。僕がイメージする佇まいを叶えるには、日本でもトップレベルのファクトリーに生産を依頼する必要がありました。そういうわけで、一見素朴な表情でありながら、素材も仕立ても贅を尽くした一着なのです」
そんな贅沢スペックを最大限活かすべく、四方さんの知見をたっぷりと盛り込んでディテールも作り込みました。以下、そのポイントをご紹介しましょう。
Point 01|80’sのヴィンテージをモチーフにしつつ、圧倒的に軽やかな着心地に
ベーシックなベージュコットンと、温かみのあるツイード。ガラリと違う表情を1着で楽しめるのがリバーシブルコートの魅力です。今回は全3色展開で、コットン面はすべて共通にしつつツイード面でバリエーションをつけています。
「インスピレーションソースとなったのは、1980年代の英国ヴィンテージ。美しく広がるAラインや一枚袖といった仕様を踏襲しています。とはいえ、今どきの着心地や見映えを叶えるためにかなりアレンジを行いました。最大のポイントは、ヴィンテージよりも圧倒的に軽いこと。これは生地選びだけでなく、仕立てにもこだわることで実現しました。通常この手のコートは内部に芯地をしっかりと入れて作るのですが、こちらは極力芯地を入れず、しなやかに仕立てています。これが軽快感に大きく貢献しているというわけですね。芯地を省いて仕立てるにはかなり高度な技術が必要で、それが先ほどお伝えしたトップレベルのファクトリーに依頼する理由になっています」
Point 02|ファブリックは両面とも欧州の一流メーカー製
コットン面は、イタリアのE.トーマス社が手がけたギャバジン。最高級のエジプト超長綿を贅沢に使用し、たっぷりと時間をかけて織り上げたファブリックです。軽く滑らかなことに加え、ベージュの発色も絶品。
「赤みがかったものや黄色っぽいものなど、ベージュの綿ギャバにはさまざまなトーンがありますが、今回はカーキがかったものを選びました。幅広い色のアイテムと合わせやすく、またツイード面とのバランスもいいのが理由です」
と四方さん。ツイード面はすべて英国の名門からチョイス。左のグレンチェックがマーリング&エヴァンス社、中央と右がムーン社のものです。
「往年のリバーシブルコートをイメージしつつ、ツイードらしいベーシックな色柄を選びました。やはり本場・英国のツイードはクラシックな趣がありますね。ただし、生地のウェイトはかなり軽めものものを選んで着心地の軽快さも意識しています」
Point 03|一枚袖&なで肩ラインで、丸みのあるシルエットを追求
全体のシルエット美に大きく影響するのが袖&肩周り。こちらもヴィンテージの魅力と今どきなバランスの理想的融合を目指して試行錯誤を重ねました。
「袖は、ヴィンテージファンの間で人気の一枚袖ラグランスリーブを採用しました。袖を1枚のパーツで仕立てる仕様で、肩のラインがゆったりとナチュラルに見えるのが魅力です。脇の下に生地が溜まり、独特な無造作感が漂うのも特徴ですね。ショルダーラインは非常にこだわった箇所のひとつです。肩が張ったスクエアなラインよりも、流れるような“なで肩”のほうが今のムード。ですので型紙上で肩部分の傾斜を強くし、丸みのあるショルダーラインを描くようにデザインしています。ジャケットの上に羽織っても柔らかなシルエットに見えますよ」
Point 04|適度なAラインと、長すぎない着丈もポイント
シルエットは裾に向かって緩やかに広がるAライン。着丈は膝付近に設定しました。
「トラッドなステンカラーはゆったりとしたボリューム感が魅力ですから、その雰囲気はしっかりキープしています。とはいえあまりにたっぷりしたオーバーサイズだと、着る人や合わせる服を選んでしまう。ですので、あくまで適度なゆとりを目指してシルエットを設計しました。着丈についても、ブリティッシュメイドのタイロッケンコート『ヨークシャー』よりやや短めにしています。もともとトラッド感が強いアイテムなので、シルエットのバランスはややモダンに振ってトゥーマッチにならないよう意識しました」
Point 05|裾にもさりげないこだわり仕立てが
一見わかりにくいですが、裾の部分が二重になっているのもポイント。
「リバーシブルコートは経年変化すると、片面の生地がもう片面を引っ張って歪んでしまう恐れがあります。それを防ぐため、裾を縫い合わせないフラシ仕立てにしているのですが、ただ裾を縫い留めないだけだと動いたときに反対面の柄が見えてしまう。その対策として、フラシの部分に同じ生地を張っているのです。ちょっと込み入った話ですが、本格リバーシブルコートならではの仕立てなのです」
Point 06|表裏の色合わせにも四方さん流の計算が
大きすぎず小さすぎずの襟は、寝せても立てても絵になるようデザイン。胸元にかけてのロールが立体的に出るように仕立てているのもポイントです。さらに、内側からチラリと覗く裏面のバランスにもこだわったと四方さん。
「コットンとツイード、どちらの面を表にしても、襟周りからチラリと覗く裏面がアクセントになります。なので、ただ2WAYで着られるというだけでなく、表裏の色柄合わせにも気を配りました。着こなしを邪魔せず、ちょうどいいスパイスを効かせられるコンビになっています」
クオリティだけでなく、着こなしやすさ・合わせの幅広さも強く意識しているのがスタイリスト発ならでは。後編では、その着回し力を四方さんが自ら実践。こちらもぜひチェックを!
後編|四方さん直伝、リバーシブルコートの着こなし4選
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Text by Hiromitsu Kosone / 小曽根広光
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■ 四方章敬さん
■ BRITISH MADE ORIGINAL WEAR COLLECTION
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Text by Hiromitsu Kosone / 小曽根広光